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法律ニュースの解説 #5|ゲーム依存症対策条例で高校生が県提訴

今回は、香川県のネット・ゲーム依存症対策条例を違憲と主張して、県の高校生と母親が県を相手どって提訴したとのニュースを、プチ解説してみたいと思う。

 

ニュースとしては、たとえばこちら。この記事を見たときにハッとなったのは、記事がけっこう細かい部分まで正確に書かれていたところである。

 

▽ ゲーム条例、違憲と提訴 香川の高校生ら賠償請求|日本経済新聞(2020/09/30)

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64452410Q0A930C2AC8Z00/

 

 

保護者の努力義務になっている点

上記の記事で正確に書いてるな…と思ったところは、以下の部分である(下線は管理人による)。

 

条例は、18歳未満のゲーム利用は1日60分(学校休業日は90分)まで、スマートフォンの使用は中学生以下は午後9時、それ以外は午後10時までにやめさせることを目安に、家庭でルールを作って子どもに順守させる努力義務保護者に課している。罰則はない。

 

ニュースや条例のタイトルなどを見ていると、子どもにゲームの時間制限がかけられていると思ってしまいそうだが、実はそうではない。

 

よく見ると、保護者が条例の時間を目安として(子どもと話し合って)ルールをつくり、それを子どもに守らせるよう努める、という「保護者」に対する「努力義務」になっているのである。つまり、子どもに対しては直接は何も義務づけていない、という体裁になっている。

 

条文は、以下のとおり。なお、「子ども」は、18歳未満の者とされている(2条4号)。

 

▽ 「香川県ネット・ゲーム依存症対策条例」(令和2年3月24日 条例第24号)

https://www3.e-reikinet.jp/kagawa-ken/d1w_reiki/50290101002400000000/50290101002400000000/50290101002400000000_j.htm

 

▽ 18条・・・保護者の努力義務を定めた条文(太字や下線は管理人による)

(子どものスマートフォン使用等の家庭におけるルールづくり)
第18条 保護者は、子どもにスマートフォン等を使用させるに当たっては、子どもの年齢、各家庭の実情等を考慮の上、その使用に伴う危険性及び過度の使用による弊害等について、子どもと話し合い、使用に関するルールづくり及びその見直しを行うものとする。

2 保護者は、前項の場合においては、子どもが睡眠時間を確保し、規則正しい生活習慣を身に付けられるよう、子どものネット・ゲーム依存症につながるようなコンピュータゲームの利用に当たっては、1日当たりの利用時間が60分まで(学校等の休業日にあっては、90分まで)の時間を上限とすること及びスマートフォン等の使用(家族との連絡及び学習に必要な検索等を除く。)に当たっては、義務教育修了前の子どもについては午後9時までに、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめることを目安とするとともに、前項のルールを遵守させるよう努めなければならない

3 保護者は、子どもがネット・ゲーム依存症に陥る危険性があると感じた場合には、速やかに、学校等又はネット・ゲーム依存症対策に関連する業務に従事する者等に相談し、子どもがネット・ゲーム依存症にならないよう努めなければならない。

 

というわけで、名宛人(主語)がすべて「保護者」になっていることからわかるように、「子ども」には、一切義務を課す内容は入っていない。

 

個人的には、この条例の憲法的な問題点は認識されていたため、なるだけ制約がソフトになるように、言い方を変えれば”骨抜き”になるように設計したのではないかな、と思う(個人的意見です。親の教育権という別の論点を浮上させることにもなるけれど)。

 

 

その他気を使っている点

この、"なるだけ制約がソフトになるように気を使っている感じ“は、
・「制限」が「家庭におけるルールづくり」に修正、
・当初「基準」とされていた利用時間や終了時間が「目安」に修正、
というような、審議プロセスに関する以下の説明を見ても、なるだけコンサバにつくってリスクヘッジしようとしたのだろうな…という印象を受ける(個人的意見です)。

 

▽ご提言等の内容 ネット・ゲーム依存症対策条例案の再議について|香川県庁HP(公開日2020/05/01)

https://www.pref.kagawa.lg.jp/content/etc/kenmin/pages/kperj7200318220253.shtml

 

なお、「平日は60分まで」などの利用時間については、令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果において、平日のゲームの使用時間が1時間を超えると学業成績の低下が顕著になることや、香川県教育委員会が実施した平成30年度香川県学習状況調査において、スマートフォンなどの使用時間が1時間を超えると、使用時間が長い児童生徒ほど平均正答率が低い傾向にあるという結果などを参考に、基準として規定されたものであると聞いています。

今回、可決された条例では、条文の見出しである「子どものスマートフォン使用等の制限」について、「制限」が「家庭におけるルールづくり」に修正されるとともに、家庭におけるルールづくりの「基準」とされていた「平日60分まで」などの利用時間や「午後9時まで」などの使用の終了時間は、「おおよその基準」を意味する「目安」に修正されています。

 

また、上記に書かれているように、「令和元年11月に国立病院機構久里浜医療センターから公表された全国調査結果」という、一応の客観的資料はもって立法したようである。

 

立法事実としてどれほどの意味があるのかは、今後訴訟で議論されるだろうと思う。

 

 

余談(対事業者での問題点)

ちなみに余談だが、事業者に対しては、同じく罰則はないとしても、努力義務ではなく法的義務になっているので、こちらの方が相対的には可能性があったのではないかという気も、個人的にはする。

 

(事業者の役割)
第11条 インターネットを利用して情報を閲覧(視聴を含む。)に供する事業又はコンピュータゲームのソフトウェアの開発、製造、提供等の事業を行う者は、その事業活動を行うに当たっては、県民のネット・ゲーム依存症の予防等に配慮するとともに、県又は市町が実施する県民のネット・ゲーム依存症対策に協力するものとする。

2 前項の事業者は、その事業活動を行うに当たって、著しく性的感情を刺激し、甚だしく粗暴性を助長し、又は射幸性が高いオンラインゲームの課金システム等により依存症を進行させる等子どもの福祉を阻害するおそれがあるものについて自主的な規制に努めること等により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。

3 特定電気通信役務提供者(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)第2条第3号に規定する特定電気通信役務提供者をいう。)及び端末設備の販売又は貸付けを業とする者は、その事業活動を行うに当たって、フィルタリングソフトウェアの活用その他適切な方法により、県民がネット・ゲーム依存症に陥らないために必要な対策を実施するものとする。

 

 

私見(今後の落としどころ)

以下、余計なお世話だが(笑)、自分が勝手に考える”落としどころ”を書いてみたいと思う。

 

裁判所で、違憲の判断は出ないと思う(それは、強制力が一切ないとか、他にもいろいろと気を使って工夫された”骨抜き”な立法になっているから)。

 

それで県の顔も立つ。しかし、この提訴や県民の反対の声も聞こえてきたので、という理由で、条例を廃止する。そうすれば原告も「試合に負けて勝負に勝った」みたいになる。それしかないのではと思う。

 

その上で、医学的な指針をつくるようにアプローチを切り替える、とか。ゲームは、酒やタバコと違ってデバイスを使うから、実効性担保については、アプリとかでテクノロジー的に制限できる可能性とかあるんじゃないか??と思う(デバイスも親に内緒で買ってしまったら出来ないけど)。

 

違憲性については、要するに、法制執務担当者(やおそらく議員も?)も憲法的な懸念点はわかっているので、「目安」に過ぎないとか、「親」に対する「努力義務」に過ぎないとか、罰則はなく強制力が一切ないとか、あらゆる面で骨抜きになっているので、この条例は属性的には理念法の類なのである。

 

そうすると、裁判所の方も、「理念法の類でも違憲になる」という初の切り口を含む違憲判断ということになるので、ただでさえ出にくい違憲判断が、余計に出にくいと思う。

 

ちなみにもし自分が現場で、起案担当者だったらと思うとぞっとする。自分なら、何でこんなヘンテコリンな条例を起案せねばならんのだ…と思うだろうと思う(その場にいたら、仕事である以上やるしかないのだが)。

 

これをドラフトした現場レベルの法制執務担当者も、きっといやいや書いたのではないだろうか?と思ってしまう。もちろん、それはわからないけど。先進的な条例だ、と思って、たとえば顧問の意見なども聞きながら喜々として起案・推敲したのかもしれない。

 

おそらく、原告の親子の方々も、諸々をわかった上で提訴しているのだろうと思うし、こういった社会問題提起型の訴訟は大事だと思うし、実際クラウドファンディングなども使ってここまでこぎつけたのは本当に凄いと思う。

 

なので、これを無駄にしないためにも、議会・行政のほうはこの提訴で”きっかけ”を作ってもらったと捉え、合憲判断が出てメンツは保たれた後に、自主的にこれを理由にして廃止にすべきではないかと。

 

この終わり方が1番きれいだと思う。というか、これ以外にないと個人的には思う。存置させたままでは混乱も終わらないだろう。

 

もちろん、条例を支持している人もいるだろうから、そういう方々にとっては、別に混乱でも何でもなく、良い状態ということになるのだろう。だが、個人的には、「これ何なん?どう扱ったらいいのよ…」というグジュッとした状態が続いているように見えるので(実際、少なくとも今のところ後続の自治体は見られない)、そのままの状態でいくのは良くないと思う。

 

 

結び

ちなみに、原告の訴訟代理人になっている作花知志弁護士は、弁護士業界では違憲訴訟で有名な大物である。

 

▽ 戦後10例目の違憲判決をたった一人で勝ち取った異才、作花知志弁護士の「思考法」|弁護士ドットコム(2018/04/07)

https://news.line.me/articles/oa-bengo4com/dcbbcc5671bf

 

なので、当ブログでの管理人の意見としてはいろいろ書いたが、よほど原告代理人弁護士の方が権威性・影響力のある人なので笑、ひとこと補足まで。訴訟の経過には、今後も注目が集まるだろうと思う。

 

なお、条例の成立・施行の頃のニュースで、自分は以下のようなnote記事も書いていた。

 

 

条例という法形式を選択したのは間違いで、医学的な文脈で取り上げるべきでは、とか、親の子供に対するしつけみたいな文脈で取り上げた(そういうのが混ざっている)のが良くないと思う、みたいなことを書いている。

 

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

 

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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