今回は、フリーランス法を勉強しようということで、支払期日規制にまつわる論点を見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
支払期日規制
フリーランス法は、報酬の支払期日について、発注事業者が商品の受領日(サービスの場合は役務提供日)から起算して60日以内で、かつ、できるだけ短い期間内になるように定めることを義務づけています(支払期日を定める義務/法4条1項)。
また、現実には支払期日を定める義務に違反しているケースもあり得ますので、そのような場合には、支払期日が法定されます(支払期日の法定/同条2項)。
支払期日を定める義務+支払期日の法定のことを、本記事では支払期日規制といいます
まとめると、以下のようになっています。
【支払期日の定まり方(原則)】
- 受領日から起算して60日以内に支払期日を定めたとき(1項)
→その定められた支払期日 - 支払期日を定めなかったとき(2項)
→受領日 - 受領日から起算して60日を超えて支払期日を定めたとき(2項)
→受領日から起算して60日を経過した日の前日
【支払期日の定まり方(再委託の例外の場合)】
- 元委託支払期日から起算して30日以内に支払期日を定めたとき(3項)
→その定められた支払期日 - 支払期日を定めなかったとき(4項)
→元委託支払期日 - 元委託支払期日から起算して30日を超えて支払期日を定めたとき(4項)
→元委託支払期日から起算して30日を経過した日の前日
支払期日規制については、以下の関連記事にくわしく書いています。
本記事では、支払期日の起算日/期間/支払期日に関する論点を、順に見てみます。
支払期日規制にまつわる論点
起算日にまつわる論点-「受領日」の考え方
支払期日規制にまつわる論点で重要なのは、起算日にまつわる論点です。
ざっくりいうと、起算日は、給付を受領した日(受領日)です。役務提供委託では、役務の提供日がこれにあたります(役務には受領という概念がないため)。
▽法4条1項(※【 】は管理人注)
(報酬の支払期日等)
第四条 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託【=役務提供委託】をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。
物品の製造・加工委託の場合
物品の製造・加工委託における受領日とは、検査の有無とは関係なく、発注事業者が、物品を受け取り、自己の占有下に置いた日のことです。
検査の有無とは関係なくというのは、受領後に検査をする場合がありますが、そのときに起算日は単なる受領日になるのか検査の完了日になるのか?というと、単なる受領日が起算日になるということです
発注事業者の検査員がフリーランスの事務所等へ出張し検査を行うような場合には、検査員が出張して検査を開始すれば受領となります。
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑴-ア
ア 物品の製造を委託した場合
物品の製造を委託した場合における「給付を受領した日」とは、特定受託事業者の給付の目的物たる物品の内容について検査をするかを問わず、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の目的物たる物品を受け取り、自己の占有下に置いた日をいう。特定業務委託事業者の検査員が特定受託事業者の事務所等に出張し検査を行うような場合には、当該検査員が検査を開始すれば「受領した」ことになる。
情報成果物作成委託の場合
情報成果物作成委託における受領日とは、情報成果物を記録した電磁的記録媒体(USBメモリ、CD-R等)を受け取り、自己の占有下に置いた日のことです。
ただ、記録媒体がない場合は、発注事業者の用いる電子計算機内に記録されたときになります。
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑴-イ
イ 情報成果物の作成を委託した場合
情報成果物の作成を委託した場合における「給付を受領した日」とは、USBメモリやCD-R等、情報成果物を記録した電磁的記録媒体がある場合には、給付の目的物として作成された情報成果物を記録した電磁的記録媒体を受け取り、自己の占有下に置いた日をいう。
また、電磁的記録媒体を用いないときであっても、例えば、電気通信回線を通じて特定業務委託事業者の用いる電子計算機内に記録されたときも、「受領した日」となる。
例外的な扱い
ただし、情報成果物作成委託においては、例外的な支払期日の起算日(受領日)があります。
前述のように検査の有無は支払期日の起算日とは関係がないはずですが、情報成果物作成委託では、外形的には委託内容の確認ができないため、作成された内容の確認や今後の作業についての指示等を行うために、情報成果物を一時的に発注事業者の支配下に置く必要がある場合があります。
そのため、情報成果物作成委託では、
- 発注事業者が情報成果物を一時的に支配下においた時点では、当該情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかではないこと
- あらかじめ発注事業者とフリーランスとの間で、発注事業者が自己の支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意していること
という要件を満たす場合には、発注事業者が情報成果物を自己の支配下に置いたとしても直ちに受領したものとは取り扱わず、一定の水準を満たしていることを確認した時点を受領日として、支払期日の起算日とすることができます。
ただ、3条通知に明記された納期日(「給付を受領する日」)において、情報成果物が発注事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、その納期日に受領したものとされます。
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑴-イ(※【 】は管理人注)
情報成果物の作成委託では、特定業務委託事業者が作成の過程で、特定受託事業者の作成内容の確認や今後の作業の指示等を行うために情報成果物を一時的に特定業務委託事業者の支配下に置く場合がある。【①】この時点では当該情報成果物が給付としての水準に達し得るかどうか明らかではない場合において、【②】あらかじめ特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で、特定業務委託事業者が自己の支配下に置いた当該情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で、給付を受領したこととすることを合意している場合には、特定業務委託事業者が当該情報成果物を自己の支配下に置いたとしても直ちに受領したものとは取り扱わず、自己の支配下に置いた日を支払期日の起算日とはしない。ただし、3条通知に明記された納期において、当該情報成果物が特定業務委託事業者の支配下にあれば、内容の確認が終わっているかどうかを問わず、当該納期に受領したものとして、支払期日の起算日とする。
なお、このような取扱いとするのは、情報成果物の場合には、外形的には全く内容が分からないことから特に認めているものであり、情報成果物以外の場合には認められないので留意が必要である。
役務提供委託の場合
役務提供委託における提供日は、個々の役務の提供を受けた日のことです。
役務の提供に日数を要する場合(ex.A地点からB地点までの運送に2日間かかる場合など)には、一連の役務の提供が終了した日となります。
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑴-ウ
ウ 役務の提供を委託した場合
役務の提供委託では、原則として受領という概念はない。
特定業務委託事業者は、役務の提供委託においては、特定受託事業者が提供する個々の役務ごとに役務の提供を受ける。
役務の提供を委託した場合における「給付を受領した日」とは、特定業務委託事業者が特定受託事業者から個々の役務の提供を受けた日をいう。役務の提供に日数を要する場合には、一連の役務の提供が終了した日が役務の提供を受けた日となる。…
(続く)
例外的な扱い(連続して提供される役務)
ただし、役務提供委託においても、例外的な支払期日の起算日があります。
個々の役務が連続して提供される役務である場合(ex.保守点検業務の委託など)には、個々の役務提供の完了を特定し難いため、例外的に、一定の要件の下で月単位の締切日を役務提供日とすることが認められています。
【連続して提供される役務の要件】
- 報酬の支払は、フリーランスと協議の上、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることがあらかじめ合意され、その旨が3条通知に明記されていること
ex. 支払期日欄に「毎月○日締切、翌月(翌々月)○日支払」と記載 - 3条通知に、当該期間の報酬の額(算定方法も可)が明記されていること
- フリーランスが連続して提供する役務が同種のものであること
例えば、8月1日から8月末日までの締切対象期間について、8月分の役務がまとめて8月末日に役務提供されたものとして、8月末日を役務提供日=起算日とし、そこから60日以内を支払期日とすることが認められるということです(つまり、”月末締め翌々月払い”が可能)。ただ、あくまでも月単位であり、2か月分とか、3か月分は不可です。
普通、"翌々月払い"は、60日を超える部分が出てくるので不可能です(上記の例でたとえば8月1日分の役務は、原則的な考え方だと60日を軽々超えます)
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑴-ウ
(続き)
…ただし、個々の役務が連続して提供される役務であって、次の①から③までの全ての要件を満たす場合には、月単位で設定された締切対象期間の末日(個々の役務が連続して提供される期間が1か月未満の役務の提供委託の場合には、当該期間の末日)に当該役務が提供されたものとして取り扱い、当該日から起算して60日(2か月)以内に報酬を支払うことが認められる。
① 報酬の支払は、特定受託事業者と協議の上、月単位で設定される締切対象期間の末日までに提供した役務に対して行われることがあらかじめ合意され、その旨が3条通知に明確に記載されていること。
② 3条通知に、当該期間の報酬の額又は報酬の具体的な金額を定めることとなる算定方式(役務の種類・量当たりの単価があらかじめ定められている場合に限る。)が明確に記載されていること。
③ 特定受託事業者が連続して提供する役務が同種のものであること。
やり直しをさせた場合
契約不適合などフリーランスの責めに帰すべき事由があり、報酬の支払前にやり直しをさせる場合には、やり直しをさせた後の給付を受領した日が支払期日の起算日になります。
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑴-エ
エ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとしてやり直しをさせた場合
特定受託事業者の給付に、特定受託事業者から提供されるべき物品及び情報成果物と適合しないこと等があるなど、特定受託事業者の責めに帰すべき事由があり、報酬の支払前にやり直しをさせる場合には、やり直しをさせた後の物品又は情報成果物を受領した日(役務の提供委託の場合には、特定受託事業者が役務を提供した日)が支払期日の起算日となる。
期間にまつわる論点-締切制度(60日以内=2か月以内)
報酬は、フリーランスの給付の受領後60日以内に支払わなければなりませんが、継続的な取引において、毎月の特定日に報酬を支払うこととする月単位の締切制度を採用している場合があります。
支払期日までの期間は、条文上、起算日から「60日以内」とされていますが(法4条)、このように月単位の締切制度にしている場合は、実際上、「2か月以内」と読み替えて運用されます。
例えば、「毎月末日納品締切、翌月末日支払」といった締切制度が考えられますが、月によっては31日の月(大の月)もあるため、月の初日に給付を受領したものの支払が、受領から61日目又は62日目の支払となる場合があり得ます。
このような場合、結果として給付の受領後60日以内に報酬が支払われないことになりますが、「受領後60日以内」の規定は「受領後2か月以内」として運用され、大の月(31日)も小の月(30日)も同じく1か月として運用されますので、期日内の支払義務(法4条5項)の違反として問題とはされません。
▽フリーランス法Q&A【Q47】
特定業務委託事業者は、特定受託事業者との間の業務委託において、例えば毎月末日納品締切、翌月末日支払のように、月単位の締切制度を採用し、毎月の特定日に報酬を支払うこととしています。このような場合、月によっては1か月が31日の月もあるため、特定受託事業者から給付を受領した日から60日を超えて報酬を支払うことがありますが、本法上問題となりますか。
月単位の締切制度では、月によっては31日の月があるため、前月の納品締切日の翌日に給付を受領した場合には、報酬の支払が給付を受領した日から61日目又は62日目の支払となる場合があります。このような場合、本法の運用に当たっては、給付を受領した日から60日以内との規定を、給付を受領した日から2か月以内として運用するため、本法上問題としません。
支払期日にまつわる論点-金融機関休業日の場合の順延
毎月の特定日に金融機関を利用して報酬を支払う場合、支払日が金融機関の休業日にあたる場合があります。この場合、
- 支払を順延する期間が2日以内である場合であって
- 支払日を金融機関の翌営業日に順延することをあらかじめ書面または電磁的方法で合意しているとき
は、結果として給付を受領した日から起算して60日(再委託の例外の場合には、元委託支払期日から起算して30日)を超えて報酬が支払われても問題とはされません。
なお、順延後の支払期日が受領日から起算して60日(2か月)以内となる場合には、フリーランスとの間であらかじめその旨書面で合意していれば、金融機関の休業日による順延期間が2日を超えても問題とはされません。
▽解釈ガイドライン 第2部-第2-1-⑸
⑸ 支払期日が金融機関の休業日に当たったとき
報酬を毎月の特定日に金融機関を利用して支払うこととしている場合に、当該支払日が金融機関の休業日に当たることがある。このような場合、支払日が土曜日又は日曜日に当たるなど支払を順延する期間が2日以内である場合であって、特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で支払日を金融機関の翌営業日に順延することについてあらかじめ書面又は電磁的方法で合意しているときは、結果として給付を受領した日から起算して60日(本法第4条第3項の場合には、元委託支払期日から起算して30日)を超えて報酬が支払われても問題とはしない。
なお、順延後の支払期日が給付を受領した日から起算して60日(本法第4条第3項の場合は、元委託支払期日から起算して30日)以内となる場合には、特定受託事業者との間であらかじめその旨を書面又は電磁的方法で合意していれば、金融機関の休業日による順延期間が2日を超えても問題とはしない。
「受領」が出てくる箇所
以上のように「受領日」の考え方が特にややこしいですが、もうひとつ注意点は、支払期日規制の起算点である「受領日」は、実際日(=実際に受領した日)であるということです。
イメージづくりのために、フリーランス法で「受領」が出てくる関連箇所をざっと見てみます。
取引条件の明示義務(法3条)
発注事業者には取引条件の明示義務がありますが(法3条1項)、その明示事項のひとつとして、受領日(役務の場合は提供日)があります。
ここでいう受領日というのは、受領の予定日です。つまりいわゆる納期のことです。
文言としては、「給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日」(公取施行規則1条1項4号)となっています
支払期日を定める義務/期日内の支払義務(法4条)
これは本記事の冒頭で見た部分ですが、発注事業者には、受領日から60日以内に支払期日を定める義務があります(法4条1項)。また、支払期日を定めなかった場合は受領日に、60日を超えて定めた場合には受領日から起算して60日を経過した日の前日に、支払期日が法定されます(法4条2項)。
この受領日は予定日ではなく、実際日です。
文言としては、「給付を受領した日」「役務の提供を受けた日」(法4条1項)となっています=つまり過去形
受領拒否の禁止(法5条)
また、発注事業者は、フリーランスに責任がないのに、フリーランスの給付の受領を拒むことは禁止されています(法5条1項1号)。
ここで言っているのは、予定の受領日(いわゆる納期。3条通知で明示した受領日)に、実際の受領を拒否してはならないということです。
まとめ
このように、支払期日の起算日である「受領日」は実際の受領日のことなので、支払期日を定める義務というのは、
報酬の支払期日について、発注事業者は、商品の受領日(サービスの場合は役務提供日)から起算して60日以内で、かつ、できるだけ短い期間内になるように定める義務がある
というニュアンスになります。
結び
今回は、フリーランス法を勉強しようということで、支払期日規制にまつわる論点を見てみました。
基本的には下請法における支払期日規制と同じ構造になっていますので、わからないことがあるときは、下請法の資料(講習会テキストなど)を読むとわかることがあるかもしれません。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文)
- 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
- 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))(≫掲載ページ)
- 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)(≫掲載ページ)
- 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)(≫掲載ページ)
- フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)
- フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)(≫掲載ページ)