今回は、取適法ということで、物流分野において取適法とトラック法のそれぞれで要求される明示義務(書面交付義務)について見てみたいと思います。
近年、運送の委託に関して取引条件や運賃・料金などを書面等で明示するというルールが厳しくなっていますが、実はこの明示ルールは、取適法のほかトラック法(貨物自動車運送事業法)という法律でも定められています(令和6年法改正で新設、令和7年4月1日より施行)。
2つあるとなると、どちらの法律がどのような場合に適用されるのか、記載内容に違いはあるのかなど、混乱の原因になりがちです。 本記事では、新設されたトラック法の書面交付義務と、取適法の明示義務について、適用場面から具体的な記載内容の違いまでを比較・解説します。
適用される場面の比較
大前提として、どちらの法律も事業者間での運送依頼(BtoB)が対象です。一般の消費者が引越しや宅配を依頼するようなケースは対象外となります。
その上で、両者の適用場面には以下のような違いがあります。ポイントは、会社の大きさ(規模の格差)が関係するかどうかです。
取適法の適用要件(規模の格差)
取適法は、ざっくりいうと、立場の強い大きな会社から、小さな会社への委託を対象としています。
具体的には、資本金3億円超の法人が資本金3億円以下の法人・個人事業主に委託する場合(資本金基準)や、従業員数300人超の法人が300人以下の法人・個人に委託する場合(従業員基準)など、取引当事者間に規模の格差がある場合にのみ適用されます(事業者の規模に係る要件)。
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取適法解説|事業者の規模に関する要件「資本金基準」「従業員基準」とトンネル規制を横断解説
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また、運送の委託に関して適用となる取引類型としては、①特定運送委託(荷主からの直接委託の部分に適用)、②役務提供委託(元請から下請への再委託の部分に適用)がありますが、特定運送委託は取引の相手方(顧客)への運送に限られる点などにも留意が必要です。
トラック法の適用要件(すべての運送契約)
一方、トラック法による書面交付義務は、会社の規模に関係なく、事業者間でトラック運送を依頼するすべての場面で適用されます。相手が大企業同士であっても、小規模事業者同士であっても、運送契約を結ぶのであれば原則として対象となります(※災害時などの緊急やむを得ない場合等は例外があります)。
トラック法で書面交付が義務付けられるのは、大きく分けて、①荷主からトラック事業者への委託(法12条)と、②元請から下請への委託(法24条)の2つのパターンがあります。
パターン①:真荷主⇔トラック事業者の運送契約(法12条)
真荷主とは、自らの事業に関して、トラック事業者に直接運送を委託する事業者のことです。
- 対象となる例
- メーカーが自社製品の配送を運送会社に依頼するケース
- 貨物利用運送事業者(自らはトラックを持たず手配のみ行う業者)がトラック事業者に実運送を依頼するケース
パターン②:元請・利用運送⇔下請の運送契約(法24条)
元請のトラック事業者や、下請構造の中にいる利用運送事業者が、さらに別の下請けトラック事業者に運送を再委託する場面です。多重下請け構造の中でも取引条件を明確にするため、ここでも書面交付が義務付けられます。
具体的には、以下の4つのケースに当てはまる場合に適用されます(改正トラック法Q&A【問2-1】参照)。
- 一般貨物自動車運送事業者 が 他の一般貨物自動車運送事業者 の運送を利用する場合
- 特定貨物自動車運送事業者 が 一般貨物自動車運送事業者 の運送を利用する場合
- 下請構造の中にいる 第一種貨物利用運送事業者 が 一般貨物自動車運送事業者 の運送を利用する場合
- 下請構造の中にいる 第一種貨物利用運送事業者 が 他の第一種貨物利用運送事業者 の運送を利用する場合
このように、荷主からの直接の依頼だけでなく、業界内の事業者間での「又貸し・再委託」の場面でも、書面(または電子データ)を交わす必要があります。
法12条と法24条の違い
トラック法の12条と24条の違いを簡単にまとめると、以下のとおりです。
| 項目 | 法12条(真荷主との契約) | 法24条(下請けへの委託) |
|---|---|---|
| 適用場面 | 真荷主 ⇔ トラック事業者 | 委託元事業者 ⇔ 下請け事業者 |
| 交付の方向 | 相互交付 | 片道交付(委託元から委託先へ) |
| やり取りによる完成 | 認められる(空欄追記による往復など) | 認められない(網羅した書面を交付) |
条文も確認してみます。
▽トラック法12条1項
(書面の交付)
第十二条 真荷主(自らの事業に関して貨物自動車運送事業者との間で運送契約を締結して貨物の運送を委託する者であって、貨物自動車運送事業者以外のものをいう。第二十四条の五において同じ。)及び一般貨物自動車運送事業者は、運送契約を締結するときは、国土交通省令で定める場合を除き、次に掲げる事項を書面に記載して相互に交付しなければならない。
一 運送の役務の内容及びその対価
二 当該運送契約に運送の役務以外の役務の提供が含まれる場合にあっては、運送の役務以外の役務の内容及びその対価
三 その他国土交通省令で定める事項
▽トラック法24条2項
2 一般貨物自動車運送事業者は、自らが引き受けた貨物の運送について他の一般貨物自動車運送事業者の行う運送(自動車を使用しないで貨物の運送を行わせることを内容とする契約によるものを除く。)を利用するときは、国土交通省令で定める場合を除き、当該他の一般貨物自動車運送事業者に対し、次に掲げる事項を記載した書面を交付しなければならない。ただし、その利用する運送を行う一般貨物自動車運送事業者に対し、製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(昭和三十一年法律第百二十号)第四条第一項の規定による明示(書面の交付による方法又は次項に規定する方法に相当する方法によるものに限る。)又は同条第二項の規定による書面の交付をしたときは、当該明示をした事項又は当該書面に記載した事項については記載することを要しない。
一 運送の役務の内容及びその対価
二 その利用する運送に運送の役務以外の役務の提供が含まれる場合にあっては、運送の役務以外の役務の内容及びその対価
三 その他国土交通省令で定める事項
記載事項の比較
次に、具体的に何を明示(記載)しなければならないのかというのが、実務(契約法務)で一番気になるポイントです。どちらも言った・言わないのトラブルを防ぐという目的は同じですが、法律の目的が違うため、必要な記載事項にはそれぞれ特徴があります。
それぞれの法律で求められている具体的な記載事項をリストアップしてみましょう。
トラック法で求められる法定事項
トラック法の書面交付義務(法12条、法24条)は、運賃や料金の内訳を明らかにすることに重きが置かれています。
取適法で求められる明示事項
一方、取適法の4条明示義務では、中小受託事業者が不当な扱い(支払遅延など)を受けないようにすることに重きが置かれており、明示事項が細かく定められています。
運送と運送以外の分離
トラック法における書面交付義務の特徴であり、実務上注意しなければならないのが、「運送の役務」と「運送以外の役務」(積込み・取卸し等の荷役や、附帯業務)を明確に分け、それぞれの内容と対価を別建てで記載しなければならないという点です。さらに、高速代や燃料サーチャージも分けて記載する必要があります。 これは、物流業界の長年の課題であった、運賃に荷役料などをうやむやに含められてしまうことを防ぐためのルールです。
トラック法は厳格に分ける必要があるとして、取適法の方は「役務の内容」と「代金の額」を書けば、含めても良さそうだな…という気もしますが、注意が必要です。取適法でも、運送関係の委託については以下のように解釈されています。
▽取適法テキスト1-⑷-ア【Q64】
運送に係る役務提供委託又は特定運送委託において、中小受託事業者に対して運送の役務以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供させることを含んで発注する場合に、「製造委託等代金の額」に運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を4条明示することは問題ないか。
運送に係る役務提供委託又は特定運送委託をした委託事業者が、中小受託事業者に対し、運送の役務を提供させることに加えて、運送の役務以外の役務(荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等)を提供させることを含んで発注する場合、委託事業者は、「中小受託事業者の給付の内容」及び「製造委託等代金の額」を4条明示するに当たって、運送の役務の内容及びその対価を、運送の役務以外の役務の内容及びその対価と区別して明示しなければならないため、「製造委託等代金の額」に運送の役務以外の役務の対価を含めた金額を明示することは認められない。
なお、運送の役務以外の役務を提供させることが不当な経済上の利益の提供要請として本法上問題となることがあるため、委託事業者は、本法違反を未然に防止するため、運送の役務以外の役務の内容及びその対価等の条件についてあらかじめ明確にして、中小受託事業者との間で十分協議した上で決定し、その具体的な内容についても発注時点で明示しておくことが必要である。
つまり、取適法が適用される場面であっても、トラック法と同様に運送と運送以外(荷役など)は分けて内容と対価を明示しなければならないとされています。代金額に運送以外の役務の対価を含めた金額で明示することは、取適法でも認められていません。
手続面のルールの違い
なお、記載すべき内容以外にも、手続面で少し違いがあります。
いつ:タイミングの違い
トラック法では、運送契約を締結するときに交付します。
これに対して、取適法では、 発注した場合「直ちに」明示しなければなりません。発注から契約締結までに日数を要する場合、契約書を待たずに、発注後直ちに明示を行う必要があります。
どうやって:デジタル化(メールやシステム)の違い
トラック法では、 原則は書面の交付です。メールなどの電磁的方法で提供する場合は、事前に相手方の承諾を得る必要があります(トラック法12条3項、24条3項)。
これに対して、取適法では、書面または電磁的方法(メールなど)のどちらでも明示が認められています(事前の承諾は不要です)。ただし、メール等で明示した場合でも、相手から書面の交付を求められたら、原則として遅滞なく書面を交付する義務があります(取適法4条2項。一部例外があります)。
結び
取適法とトラック法の明示義務の関係性をまとめると、以下のようになります。
トラック法と取適法の比較ポイント
- トラック法: 物流業界のベースとなるルール。規模の大小に関係なく、事業者間の運送契約であれば全員が法定6項目を記載した書面等を交付しなければなりません。ここでは、運賃、荷役料・附帯業務料、特別費用(高速代等)の金額の内訳を透明化することに特化した記載事項が求められます
- 取適法: 発注側と受注側の間に資本金や従業員数など規模の格差がある場合のルール。下請けを泣かせないために、支払期日や支払手段、検査期日などを細かく特定することが求められます
- 共通の注意点として、運送と運送以外(荷役など)を分けて対価を明示することは、どちらの法律が適用される場合でも必須のルールとなっています
- 両方の法律が適用される場面(大企業が中小のトラック事業者に依頼する場合など)では、これら両方の要求事項を満たす必要があります
「うちの会社のフォーマット、高速代の項目や荷役料の項目が分かれていないかも…」「支払期日が明確に書かれていないかも…」と不安になった方は、自社の発注書や契約書のフォーマットが法改正に対応できているか、この機会に確認してみると良いかもしれません。
取適法の特定運送委託と役務提供委託については、以下の記事でくわしく解説しています。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 取適法(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」)
- 取適法施行令(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第二条第八項第一号の情報成果物及び役務を定める政令」)
- 4条明示規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」)
- 7条記録規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第七条の書類等の作成及び保存に関する規則」)
- 遅延利息利率規則(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第六条第一項及び第二項の率を定める規則」)
- 取適法運用基準(「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律の運用基準」)
- 取適法Q&A(「よくある質問コーナー(取適法)」)|公取委HP
- 取引適正化ガイドライン(「受託適正取引等推進のためのガイドライン」)|中小企業庁HP
- 令和7年改正法 説明資料(「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」の成立について)|公取委HP(≫掲載ページ)
- 令和7年10月1日パブコメ(同日付け「「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律第四条の明示に関する規則」等の整備について」)|e-Gov(≫掲載ページ)
参考資料
参考文献
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています
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