今回は、商標法を勉強しようということで、商標の概念について書いてみたいと思います。
「商標」と言われても、聞いたことはもちろんあるけど、何となくわかるようなわからないような…という感じではないかと思います(昔の管理人自身の感想)。が、嚙み砕いてしまえば、実は割と当たり前のことを言っているだけです。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
本カテゴリ「法務情報」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。
商標の概念
「商標」とは何であるかは、商標法2条1項に規定されている。
▽商標法2条1項
(定義等)
第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。
一 業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
二 業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
なんのことかサッパリわからないので、分節して図示してみると、
①人の知覚によつて認識することができるもののうち
②文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(標章)であって、
③次に掲げるもの
┗a)業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの
┗b)業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)
と書いていることになる。
①②を満たすものが「標章」と定義されているが、これは感覚的にいえば、マークのことである(管理人の理解)。
つまり、マークであって、「その商品について使用をするもの」「その役務について使用をするもの」が、商標である、と書かれている。
事業者が商品について使用するマークは、一般的に、トレードマークと呼ばれ、役務(つまりサービス)について使用するマークはサービスマークと呼ばれる。
(※一般的な用語としてという意味で、法令上の用語という意味ではないです)
なので、簡略的にかつ一般的な用語を混ぜつつ読むと、商標とは、
①②:マークであって、
③a):商品について使用するもの(=トレードマーク)
又は
③b):役務について使用するもの(=サービスマーク)
と書いている、ということになる。
つまり、商標というのは、法的にはマーク(標章)を商品又は役務について使用したものという意味であり、一般的にはトレードマークやサービスマークと呼ばれている、ということである。
「トレードマーク」は、商標のこと自体を指して使われる(商品とか役務とか区別せず)ことも一般的かと思います。なので、対(つい)にして使われるときは、トレードマークは商品について、サービスマークは役務について使われる、という感じですかね。
ちなみに、商標法の英名表記は「trademark law」なので、このことからも、"商標とはトレードマークのこと"というイメージが湧くかと思います。
なお、ここでいうマークというのは、絵的なものに限られるわけではなく、文字で記述されるものも当然含みます。条文にも書いていますが。
(文字、図形、記号、立体的形状、色彩、これらの結合、音、その他政令で定めるもの)
以下、①~③を順に見てみる。
①「人の知覚によつて認識することができるもの」(法2条1項柱書)
これはそんなに難しく考える必要はない。
商標は、商品や役務の提供元が自分であることを示す(他者と区別する)ためのマークなので、そもそも人間が認識できないようなものは商標ではない、という話である。
当然の前提を書いている、というぐらいでよいと思う。
細かいことをいうと、平成26年法改正(後述)で、将来的に「におい」の商標なども政令で追加できるようにしたので、そのときに、人の知覚によって認識することができるものであることを明示した、ということです。
(「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第22版」(特許庁)商標法 1524頁参照)
におい、味、触覚などが考えられますが、人の知覚によって認識することができるものでないとダメですよ、ということです。
重要なのは次である。
②「文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの」(法2条1項柱書)
ここが、標章(マーク)の構成要素を書いている部分である。
文章で読んでもイマイチわかりにくいので、箇条書きにしてみると、次のように書いていることになる。
- 文字のみ(文字商標)
- 図形のみ(図形商標)
- 記号のみ(記号商標)
- 立体的形状のみ(立体商標)
- 色彩のみ(色彩商標)
- 文字/図形/記号/立体的形状/色彩のうち2つ以上の結合(結合商標)
- 音(音商標)
- その他政令で定めるもの
これらが、標章(マーク)の構成要素である。
特許庁HPに掲載されているテキスト「知的財産権制度入門テキスト」の「第4節 商標制度の概要」の中で、画像付きで解説されているので、そちらを見るとわかりやすい。
▽「知的財産権制度入門テキスト」(2022年度)(特許庁) 第4節 商標制度の概要|特許庁HP
https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/document/2022_nyumon/1_2_4.pdf
(→掲載ページはこちら)
こういうのは、百聞は一見に如かず的な感じである。
③商品又は役務について使用をするもの
先ほど書いたように、マーク(標章)のなかで、商品又は役務について使用されるものが、「商標」である。
「商標」と「標章」の関係が、発音が似ていることも相まって一瞬混乱しそうな部分ですが、要するに、業務を行う者がマーク(「標章」)を商品又は役務について使用すると、それが「商標」になる、ということです。
(「工業所有権法(産業財産権法)逐条解説 第22版」(特許庁)商標法 1525頁参照)
以下、「業として」という文言が出てくるが、営利目的(利益を得ること、儲けること)は必要でなく、反復継続して行われるものであれば足りる。
「業として商品を生産し、証明し、又は譲渡する者がその商品について使用をするもの」(1号)
業として商品を「生産」するとは、農林水産業など一次産業での生産や、原材料から製品を作り出す製造のことである。日常的な感覚の理解で問題ないと思う。
業として商品を「証明」するとは、何のことかわかりにくいが、商品の品質が一定の水準をクリアしていることを証明することである。
業として商品を「譲渡」するとは、有償・無償を問わない。これも日常的な感覚の理解で問題ないと思う。
これらの業務を行う者が、その商品についてマークの「使用」をすると、それが「商標」となる。
「業として役務を提供し、又は証明する者がその役務について使用をするもの(前号に掲げるものを除く。)」(2号)
業として役務を「提供」するとは、そのまんまだが、要するにサービスの提供、である。日常的な感覚の理解で問題ないと思う。サービスを提供する側は”サービス業者”、サービスを受ける側は”需要者”である。
業として役務を「証明」するとは、何のことかわかりにくいが、サービスの質が一定の水準をクリアしていることを証明することである。
これらの業務を行う者が、その役務についてマークの「使用」をすると、それが「商標」となる。
「使用」とは?
では、標章(マーク)の「使用」とはどういうことか?
たとえば家電製品にマークを付すことなど、日常的な感覚で想像できることもたくさんあるが、実は「使用」概念も商標法で細かく定められている。
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商標法を勉強しよう|商標の使用概念
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まず日常的な感覚で思い浮かぶもので基本的なイメージを持ちつつ、次は商標法上定義されている「使用」概念を条文を見ながら理解していく、というのがよいのではないかと思う。
平成26年法改正
現行の商標概念は、平成26年法改正により新たに拡充されたものなので、どう変わったのか少し見てみる。
▽平成26年法改正 新旧対照表
改正後 | 改正前 |
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(定義等) 第二条 この法律で「商標」とは、人の知覚によつて認識することができるもののうち、文字、図形、記号、立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合、音その他政令で定めるもの(以下「標章」という。)であつて、次に掲げるものをいう。 一・二 (略) | (定義等) この法律で「商標」とは、文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との結合(以下「標章」という。)であって、次に掲げるものをいう。 一・二 (略) |
商標の構成要素に関する変更点は、以下のようなものである。
- 色彩のみの商標(色彩商標)と音の商標(音商標)が、新たに商標の構成要素として追加された
- 他国で権利取得事例が相当程度ある商標(ex.においの商標)も、将来的に適宜保護対象として追加できるように、「その他政令で定めるもの」を追加した
ちなみに、平成26年法改正の資料(新旧対照表など)は、特許庁HPに掲載されています。
▷特許法等の一部を改正する法律(平成26年5月14日法律第36号)
また、改正についての解説書も、特許庁HPに掲載されています。
▷平成26年法律改正(平成26年法律第36号)解説書 第四章 商標法の保護対象の拡充等
(掲載ページはこちら)
「色彩」って、改正前の文言にも書かれているじゃないか?と思うかもしれませんが、改正前は「又はこれらと色彩との結合」と書かれているように、文字や図形や記号や立体的形状との結合(組み合わせ)として認められていただけで、色彩のみの商標(色彩商標)は認められていなかったわけです。
平成26年法改正全体の概要については、解説書のなかで、以下のように記述されている。
▽平成26年法律改正 解説書(特許庁)162頁
2. 改正の概要
我が国における「新しい商標」の保護ニーズの顕在化及びこれを保護対象に追加することによる実益に鑑み、商標法の保護対象に、色彩のみの商標及び音の商標といった「新しい商標」を追加するとともに、これに伴い必要な登録要件や出願手続等の規定の整備を行うこととした。
結び
今回は、商標法を勉強しようということで、商標の概念について書いてみました。
参考文献
リンクをクリックすると、Amazonのページ又は特許庁HPの掲載ページに飛びます
主要法令等
リンクをクリックすると、法令データ提供システム又は特許庁HPの掲載ページに飛びます
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。