今回は、フリーランス法ということで、発注事業者が守るべきルールのひとつである返品の禁止について見てみたいと思います。
納品してOKをもらったはずなのに数ヶ月後に突き返されるといった予期しない事態は、フリーランスにとって死活問題になりかねません。フリーランス法では、こういった不当な返品からフリーランスを守るためのルールが定められています。
本記事では、何が禁止される返品にあたるのかや、許される例外の条件、実務上の注意点などを解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
返品の禁止とは
フリーランス法において、1か月以上の期間で行われる業務委託(契約の更新により1か月以上継続して行う場合も含む)を行う特定業務委託事業者(従業員を使用する発注事業者)には、7つの禁止行為が定められています。
そのひとつである返品の禁止とは、フリーランス(特定受託事業者)に責任がない(責めに帰すべき事由がない)のに、発注した物品や情報成果物を一度受け取った後で、フリーランスに引き取らせることを指します。
▽フリーランス法5条1項3号(※【 】は管理人注)
(特定業務委託事業者の遵守事項)
第五条 特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対し業務委託(政令で定める期間以上の期間行うもの(当該業務委託に係る契約の更新により当該政令で定める期間以上継続して行うこととなるものを含む。)に限る。以下この条において同じ。)をした場合は、次に掲げる行為(第二条第三項第二号【=役務の提供委託】に該当する業務委託をした場合にあっては、第一号及び第三号に掲げる行為を除く。)をしてはならない。
三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
受領拒否の禁止(1号)が給付の受領までの行為を規制しているのに対して、返品の禁止(本号)は、給付の受領が完了した後の行為を規制するものとなっています。
「給付に係る物」
「給付に係る物」は、物品の製造・加工委託、情報成果物の作成委託に対するフリーランスの給付として納入されるものすべてを指します。
なお、条文の括弧書きにあるとおり、役務の提供委託の場合は本号の対象から除かれています(モノと異なり、サービスについては「受領」という概念がないため)。
【memo】適用される業務委託の範囲
返品の禁止は、受領拒否の禁止と同様、以下の業務委託(①と②)に適用されます。
| ①物品の製造・加工委託 | ○ |
| ②情報成果物の作成委託 | ○ |
| ③役務の提供委託 | × |
他方、③役務の提供委託(サービスなどの提供)については「受領」という概念がないためこの条項の対象にはなりませんが(上記条文の赤字部分参照)、目的物が存在する役務の提供において発注者が目的物を引き取らせた場合は、不当な給付内容の変更・やり直しの禁止(法5条2項2号)という別の禁止行為に該当する場合があると整理されています(解釈ガイドライン 第2-2-⑵-ウ参照)。
「引き取らせる」
「取引先からキャンセルされた」「商品の入れ替え時期だから」といった名目や、返品する数量の多寡にかかわらず、自社(発注者)の都合による返品は認められません。
また、報酬の減額禁止(2号)などと同じく、たとえフリーランスと発注者の間で返品することについて合意があったとしても、フリーランス側に責任がない限り、返品することは本法違反となります。
フリーランス側からすると、「発注者からお願いされて、今後の付き合いもあるから渋々返品に応じたので仕方ない…」というケースもあるかもしれませんが、そのように考えなくてよい(合意の有無は関係ない)ということです
例えば、以下のような事例が違反にあたります。
- 売れ残ったから返品
例:イベント企画会社がフラワーデザイナーにブーケの制作を依頼して納品を受けたが、イベント終了後に売れ残った分を「不要になったから」と引き取らせる - 取引先(クライアント)の都合による返品
例:広告制作会社がイラストレーターにイラストを依頼して受け取ったが、その後クライアントから広告自体が中止になったと言われ、「キャンセルされたから」とイラストを返品する - 以前はOKだったのに、急に細かな個体差を理由にする
例:工芸品メーカーが職人に製品の製造を依頼。納品されたものを受け取ったが、前回までの発注時には問題にしていなかった程度のわずかな個体差を理由にして引き取らせる
返品が認められるのはどのような場合か(例外)
本号が
三 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること。
とされているように、返品が認められるのは、フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合に限られます。
返品ができる場合と期間
フリーランスの責めに帰すべき事由がある場合とは、具体的には、納入された物品が明示された委託内容と適合しない場合(不良品、仕様違い等)です(解釈ガイドライン 第2-2-⑵-ウ-(ア)参照)。
ただし、不良品であれば無条件にいつでも返品できるわけではありません。返品ができる場合のほか、返品ができる期間にも解釈上制限が設けられています。
- 返品ができる場合
- フリーランスの給付の内容に委託内容と適合しないこと等がある場合
- 返品ができる期間
- 直ちに発見することができる不適合の場合:
受領後速やかに返品する場合に限られる。ただし、この場合であっても、発注者が意図的に検査期間を延ばし、その後に返品することは不可 - 直ちに発見することができない不適合の場合:
受領後6か月以内(一般消費者への保証期間が長い場合は最長1年)
- 直ちに発見することができる不適合の場合:
▽解釈ガイドライン〔令和7年10月1日〕第2-2-⑵-ウ-(イ)
(イ) 検査と返品することのできる期間
「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるとして返品することができる期間について、特定受託事業者の給付の内容に、直ちに発見することができる委託内容と適合しないことがある場合には、受領後速やかに返品することは認められる。ただし、この場合であっても、特定業務委託事業者が意図的に検査期間を延ばし、その後に返品することは認められない。
特定受託事業者の給付の内容に、直ちに発見することができない委託内容と適合しないことがある場合には、給付の受領後6か月以内に返品することは特定受託事業者の責めに帰すべき事由があるとして認められるが、6か月を超えた後に返品することは本法違反となる。ただし、特定受託事業者の給付を使用した特定業務委託事業者の商品について一般消費者に6か月を超えて保証期間を定めている場合には、その保証期間に応じて最長1年以内であれば返品することが認められる。
”不良品”でも返品できない?
このように解されているため、実務上特に注意が必要なのが、”不良品”であっても返品が違法となるケースです。
先ほど見た期間経過の場合を含め、以下のような場合はフリーランスの責任とは認められません(解釈ガイドライン 第2-2-⑵-ウ-(ア)参照)。検査省略の場合も返品できないため注意が必要です。
- 委託内容が不明確:発注時に仕様が明確にされておらず、または検査基準が曖昧で、委託内容と異なることが明らかでない場合
- 検査基準の恣意的な変更:発注後に検査基準を厳しくし、従来は許容されていたレベルのものを「不良」として返品する場合(例:以前は問題にしなかった色むらを指摘して返品する)
- 直ちに発見できない不適合の期間切れ:一見してわからない不適合であっても、受領後6か月(一般消費者への保証期間が長い場合は最長1年)を経過した場合
- 検査省略:受入検査を省略して受領した場合(その後に不良が見つかっても返品できません)
- 検査委任の不備:自社で検査を行わず、かつ検査をフリーランスに委任する旨を文書等で交わしていない場合
- 検査委任時の期間切れ:検査をフリーランスに委任している場合でも、受領後6か月を経過した場合
▽フリーランス法Q&A〔令和8年1月1日版〕【問79】
特定業務委託事業者が受入検査を自社で行わない場合にも、「特定受託事業者の責めに帰すべき事由」があるとして、一定の期間内に物品又は情報成果物を返品することは認められますか。
特定業務委託事業者が受入検査を自社で行わず、特定受託事業者に検査を書面の交付又は電磁的方法による提供により委任している場合であって、特定受託事業者の給付の内容に、直ちに発見することのできない委託内容と適合しないことがあるときには、特定受託事業者の給付を受領した日から6か月以内(一般消費者向け保証がある場合には1年以内)に返品することが認められます。特定受託事業者の検査に明らかな過失があったときも、特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から6か月以内に返品することは認められます。
一方、特定業務委託事業者が受入検査を自社で行わず、かつ、特定受託事業者への委任もしていない場合や、特定受託事業者に検査を口頭で委任している場合には、特定業務委託事業者は返品することは認められません。
結び
フリーランス法における返品の禁止は、納品後にフリーランスが理不尽なリスクを負わされるのを防ぐためのルールです。 発注事業者は、一度受け取った成果物を「売れなかったから」「いらなくなったから」と自社の都合で返品することはできません。
トラブルを防ぐためには、発注時に仕様や検査基準を明確にする、納品されたら速やかに検査する、といったことが何より大切になります。お互いにルールの内容を理解して、気持ちのいい取引環境を作っていきましょう。
次の記事は、買いたたきの禁止についてです。
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フリーランス法|安すぎる報酬は法律違反?発注者が守るべき「買いたたきの禁止」とは
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文)
- 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
- 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))|厚労省HP(≫掲載ページ)
- 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)|公取委HP(≫掲載ページ)
- フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)|公取委HP
- フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)|公取委HP(≫掲載ページ)
参考資料
参考文献
- フリーランス・事業者間取引適正化等法(公正取引委員会事務総局経済取引局取引部取引企画課フリーランス取引適正化室、厚生労働省雇用環境・均等局総務課雇用環境政策室)
- 実務逐条解説 フリーランス・事業者間取引適正化等法(那須勇太、益原大亮 編著)
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