今回は、フリーランス法を勉強しようということで、適用対象となる事業者について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
フリーランスと発注事業者
フリーランス法の適用対象となる事業者は、”フリーランス”と”発注事業者”です。
ここでいう”フリーランス”については、現在、法律上の定義がありますが、大まかなイメージとしては、”雇人がいない自営業主や一人社長”という感じです。
イメージづくりとして、以下のフリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)の記載が参考になります。立法検討段階の資料です。
▽フリーランス環境ガイドライン 第2-1
1 フリーランスの定義
「フリーランス」とは法令上の用語ではなく、定義は様々であるが、本ガイドラインにおける「フリーランス」とは、実店舗がなく、雇人もいない自営業主や一人社長であって、自身の経験や知識、スキルを活用して収入を得る者を指すこととする。
▽フリーランス環境ガイドライン 〈別紙1〉フリーランスの定義について
「雇人なし」については、従業員を雇わず自分だけで又は自分と同居の親族だけで個人経営の事業を営んでいる者とする。
他方、”発注事業者”とは、フリーランスに対して発注する事業者のことですが、発注する事業者自身がフリーランスである場合も含まれます。
以下、受託側→委託側の順に、法律上の定義を見てみます。
受託側の事業者(特定受託事業者)
フリーランス法では、受託側の事業者つまりフリーランスは「特定受託事業者」とされており、
- 個人であって、従業員を使用しないもの
- 法人であって、一の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しないもの
とされています。
▽法2条1項
(定義)
第二条 この法律において「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用しないもの
二 法人であって、一の代表者以外に他の役員(理事、取締役、執行役、業務を執行する社員、監事若しくは監査役又はこれらに準ずる者をいう。第六項第二号において同じ。)がなく、かつ、従業員を使用しないもの
従業員の使用とは、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することとされており、これに相当する派遣も含まれます。事業に同居親族のみを使用している場合は該当しません。
▽解釈ガイドライン 第1部-1-⑴
⑴ 従業員を使用
「従業員を使用」とは、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上雇用されることが見込まれる労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。)を雇用することをいう。ただし、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条第4号に規定する派遣先として、①1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ、②継続して31日以上労働者派遣の役務の提供を受けることが見込まれる派遣労働者を受け入れる場合には、当該派遣労働者を雇用していないものの、「従業員を使用」に該当する。
なお、事業に同居親族のみを使用している場合には、「従業員を使用」に該当しない。
そのため、”特定”受託事業者という用語は、語感としては、「雇人がいない自営業主や一人社長である受託事業者」という感じになります
この「特定受託事業者」は事業体を指す言葉ですが(個人事業主または法人)、そこの自然人を指したいときは、「特定受託業務従事者」という用語が使われています(※個人事業主である場合には、結果的に指すものは同じになる)。
▽法2条2項
2 この法律において「特定受託業務従事者」とは、特定受託事業者である前項第一号に掲げる個人及び特定受託事業者である同項第二号に掲げる法人の代表者をいう。
委託側の事業者
委託側の事業者を指す用語には、2つのものがあります。
「業務委託事業者」と、そのうち一定の要件を満たすものを指す「特定業務委託事業者」です。
なぜそんな面倒なことをしているかというと、フリーランス法上の義務に違いを設ける(強弱の段階を設ける)ためです
業務委託事業者
フリーランス、つまり先ほど見た特定受託事業者に対して業務委託をする事業者は、広く「業務委託事業者」とされます。
▽法2条1項
5 この法律において「業務委託事業者」とは、特定受託事業者に業務委託をする事業者をいう。
特定業務委託事業者
業務委託事業者のうち、以下のいずれかに該当するものが、「特定業務委託事業者」とされています。
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、(代表者以外に)役員がいる、又は従業員を使用するもの
これは要するにどういうことかというと、先ほど受託側の事業者のところで見た、フリーランスの状況と反対の内容になっています。
【個人の場合】(※〇が特定業務委託事業者)
従業員がいない | 従業員がいる |
× | 〇 |
【法人の場合】(※〇が特定業務委託事業者)
従業員がいない | 従業員がいる | |
役員がいない | × | 〇 |
役員がいる | 〇 | 〇 |
「×」の部分が、”特定”業務委託事業者以外の業務委託事業者、ということになりますが、これは要するに一人で事業をやっている場合、つまりフリーランスの状況です(受託側か委託側かの違いはありますが)。
なので、「特定業務委託事業者」というのは、フリーランス以外の事業者が委託側になっている場合を指しているといえます。その方がイメージしやすいように思います。
▽法2条6項
6 この法律において「特定業務委託事業者」とは、業務委託事業者であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。
一 個人であって、従業員を使用するもの
二 法人であって、二以上の役員があり、又は従業員を使用するもの
フリーランス法の義務と適用場面
先ほどフリーランス法上の義務に違いを設けるために概念が分けられていると書きましたが、「業務委託事業者」の方は広くて浅い網で、メインとなる概念は、「特定業務委託事業者」の方です。
早い話が、取引条件の明示義務については、広く「業務委託事業者」全体に義務が課されています。なので、フリーランスがフリーランスに業務委託する場合にも適用があります。
そして、特定業務委託事業者の中でも、業務委託期間に応じて義務の強弱に違いがありますので、まとめると以下のようになります。
【フリーランス法の義務と適用場面】
適用対象主体⇒ (業務委託事業者) |
特定業務委託事業者以外 | 特定業務委託事業者 | |||
1か月未満 | 1か月以上 | 6か月以上 | |||
取引適正化に関する義務 | ①取引条件の明示 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
②報酬支払期日の設定/期日内の支払い | 〇 | 〇 | 〇 | ||
③7つの禁止行為 | 〇 | 〇 | |||
就業環境整備に関する義務 | ④募集情報の的確表示 | 〇 | 〇 | 〇 | |
⑤育児介護等と業務の両立に対する配慮 | 〇 | ||||
⑥ハラスメント対策に係る体制整備 | 〇 | 〇 | 〇 | ||
⑦中途解除等の事前予告・理由開示 | 〇 |
(※)上記のほか、報復措置の禁止は、取引適正化の義務につき業務委託事業者に適用(法6条3項)、就業環境整備の義務につき特定業務委託事業者に適用(法17条3項)
結び
今回は、フリーランス法を勉強しようということで、適用対象となる事業者について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- フリーランス法(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」)(≫法律情報/英文)
- 施行令(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令」)
- 公取施行規則(「公正取引委員会関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労施行規則(「厚生労働省関係特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行規則」)
- 厚労指針(「特定業務委託事業者が募集情報の的確な表示、育児介護等に対する配慮及び業務委託に関して行われる言動に起因する問題に関して講ずべき措置等に関して適切に対処するための指針」(令和6年厚生労働省告示第212号))(≫掲載ページ)
- 解釈ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」)(≫掲載ページ)
- 執行ガイドライン(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律と独占禁止法及び下請法との適用関係等の考え方」)(≫掲載ページ)
- フリーランス法Q&A(「フリーランス・事業者間取引適正化等法Q&A」)
- フリーランス環境ガイドライン(「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」)(≫掲載ページ)