アパマン爆発事故事件の判決が出たというのが、今日、ニュースになっていました。
ニュースとしては、たとえば以下のとおり。
▽スプレー爆発で元店長有罪 札幌地裁「予見できた」|産経ニュース
https://www.sankei.com/article/20200818-5PAMGK557ZJUHEE7BYTHLWINDI/
重過失の罪であること
罪名は、「重過失傷害罪」と「重過失激発物破裂罪」のようです。
つまり、
- 重過失傷害罪→人にケガをさせた部分
- 重過失激発物破裂罪→建造物やそれ以外の物を壊した部分
をそれぞれ起訴し、有罪判決が出たわけです。
「重過失」の一般的な意味は、自分の肌感覚の理解は、「ほんのちょっとでも注意すれば回避できた、故意にも比肩するような重い過失」ですが、もうちょっと正確にいうと、
「通常の過失に比して、容易に結果の発生を予見することができ、結果の発生を容易に回避し得るのに、その注意義務を怠った場合」
前田雅英ほか編「条解刑法(第2版)」131頁
をいう、とされています。
なお、同じ「重過失」でも、各々の具体的な罪名によって微妙に意味は異なってくるのですが、ややこしいのでここでは触れません。
でも、まあ普通はあんまり見ませんね(管理人の知る限り)。通常、過失犯でみるのは、単純過失か、業務上過失です。
激発物破裂の罪であること
「激発物破裂」って、最初見たときは特別刑法かと思ったんですけど、刑法なんですね、これ。正直、初めて見ました。
特別刑法っていうのは、刑法典(「刑法」のことです)以外に刑罰を定めた法律を、まとめてそう呼びます。自動車運転死傷行為処罰法(←交通事故ですね)でも、覚醒剤取締法でも、何でもそうです。
でもそうじゃなくて、激発物破裂の罪は、普通の刑法典に規定されているということです。刑法の条文は、以下のとおり。
(激発物破裂)
第百十七条 火薬、ボイラーその他の激発すべき物を破裂させて、第百八条に規定する物又は他人の所有に係る第百九条に規定する物を損壊した者は、放火の例による。第百九条に規定する物であって自己の所有に係るもの又は第百十条に規定する物を損壊し、よって公共の危険を生じさせた者も、同様とする。
2 前項の行為が過失によるときは、失火の例による。
(業務上失火等)
第百十七条の二 第百十六条又は前条第一項の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、三年以下の禁錮又は百五十万円以下の罰金に処する。
要するに、故意犯のときは、117条1項。単純過失犯のときは、117条2項。業務上過失or重過失のときは、117条の2、という風になっています(ややこしい)。
なので、本件は117条の2だったはずですね。
で、意味内容を物の本で見てみると、激発物破裂の罪というのは、
火力によらず、激発物を破裂させることにより、その際に生じる爆風や高熱等によって物件を損壊する行為を、放火罪に準じるものとして規定したもの
ということです。
そんなのそうそうあるんかな…と思いきや、
- 爆発物を使用する行為、その未遂、予備や、教唆、煽動等については爆発物取締罰則
- 火薬の使用については火薬取締法
- 政治目的のためにする本条の罪の予備、陰謀、教唆、せん動は、破壊活動防止法39条
- 激発物破裂の罪に至らない程度の、相当の注意をしないで爆発する物を使用し、又はもてあそぶ行為については、軽犯罪法1条10号
により処罰されるというふうに、この域に関する関連刑罰法規は、意外にもけっこういっぱいあった…という素朴な驚き。
(以上2箇所の引用部分は、前田雅英ほか編「条解刑法(第2版)」329頁を参照)
Wikipediaではテロ行為にも適用されるということも説明されており、それも確かにそうだな…という感じです(幸いこれまでは無いですが)。ある意味で現代的犯罪類型かもしれないです。故意犯の場合は、ですけど。
まあでも、普通に刑事弁護やっても、激発物とか、爆発物とか、そうそう見ないと思います(少なくとも自分と周りで実際に見たことはない)。
禁錮刑であること
判決言渡しは、禁錮3年、執行猶予4年だったとのこと。
禁錮刑というのは、上記2点ほど珍しいっていうほどではないですが。
つまり懲役刑と何が違うの?って話ですが、要は刑務作業が課されないということです。そこ以外は懲役刑と違いはないのですが、一応、懲役刑よりは軽いものとされています(以下の条文は刑法)。
(刑の種類)
第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。
(刑の軽重)
第十条 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2(略)
3(略)
禁錮刑というのは、いわゆる政治犯ないし確信犯的なものや、過失犯について規定されていて、名誉拘禁的性質を有している、といわれます。
なお、名誉拘禁的性質ってどういう意味?という点は、以下のサイトがわかりやすいです。
▽ 禁固と懲役の違い|タダノ弁護士の書斎|April 23, 2007
https://plaza.rakuten.co.jp/tadanohitoshi/diary/200704230002/
量刑について(感想)
これは珍しい点ではなく単なる感想ですけど、判決も言っているように、死者が出なかったのは不幸中の幸いだったなあ、と。
死者が出ていたら、猶予5年※か実刑か…という境ぐらいだったのでは。重過失なので、どちらかというと後者に寄っていたかもしれないと思います(←個人的見解です)。
※猶予5年というのは、執行猶予期間の最長期間です
公判期日に関する記事によると、示談交渉が進んでいることなどを挙げ情状酌量を求めたとのこと(事実は争っていなかったみたいだから、それが弁護活動のメインになりますね)。けが人は44人と書かれているから、弁護人は示談交渉するの大変だったろうなと…。神経のすり減り方は尋常ではないと思う。
示談の相手がこれだけ大人数となると、ここも珍しい点かも。大変なのは、被害者の立場を考えれば当然ではありますが…。
結び
珍しい罪名だなと思ったら(まあそれだけ珍しい事件だったということかと)、意外に、ある意味で現代的な犯罪類型であったりもしたので、書いてみました。
なお、ニュースのコメント欄などを見ると、起訴事実以外にもいろいろ言われているようですが、そこには触れません。
判決の原文は、以下の裁判所HPで見ることができます。
▷札幌地判令和2年8月18日(重過失激発物破裂、重過失傷害被告事件)|裁判所HP(裁判例検索)
[注記]
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