契約の一般条項

契約の一般条項を勉強しよう|管轄条項

著作者:pressfoto/出典:Freepik

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、管轄条項について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

法律上の原則

まず、管轄条項がなかった場合はどうなるかというと、法律上の原則に従うことになる。

法律上の原則としては、法定管轄がある。

法定管轄の種類としては、職分管轄事物管轄土地管轄がある。

また、これらの法定管轄は、拘束力によって、専属管轄任意管轄に分けられる。専属管轄は、当事者の意思によって法律の定めとは別の管轄を生じさせることを許さないもの、任意管轄は、当事者の意思によって異なる管轄を認めるものである。

法定管轄の種類内容専属管轄か任意管轄か
職分管轄裁判権の種々の作用をどの裁判所の役割とするかに関する定め
(例えば、人事訴訟は家裁の職分とするなど。審級制(ex.第一審は地裁と簡裁の職分)も職分管轄の一種)
原則として専属管轄
事物管轄第一審裁判所を簡易裁判所と地方裁判所のいずれにするかに関する定め
(訴額が140万円を超えると地裁、140万円以下は簡裁)
法が専属とする旨を定めた場合に限って専属管轄
土地管轄所在地を異にする同種の裁判所の間での事件分担に関する定め法が専属とする旨を定めた場合に限って専属管轄

任意管轄に関しては、第一審の訴えに限り、当事者の合意により管轄を生じさせることができる。これが合意管轄である。

正確にいうと、管轄権の発生事由は、法定管轄、合意管轄以外にも、指定管轄、応訴管轄がありますが、割愛しています。

合意管轄の要件

合意管轄の要件は、

  • 第一審の訴えに関してされること
  • 一定の法律関係に基づく訴えに関してされること
  • 書面または電磁的記録で合意されること

である(民事訴訟法11条)。

(管轄の合意)
第十一条
 当事者は、第一審に限り、合意により管轄裁判所を定めることができる。
 前項の合意は、一定の法律関係に基づく訴えに関し、かつ、書面でしなければ、その効力を生じない。
 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。

上記③に関しては、3項により、書面のほか、電磁的記録でも可とされている。

memo

 細かい話になりますが、上記③(書面または電磁的記録による合意)に関しては、例えばNDAなど差入れ型(片方の記名押印しかないタイプ)で行う書式の場合に、管轄条項が有効になるのか、という論点があります。

 この点については、「合意」が書面または電磁的記録でされなければならない、という文言からすると、片方の意思しか書面または電磁的記録となっていない場合、要件を満たさないという判断になる可能性が高いと思われます(管理人の私見)。

 そのため、一応書いておくとしても、有効性に疑義がないわけではないという点を、頭の隅にとどめておく方がよいように思われます。

管轄条項の記載項目

合意管轄の要件を満たすための記載

管轄条項の記載項目としては、まず、上記の合意管轄の要件を満たすよう、

  • 「第一審」に関する合意であること
  • 「一定の法律関係」に基づく訴えに関する合意であること

を示す必要がある。

上記①(第一審に関する合意)は、どの土地の裁判所とするか(土地管轄)と、第一審を地裁とするか簡裁とするか(事物管轄)について、合意することができる。

ちなみに、第一審が地裁または簡裁の職分である点については、審級制としてそのように決まっているので(職分管轄)、第一審を高裁にするという合意は認められない。

上記②(一定の法律関係に基づく訴え)は、将来のすべての訴訟といった定め方は事件が内容的に特定しないため認められないが、訴訟の範囲が明らかなものであれば認められ、例えば、本契約に関する一切の紛争、といった特定の程度で足りる。

専属的管轄合意か付加的管轄合意か

管轄合意には、当事者の意思によって、法定管轄のほかに合意で管轄を追加する付加的合意と、合意した管轄のみを認めその他の管轄を排除する専属的合意とがあり得る。

そのため、単に、

第一審の合意管轄裁判所

としか書かれていない場合、付加的合意か専属的合意かは明らかにならないので、どちらであるかは、合意の解釈によって決められることになる(事案に応じてケースバイケースとなる)。

そのため、専属的合意としたい場合(他の法定管轄は排除したい場合)は、そのことを明らかにするために、

第一審の専属的・・・合意管轄裁判所

との表現にすべきであり、一般的に、管轄条項ではこの表現がとられている。

地裁か簡裁かは決められるのか

もう少し、細かいところを考えてみる。

管轄条項では、

○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする

としているものも、

訴額に応じ、○○地方裁判所又は○○簡易裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする

としているものもある。これらは意味が異なるのだろうか?

後者の場合、訴額が140万円を超えるときは○○地方裁判所、140万円以下のときは○○簡易裁判所になる、ということはわかるが、逆に、前者の場合、訴額にかかわらず(つまり、訴額が140万円以下であっても)○○地方裁判所になるのか?ということである。

これに関しては、事物管轄も合意により決めることができるので、訴額にかかわらず地裁となる(逆に、訴額にかかわらず簡裁とすることも可能)。

例えば、以下の事案は、過払金返還訴訟(訴額は140万円を超えており、大阪地裁に提訴)で「訴訟行為については、大阪簡易裁判所を以て専属的合意管轄裁判所とします。」との管轄条項があった事案であるが、業者である被告から管轄違いの移送(民事訴訟法16条1項)が申し立てられ、原審では、大阪簡裁に移送する旨の決定がされている(最終的には覆され、最高裁で、大阪地裁における自庁処理が認められている)。
最決平成20年7月18日(民集第62巻7号2013頁)|裁判所HP

そのため、単に”地裁”と書いているときと、”訴額に応じ地裁または簡裁”と書いているときとで、実は意味が違ってくる点に留意が必要である。

調停の管轄は決められるのか

ではさらに、調停の管轄は、合意により決められるのだろうか?

この点については、民事調停法3条1項に定めがあり、管轄合意は可能となっている(24条、26条も同旨)。

(管轄)
第三条
 調停事件は、特別の定めがある場合を除いて、相手方の住所、居所、営業所若しくは事務所の所在地を管轄する簡易裁判所又は当事者が合意で定める地方裁判所若しくは簡易裁判所の管轄とする。

例えば、大阪地裁・簡裁・家裁HPでは、民事調停事件の管轄として、

* 契約者間の紛争の場合、契約書に管轄の定め(「訴訟」ではなく、「紛争」について、「大阪地方裁判所を管轄裁判所とする。」と記載されていることを要する。)があれば、管轄の合意が認められます。

引用元:https://www.courts.go.jp/osaka/saiban/kentiku/1_3_minzichouteiziken/Vcms4_00000527.html(本記事公開日2023/11/21時点)

との解説がある(▷1_3.民事調停事件|裁判所HP。また、裁判例としては、大阪地決平成29年9月29日(判時2369号34頁)参照)。

そのため、「本契約に関する一切の訴訟・・については」と書くか、「本契約に関する一切の紛争・・については」と書くかによって、実は法的意味が違ってくる可能性が高い点に留意が必要である(少なくとも前者は訴訟に限定した合意であると読まれる)。

書き合いになった場合はどうなるのか

また、あまり多くないが、契約書のチェックの過程で、管轄条項が書き合いになった場合(合意管轄の取り合いになった場合)、どうなるか?

契約の一般論として、もちろん、契約相手方との力関係(あるいは事業側担当者の興味の度合い?)によって決まるわけだが、イーブンな内容としては、”被告の本店所在地を管轄する地方裁判所”といった内容で落ち着くケースもある。

合意管轄の効果

適法な合意により、合意どおりの管轄が生じる。

ただ、細かいことをいうと、絶対ではない。

例えば、専属的合意管轄がある裁判所であっても、遅滞を避けるため等の理由を満たせば、他の管轄裁判所に移送することができる(民事訴訟法17条)。

また、専属的合意管轄により簡裁とされていても、簡裁は、地裁での審理が相当と認めるときは、裁量で地裁に移送できる(同18条)。

これらの移送は、合意による専属管轄によっては制限されない、とされているためである(同20条1項括弧書き)。

▽民事訴訟法17条、18条

(遅滞を避ける等のための移送)
第十七条
 第一審裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、当事者及び尋問を受けるべき証人の住所、使用すべき検証物の所在地その他の事情を考慮して、訴訟の著しい遅滞を避け、又は当事者間の衡平を図るため必要があると認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部を他の管轄裁判所に移送することができる

(簡易裁判所の裁量移送)
第十八条
 簡易裁判所は、訴訟がその管轄に属する場合においても、相当と認めるときは、申立てにより又は職権で、訴訟の全部又は一部をその所在地を管轄する地方裁判所に移送することができる

▽同20条1項(※【 】は管理人注)

(専属管轄の場合の移送の制限)
第二十条
 前三条の規定は、訴訟がその係属する裁判所の専属管轄当事者が第十一条【=管轄の合意の規定により合意で定めたものを除く。)に属する場合には、適用しない。
★移送を制限する専属管轄から合意管轄を除くことにより、専属的管轄の合意がある場合でも移送できることが明らかにされている(下線部参照)

また、専属的管轄の合意があるにもかかわらず、他の法定管轄裁判所に訴えが提起された場合にも、法17条・法20条1項括弧書きと同様の考慮から、合意の効力を否定して移送しないことができると解されています(兼子一ほか「条解 民事訴訟法」(第2版)115頁、127頁参照)。

実際のところはどうか(管理人の私見)

関心の度合い

管轄条項はこのようなものであるが、事業部サイドとしては特に興味を持たない条項の典型といってよいかと思う(そもそも契約に興味持っていない人が大半ではあるが)。

しかし、いざ本当に裁判になった場合には、けっこう後悔する可能性がある条項ではある。

専属的合意管轄の実益

どういう意味があるのか?専属的合意管轄が無かった場合を考えてみる。

土地管轄は、事案に応じて、通常、複数発生する。

被告の所在地、は知っている人もいるかもしれないが(普通裁判籍という)、原告の所在地にも、管轄は割とすぐに発生する(義務履行地、不法行為地など。特別裁判籍という)。

普通裁判籍を被告の所在地にした意味がない、との批判もあるぐらいである(中野民訴参照)。

そのため、管轄合意していなければ、相手のところに行かないといけないことも当然出てくる。

管轄が複数発生するときは、管轄の取り合いになる。つまり、早い者勝ち(先に自分に近い裁判所に訴訟を提起した方が、管轄を取る)である。

裁量移送(17条移送)などもあるが、通常、そうそう発動はされない。少なくとも、「先に訴訟を提起されてしまったんだけど、相手のところの裁判所行くの面倒なんで」は理由にならない。

これをあらかじめ一箇所にギュッと絞っているのが専属的合意管轄である。

実際どれぐらい困るのか?

とはいえ、従来から電話会議もあるし、最近はグループウェア(office365)を使ってビデオ会議にもしているから、実際問題として、そう頻繁に裁判所に出向かないといけないわけではない。

ただ、困るのは尋問のときである。このときは、訴訟代理を依頼した弁護士に、遠隔地の裁判所に出向いてもらう必要が出てくる。このとき、依頼者側には、通常、日当や旅費(実費)の負担(弁護士費用)がかかる。

なので、普通は毎回毎回出張に行ってもらわないといけない、といったことはないが、少なくとも尋問のとき、それから、その他随時必要になるとき(現地確認が必要とか、原告になる場合の第1回期日など?)に、弁護士費用の負担は増すことになるケースが多いと思われる(最終的には、依頼先の先生との取り決めによる)。

逆に、遠隔地の弁護士に依頼する場合はどうか?この場合は、費用面では普段と相違ない。ただ、面談での打ち合わせなどは難しくなる。

別にリモートだからいいのでは、と思うかもしれないが、手持ちで多数の資料を見ながらお互い協議したいときもあるかもしれない。そういったときには不便になる。

というわけで、遠隔地での裁判は何かと不便なこともあり得るので(クリティカルなほどではないケースが多いにしても)、専属的合意管轄はしておいた方がいいし、専属的合意管轄の取り合いになったときも、当然がんばった方がいいのである。

結び

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、管轄条項について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献・主要法令等

参考文献

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主要法令等

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