フリーランス法

フリーランス法を勉強しよう|取引適正化に関する義務-期日における報酬支払義務

今回は、フリーランス法を勉強しようということで、取引適正化に関する義務のうち期日における報酬支払義務について見てみたいと思います。

法4条に定められていますが、「支払期日を定める義務」と「期日内の支払義務」に分けた方がわかりやすいかと思いますので、本記事では2つに分けています。

フリーランス法における発注事業者の義務には、以下のような種類があります。

取引適正化に関する義務
①取引条件の明示義務
支払期日を定める義務/期日内の支払義務 ←本記事
③7つの禁止行為
【就業環境整備に関する義務】
④募集情報の的確表示
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮
⑥ハラスメント対策に係る体制整備
⑦中途解除等の事前予告・理由開示

その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

支払期日を定める義務

支払期日の原則(法4条1項)

フリーランス法は、報酬の支払期日について、発注事業者が商品の受領日(サービスの場合は役務提供日)から起算して60日以内で、かつ、できるだけ短い期間内になるように定めることを義務づけています。

本記事では、発注事業者=「特定業務委託事業者」、フリーランス=「特定業務委託事業者」、の意味で使っています

▽法4条1項

(報酬の支払期日等)
第四条
 特定業務委託事業者が特定受託事業者に対し業務委託をした場合における報酬の支払期日は、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付の内容について検査をするかどうかを問わず、当該特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日(第二条第三項第二号に該当する業務委託をした場合にあっては、特定受託事業者から当該役務の提供を受けた日。次項において同じ。)から起算して六十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

ちなみに、受領日から起算して、と書かれているので、「60日以内」は受領日も算入することになります(初日算入)。

期間の計算では初日不算入が原則ですが(民法140条参照)、「から起算して」はこの原則によらず初日を算入するときの法令用語になります(▷参考記事はこちら

具体的な記載の仕方

支払期日は3条通知の明示事項にもなっているので(法3条)、”あれ?支払期日って取引条件の明示義務(3条通知)のところでも明示事項として出てこなかったっけ?それと支払期日を定める義務とは何が違うの?”という気もするかもしれません。

これは、単に支払期日を定めるだけでなく、書面または電磁的方法により明示する必要もある、ということです。

つまり、時系列で並べると、

  • 支払期日を定める :支払期日を定める義務(法4条)
     ↓
  • 書面または電磁的方法により明示する :取引条件の明示義務(法3条)

という対応関係になっています。

具体的な記載の仕方については、パンフレットでは以下のように解説されています。

▽支払期日の記載例


(良い例)
●月●日支払
毎月●日締切、翌月●日支払
×
(違反例)
●月●日まで
●●日以内

支払期日は、具体的な日を特定できるよう定める必要があります。

「まで」「以内」という記載は、いつが支払期日なのか具体的な日を特定できないため、支払期日を定めているとは認められません(以上につきパンフレット 3-②)。

要するに、支払期日は日にちが決まるように書いておかなければいけない(※結果としてそれより先に支払うことはOK)ということです。このあたりは下請法における支払期日の定め方と同じ話です(▷参考記事はこちら

支払期日の法定(2項)

現実には支払期日を定める義務に違反しているケースもあり得ますので、2項において、以下のように支払期日の定まり方が法定されています。

▽法4条2項

 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたときは特定業務委託事業者が特定受託事業者の給付を受領した日から起算して六十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

つまりまとめると、支払期日の定まり方には以下の3パターンがあることになります。

【支払期日の定まり方】(解釈ガイドライン 第2-1-⑵-ア参照)

  • 受領日から起算して60日以内に支払期日を定めたとき(1項)
    →その定められた支払期日
  • 支払期日を定めなかったとき(2項)
    →受領日
  • 受領日から起算して60日を超えて支払期日を定めたとき(2項)
    →受領日から起算して60日を経過した日の前日

再委託の場合の支払期日の例外(3項)

フリーランス法が適用される業務委託では、発注事業者も小規模な事業者である場合があります。

これらの事業者にとっては、自身が発注元である元委託者から支払を受けていない段階で再委託先のフリーランスに報酬を支払わなければならないというのは負担が大きいため、再委託の場合に関して、支払期日の例外が認められています。

一定の要件の下で、再委託先のフリーランスへの支払期日は、元委託の支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で定めることができる、というものです。

▽法4条3項(※括弧書き部分を省略)

 前二項の規定にかかわらず、他の事業者(以下この項及び第六項において「元委託者」という。)から業務委託を受けた特定業務委託事業者が、当該業務委託に係る業務(以下この項及び第六項において「元委託業務」という。)の全部又は一部について特定受託事業者に再委託をした場合(…(略)…。)には、当該再委託に係る報酬の支払期日は、元委託支払期日から起算して三十日の期間内において、かつ、できる限り短い期間内において、定められなければならない。

例外を利用するための要件

再委託の例外を利用することは、義務ではありません。必要がある場合に、要件を満たすようにして利用することになります。

利用するための要件は、取引条件を明示(法3条)する際に、通常の明示事項に加えて、

  • 再委託である旨
  • 元委託者の名称(識別できるもの)
  • 元委託業務の対価の支払期日

という3つの事項を明示する、というものです。

①の再委託である旨の明示は、受託するフリーランスが、その業務が再委託であることを把握し得る程度のもので足りるとされています(解釈ガイドライン 第2部-第1-1-⑷-ア)。

▽法4条3項(上記で省略した括弧書き部分)

…特定受託事業者に再委託をした場合前条第一項の規定により再委託である旨元委託者の氏名又は名称元委託業務の対価の支払期日(以下この項及び次項において「元委託支払期日」という。)その他の公正取引委員会規則で定める事項を特定受託事業者に対し明示した場合限る

▽公取施行規則1条2項、6条(※【 】は管理人注)

 特定業務委託事業者は、法第四条第三項の再委託をする場合には、前項各号に掲げる事項【=3条通知の通常の明示事項】のほか、第六条各号に掲げる事項の明示をすることができる。

(法第四条第三項の事項)
第六条
 法第四条第三項の公正取引委員会規則で定める事項は、次に掲げる事項とする。
 再委託である旨
 元委託者の商号、氏名若しくは名称又は事業者別に付された番号、記号その他の符号であって元委託者を識別できるもの
 元委託業務の対価の支払期日

支払期日の法定(4項)

再委託の例外を利用する場合も、現実には支払期日を定める義務に違反しているケースもあり得ますので、法4条4項において、以下のように支払期日の定まり方が法定されています。

▽法4条4項

 前項の場合において、報酬の支払期日が定められなかったとき元委託支払期日が、同項の規定に違反して報酬の支払期日が定められたとき元委託支払期日から起算して三十日を経過する日が、それぞれ報酬の支払期日と定められたものとみなす。

つまりまとめると、再委託の例外を利用する場合も、支払期日の定まり方には以下のような3パターンがあることになります。

【支払期日の定まり方(再委託の例外)】(解釈ガイドライン 第2-1-⑵-イ-(イ)参照)

  • 元委託支払期日から起算して30日以内に支払期日を定めたとき(3項)
    →その定められた支払期日
  • 支払期日を定めなかったとき(4項)
    →元委託支払期日
  • 元委託支払期日から起算して30日を超えて支払期日を定めたとき(4項)
    →元委託支払期日から起算して30日を経過した日の前日

再委託先への適切な配慮(6項)

再委託の例外を利用した場合、発注事業者が元委託者から前払金の支払を受けたときには、再委託先のフリーランスとの間で適切に分配するよう配慮する必要があるととされています。

▽法4条6項(※【 】は管理人注)

 第三項の場合【=再委託の例外を利用した場合】において、特定業務委託事業者は、元委託者から前払金の支払を受けたときは、元委託業務の全部又は一部について再委託をした特定受託事業者に対して、資材の調達その他の業務委託に係る業務の着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない

起算日の概念

支払期日の起算日の概念がややこしいですが、

  • 支払期日の原則の起算日
    :「給付を受領した日/役務の提供を受けた日」は、実際日
  • 支払期日の例外(再委託の場合)の起算日
    :「元委託支払期日」は、予定日

となっています。

まず「元委託支払期日」からいくと、これは実際に支払われた日ではなく、支払の予定日・・・のことです。

▽パンフレット 3-②

 元委託者から支払期日より早く報酬が支払われた場合、フリーランスへの支払も早くしなければいけないの?

 再委託の例外は、実際に元委託者から支払われた日ではなく、元委託者と発注事業者との間で定められた支払の予定期日を起算日として考えるため、元委託者から元委託支払期日よりも早く報酬を支払われたとしても、フリーランスとの間で定めた支払期日までに支払を行えば問題にはなりません。

これに対し、「給付を受領した日/役務の提供を受けた日」は、予定日つまりいわゆる納期(3条通知の明示事項である「給付を受領し、又は役務の提供を受ける期日」)ではなく、実際の・・・受領日のことです。

このほか、受領日の考え方については、以下の関連記事にくわしく書いています。

期日内の支払義務(5項)

発注事業者は、このようにして定まる支払期日までに(以下再掲)、フリーランスに報酬を支払わなければなりません。

【支払期日の定まり方】(解釈ガイドライン 第2-1-⑵-ア参照)

  • 受領日から起算して60日以内に支払期日を定めたとき(1項)
    →その定められた支払期日
  • 支払期日を定めなかったとき(2項)
    →受領日
  • 受領日から起算して60日を超えて支払期日を定めたとき(2項)
    →受領日から起算して60日を経過した日の前日

【支払期日の定まり方(再委託の例外)】(解釈ガイドライン 第2-1-⑵-イ-(イ)参照)

  • 元委託支払期日から起算して30日以内に支払期日を定めたとき(3項)
    →その定められた支払期日
  • 支払期日を定めなかったとき(4項)
    →元委託支払期日
  • 元委託支払期日から起算して30日を超えて支払期日を定めたとき(4項)
    →元委託支払期日から起算して30日を経過した日の前日

ただ、例えばフリーランスの方に責めに帰すべき事由がある場合(ex.フリーランスから伝えられていた口座番号が誤っていたため支払ができなかった場合など)には、その事由が消滅した日(ex.正しい口座番号を伝えられた日)から起算して60日以内(再委託の例外の場合は30日以内)に支払えばよいとされています。

▽法4条5項

 特定業務委託事業者は、第一項若しくは第三項の規定により定められた支払期日又は第二項若しくは前項の支払期日までに報酬を支払わなければならない。ただし、特定受託事業者の責めに帰すべき事由により支払うことができなかったときは、当該事由が消滅した日から起算して六十日(第三項の場合にあっては、三十日)以内に報酬を支払わなければならない。

結び

今回は、フリーランス法を勉強しようということで、取引適正化に関する義務のうち支払期日を定める義務/期日内の支払義務について見てみました。

下請法との対比でいうと、「支払期日を定める義務」と「支払遅延の禁止」をくっつけたような内容になっています。

最後に、本義務の適用場面を確認しておきます。以下の表の黄色ハイライト部分になります(要するに、本義務に関しては特定業務委託事業者に適用あり)。

【フリーランス法の義務と適用場面】

適用対象主体⇒
(業務委託事業者)
特定業務委託事業者以外 特定業務委託事業者
1か月未満 1か月以上 6か月以上
取引適正化に関する義務 ①取引条件の明示
報酬支払期日の設定/期日内の支払い  
③7つの禁止行為    
就業環境整備に関する義務 ④募集情報の的確表示  
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮      
⑥ハラスメント対策に係る体制整備  
⑦中途解除等の事前予告・理由開示      

(※)上記のほか、報復措置の禁止は、取引適正化の義務につき業務委託事業者に適用(法6条3項)、就業環境整備の義務につき特定業務委託事業者に適用(法17条3項)

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

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  • フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文
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  • 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)(≫掲載ページ
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  • フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)
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参考文献

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  • パンフレット(「ここからはじめる フリーランス・事業者間取引適正化等法」〔令和6年11月1日施行〕)(≫掲載ページ
  • 説明資料(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」〔令和6年11月1日施行〕)(≫掲載ページ

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