法制執務

法令解釈を勉強しよう|法規的解釈と学理的解釈

今回は、法令解釈を勉強しようということで、法規的解釈と学理的解釈について見てみたいと思います。

契約書などで直接役に立つということはない気がしますが、いろんなところで目にする「〇〇解釈」はまとめるとどうなっているのかが見えて、全体がクリアになります。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

法令解釈の種類

法令解釈の種類は、まず大きく「法規的解釈」と「学理的解釈」に分けられます。

ざっくりいうと、法規的解釈というのは法令自身が解釈を決めているもの、学理的解釈というのは理屈で解釈を決めようとするものです。

さらに学理的解釈が「文理解釈」と「論理解釈」に分けられます。これが全体像になります。

【法令解釈の種類(全体像)】

  • 法規的解釈
  • 学理的解釈
    • 文理解釈
    • 論理解釈

以下、順に見てみます。

法規的解釈

法規的解釈というのは、ほかならぬ法令自身が法令の規定の解釈を定めているもののことです。同じ法令の中の別の規定でということもありますし、他の法令の中でということもあります。

それって”解釈”というよりも”法令”そのものなのでは?という疑問も頭をよぎりますが、そのとおりで、この法規的解釈の規定自体がひとつの法令の規定ということになります。

その意味で、「立法解釈」とか「法定解釈」という言い方もあります。

法令自体が下した解釈として、確定的な権威を持ちます。つまり、法令そのものと同じように、法令の執行にあたる行政機関や法令の解釈・適用にあたる裁判所も、その解釈に拘束されます。

直接的に解釈を示すものー定義規定

法規的解釈の典型例は、定義規定です。

定義規定とは、法令で使用されている用語の意味を定めた規定のことです。通常、目的規定や趣旨規定(1条)などに続けて、2条あたりに置かれることが多いです。

▽会社法2条

(定義)
第二条
 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 会社 株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう。
 外国会社 外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。
 子会社 会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。
三十四 (略)

要するに、日常的に使わない用語であれば意味を決めておく必要がありますし、日常使うものでも言葉の意味には多かれ少なかれ幅があったりもします。なので、解釈上の疑義を生じそうであるとか、その法令で使うときの意味をはっきりさせておく必要があるときに、用語の定義づけをします。

定義づけの仕方としては、①上記のように法令の冒頭にまとめて定義規定を置くやり方のほか、②個々の条文において括弧書きで定義を定めるやり方もあります。②も法規的解釈になります。

下位の法令による法規的解釈

 なお、法規的解釈が確定的な権威を持つのは、法規的解釈をしているのが法律と同格の効力をもつ場合です。

 つまり、もし下位法令(政令や省令・府令など)の側で定義をした場合で、法律からの委任も特にないというときは、形式的には法規的解釈のようですが、実質的には行政解釈の一種ということになります(つまり、裁判所はその解釈に拘束はされない)。

 法律からの委任があるときは、法律に根拠があって法律自体が規定したのと同等の効力を持ちますので、法規的解釈ということになります(以上につき林修三「法令解釈の常識」〔第2版〕78~80頁等参照)。

間接的に解釈を示すものー目的規定、趣旨規定、解釈規定

定義規定ほど直接的に解釈を決めるものではないですが、解釈の方針を示すような規定を法文に置くことで、間接的に解釈の手がかりを与える場合もあります。

この例として、目的規定、趣旨規定、解釈規定があります。

目的規定その法律の目的を掲げたもの趣旨規定その法律が定めようとしている事柄を要約して掲げたもので、やはり法令の冒頭に置かれます。

▽目的規定の例:特許法1条

(目的)
第一条
 この法律は、発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的とする。

▽趣旨規定の例:会社法1条

(趣旨)
第一条
 会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。

解釈規定は、法令全体あるいは個々の規定について解釈の方針を示したものです。

▽民法2条

(解釈の基準)
第二条
 この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない。

▽破壊活動防止法2条

(この法律の解釈適用)
第二条
 この法律は、国民の基本的人権に重大な関係を有するものであるから、公共の安全の確保のために必要な最小限度においてのみ適用すべきであつて、いやしくもこれを拡張して解釈するようなことがあつてはならない。

▽景品表示法29条3項

第二十九条 内閣総理大臣は、第七条第一項の規定による命令、課徴金納付命令又は前条第一項の規定による勧告を行うため必要があると認めるときは、当該事業者若しくはその者とその事業に関して関係のある事業者に対し、その業務若しくは財産に関して報告をさせ、若しくは帳簿書類その他の物件の提出を命じ、又はその職員に、当該事業者若しくはその者とその事業に関して関係のある事業者の事務所、事業所その他その事業を行う場所に立ち入り、帳簿書類その他の物件を検査させ、若しくは関係者に質問させることができる。
 (略)
 第一項の規定による権限は、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない。

確認規定

そのほか、法令の適用関係の疑義を解消するために確認的に置かれる確認規定も、法規的解釈のひとつとされます。

▽古都保存法10条

(行為の禁止又は制限に関する他の法律の適用)
第十条
 第七条及び第八条の規定は、歴史的風土保存区域内における工作物の新築、改築又は増築、土地の形質の変更その他の行為についての禁止又は制限に関する都市計画法(昭和四十三年法律第百号)、建築基準法(昭和二十五年法律第二百一号)、文化財保護法(昭和二十五年法律第二百十四号)、奈良国際文化観光都市建設法(昭和二十五年法律第二百五十号)、京都国際文化観光都市建設法(昭和二十五年法律第二百五十一号)その他の法律(これらに基づく命令を含む。)の規定の適用を妨げるものではない

▽労働組合法1条2項:確認規定(+そのすぐ後に解釈規定)

 刑法(明治四十年法律第四十五号)第三十五条の規定は、労働組合の団体交渉その他の行為であつて前項に掲げる目的を達成するためにした正当なものについて適用があるものとする。但し、いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない。

学理的解釈

学理的解釈とは、学理(学問上の研究や考察)によって法令を解釈することです。

普段よく”法令の解釈”といっているのは、通常、この学理的解釈を指しています。

”学理”や”学問”といっても、いわゆる学者のそれのみを指しているわけではなく、裁判所の解釈や行政機関の解釈も学理的解釈になります。

条理(=常識、物事の筋道といった意味)を基準として解釈するということで「条理的解釈」とか、法令の目的・趣旨を基準として解釈するということで「目的論的解釈」などとも呼ばれます。

学理的解釈は大きく文理解釈と論理解釈に分けられますが、通常、以下のように分類されます。

文理解釈とは、法令の文言(文字や文章の意味)に主眼を置いて規定を解釈することで、論理解釈とは、法令の文言以外の道理に主眼を置いて規定を解釈することです。

【学理的解釈の分類】

  • 文理解釈
  • 論理解釈
    • 拡張解釈
    • 縮小解釈
    • 変更解釈
    • 反対解釈
    • 類推解釈
    • もちろん解釈

学理的解釈の分類については、次の記事でくわしく書いています。

▽次の記事

法制執務を勉強しよう|学理的解釈の分類

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その他

そのほか、ニュースなどでもたまに見かける用語として「公定解釈」というのがあります。

”法令の解釈・適用は裁判所の専権”というように、法令解釈の最終決定権は最高裁判所が有していますので、文字通りの意味での”公定解釈”というのは最高裁判所の示した解釈のはずですが、一般に使われている「公定解釈」はその法令について施行の責任をもつ行政機関が公に示した解釈という意味で使われています(つまり行政解釈)。

また、責任を有する行政機関が複数ある場合に、行政としての解釈がまちまちにならないよう解釈を統一したものを指す用語として、「統一解釈」というのもあります。

結び

今回は、法令解釈を勉強しようということで、法規的解釈と学理的解釈を見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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