旧下請法は、令和7年法改正により取適法(中小受託取引適正化法)となりました(令和8年1月1日施行)。法律が新しくなることで対象範囲が広がり、新たな禁止行為も追加されましたが、もし違反してしまったらどうなるのかという疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事は、行政による調査の仕組みから、違反に対するペナルティ(措置)の内容、そして今回の法改正のポイントのひとつである面的執行の強化について解説します。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
調査の仕組み
調査の方法
行政(公正取引委員会や中小企業庁など)は、違反行為を見つけるために様々な方法で調査を行っています。その入り口となるものから、法的な強制力を持つ調査まで、段階的に見ていきましょう。
- 定期調査(書面調査):毎年、発注側・受注側の双方にアンケート形式の調査票が送られます。ここで不審な点があれば、さらに詳細な調査に進むことがあります
- 申告・情報提供:中小受託事業者からの申告や、各種相談窓口(下請かけこみ寺等)に寄せられた情報が端緒となります
- 任意の調査(書類提出・実地調査):実務上多いのが、行政から任意で帳簿書類のコピーなどの提出を求められるケースです。これは法律に基づく強制的な権限発動ではありません
しかし、違反の疑いが強まると、法律に基づく強制力のある調査権限が発動されることがあります(法12条)。
- 報告徴収:任意の調査とは異なり、行政機関(公正取引委員会、中小企業庁長官、そして各事業の所管大臣)が企業に対して取引に関する報告を強制的に命じる手続(報告命令)です
- 立入検査:さらに踏み込んだ調査として、行政の職員が会社の事務所等に直接立ち入り、帳簿書類やデータなどを直接検査します
もし、この報告徴収に対して報告を無視したり、虚偽の報告をしたりした場合、あるいは立入検査を拒んだり妨害したりした場合は、行為者個人と会社の両方が50万円以下の罰金という刑罰の対象になります(法15条)。
調査の権限
法的調査である報告徴収と立入検査の要件は、行政機関ごとに若干違っていて、以下のようになっています。
- 公正取引委員会 → 取引を公正にするため必要があると認めるとき
- 中小企業庁長官 → 中小受託事業者の利益を保護するため特に必要があると認めるとき
- 各事業の主務大臣(例:運送なら国土交通省、テレビ放送なら総務省) → 中小企業庁長官の第9条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるとき
▽取適法12条1項~3項
(報告及び検査)
第十二条 公正取引委員会は、委託事業者…(略)…の中小受託事業者…(略)…に対する製造委託等に関する取引を公正にするため必要があると認めるときは、委託事業者若しくは中小受託事業者に対し、その委託事業者の中小受託事業者に対する製造委託等に関する取引に関する報告をさせ、又はその職員に委託事業者若しくは中小受託事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
2 中小企業庁長官は、中小受託事業者の利益を保護するため特に必要があると認めるときは、委託事業者若しくは中小受託事業者に対し、その委託事業者の中小受託事業者に対する製造委託等に関する取引に関する報告をさせ、又はその職員に委託事業者若しくは中小受託事業者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
3 製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣は、中小企業庁長官の第九条の規定による調査に協力するため特に必要があると認めるときは、所管事業を営む委託事業者若しくは中小受託事業者に対し、その委託事業者の中小受託事業者に対する製造委託等に関する取引に関する報告をさせ、又はその職員にこれらの者の事務所若しくは事業所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させることができる。
違反行為に対する措置
調査の結果、違反行為が確認された場合、その重さに応じて以下のいずれかの措置がとられます。違反行為に対する措置としては、指導・助言(行政指導)、勧告、公表があります。
指導・助言(行政指導)
多くの事案は、この指導で処理されます。いわばイエローカードです。違反行為の改善や社内体制の整備を求められるもので、社名公表は伴いません。
次で述べる勧告は法律上の措置ですが、原則として公表を伴う運用ですし、勧告に従ったときには独占禁止法上の措置はとれないという法的効果が生じるものであり、それなりに慎重に調査・事実認定を行う必要があります。しかし、実際には様々な違反被疑事件があることから、多数の事件は指導で処理されています(=すべての違反被疑事件について勧告で処理するのは現実的でない)。
つまり、勧告に至らない程度のものは、指導(行政指導)で処理されています。今回の法改正では、面の執行を強化するため、指導・助言の権限が拡充されました。
勧告および公表
勧告
違反の事実が重大な場合(多額の減額や、悪質な買いたたき等)は、勧告が行われます。 いわばレッドカードです。勧告を受けると、違反をやめること、減額分を返還すること(原状回復)、再発防止策を講じることなどが命じられます。
以下の条文に出てくる法5条の規定とは、委託事業者に課せられる禁止事項(全11項目)のことで、本条はその違反についての勧告を定めています。
▽取適法10条
(勧告)
第十条 公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為があると認めるときは、当該行為をした委託事業者(委託事業者が合併により消滅した場合にあつては合併後存続し、又は合併により設立された法人、委託事業者の分割により当該行為に係る事業の全部又は一部の承継があつた場合にあつては当該事業の全部又は一部を承継した法人、委託事業者の当該行為に係る事業の全部又は一部の譲渡があつた場合にあつては当該事業の全部又は一部を譲り受けた事業者。次項及び次条において「違反委託事業者」という。)に対し、速やかにその中小受託事業者の給付を受領し、その製造委託等代金若しくはその減じた額若しくは第六条の規定による遅延利息を支払い、その給付に係る物を再び引き取り、その製造委託等代金の額を引き上げ、若しくはその購入させた物を引き取るべきこと若しくはその不利益な取扱いをやめるべきこと又はその中小受託事業者の利益を保護するための措置をとるべきことその他必要な措置をとるべきことを勧告するものとする。
2 公正取引委員会は、第五条の規定に違反する行為が既になくなつている場合においても、特に必要があると認めるときは、違反委託事業者に対し、当該行為が既になくなつている旨の周知措置その他当該行為が排除されたことを確保するために必要な措置をとるべきことを勧告することができる。
公表
そして実際上最も影響が大きいのが、勧告を受けた事実や企業名が原則として公表されることです。ニュースや新聞で報道されることもあるため、企業のレピュテーション(信用)への大きなダメージとなります。
公表に関しては、規定はありません。旧下請法時代に、平成15年改正以前は、「公正取引委員会は、前3項の規定による勧告をした場合において親事業者がその勧告に従わなかったときは、その旨を公表するものとする。」(同改正前・旧下請法7条4項)との規定がありましたが、これが削除され、勧告の時点で必要に応じ公表できるよう改正されました。その結果、勧告した場合には、原則として親事業者名(取適法でいうと委託事業者名)を含む事件の概要が公表されています。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑹-イ-(イ)
(イ) 勧告等
公正取引委員会は、違反委託事業者に対して違反行為の是正やその他必要な措置をとるべきことを勧告することができる。勧告した場合は原則として事業者名、違反事実の概要、勧告の概要等を公表することとしている。
勧告に従わなかった場合:独占禁止法との関係
もし勧告を無視して従わなかった場合、どうなるのでしょうか。その場合は、優越的地位の濫用として独占禁止法の網がかかり、排除措置命令や、売上額に応じた高額な課徴金納付命令が下される可能性があります。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑹-イ-(イ)
委託事業者が公正取引委員会の勧告に従わない場合には、独占禁止法に基づく排除措置命令や課徴金納付命令が行われることがある。
逆に、委託事業者が勧告に従った場合には、違反行為について独占禁止法上の措置がとられないという法的効果が生じます(法11条)。
▽取適法11条
(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律との関係)
第十一条 私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(昭和二十二年法律第五十四号)第二十条及び第二十条の六の規定は、公正取引委員会が前条の規定による勧告をした場合において、違反委託事業者が当該勧告に従つたときに限り、当該勧告に係る行為については、適用しない。
違反行為の自発的申出
なお、取適法違反を自発的に申し出た場合は、違反行為の調査開始前の申出であるなど一定の要件を満たすときは、勧告(公表)を行わないという運用がされています。
▽取適法テキスト〔令和7年11月版〕1-⑹-イ-(イ)
なお、委託事業者の自発的な改善措置が、中小受託事業者の受けた不利益を早期に回復させることに役立つことから、公正取引委員会又は中小企業庁が当該違反行為に係る調査に着手する前に、委託事業者から当該違反行為の自発的な申出がなされ、かつ、一定の事由が認められた場合には、勧告(公正取引委員会)又は措置請求(中小企業庁)を行わないこととしている(209・210 ページ、資料9・10参照)。
そのため、もし社内調査で違反(減額や支払遅延など)が発覚してしまった場合などは、行政の調査が入る「前」に、自ら公正取引委員会等に違反を申し出た場合、ペナルティが軽減される可能性があります。減額分を全額返還するなどの原状回復を行い、再発防止策を講じるなどの一定の条件を満たせば、勧告(=社名公表)を免れるという運用です。
違反はしないに越したことはありませんが、万が一発覚した場合は、隠さずに自ら申し出て速やかに是正することが、会社を守る策となります。
法改正のポイント:面的執行の強化とは
今回の法改正で実務にも影響が大きいかもしれないのが面的執行の強化です。これは一言でいえば、行政のスクラム体制の強化です。
これまで、旧下請法を取り締まるのは公正取引委員会と中小企業庁だけでした。しかし、これからは各事業を所管する省庁の主務大臣(国交省、厚労省、農水省など)が、直接プレ―ヤーとして指導に加わります。
- 所管省庁が直接指導・助言できる:先ほど見たように、業界の事情や商慣習を一番よく知っている所管省庁が、直接企業に指導を行えるようになりました(法8条)
- 情報共有の徹底:公取委・中小企業庁・所管省庁の3者が、違反に関する情報を互いに提供し合えることが法律上明確化されました(法13条)
- 報復措置禁止の対象拡大:中小受託事業者が所管省庁(例:国交省のトラック・物流Gメンなど)に違反を通報した場合でも、それを理由にした取引停止などの仕返し(報復措置)が禁止されました(法5条2項7号)
▽取適法13条 ※情報共有の徹底
(委託事業者又は中小受託事業者に関する情報の提供等)
第十三条 公正取引委員会、中小企業庁長官及び製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣は、この法律の施行に必要な限度で、委託事業者又は中小受託事業者に関する情報であつて、委託事業者の中小受託事業者に対する製造委託等に関する取引を公正にし、又は中小受託事業者の利益を保護するため特に必要であると認められるものを相互に提供することができる。
2 公正取引委員会は、この法律の施行に必要な限度で、関係行政機関の長に対し、委託事業者又は中小受託事業者に関する情報の提供その他必要な協力を求めることができる。
▽取適法5条2項7号 ※報復措置禁止の対象拡大
七 委託事業者についてこの条の規定に違反する事実があると認められる場合に中小受託事業者が公正取引委員会、中小企業庁長官又はその製造委託等に関する取引に係る事業を所管する大臣に対しその事実を知らせたことを理由として、取引の数量を減じ、取引を停止し、その他不利益な取扱いをすること。
これにより、公取委の調査さえ来なければ大丈夫といった考え方は通用しなくなり、日頃から付き合いのある監督官庁からも、取適法の厳しい目が向けられる(面で包囲される)ことになります。
罰則(50万円以下の罰金)
禁止事項(減額や受領拒否など)の違反自体には罰則はありませんが、委託事業者の義務違反や調査妨害には罰則があります。罰則は両罰規定(法16条)であり、以下のような場合は、行為者個人が罰せられるほか、会社(法人)も罰せられることになります(50万円以下の罰金)。
▽取適法14条~16条
(罰則)
第十四条 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした委託事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第四条第一項の規定に違反して明示すべき事項を明示しなかつたとき。
二 第四条第二項の規定に違反して書面を交付しなかつたとき。
三 第七条の規定に違反して、書類若しくは電磁的記録を作成せず、若しくは保存せず、又は虚偽の書類若しくは電磁的記録を作成したとき。
第十五条 第十二条第一項から第三項までの規定による報告をせず、若しくは虚偽の報告をし、又はこれらの規定による検査を拒み、妨げ、若しくは忌避したときは、その違反行為をした者は、五十万円以下の罰金に処する。
第十六条 法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前二条の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対して各本条の刑を科する。
結び
立入検査や勧告・公表といった強い措置だけでなく、指導や自発的な申出による対応など、実務において知っておくべき手続の全体像を把握しておくことが重要です。
また、法に違反した場合の実際上のリスクは、多くの場合、お金の問題(罰金や独禁法の課徴金など)というより社名公表による信用の失墜にあります。 さらに、取適法では面的執行により、業界を所管する省庁も巻き込んだ取締りネットワークが構築されます。
取適法の施行(令和8年1月)に合わせて、取引の電子化や価格交渉プロセスの見直しなど、社内の体制を改めてチェックすることが求められます。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
- 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
- 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
- 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ)
参考資料
参考文献
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