法務一般

法務の基礎を勉強しよう|総額表示

今回は、法務の基礎を勉強しようということで、総額表示について見てみたいと思います。

財務省HPに公的な解説資料があるのでそれを見れば十分ですが、当ブログではもう少し法務的な目線から、ポイントを改めて整理してみます。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

総額表示とは

総額表示とは、消費税を含めた税込価格を表示することです。

つまり、何の総額か?というと、「商品やサービスの価格」と「消費税」の総額のことです。

例えば、商品価格が10,000円の場合

11,000円(税込)

のように、総額を表示する必要があるということです。

また、税抜価格との併記はOKであり、

11,000円(税抜価格10,000円)

といった表示も、総額表示として認められます。

総額表示の趣旨は、消費者が値札や広告により、商品/サービスの選択・購入をする際に、

  • 支払総額を一目でわかるようにする
    (⇔税抜価格の表示だけだと最終的にいくらの支払いになるのかがわかりにくい)
  • 価格の比較が容易にできるようにする
    (⇔税抜表示の店舗と税込表示の店舗で価格の比較がしづらい)

の2点とされています。

なお、義務違反に対する罰則は、いまのところありません。ただ、税抜価格が支払総額であると誤認するような表示が行われた場合には、不当表示として景品表示法違反になる可能性はあります。

解説資料

 解説資料としては、財務省HPに解説が掲載されているほか、タックスアンサーとして、国税庁HPにもQ&Aが掲載されています(内容的には、財務省HPの解説のダイジェスト版のような感じ)。

▽参考リンク
消費税の総額表示義務と転嫁対策に関する資料|財務省HP
No.6902「総額表示」の義務付け|国税庁HP

 また、総額表示義務は2022年(令和4年)4月1日から発効していますが、そこまでの途中経過については、以下のページが参考になります。

▽参考リンク
消費税転嫁対策特別措置法のガイドライン(総額表示義務の特例)について|財務省HP

具体的な表示方法

具体的な表示方法としては、とにかく税込価格が明瞭に表示されていることが必要です。

先ほど見たように税抜価格との併記はOKであるほか、税抜とか税込とかいった説明も、あってもなくてもよいとされています。

総額表示ガイドライン 第3-1

1 認められる表示
 総額表示義務は、その商品の「税込価格」を表示することを義務付けているものである。そのため、税込価格を表示する際に「税込価格である旨」の表示は必要なく、また、税込価格に併せて「税抜価格」、「消費税額等」、「消費税率」等が表示されていても差し支えない。例えば、次のような表示(税込価格11,000円(消費税率10%)の商品の場合)が総額表示として認められる。
11,000円
11,000円(税込)
11,000円(税抜価格 10,000円)
11,000円(うち消費税額等 1,000円)
11,000円(税抜価格 10,000円、消費税額等 1,000円)
11,000円(税抜価格 10,000円、消費税率 10%)
⑺ 10,000円(税込価格 11,000円

以上の例を見ると、とにかく総額である「11,000円」(太字部分)が何らかの形で表示されていることがわかります。

ただ、税抜価格と併記する場合(上記の⑶、⑸、⑹、⑺)には、税抜価格をことさら強調することにより、消費者に誤認を与える表示となるときは(ex. 税込価格の文字が極端に小さい)、総額表示義務を満たしているとはいえないとされています(総額表示ガイドライン第3-2)

他方、

  • 10,000円(税抜)
  • 10,000円(本体価格)
  • 10,000円+税

といった表示は、総額表示として認められません(リーフレット参照)。

根拠法令

根拠法令は、消費税法63条になります。

”消費者にわかりやすいように”という趣旨からすると、一瞬、消費者契約法とかそっちの消費者保護法の関連なのかな?と思いそうですが、消費税に関することなので、普通に消費税法です。

▽消費税法63条:総額表示義務

(価格の表示)
第六十三条
 事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等(第七条第一項、第八条第一項その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。以下この条において同じ。)を行う場合(専ら他の事業者に課税資産の譲渡等を行う場合を除く。)において、あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、当該資産又は役務に係る消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない。

分節すると、

義務の主体
事業者は、
適用範囲
不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等を行う場合において、
 ※専ら他の事業者に課税資産の譲渡等を行う場合を除く
あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、
義務の内容
消費税額及び地方消費税額の合計額に相当する額を含めた価格を表示しなければならない

のようになっています。

「課税資産の譲渡等」というややこしい表現がありますが、要するに、消費税が課される商品やサービスの販売のことと思っておけばよいです。

▽消費税法2条1項9号:「課税資産の譲渡等」の定義

(定義)
第二条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 資産の譲渡等 事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供(代物弁済による資産の譲渡その他対価を得て行われる資産の譲渡若しくは貸付け又は役務の提供に類する行為として政令で定めるものを含む。)をいう。
 課税資産の譲渡等 資産の譲渡等のうち、第六条第一項の規定により消費税を課さないこととされるもの以外のものをいう。

以下、それぞれの文言に沿って、総額表示義務の適用範囲を見てみます。

適用範囲

「事業者」

総額表示義務は、

事業者(第九条第一項本文の規定により消費税を納める義務が免除される事業者を除く。)は、…

とされているように、事業者に適用されます。

なお、ここでいう事業者は課税事業者であり、免税事業者(消費税法9条1項本文)は除かれています(括弧書き参照)。

「不特定かつ多数の者に」

総額表示義務は、

不特定かつ多数の者に課税資産の譲渡等(…(略)…。)を行う場合(専ら他の事業者に課税資産の譲渡等を行う場合を除く。)において、…

とされているように、「不特定かつ多数の者」に販売を行う場合の表示に適用されます。

なので、特定の者との間で個々の契約や注文に基づいて行われる取引には適用がありません。

例えば、見積書、契約書、請求書等は、特定の者との間での取引に関連するものなので、「不特定かつ多数の者に」にあたらず、総額表示義務の対象外となります。

ただし、広告やホームページなどにおいて「見積り」などを示すような場合は、「不特定かつ多数の者に」あらかじめ価格を表示する場合に該当することに注意する必要があります。

総額表示Q&A【Q1】|財務省HP

 見積書や請求書等は、総額表示義務の対象ではないのですか。

 総額表示の義務付けは、不特定かつ多数の者に対する(一般的には消費者取引における)値札や広告などにおいて、あらかじめ価格を表示する場合を対象としていますので、見積書、契約書、請求書等は総額表示義務の対象にはなりません
 ただし、広告やホームページなどにおいて、あらかじめ“見積り例”などを示している場合がありますが、これは、不特定かつ多数の者にあらかじめ価格を表示する場合に該当しますのでご注意ください。

(注)値札や広告などにおいて税込価格のみを表示している場合には、その税込みの表示価格を基に見積書、契約書、請求書等が作成されるものと考えられます。

なお、「消費者」という表現ではなく「不特定かつ多数の者」という表現が使われていますが、総額表示義務は、いわゆる消費者取引(B to C)が念頭に置かれています。

この点は、小売段階といえども、取引の相手方が最終消費者か、あるいは事業者としての顧客かを判断したり、取引の相手方によって表示方法を変えるということは事実上不可能であること等から、「不特定かつ多数」という要件としたもので、中身としては、”取引相手が消費者であっても消費者以外の者であっても同じ条件で取引する状態”(=相手がBでもCでも同じ条件で売る)を意味するとされています。

総額表示Q&A【Q4】|財務省HP

 当社は事業者向けの事務用機器を販売していますが、取引先である法人がエンドユーザーとして当社の商品を使用しています。このような場合にも、店頭や広告などにおける価格表示を税込価格にする必要があるのでしょうか。

 総額表示の義務付けは、不特定かつ多数の者に対する(一般的には消費者取引における)値札や広告などにおいて、あらかじめ価格を表示する場合を対象としています。
 したがって、ご質問にあります “事業者向け事務用機器の販売”は事業者間取引と考えられますので、総額表示義務の対象にはなりません

(注)総額表示義務の対象となるのは「対消費者取引」です。しかし、小売段階といえども、取引の相手方が最終消費者か、あるいは事業者としての顧客かを判断したり、取引の相手方によって表示方法を変えるということは事実上不可能だと考えられます。そこで、取引の性格に着目し、特定の取引先に限定することなく、「不特定かつ多数の者」を対象として行う取引を総額表示義務の対象としています。
 したがって、ここでいう「対消費者取引」とは、取引相手が消費者であっても消費者以外の者であっても同じ条件で取引する状態を意味します。

「あらかじめ」

総額表示義務は、

あらかじめ課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の価格を表示するときは、…

とされているように、あらかじめ価格を表示する場合に限られます。

つまり、価格が表示される場面としては、商品等の選択時(値札や広告など)と、代金の決済時(レシート、請求書など)がありますが、適用があるのは前者の場面ということです。

雑感

 なお、先ほどのQ&A【Q1】のように、

総額表示の義務付けは、不特定かつ多数の者に対する(一般的には消費者取引における)値札や広告などにおいて、あらかじめ価格を表示する場合を対象としているので、見積書、契約書、請求書等は総額表示義務の対象にはならない

という解説を見ることが多いですが、細かい話をすると、例として出されている見積書/契約書/請求書が、「不特定かつ多数」と「あらかじめ」のどちらの要件で切れているのか、よくわからないように思うことがあるかもしれません(見積書は「あらかじめ」には該当するように思えるため)。

 この点は、上記の例はどれも、特定の者との間なので「不特定かつ多数」に該当しない例と理解してよいと思います。

 細かくいうと、

  • 「見積書」は、「あらかじめ」の表示ではあるが、「不特定かつ多数」への表示ではない
  • 「契約書」と「請求書」は、「あらかじめ」の表示ではないし、「不特定かつ多数」への表示でもない

となっています。

法務での関わり(私見)

こういった適用範囲からすると、一応、

・契約書のときなどは、気にしなくてよし
・広告チェックのときなどは、気にする必要あり

ということになります(上記のように、契約書を書くときは適用外なので)。

ただ、実際には、社内の会計的なオペレーション上、総額表示(税込価格など)に揃えているところが多いのではないかと思います。また、義務化される前から元々そうだったというところも多いのではないかと。

ひとまず、適用範囲は押さえておいたうえで、実際問題としては、全体的にそろえている、といった感じかと思います。

結び

今回は、法務の基礎を勉強しようということで、総額表示について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

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参考文献

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