新判例

東京高判令和2年11月5日|モバゲー免責条項事件判決

今回は、先日、モバゲー免責条項事件の東京高裁判決(令和2年11月5日)が出ていたので、これについて書いてみたいと思います。

免責条項というのは、要するに損害賠償責任を免除する条項のこと(債務不履行に基づく損害賠償責任と不法行為に基づく損害賠償責任がある)で、全部免責のケースや一部免責のケースがあります。

会員資格取消措置などをとったことで損害が生じても損害賠償には一切応じない、とするモバゲー規約の条項は、消費者契約法に違反する(事業者の全部免責を定める不当条項にあたる)との内容です。

▽モバゲー規約、二審も「不当」 利用停止の賠償応じず|日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO65858300V01C20A1CC1000/

なお、モバゲー免責条項事件というのは、管理人が勝手につけた名前です(モバゲー側は、免責条項ではないとの主張)。

また、引用部分の太字や下線、省略などは管理人によるものです。

当事者と裁判の流れ

若干の前提情報を先に見ておきたいと思う。

原告は適格消費者団体で、被告はディー・エヌ・エーである。

【当事者と裁判の流れ】

◯原告(被控訴人)
 埼玉消費者被害をなくす会(適格消費者団体)
◯被告(控訴人) 
 株式会社ディー・エヌ・エー(「モバゲー」を運営)
◯一審判決
 さいたま地判令和2年2月5日(平成30年(ワ)第1642号)
◯控訴審判決 
 東京高判令和2年11月5日(令和2年(ネ)第1093号、第2358号)

さいたま地裁の判決文|埼玉消費者被害をなくす会HP
東京高裁の判決文|埼玉消費者被害をなくす会HP 

東京高裁判決も、基本的には一審判決(さいたま地裁の判決)を是認したもので、判断としては特に大きな変更はない。

高裁判決の結論(地裁判決を是認)

結論としては、

  • 規約7条3項は、消費者契約法8条1項1号及び3号の各前段に反する
  • 規約12条4項は、消費者契約法8条1項1号及び3号の各前段に反しない

というものである(※本記事は①についてのみ書いています)。

規約の内容は、以下のとおりである(地裁判決より抜粋)。

規約7条1項が、利用停止措置や会員資格取消措置について定めた部分であり、3項で、これらの措置による「一切損害を賠償しません」としているのが、消費者契約法に反していると争点になった。

第7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
a 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
b 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた当社が判断した場合
d 本規約および個別契約に違反した場合
e その他モバゲー会員として不適切である当社が判断した場合
3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません

第12条(当社の責任)
4項 本規約において当社の責任について規約していない場合で、当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は、1万円を上限として賠償します。

消費者契約法の条文は、以下のとおり。

消費者契約法8条1項の1号と3号というのは、要するに、事業者側の損害賠償責任に関して、全部免責の条項を不当条項として無効とするものである。1号が債務不履行に基づく損害賠償責任を、3号が不法行為に基づく損害賠償責任を定めている。

▽消費者契約法8条1項1号・3号

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項
三 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

地裁と高裁の判断内容

大ざっぱにいうと、適格消費者団体側(原告側)の主張は、

✓ 規約7条1項c号又はe号は「当社が判断した場合」とあり、モバゲー側が誤った判断をしたときでも会員資格取消措置などがとられる場合があり得る
    ↓
✓ なのに、そういった措置によって生じた損害についても、7条3項で一切免責されている
    ↓
✓ ゆえに、7条3項は事業者側の損害賠償責任を全部免除したもので、消費者契約法8条1項に反する(不当条項として無効となるべきもの)

というものである。

これに対し、モバゲー側(被告側)の主張は、どういうものかというと、

✓ 規約7条1項c号又はe号の「判断」とは、「合理的な根拠に基づく合理的な判断」という意味である(一般的な契約実務に則り、当然の前提である)
    ↓
✓ モバゲー側が判断を誤っていた場合は、そもそも7条1項の措置等は適用されない
    ↓
✓ ゆえに、7条3項は、合理的な判断に基づく故意・過失のない措置がとられた場合に、ユーザーに損害が出ても賠償しませんよ、という当然のことを定めた確認的規定である(なので、そもそも免責条項ではない)

というものである。

モバゲー側の主張は、たとえば以下の部分である。

モバゲー側の主張の部分|さいたま地判令和2年2月5日

 仮に、被告の誤った判断により被告が会員資格取消措置等をとった場合には、本件規約7条1項の適用自体が誤りということになり、会員資格の取消し等はされず本件規約7条3項の適用もないことになる。すなわち、本件規約7条3項は、被告が本件規約7条1項c号又はe号について故意又は過失により誤った判断をした場合には適用されないから、事業者の債務不履行又は不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項として法8条1項1号前段及び同項3号前段に該当しない。

 本件規約7条1項c号又はe号には、「当社が判断した場合」との文言があるが、一般的な契約実務に則り、「判断」とは「合理的な根拠に基づく合理的な判断」であることが当然の前提となっている。

なんだかとんちみたい?で一瞬わからないが、つまり、規約7条はこういう風に読むのです↓ということを言っているわけである(マーカー部分を参照。管理人による加筆)。

第7条(モバゲー会員規約の違反等について)
1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。
a 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
b 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
c 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が(合理的な根拠に基づき合理的に)判断した場合
d 本規約および個別契約に違反した場合
e その他モバゲー会員として不適切であると当社が(合理的な根拠に基づき合理的に)判断した場合
3項 当社の(合理的な根拠に基づく合理的な判断による1項の)措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。

なるほどそのように読むならば、3項は免責規定ではない(当然のことを定めた確認規定にすぎない)ということになる…。

しかし、モバゲー側のいうように読むことはできません、というのが裁判所の判断だった、ということである。

いわゆる契約の合理的解釈については、たとえば以下の部分である。

▽さいたま地判令和2年2月5日

 しかしながら、c号の「他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけた」という要件は、その文言自体が、客観的な意味内容を抽出し難いものであり、その該当性を肯定する根拠となり得る事情や、それに当たるとされる例が本件規約中に置かれていないことと相俟って、それに続く「と当社が判断した場合」という要件の「判断」の意味内容は、著しく明確性を欠くと言わざるを得ない。すなわち、上記要件の文言からすると、被告は上記の「判断」を行うに当たって極めて広い裁量を有し、客観性を十分に伴う判断でなくても許されると解釈する余地があるのであって、上記の判断が「合理的な根拠に基づく合理的な判断」といった通常の裁量の範囲内で行われると一義的に解釈することは困難であると言わざるを得ない…(略)…

 また、e号は、「その他、モバゲー会員として不適切であると当社が判断した場合」との要件であるが、同号の前に規定されているa、b及びd号はその内容が比較的明確であり、裁量判断を伴う条項ではないのに対し、e号については、「その他」との文言によりc号を含む各号と並列的な関係にある要件として規定されつつも、c号と同じ「判断した場合」との文言が用いられていることから、c号の解釈について認められる上記の不明確性を承継するものとなっている

また、なぜそういう判断になったかというと、消費者契約法3条1項1号が効いている。

▽消費者契約法3条1項1号

(事業者及び消費者の努力)
第三条 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない
一 消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること。

これは、さいたま地裁判決でも、東京高裁判決でも、規約に関する解釈のベクトルとして(けっこうキツめに)言及されている。まあ、法の趣旨を汲んだ解釈としては至極まっとうなものだと思う。

▽さいたま地判令和2年2月5日

 この点、上記アで判示したとおり、法は、消費者と事業者とでは情報の質及び量並びに交渉力に格差が存在することに照らし、法3条1項において、事業者に対し、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なものであって、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めていることに照らせば、事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、当該条項につき、解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。

▽東京高判令和2年11月5日

 また、控訴人は、控訴人が客観的に損害賠償責任を負う場合は、そもそも本件規約7条1項c号又はe号の要件を満たさず、したがって、本件規約7条3項により免責されることもないと主張する。しかし、事業者と消費者との間に、その情報量、交渉力等において格段の差がある中、事業者がした客観的に誤っている判断が、とりわけ契約の履行等の場面においてきちんと是正されるのが通常であるとは考え難い。控訴人の主張は、最終的に訴訟において争われる場面には妥当するとしても、消費者契約法の不当条項の解釈としては失当である。

 …事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって(法3条1項1号)、事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈をするということは、同項の趣旨に照らし、極力控えるのが相当である。

ちなみに、地裁判決はけっこう踏み込んだことも言っていて、こういう曖昧な文言だと、実際の運用はこうなってるんじゃないの(=そうすると、実際には免責条項として機能してるんじゃないの)、ということも言っている(※ここは断定はしていない)。

▽さいたま地判令和2年2月5日

 そして、証拠(甲11(No.16、36、78、92))によれば、モバゲー会員からは、全国消費者生活情報ネットワークに対し、被告によりモバゲーサイト上のゲームの利用の一部を停止されたが、被告に問い合わせても理由の説明がされず、かつ、すでに支払った利用料金2万円の返金を拒まれているなどの相談が複数されていることが認められるところ、利用停止措置をとる場合のモバゲー会員に対するこのような対応ぶりに照らすと、被告は、上記のような文言の修正をせずにその不明確さを残しつつ、当該条項を自己に有利な解釈に依拠して運用しているとの疑いを払拭できないところである。

適格消費者団体の訴訟であること

個人的に、この判決でもうひとつポイントだと思うのは、原告が適格消費者団体という点である。

適格消費者団体というのは消費者契約法に基づき内閣総理大臣が認定した消費者団体で、以下のような活動をしている。

消費者団体訴訟制度|政府広報オンライン

1.「消費者団体訴訟制度」とは?
 「消費者団体訴訟制度」とは、内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者に代わって事業者に対して訴訟などをすることができる制度をいいます。
 民事訴訟の原則的な考え方では、被害者である消費者が、加害者である事業者を訴えることになりますが、⑴消費者と事業者との間には情報の質・量・交渉力の格差があること、⑵訴訟には時間・費用・労力がかかり、少額被害の回復に見合わないこと、⑶個別のトラブルが回復されても、同種のトラブルがなくなるわけではないこと、などから、内閣総理大臣が認定した消費者団体に特別な権限を付与したものです。
 具体的には、平成19年6月7日から施行されている「差止請求」と、平成28年10月1日から施行されている「被害回復」との2つの制度からなっています。

モバゲー免責条項事件は、前者の「差止請求」をした事案である。
(=消費者契約法に違反している規約での契約をするな、という差止め(免責条項の使用差止め))

適格消費者団体は、もちろん実際にはいろんな個別事例のデータを集めたうえで提訴に踏み切るのだと思うが、訴訟自体は、個人の権利義務にかかわらずに提起できる、というのが大きい気がする。

つまり、適格消費者団体は、約款の問題性を直接に扱うことができる、という点で、約款の問題性に対してはかなり効果的に切り込んでいける、という気がする。結論がそこにあるので、訴訟が続くか、訴訟係属中に任意の是正がされるか、いずれにせよ白黒がはっきりつく

これに対して消費者自身が訴訟をする場合はどうか?というと。

もちろん、消費者でも、シンプルに訴訟を提起して、約款の無効を前提とした請求・主張をすれば(つまり争点化すれば)、裁判所は判断してくれる。

しかし、いち消費者が約款の有効性に切り込んでいくのは、実際問題としては難しい面もある。

なぜかというと、①現実に訴訟まで踏み切る人は多くないし、②訴訟提起までしたとしても、たとえば和解で終わったときには、そのまま約款の問題性についてはうやむやになったりするので。
(つまり、最終的な結論は個人の権利義務なので、提訴した消費者個人が金額などの条件面で納得すれば、そこで和解で終了することも多い)

適格消費者団体が、約款へ直接切り込む力をもつ、そのポテンシャルを発揮した例として、けっこうターニングポイント的なものになりそうな気がする(これからも顕在化する可能性、という意味)。

結び

個人的には、規約や約款を考えるときには、いろんなケースを捕捉できるように、ある意味ボヤっとした条項にしておきたいというのは、正味な話わからないでもないです。

実際、企業側も企業側で実は大変なので。いろんなケースがありますし、また将来的に予測できないケースが出てくる可能性も常にあって、それを予測し切るのは難しいです。規模が大きいと、悪者にされがちですけど。

が、本件では、「合理的に」といった文言もないし、また例示もないので(地裁判決中にもそういった指摘あり)、さすがにちょっと厳しかったのかなと。

抽象レベルの文言もある程度は限定しておくこと、バスケット条項は可能な限り例示をちゃんと前に列記しておくこと、ですかね。大事なのは。

BtoCでは、この判決を見てもわかるように、消費者契約法3条1項1号が効いてくるので、テクニカルに読み込んだときには一定の反論ができるとしても、消費者目線で普通に読んだときに意味がわからないものについては、(訴訟になったときも)そのように読んではもらえない、というのが教訓ではないかと思います。

まあ当たり前のことのような気もしますし。最高裁にいくかもまだわからないですけど。

規約全体の立て付けとか、細かいディティールでは違っていても、似たような規約や約款文言でやっている事業者はまあまああると思うので(訴訟でも、モバゲー側から提出されていた模様)、けっこうインパクトのある判決だと思います。

判決は、以下の裁判所HPで見ることができます。
東京高判令和2年11月5日(免責条項等使用差止請求控訴事件)|裁判例検索(裁判所HP)

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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