今回は、フリーランス法ということで、発注事業者が守るべきルールのひとつである報酬の減額の禁止について見てみたいと思います。
フリーランスとして働いていると、何かと理由をつけて、当初の約束より少ない金額を振り込まれた経験がある方もいるかもしれません。フリーランス法では、こういった理不尽な減額からフリーランスを守るためのルールが定められています。
本記事では、何が減額にあたるのか、実務上誤解しやすいポイントなどを中心に解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
報酬の減額の禁止
フリーランス法において、1か月以上の期間で行われる業務委託(契約の更新により1か月以上継続して行う場合も含む)を行う特定業務委託事業者(従業員を使用する発注事業者)には、7つの禁止行為が定められています。
そのひとつである報酬の減額の禁止とは、フリーランス(特定受託事業者)に責任がない(責めに帰すべき事由がない)のに、業務委託時にあらかじめ定めた報酬の額を、あとから減らして支払うことを指します。
▽フリーランス法5条1項2号
(特定業務委託事業者の遵守事項)
第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為…(略)…をしてはならない。
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
「減ずる」の意味
ここでのポイントは、発注時に定めた代金が基準になるということです。例えば、以下の要素は、減額を正当化する理由にはなりません。
合意の有無を問わない
誤解しがちな点ですが、たとえフリーランスとの間で減額することに合意があったとしても、客観的に見てフリーランスに責任がなければ、本法違反となります。
▽解釈ガイドライン〔令和7年10月1日版〕 第2-2-⑵-イ
また、仮に特定業務委託事業者と特定受託事業者との間で報酬の減額等についてあらかじめ合意があったとしても、特定受託事業者の責めに帰すべき事由なく報酬の額を減ずる場合には、本法違反となる。
フリーランス側からすると、「発注者からお願いされて、渋々だけど合意したから仕方ない…」とは思わなくてよいということです
名目、方法、金額の多寡等を問わない
また、協賛金の徴収、原材料価格の下落など、減額の名目、方法、金額の多寡(いくら減らしたか)を問わず、また、業務委託をした後のいつの時点で減額したとしても、本法違反とななります。
解釈ガイドラインでは、以下のような多様な例が本号の「減ずる」に該当するものとして挙げられています(解釈ガイドライン 第2-2-⑵-イ-(イ)参照。以下は一部です)。
単価改定(引下げ)の遡及適用
単価の引下げが決まった後に、その合意日より前に旧単価で発注していた分にまで新しい単価を遡って適用し、差額を差し引くことは減額にあたります。
消費税相当額の不払
あらかじめ定めた報酬額に対して、消費税や地方消費税額の相当分を支払わないことは減額にあたります。
振込手数料の負担転嫁
報酬をフリーランスの銀行口座へ振り込む際の手数料をフリーランスに負担させ、報酬額から差し引くことは減額にあたります。先ほど見たように、合意の有無は関係ありません。なお、支払先口座が決まっていたのに、フリーランス都合で口座を変更する場合などには例外があります。
▽フリーランス法Q&A〔令和8年1月1日版〕【問78】
特定受託事業者の口座に報酬を振り込む際、振込手数料を報酬の額から差し引くことは報酬の減額に該当しますか。
特定受託事業者との合意の有無にかかわらず、特定受託事業者の金融機関口座に報酬を振り込む際の手数料を特定受託事業者に負担させ、振込手数料を報酬の額から差し引くことは、報酬の減額に該当します。
一方、例えば、業務委託に当たって事業者間で、報酬の振込先を口座Aとする旨の合意をしていたにもかかわらず、その後に特定受託事業者が自身の都合により報酬の振込先を口座Bへ変更する場合には、口座Aへの振込であれば生じなかった費用(振込先を口座Bとすることによる振込手数料の増額分等)については、当該特定受託事業者に負担させることは認められます。
無理な納期指定等
必要な原材料等の支給の遅れや無理な納期指定によって生じた納期遅れ等を、フリーランスの責任によるものとして、納期遅れによる商品価値の低下分とする額を報酬の額から差し引くことは、減額にあたります。
端数切捨て
報酬の支払に際し、端数が生じたからといって、端数を1円以上切り捨てて支払うことは減額にあたります。先ほど見たように、金額の多寡は関係ありません。
▽フリーランス法Q&A〔令和8年1月1日版〕【問77】
報酬の額について、複数の計算式から成る算定方法によって明示している場合に、それぞれの計算過程で出た端数を切り捨て、切り捨てられた端数の合計が1円を超えるときは、本法上問題となりますか。
報酬の算定方法が複数の計算式から成る場合、算出した金額の合計額について、1円未満の端数の処理をすることは問題ありませんが、計算過程で生じた端数を切り捨てていった結果、1円を超える場合には報酬の減額として本法上問題となります。
クライアント都合や市況変化による減額
「会社の業績が悪化して予算が減ったから」「客先からキャンセルされて納品物が不要になったから」といった、発注者側の都合による減額は、当然減額にあたります。
増量値引
報酬の総額はそのままにしておいて、発注数量を増加させること(いわゆる増量値引)も、減額にあたります。
約束していた経費の不払
業務にかかる経費(交通費や材料費など)を発注者が負担すると事前に明示していたにもかかわらず、その経費相当額を支払わないことは減額にあたります。
後から返戻(割戻金など)
減額にあたる方法としては、例えば割戻金のように、フリーランスがいったん全額支払った後で、減額分を発注事業者に返戻させる方法(=後から金額を戻させる形での減額)も含まれます。
▽解釈ガイドライン〔令和7年10月1日版〕 第2-2-⑵-イ-(ア)
報酬の額を「減ずること」とは、一旦決定された報酬の額を事後に減ずることをいう。報酬から減ずる金額を差し引く方法のほか、特定業務委託事業者の金融機関口座へ減ずる金額を振り込ませる方法等も含まれる。
報酬の減額が認められるのはどのような場合か(例外)
本号が
二 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、報酬の額を減ずること。
とされているように、フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合に限り、減額が認められます。
フリーランスの責めに帰すべき事由があるとして受領拒否・返品が認められるような場合(納品物が委託内容と異なっていたり、納期遅れが生じたりして、受領拒否または返品できる場合)であり、具体的には以下のケースです。
▽解釈ガイドライン〔令和7年10月1日版〕 第2-2-⑵-イ-(ウ)
(ウ) 特定受託事業者の責めに帰すべき事由
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるとして、報酬の額を減ずることが認められるのは、次の場合に限られる。
① 特定受託事業者の責めに帰すべき事由(委託内容と適合しないこと、納期遅れ等)があるとして、受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合に、受領拒否又は返品をして、その給付に係る報酬の額を減ずるとき。
② 特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとして、受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合であって、受領拒否又は返品をせずに、特定業務委託事業者自ら手直しをした場合(役務の提供を委託した場合にあっては、役務の提供を受けた後に自ら手直しをしたとき)に、手直しに要した費用等客観的に相当と認められる額を報酬の額から減ずるとき。
③ 特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとして、受領拒否又は返品することが本法違反とならない場合であって、受領拒否又は返品をせずに、委託内容と適合しないこと等又は納期遅れによる商品価値の低下が明らかな場合に、客観的に相当と認められる額を報酬の額から減ずるとき。
要するに、いずれもフリーランスの側に契約不適合の存在や納期遅れ等があることが前提であり、減ずる額は、
- 受領拒否又は返品をする場合 →その分の報酬
- 受領して手直しする場合 →その実費分
- 受領して手直しもしない場合 →商品価値の明らかな低下につき客観的に相当と認められる額
となっています。
ただし、納期遅れといっても、先ほど見たように、発注者からの無理な納期指定などが原因の遅れをフリーランスの責任にするような減額は認められません
結び
フリーランス法における報酬の減額の禁止は、一般的に立場の弱くなりがちなフリーランスの収入と生活を守るために必要なルールです。 発注事業者は、自社の都合や、昔からの慣習だからといった理由で、一度約束した報酬を後から勝手に減らすことはできません。
フリーランス側からすると、減額に違和感がある場合は、まずはこのルールを思い出すことが大事になります。相互に内容を理解して、安心できる取引環境を作っていくことが求めらます。
次の記事は、返品の禁止についてです。
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フリーランス法|納品したのに突き返される?発注者が守るべき「返品の禁止」とは
続きを見る
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文)
- 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
- 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)|公取委HP
- フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)|公取委HP(≫掲載ページ)
参考資料
参考文献
- フリーランス・事業者間取引適正化等法(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課フリーランス取引適正化室、厚生労働省雇用環境・均等局総務課雇用環境政策室)
- 実務逐条解説 フリーランス・事業者間取引適正化等法(那須勇太、益原大亮 編著)
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