今回は、インハウスローヤーに向いている人・向いていない人、という話を書いてみたいと思います(もちろん、管理人の個人的意見です)。
働き方については、一般的には、
① 何をして働くのか
② 誰と働くのか
③ 報酬(見返り)はなにか
が大事なのだろうと思っていますが、弁護士など士業の場合は、
④ 「一国一城の主」を重視するのか
というのを、前提条件的に重視している人も多いと思います。
④は、その点を重視している人にとってインハウスローヤーは選択の余地がないわけですが、それ以外の人は、①~③が重要なのではないかと思います。
そして、インハウスローヤーに向いている人というのは、結論からいうと、①②に関して「伝統的な士業の業務がいまいちピンと来なかった人」であるのではないか、と管理人的には考えています。
本記事ではこの点を掘り下げてみたいと思います。
インハウスは弁護士だけではない
弁護士で転職していると、「インハウス」というと、企業内弁護士と思ってしまうが、インハウス自体は、別に弁護士に限った話ではない。
厳密な定義とかは知らないけど、「インハウス」というのは、フリーランスや自営として独立して働ける職種の人が、組織内(多くは企業だが、自治体や官庁や非営利法人などもある)で働くときの呼称なのだろうと思う。
弁護士のほかにも、司法書士のインハウス、社労士のインハウスなど、法律分野のインハウスは幅広いし、実際、管理人は幅広く会ったことがある。職場が一緒だったことも多い。税理士のインハウス、弁理士のインハウスもそうである。
また、当然、法律分野に限った話でもなく、建築分野では一級建築士のインハウスなどもいるし、デザイナーのインハウスなどもいるわけである。もちろん、会計分野では、会計士のインハウスも多い。管理人が知らないだけで、他にもいくらでもあるのだろうと思う。
税理士の人で、「ビジネスがやりたいんだ!」ということで、ファンドやコンサルで働いている人もいた。
また、一級建築士なども活動の仕方はいろいろあって、弁護士でいうと大型ローファームにあたるような超大型の設計事務所(日本設計とか)に行く人もいれば、自分で開業する人もいる。
インハウスとしては、企業内で働く人もいるし、さらには、また別の観点だが、「街づくりに関わりたい」ということで、自治体で活動する人もいたりするわけである。
インハウスを活動場所とする人の共通点
そういう幅広い視野で見た場合、インハウスを活動場所とする人の共通点は、「伝統的な基幹業務がしっくりこなかった」あるいは「それより他にやりたいことが見つかった」ということではないだろうかと思う(←もちろん私見です)。
たとえば、法律分野のライセンスに関していえば、伝統的な基幹業務というのは、こういう感じである(少々乱暴なまとめ方だが)。
【法律士業の伝統的な基幹業務】
✓ 行政書士 →許認可取得業務などの代理
✓ 司法書士 →登記申請業務などの代理
✓ 社労士 →各種の社会保険上の届出などの代理
✓ 税理士 →記帳代行と税務申告の代理
✓ 弁理士 →工業所有権の登録申請などの代理
✓ 弁護士 →訴訟代理及び上記のほぼ全体
めちゃくちゃ端折っているので、そういう記述だとご容赦いただきたいのだが、わかりやすいように中核の業務だけ抜き出すと、こういう感じであるはずである。
こういう伝統的な基幹業務をしつつ、関連する手続(添付書類の作成、他の審査手続などなど)を全般やるし、また、そういった知識を活かしたアドバイス(コンサル)をする、というのが、伝統的な法律士業のイメージだろうと思う。
しかし、インハウスというのは、こういった伝統的な基幹業務よりも、たとえば「ビジネスがやりたいんだ!」といった、資格取得や士業実務での自己研鑽を活かしつつも、なにがしかのビジネス組織でないとできないことをやる、そういうものの方がおもしろいと思っている人たち、ということなのではないか、と思う。
法律職の全体像
上記のようにざざっと法律職の業務を並べてみたが、参考までにいうと、弁護士は他の法律ライセンスとは位置付けというか、属性が違っている。
弁護士以外の法律士業は、すべて「行政の補完」である。だから、一定期間、行政官として勤めていれば、実務経験があるので、無試験や試験科目の一部免除で資格が取れたりするわけである。行政の世界で働く人といえる。
これに対して、弁護士は、他の法律士業の業務をほぼ全て含みつつ(※ライセンス的に、という意味で、実際の実務能力の意味ではない)、また、基本は「司法」の世界で働く人なのである。裁判所の世界で働く人たち、「法曹」ということ。
ライセンスの範囲は法律分野に関して包括的であり、人が増えて一時期値崩れしたとはいえ、そこはさすがに法律分野における最高ライセンスということである。
なお、最近は規制緩和で、弁護士以外の法律士業でも、「認定〜」や「特定〜」といった名称で、別途上乗せで試験に合格すれば、分野ごとに一定範囲で訴訟代理も出来るようになってきている。
このように考えれば、法律職の全体が見えやすいと思う。
インハウスローヤーに向いている人・向いていない人
①何をして働くのか
ということでちょっとまとめると、冒頭の①の「何をして働くのか」でいえば、インハウスローヤーに向いている人というのは、「訴訟代理だけだとちょっとなあ…」「むしろ、それ以外のこれこれの領域で働いてみたい」と実は内心薄々思っている人、ということになるのではないだろうか。
逆に、インハウスローヤーに向いていない人というのは、伝統的な基幹業務を中核にして特に不満のない人であろうと思う(向いてない、というより、そもそもそれが天職ということだが)。
つらつらと書いてみたけど、書いてみると、まあ、当然というか、当たり前か…?(笑)
もちろん、この記事で書いてみたことも、「何をして働くか」という面のひとつの要素であって、それ以外にも、いろいろあると思う。
高度かつ最新の(つまり日経朝刊の一面に載るような)案件に関して、リーガル特化の仕事をしたい場合なども、そもそも外部から一択ということになるでしょうし。
②誰と働くのか
もうひとつ、冒頭の②の「誰と働くのか」でいえば、業界の人と常日頃会話したいというのであれば、インハウスが向いている気がする。
弁護士と議論する、会話するのもエキサイティングだけど、法律の話よりもっと広く、もっと業界の人と身近に喋りたい!という人などは、インハウス世界に飛び込んだ方が早いかもしれない。
特に、最近ますます勃興中のテック領域の仕事などは、飛び込んじゃう方がおもしろそう、という風に感じる人もいるだろうと思う。
あるいは、自分も弁護士になったものの、弁護士ってなんとなく肌に合わんのだよなあ…と密かに思っている人なども、インハウスもひとつの選択肢になるかもしれない(ちなみに管理人の場合などは、そういう面もあった)。
なお、インハウスに飛び込んだ場合のマイナス面でいうと、わかりやすくいえば、逆に、伝統的な基幹業務に弱くなるということである。
そこはトレードオフになるのかなと思う。
③経済条件
最後に、冒頭の③の経済条件についてだが、身も蓋もないが、わかりやすく言ってしまえば、独立したりパートナーになったりは、ハイリスクハイリターン、インハウスは、ローリスクローリターンということになるだろう。
独立はハイリターンでない!とか、インハウスはローリスクでない!とかのご指摘もあるかと思いますが、あくまでも管理人の私見、かつ乱暴に単純化した場合の話ということで、ご容赦いただければと思う。
独立orパートナー、要するに自営は、やはり収入面でボラティリティが高い(=ばらつきが大きい)ことは否めないと思う。
案件の内容という意味合いではない。あくまでも経済的にという意味合いであるが、経済的には、顧問先を増やすなどして安定収益がある程度ない限り、個別事件の受任だけだと魚釣りみたいなものなので、不安定さはある。
実際、売り上げがなかったときなどは「ボウズ」と言ったりする(※釣りでいうボウズとは、魚が1匹も釣れなかったこと)。なお、当然ながら、これは自営業者としての経済的な面の喩えであって、案件の処理のことではない。
昔、イソ弁でリーマンショックのときに初めて聞いたのだが、感覚としてはそういうものだと言われれば、今は理解できる。
もちろん、大物を釣り上げることもあるだろうし。ばらつきが大きい、というのはそういうことである。
これに対して、インハウスの場合は、収入面でのばらつきは基本的にはもちろん起こらないし、いわゆるワークライフバランスも、インハウスの方がとりやすいであろうと思う(あくまで一般的には、だが)。
結び
というわけで、インハウス転身に興味がある人は、それぞれの状況に合わせて、③のような経済的な側面と、①②のような志向的な側面を合わせつつ、向き不向きを検討することになるのかなと思います。
今回は、「インハウスローヤーに向いている人・向いていない人」というテーマで、概ね3つの要素に分けて、管理人の個人的意見を書いてみました。
[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。