今回は、法令用語を勉強しようということで、「することができる」と「しなければならない」の意味を取り上げてみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
「することができる」の意味
「することができる」は権利
法令用語としての「することができる」は、法律上の権利・能力・権限などがあるという意味です。
契約書でこの用語が使われている場合も、権利がある、いう意味になります。
なので、こちら側にそういう権利があるようにしておきたいときは、「~することができる」と書いておくべきと思います。(力関係の問題もありつつも、可能な限り)
逆に、相手方が「~することができる」という内容があるときは、相手方にそういう権利があると読まれることになるので、注意した方がよいです。
特に、それが見慣れない内容であるときは、本当にこちら側として受入れ可能な内容なのか、慎重に見るべきだろうと思います。
「請求することができる」
「することができる」という言い回しの典型例は、「請求することができる」ですかね。
法令上も、例えば、
▽民法415条1項
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、…。
▽民法562条1項
(買主の追完請求権)
第五百六十二条 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、…。
など、たくさんあります。契約書上でも、同様に、権利を付与したものと読まれます。
なお、「請求することができる」というと、語感からは、”請求するのは自由ですよ、勝手にどうぞ、請求を受ける側が応じるかどうかはまた別ですけどね”、という意味にも読めるかもしれませんが、そういう意味ではないです。
権利、許可のことですので、一方に権利があるということは、他方には義務がある、という意味になります。
上記のような語感で見ているのか、「(相手方が)~することができる」という記載に関して、気がかりな内容のときでも、担当者があまり頓着していないケースもあるので、注意すべきように思います。
権利でないと読める書き方が他の部分にあるとか、なにか特殊な場合に、権利を付与したものではない、と読めることもあるかもしれません。
が、「○○することができる」は、法令用語としての意味はかなりハッキリしていますので、特殊な事情がない限り、普通は、契約書上も、権利とされると思います。
もちろん、「○○することができる」は、「請求することができる」以外にも、いくらでもあります。
「使用することができる」「立ち入ることができる」「報告を求めることができる」「監査を行うことができる」など、どれも権利があるという意味になります。
逆は「することができない」
逆に、「することができない」は、法律上の権利・能力・権限などがないという意味です。
例えば、
(履行不能)
第四百十二条の二 債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。
などがあります(民法412条の2第1項)。
「請求」だけではなく、例えば、
(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
第百七十七条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
などもあります(民法177条)。
ただ、「することができない」は、契約書では、そんなに見かけない気がしますね。
それっぽく見えるが無意味になる例ー「協議を求めることができる」?
では、例えば、「協議を求めることができる」というのがあったとしたら、どういう意味になるでしょうか。
(※管理人が想像した例で、あってもおかしくない気がしますが、記憶の限りでは、実際に見たことはあんまりない気がします)
これは、求めることができる、といっても、求めることができるのは協議なので、協議の結果が物別れに終われば、何もできないということになるだろうと思います。
権利がある、といっても、協議を求める権利なので、実際には一方的になにかを決することはできないため、換骨奪胎というか、死文化というか、実際上はほぼ無意味なものになるかと思います。
実際の落としどころとしては、例えば、「…協議の上、~することができる」といった形で、手続き的に、協議を挟むようにする、といった内容に落ち着かせることの方が多いように思います。(これだと、権利性は維持している)
権利はあるけど、プロセスとして、協議はするよ、という意味になります。
「しなければならない」の意味
「しなければならない」は義務
法令用語としての「しなければならない」は、法律上の作為義務があるという意味です。(作為の義務を課す)
契約書上も、もちろん同様に、義務として読まれます。
例えば、「支払わなければならない」「引き渡さなければならない」など、基本的な義務から、「報告しなければならない」「通知しなければならない」など、付随的な義務まで、幅広いものがあります。
ただ、義務の部分は、契約書上は多くあるので(お互いの義務を定める書面なので、当然といえば当然)、そこに全部「しなければならない」を使っていると、契約書が「~しなければならない」「~ねばならない」だらけになります。
それだと、どぎつい感じになってしまうので、実際には、「支払う」「引き渡す」といった、動詞の終止形で義務を表している部分が多いかと思います。
ニュアンスの問題なのだからあまり気にせず、明確な方がいいのではないか(遠慮なく使えばいいのではないか)、という割り切った見方もあるかもしれません。
が、実際には、相手先企業とこれから取引を始めようという場面、あるいは、個人のお客様、ユーザーとの約束事、といった観点・側面も現に存在するので、どぎつい表現だとふさわしくないという現実論も、また一方にあるように思います。
なので、そういった明確さと、文書の性質上どういうニュアンスがふさわしいのかということの、バランスを考えるのが大事だろうと思います。(管理人の個人的見解)
逆は「してはならない」
逆に、「してはならない」は、不作為の義務を課す意味です。つまり、禁止の意味になります。
これも、例えば、「使用してはならない」「開示してはならない」「譲渡してはならない」「再委託してはならない」など、契約書をざっと見れば、幅広い義務に用いられているのを見ることができるだろうと思います。
それっぽく見えるが無意味になる例ー「努めなければならない」
では、例えば、「努めなければならない」とか「努めるものとする」というのは、どういう意味になるでしょうか。
これは、義務は義務でも、努力義務という意味になるので、実際には何かを強制することはできないということになります。(実質的には、紳士協定とか、訓示規定みたいな意味になる)
例えば、「報告しなければならない」は義務ですが、「報告するよう努めなければならない」だと努力義務になるので、後者だと、最終的には報告しなかったとしても、義務違反にはならない(契約違反にはならない)ということになります。
文言としてはわずかな違いですが、中身は180度といっていい位に変わってしまう(実際上は換骨奪胎、死文化される)ので、見逃してはいけないところです。
まあ、これは法務関係者でなくても知られている話かと思いますが、一応書いてみました。
契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)
「することができる」は、求める側の権利として規定したもので、「しなければならない」は、求められる側の義務として規定したものですので、書きぶりが違うだけで、中身は同じともいえます。(どちら側から光を当てて書くか、の違い)
実際には、端的に義務として定めれば足りるので、「することができる」よりも、「しなければならない」「する」「するものとする」といった表現で、義務として定めている事項が多いように思います。
(ex.「代金の支払いを請求することができる」よりも「代金を支払う」、「引渡しを請求することができる」よりも「引き渡す」、といった表現の方が普通)
ただ、その分、「することができる」の意味について、あんまり気にされていないケースがたまにあるので、やや注意かと思います。
「することができる」は、こちらが権利として持っておくべきことについてはそう書きますし、逆に、相手方の行為についてそう書かれている場合は、相手に権利性が付与されていることになるので、それでよいかどうか注意する必要がある、ということになります。まあ、当たり前といえば当たり前ですけど。
なお、権利や義務を定める場合一般についていえることですが、とりわけ、不作為義務(禁止)に関しては、違反行為の扱いについても明文で決まっているか、一応意識しておく必要があるかと思います。
何も書いていなくても、損害賠償の一般条項や、解除の一般条項での、「契約に違反したとき」といった表現で拾える場合が多いかと思いますが、固有の取扱いを決めておきたい場合は、特に書いておく必要があります。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、「することができる」を取り上げてみました。
本記事のハイライトをまとめます。
- 「することができる」は、権利があること
- 「することができない」は、権利がないこと
- 「しなければならない」は、義務を課すもの(作為義務)
- 「してはならない」は、義務を課すもの(不作為義務=禁止の意味)
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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