今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、解除条項に関連して、債務不履行による解除について見てみたいと思います。
※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています
解除条項の法的意味を把握するための前提として、法律上の原則にあたるところの法定解除についてざっと確認してみます。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
解除の種類
解除の種類には、大きく、
- 法定解除
- 約定解除
- 合意解除
の3つがあります。
①法令解除は、法律の規定によって生じる解除権(法定解除権)による解除、②約定解除は、契約に基づく解除権(約定解除権)による解除、③合意解除は、契約当事者の合意による解除(つまり解除自体を合意する)のことです。
さらに法定解除にはいろいろなものがあるので、もう少しくわしくいうと、以下のようになります。
【法定解除】
民法による解除 | 各契約に共通の解除 | 〇債務不履行による解除 ※契約不適合による解除(有償契約一般)を含む |
各契約に固有の解除 | 〇賃貸人の解除(賃貸借契約) 〇注文者の解除(請負契約) など |
|
民法以外による解除 | 〇特定商取引法によるクーリングオフ 〇破産法による管財人の解除 など |
法定解除権のなかでも債務不履行による解除権が最も中心的なものなので(「一般的法定解除権」ともいわれます)、本記事では、債務不履行解除について見てみます。
トピックとしては、
- 債務不履行解除の要件
- 解除権の行使方法
- 解除の効果
- 解除権の特殊な消滅原因
があります。ちなみに、このうち「解除権の行使方法」「解除の効果」「解除権の特殊な消滅原因」に関しては、法定解除と約定解除に共通な規定と考えられています(特約がない限り)。
以下、順に見てみます。
債務不履行解除の要件
改正前民法と異なり、債務不履行解除をするのに債務者の帰責性は不要とされています。
債務不履行解除につき、”債務者に対する責任追及のための制度”という考え方から、”債務の履行を得られなかった債権者を契約の拘束力から解放するための制度”という考え方に変更したためです。
改正後は、「催告解除」と「無催告解除」の2類型に整理されています。
催告解除(民法541条)
債務者に履行遅滞がある場合、催告による解除をすることができます(民法541条)。
▽民法541条
(催告による解除)
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
履行遅滞による解除権(本文)
債務者が債務を履行しない場合に、債権者が相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないときに解除権が発生します(本文)。ちなみにこの本文は、改正前民法と一言一句同じです。
単に「債務を履行しない」という文言になっていますが、履行が不能な場合は次条によるので、これは、履行期に履行が可能であるのに履行しない場合、つまり履行遅滞の場合を指します。
債務不履行については、履行遅滞/履行不能/不完全履行の3類型があるとされていますが、
〇履行遅滞は本条(改正前541条)により、
〇履行不能は次条(改正前543条)により、
〇不完全履行は追完が可能であれば履行遅滞の規定により、追完が不可能であれば履行不能の規定により、
それぞれ解除する、ということです(改正前民法での考え方)。
軽微性の抗弁(ただし書)
例外として、催告期間を経過した時における不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微なものにとどまるときは、解除権は発生しないとされています(軽微性の抗弁)。改正により追加された部分です。
軽微性についてどのように判断するのかという定めはありません。ただ、判例上、不履行の部分が数量的に僅かである場合や、付随的な債務の不履行にすぎない場合には、催告解除は認められない旨を判示したものがあることから、この判例法理を明文化したものだとされていますので(部会資料79-3・13頁参照)、不履行の態様や違反した義務の軽微性から判断されるだろうと考えられています。
以下のような例が挙げられています。
▽部会資料79-3・13頁
債務の不履行が軽微であるかどうかは、当該契約及び取引通念に照らして判断される。例えば、数量的に僅かな部分の不履行にすぎない場合であっても、その不履行の部分が当該契約においては極めて重要な役割を果たしている場合があり得る。ある製品を製作するための部品を供給する契約において、債務者が供給しなかった部品が数量的には僅かであるものの当該製品の製作にとっては必要不可欠のものである場合には、その不履行は当該契約及び取引通念に照らして軽微であるとは言えないため、債権者は催告解除をすることができる。そこで、素案ただし書では、「当該契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」との表現を用いている。…(略)…。
無催告解除(民法542条)
無催告解除は、契約の全部解除(1項)と、契約の一部解除(2項)に分けて規定されています。
契約の全部解除(1項)
これは、債権者が無催告で契約の全部を解除できる場合です。
1号~5号まで無催告解除事由が列挙されていますが、これらはいずれも、債務不履行により契約目的の達成が不可能になったと評価できるという考え方に基づきます。
【無催告解除事由】
- 履行の全部不能
- 履行の全部拒絶(債務者による明確な履行拒絶(確定的履行拒絶))
- 履行の一部不能又は一部拒絶による契約目的達成不能
- 定期行為における履行遅滞 ※改正前民法542条に対応
- その他契約目的達成不能
5号は、いわゆるバスケット条項になっています。
条文も確認してみます。
▽民法542条1項(※【 】は管理人注)
(催告によらない解除)
第五百四十二条 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
【履行の全部不能】
一 債務の全部の履行が不能であるとき。
【履行の全部拒絶】
二 債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
【履行の一部不能または一部拒絶による契約目的達成不能】
三 債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
【定期行為における履行遅滞】
四 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
【その他契約目的達成の期待不可能】
五 前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
「契約目的達成不能」と「軽微性」の関係
催告解除で「軽微性」というのが出てきていましたが、債務不履行が軽微でない=契約目的達成不能、となるのか?というと、そうではないです(2つの概念の関係)。
イメージ的には、無催告解除で出てくる「契約目的達成不能」は、ざっくりいってしまえば、債務不履行が”ひどい”場合であり、催告解除で出てくる「軽微性」は、債務不履行が”大したことない”場合です。
ということで、これら両極の場合の間には、中間ゾーンがあります。つまり、契約目的達成可能だけれども、債務不履行が軽微とはいえない、というゾーンです。
この部分は、無催告解除はできないけれども(契約目的達成可能ゆえに)、催告解除はできる(債務不履行が軽微ではないゆえに)、ということになります。
契約の一部解除(2項)
これは、債権者が無催告で契約の一部を解除できる場合です。要するに、履行の一部不能と、履行の一部拒絶の場合について定めています。
解除部分が可分であることが前提となっていると考えられています(部会資料83-2・10頁参照)。
▽民法542条2項(※【 】は管理人注)
2 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
【履行の一部不能】
一 債務の一部の履行が不能であるとき。
【履行の一部拒絶】
二 債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
イメージ的には、
〇履行の全部不能・全部拒絶は1項により全部解除、
〇履行の一部不能・一部拒絶は2項により一部解除、
〇ただ、一部不能・一部拒絶の場合でも、契約目的達成不能となるときは1項の問題=全部解除として定められている(3号)、
という感じです。
債権者の責めに帰すべき事由による場合(民法543条)
債務不履行につき債権者に帰責事由がある場合には、解除不可とされています。
債権者に帰責事由がある場合にまで解除を認めるのは不相当であるためです。つまり、ここでいう債権者の帰責事由は、”そのような帰責事由のある債権者を契約の拘束力(=多くの場合は反対債務の負担)から解放するのが正当化されるか否か”という観点から判断されると考えられています。
▽民法543条
(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
第五百四十三条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。
まとめ
ここまでのところをまとめると、以下のようになります。
【債務不履行解除】
催告解除(民541条) | ||
無催告解除(民542条) | 全部解除(1項) | 履行の全部不能(1号) |
履行の全部拒絶(2号) | ||
履行の一部不能または一部拒絶による契約目的達成不能(3号) | ||
定期行為における履行遅滞(4号) | ||
その他契約目的達成不能(5号) | ||
一部解除(2項) | 履行の一部不能(1号) | |
履行の一部拒絶(2号) |
解除権の行使方法(民法540条、544条)
解除権の行使は、相手方に対する一方的な意思表示によってなされます(単独行為)。また、解除の意思表示の撤回は認められません。
▽民法540条
(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
2 前項の意思表示は、撤回することができない。
解除権者またはその相手方が複数である場合、解除権は、その全員から、またはその全員に対して行使される必要があります。
▽民法544条
(解除権の不可分性)
第五百四十四条 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。
2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。
これらに関しては改正による変更はありません。
解除の効果(民法545条)
解除の効果として、当事者双方とも原状回復義務を負います(民法545条1項)。
金銭を返還するときは利息の付与(2項)、金銭以外の物を返還するときは果実の返還を要します(3項)。3項は改正による新設になります。
ほかに「現物の使用利益」の返還という論点があり、判例上は返還すべきとされていますが、改正で明文化はされておらず解釈に委ねられています
また、損害賠償請求が可能です(4項)。
▽民法545条
(解除の効果)
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
解除の結果として当事者双方が負う原状回復義務は、同時履行の関係に立ちます。
▽民法546条
(契約の解除と同時履行)
第五百四十六条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
解除権の特殊な消滅原因(民法547条、548条)
解除権の特殊な消滅原因として、催告による消滅と、故意による目的物の損傷等による消滅があります。
催告による消滅
催告による消滅では、相当の期間を定めて相手方が催告し、その期間内に解除権者が解除権を行使しない場合、解除権が消滅します。
これは、解除権に行使期間の定めがない場合に、いつ解除されるかわからない不安定な立場に立つ解除の相手方を保護するためです。改正による変更はありません。
▽民法547条
(催告による解除権の消滅)
第五百四十七条 解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。
故意による目的物の損傷等による消滅
故意による目的物の損傷等による消滅では、解除権者が故意または過失によって契約の目的物を著しく損傷しまたは返還不能にした場合などに、解除権が消滅します。
本文の文言が若干調整されたほか、ただし書が改正で追加されています。
▽民法548条
(解除権者の故意による目的物の損傷等による解除権の消滅)
第五百四十八条 解除権を有する者が故意若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。ただし、解除権を有する者がその解除権を有することを知らなかったときは、この限りでない。
結び
今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、解除条項に関連して、債務不履行解除について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
民法(債権関係)改正の資料
- 部会資料1~88-2(民法(債権関係)部会資料)(法務省HP)
- 中間試案補足説明(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」)(法務省HP)
- 中間試案パブコメ(部会資料71)(平成25年12月27日付意見募集の結果)(e-Govパブコメ)
- 要綱仮案(「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」)(法務省HP)
- 要綱案(「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」)(法務省HP)
- 要綱(「民法(債権関係)の改正に関する要綱」)(法務省HP)
- 民法の一部を改正する法律案(国会提出法案)(法務省HP)
- 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(法務省HP)
参考文献
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