今回は、法令用語を勉強しようということで、「場合」と「とき」と「時」の違いを取り上げてみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書を読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。
「とき」と「時」には使い分けがありますし、また、二重の条件文の書き方などは、契約書の読み書きでも実際によく使います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
「場合」は条件を表す
「場合」は、条件を表すときによく使います。
法律でも契約でも、要件→効果という形でルールを決めている場合が多いですが、要件にあたる部分では、何らかの条件を記述することになります。
その条件を記述するときに、「~場合」と書くことが多いです。
▽民法548条の3第1項
(定型約款の内容の表示)
第五百四十八条の三 定型取引を行い、又は行おうとする定型約款準備者は、定型取引合意の前又は定型取引合意の後相当の期間内に相手方から請求があった場合には、遅滞なく、相当な方法でその定型約款の内容を示さなければならない。ただし、…(略)…。
基本的に、日常用語でいう”~場合”と同じ意味で使われていると思って問題ないです。
「とき」との対比で取り上げているので、条件と書いていますが、条件の意味でもそれ以外でも、広く使われています。(日常で「場合」を使う感覚と一緒)
「とき」は条件、「時」は時点を表す
「とき」は、上記の「場合」と同じく、条件を表すときに使います。
▽民法415条1項
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
では、「とき」と「場合」はどう使い分けるのか?というと、これは、特にこれといった使い分けはなく、前後の流れや語感によって決められているようです(前掲・田島20頁参照)。
これらに対して、「時」は、時点を表そうとするときに使うので、条件ではありません。
▽民法166条1項
(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
▽民法244条(動産の付合)
第二百四十四条 付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
▽民法412条1項
(履行期と履行遅滞)
第四百十二条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
なので、条件を表す内容なのに「時」を使ってしまっている契約書もたまに見かけますが、実は正確ではない、ということになります。
「とき」と「時」が、同じ条件文のなかで用いられることも、もちろんあります。
▽民法466条の6第3項(将来債権の譲渡性)
3 前項に規定する場合において、譲渡人が次条の規定による通知をし、又は債務者が同条の規定による承諾をした時(以下「対抗要件具備時」という。)までに譲渡制限の意思表示がされたときは、譲受人その他の第三者がそのことを知っていたものとみなして、第四百六十六条第三項(譲渡制限の意思表示がされた債権が預貯金債権の場合にあっては、前条第一項)の規定を適用する。
こういうのを見ると、使い分けがよりイメージしやすいかと思います。
二重の条件文
また、契約書を読み書きしていると、条件が2つあるときもよくあります。
この場合はちゃんとした型があって、
○○場合において、○○ときは、~
という風に書きます。
大きい条件A(○○場合)のなかで、さらに、小さい条件B(○○とき)を重ねるときは、こういう書き方をするわけです。
※ ”二重の条件文”というのは、管理人の個人的な肌感覚的表現です
▽民法32条の2(同時死亡の推定)
第三十二条の二 数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。
▽民法413条の2第2項(受領遅滞中の履行不能と帰責事由)
2 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、履行の提供があった時以後に当事者双方の責めに帰することができない事由によってその債務の履行が不能となったときは、その履行の不能は、債権者の責めに帰すべき事由によるものとみなす。
▽民法415条2項(債務不履行による損害賠償)
2 前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一 債務の履行が不能であるとき。
二 債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三 債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。
「~に規定する場合において」でくり返しを避ける
では、条件文をいったん書いた後に、同じ条件文に乗っかりつつ、追加や補足を書きたいときは、どうすればいいでしょうか。
「前項に規定する場合において」etc
こういうときは、「前項に規定する場合において」「第1項に規定する場合において」とか、「前条に規定する場合において」ホニャララ、などという風に、続けて書くことができます。
この書き方だと、前項や第1項や前条のなかの、条件文の部分を引っ張ってきていることになります(以下の赤アンダーラインは、黄色アンダーラインを引っ張ってきている)。
▽民法131条3項
(既成条件)
第百三十一条 条件が法律行為の時に既に成就していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無条件とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無効とする。
2 条件が成就しないことが法律行為の時に既に確定していた場合において、その条件が停止条件であるときはその法律行為は無効とし、その条件が解除条件であるときはその法律行為は無条件とする。
3 前二項に規定する場合において、当事者が条件が成就したこと又は成就しなかったことを知らない間は、第百二十八条及び第百二十九条の規定を準用する。
「前項の場合において」etcは、また意味が違う
ただ注意点ですが、「前項の場合において」や「前条の場合において」(=”~に規定する”がない)といった表現はまた意味が違っていて、前項や前条の内容全体をまるっと持ってきていることになりますので、違いに気をつけた方がよいです。
▽民法376条2項
(抵当権の処分)
第三百七十六条 抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。
2 前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。
同じように、「この場合において」というのもよく見かける表現ですが(項や条を切り替えず、前の文から続けて書くときに使われる)、これも、前の文の内容をまるっと受ける書き方になります。
なので、これも、使おうとしている場面と使い方がフィットしているか、気をつけた方がよいです。
▽民法20条1項
(制限行為能力者の相手方の催告権)
第二十条 制限行為能力者の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす。
★上記の「この場合において」は、制限行為能力者が行為能力者となった後、相手方が期間を定めて追認するかどうかを催告した、というシチュエーションを指しているので、前の文の内容をまるっと受けている
ちなみに、文が2つあるとき、前の文は「前段」、後の文は「後段」と呼びます。
つまり、「この場合において」は、「前段」の内容をまるっと受け継ぎつつ、続けて「後段」で追加や補足を書くときに、よく使われる表現です。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、「場合」と「とき」と「時」の違いを見てみました。
いくつか見てみましたが、管理人が肌感覚的にもよく使うと思う基本的なポイントは、
- 「とき」は条件、「時」は時点
- 二重の条件文は、「○○場合において、○○ときは」が定型的な書き方
の2点です。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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