今回は、合同会社法務ということで、合同会社の管理のうち業務執行社員・代表社員・職務執行者について見てみたいと思います。
これらは合同会社の管理(運営)に関する基本事項ではありますが、いまひとつわかりにくい感じがつきまとう部分であるように思いますので、なるべくイメージがしやすくなるようにまとめていきます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
業務執行社員とは
業務執行社員は、業務執行権をもつ社員のことです。
読んでそのままですが、会社法の文言としては「業務を執行する」とか「業務を執行する社員」という書き方になっています。
業務執行社員は株式会社でいうところの取締役のイメージですが、かなり違う部分もあります。
原則:社員全員(会社法590条)
それは、合同会社は、原則として、社員全員が業務執行社員となるところです。合同会社は、社員の人的関係を重視した会社形態であり、所有と経営が一致しているためです。
株式会社は、所有と経営を分離させることを想定しているので、株主全員=取締役というイメージは一般的にはないかと思います(そのように選任することもできますが)。
合同会社の業務執行について定めているのは、会社法590条です。
▽会社法590条
(業務の執行)
第五百九十条 社員は、定款に別段の定めがある場合を除き、持分会社の業務を執行する。
2 社員が二人以上ある場合には、持分会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数をもって決定する。
3 前項の規定にかかわらず、持分会社の常務は、各社員が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の社員が異議を述べた場合は、この限りでない。
1項は、社員全員に業務執行権があるとしつつ、定款で業務執行社員を定めることができるとしています(「定款に別段の定めがある場合を除き」の部分)。
つまり、原則として社員全員が業務執行社員ですが(=所有と経営の一致)、定款の定めによって、業務執行社員とそうでない社員に分けることができる(=所有と経営の分離を一部認める)、というイメージです。業務執行社員でない社員は、反射的に業務執行権を喪失します。
2項は、定款で業務執行社員を定めなかった場合に、社員が2人以上あるときは、業務は社員の頭数の過半数で決定するということを定めています。
ただし、定款により”頭数の過半数”と異なる意思決定方法を定めることも可能ということも規定しています(「定款に別段の定めがある場合を除き」の部分)。
3項は、2項にかかわらず、常務(日常の取引など通常の業務)については、社員が単独で行うことができるということを定めています(つまり、わざわざ頭数の過半数で決める必要はない)。
業務執行社員を定款で定めた場合(会社法591条)
定款で業務執行社員を定めた場合に、業務執行社員が2人以上あるときは、業務は業務執行社員の頭数の過半数で決定します(会社法591条1項)。
ただし、定款により”頭数の過半数”と異なる意思決定方法を定めることも可能ということも規定しています(「定款に別段の定めがある場合を除き」の部分)。
パッと読んだだけだとわかりにくいですが、
〇先ほど見た590条2項は、定款で業務執行社員を定めなかった場合(=全員が業務執行社員である場合)は、社員の頭数で決めるという話を、
〇会社法591条1項は、定款で業務執行社員を定めた場合(=業務執行社員とそうでない社員に分けた場合)は、業務執行社員の頭数で決めるという話を、
それぞれ書いています
結局、どちらも業務執行社員の頭数の過半数で決めるということを書いており、パラレルな内容になっています
▽会社法591条1項
(業務を執行する社員を定款で定めた場合)
第五百九十一条 業務を執行する社員を定款で定めた場合において、業務を執行する社員が二人以上あるときは、持分会社の業務は、定款に別段の定めがある場合を除き、業務を執行する社員の過半数をもって決定する。この場合における前条第三項の規定の適用については、同項中「社員」とあるのは、「業務を執行する社員」とする。
なお、業務執行社員は、「業務を執行する社員」とあるように、社員の地位を有することが前提です(社員以外はなれない)。
また、定款で業務執行社員を1人に定めることももちろん可能であり、この場合は、その業務執行社員が単独で業務執行を行います。
業務執行社員の責任
業務執行社員は、一般的な責任として、善管注意義務・忠実義務や報告義務を負い(会社法593条)、各論的な責任として、競業避止義務(会社法594条)や利益相反取引の制限(会社法595条)がかかります。
▽会社法593条1項~3項、594条1項、595条1項
(業務を執行する社員と持分会社との関係)
第五百九十三条 業務を執行する社員は、善良な管理者の注意をもって、その職務を行う義務を負う。
2 業務を執行する社員は、法令及び定款を遵守し、持分会社のため忠実にその職務を行わなければならない。
3 業務を執行する社員は、持分会社又は他の社員の請求があるときは、いつでもその職務の執行の状況を報告し、その職務が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。
(競業の禁止)
第五百九十四条 業務を執行する社員は、当該社員以外の社員の全員の承認を受けなければ、次に掲げる行為をしてはならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 自己又は第三者のために持分会社の事業の部類に属する取引をすること。
二 持分会社の事業と同種の事業を目的とする会社の取締役、執行役又は業務を執行する社員となること。
(利益相反取引の制限)
第五百九十五条 業務を執行する社員は、次に掲げる場合には、当該取引について当該社員以外の社員の過半数の承認を受けなければならない。ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。
一 業務を執行する社員が自己又は第三者のために持分会社と取引をしようとするとき。
二 持分会社が業務を執行する社員の債務を保証することその他社員でない者との間において持分会社と当該社員との利益が相反する取引をしようとするとき。
また、任務懈怠責任(会社法596条)と第三者責任(会社法597条)も負っています。
▽会社法596条、597条
(業務を執行する社員の持分会社に対する損害賠償責任)
第五百九十六条 業務を執行する社員は、その任務を怠ったときは、持分会社に対し、連帯して、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(業務を執行する有限責任社員の第三者に対する損害賠償責任)
第五百九十七条 業務を執行する有限責任社員がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該有限責任社員は、連帯して、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。
代表社員とは
代表社員とは、合同会社を対外的に代表する権限を持つ社員のことです。
代表社員は、株式会社でいうところの代表取締役というイメージです。
原則:業務執行社員全員(会社法599条1項・2項)
合同会社では、業務執行社員がそのまま代表権を持つのが原則となっています(会社法599条1項)。
業務執行社員が2人以上いる場合でも、共同代表ではなく、各自が単独で代表します(同条2項)。
▽会社法599条1項・2項・4項・5項
(持分会社の代表)
第五百九十九条 業務を執行する社員は、持分会社を代表する。ただし、他に持分会社を代表する社員その他持分会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の業務を執行する社員が二人以上ある場合には、業務を執行する社員は、各自、持分会社を代表する。
3 (略)
4 持分会社を代表する社員は、持分会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
「他に持分会社を代表する社員その他持分会社を代表する者を定めた場合」というのは、次に見る3項のことです。
これら代表社員の建付けは、株式会社の代表取締役の建付けと基本的に同じです(以下につき、取締役→業務執行社員、代表取締役→代表社員のイメージで)。
▽会社法349条1項・2項・4項・5項
(株式会社の代表)
第三百四十九条 取締役は、株式会社を代表する。ただし、他に代表取締役その他株式会社を代表する者を定めた場合は、この限りでない。
2 前項本文の取締役が二人以上ある場合には、取締役は、各自、株式会社を代表する。
3 (略)
4 代表取締役は、株式会社の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する。
5 前項の権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができない。
定款又は定款の定めに基づく社員の互選(会社法599条3項)
上記のように、業務執行社員がそのまま代表権を持つのが原則ですが、
- 定款 又は
- 定款の定めに基づく業務執行社員の互選
により、業務執行社員の中から代表社員を定めることも可能です(会社法599条1項但書、3項)。
つまり、上記①or②によって、代表社員である業務執行社員とそうでない業務執行社員に分けることができる、というイメージです。代表社員でない業務執行社員は、代表権が無くなります。
複数の代表社員を定めることも可能であり、その場合も、共同代表ではなく、各自が単独で代表します。
▽会社法599条3項
3 持分会社は、定款又は定款の定めに基づく社員の互選によって、業務を執行する社員の中から持分会社を代表する社員を定めることができる。
上記で「業務を執行する社員の中から」とされているように、業務執行社員でない社員を代表社員とすることはできません。
なお、「社員の互選」と規定されていますが、”互選”という言葉からして、選任する者と選任される資格のある者が一致するのが前提となっているので、互選の主体は社員全員ではなく、業務執行社員と解されています。つまり、”業務執行社員の互選”と読みます。
これら代表社員の選任の建付けも、株式会社の代表取締役の場合と類似しています。
▽会社法349条3項
3 株式会社(取締役会設置会社を除く。)は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選又は株主総会の決議によって、取締役の中から代表取締役を定めることができる。
職務執行者とは
職務執行者は、法人が合同会社の業務執行社員となる場合に、法人に代わって業務執行を行う個人を指します。
合同会社の場合、法人が社員になることができますが、合同会社では社員が原則として業務執行社員であり代表社員なので、いわば”法人の役員”みたいなものが出現することになります。そのときに、合同会社の業務執行を行うのは、その法人の代表者ではなく、その法人が特別に選任した職務執行者です(※法人の代表者を職務執行者に選任することも可能です)。
株式会社では、法人は株主になることはできても、法人の取締役というのは認められていないので、この点は大きな違いになります。
法人が業務執行社員である場合
法人が業務執行社員である場合に、職務執行者の選任が義務づけられます(会社法598条1項)。
職務執行者は、「業務を執行する社員の職務を行うべき者」とされ、社員とは書かれていないように、社員以外から選任することもできます。特に資格制限はないと解されており、社外の人間を選任することも可能です。
つまり、社員でなくてよいし、従業員ですらなくてもよいということです。
▽会社法598条1項
(法人が業務を執行する社員である場合の特則)
第五百九十八条 法人が業務を執行する社員である場合には、当該法人は、当該業務を執行する社員の職務を行うべき者を選任し、その者の氏名及び住所を他の社員に通知しなければならない。
なお、法人が代表社員である場合、職務執行者は登記事項になっています(会社法914条8号)。これに対して、法人が業務執行社員にとどまる場合(つまり代表社員でない業務執行社員の場合)は、職務執行者の登記は必要ありません。
職務執行者の責任
職務執行者には、業務執行社員と同様の責任(先ほど見た593条~597条)が課せられています。
▽会社法598条2項(※【 】は管理人注)
2 第五百九十三条から前条までの規定【=善管注意義務/忠実義務、競業避止義務、利益相反取引の制限、任務懈怠責任、第三者責任】は、前項の規定により選任された社員の職務を行うべき者について準用する。
署名欄の記載
合同会社は株式会社と違ってやや特殊な部分もあるので、署名欄の記載を間違えやすいですが、例えば以下のようになります(ex. 合同会社ホニャララヘニャララで、本店の所在が東京都〇〇区〇〇1-2-3の場合)。
【自然人(甲野太郎)が代表社員】
東京都〇〇区〇〇1-2-3
合同会社ホニャララヘニャララ
代表社員 甲野太郎
【法人(一般社団法人ナントカカントカ)が代表社員、乙野次郎が職務執行者】
東京都〇〇区〇〇1-2-3
合同会社ホニャララヘニャララ
代表社員 一般社団法人ナントカカントカ
職務執行者 乙野次郎
「代表社員」の部分がいわば株式会社でいう代表取締役の部分ですが、1つめの例はわかりやすいものの、2つめの例は、代表取締役の部分に法人が入ることはないのに、そこに相当する部分に法人が入っていること、また、職務執行者の記載が続く部分は、見慣れない感じがするかもしれません。
結び
今回は、合同会社法務ということで、合同会社の業務執行社員・代表社員・職務執行者について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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