商標法 法律ニュース

「ぴえん」絵文字の商標出願ってどうなるの?

先日、「ぴえん」の絵文字が商標出願されていた、というのがネットニュースになっていました。

▽「ぴえん」商標出願で使えなくなる? アパレル会社申請にネット物議も「保険的な意味」|J-CASTニュース
https://www.j-cast.com/2020/11/20399418.html

へえ…と思って、あんまりこういう変化球っぽいのを実際に仕事で見たことはないんですけど、ちらっと調べてみるとけっこう面白かった(興味深かった)ので、今回はこれについて書いてみたいと思います。

なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

商標登録されるとどうなるのか?

そもそも登録された場合にどうなるのか、という話ですけども、商標権は、「商品・役務についての使用を独占する権利」なので、普段SNSとかで使っているような使用の仕方ができなくなるということではないです。

商標の「使用」概念、という話になるんですけど、商標の使用というのは、

〇商品又は商品の包装に標章を付する行為(2条3項1号)
〇役務の提供にあたりその提供を受ける者の利用に供する物に標章を付する行為(2条3項3号)

など、自己の商品・役務を表すマーク(標章)として使用する場合のことを指しています。

なので、一般人の普段の使い方ができなくなる、みたいなことではないです。

ちなみに、商標登録すればあらゆる範囲の商品・役務のマークとして独占使用できるわけでもなくて、登録の際に指定した商品・役務の範囲に限られます。

指定する商品・役務は、「区分」(世の中のあらゆる商品・役務を、45種類のカテゴリに分けたもので、1~34類までが商品の区分、35~45類までが役務の区分)に分けられており、区分ごとに登録のコストがかかります。

なので、たくさんの区分で登録しようとすると、それだけ費用もたくさんかかるようになっています。

商標登録されるのか?

で、商標登録されるのか?という点ですけど、商標の登録要件は、ざっと見ると以下のような感じになっています。

自己の業務に係る商品役務について使用すること(3条1項)
自他識別力があること(3条1項)
 ┗自他識別力が否定される場合:1号~6号
不登録事由がないこと(4条1項)
 ┗不登録事由:1号~19号

不登録事由というのは、それにひっかかると商標登録が認められない、というものです。

一応、論点になりそうなのは、上記②の自他識別力があるのかないのかという点と、著作権との兼ね合いが上記③の不登録事由にひっかからないか、という点かなと思います。

自他識別力があるのか?

冒頭のニュースにもありますが、玩具メーカーが、おもちゃ等を指定商品に「ぴえん」の文字商標を出願していたようです。

で、これは、上記②の自他識別力がないという理由で、拒絶理由通知が出ていたようです。
(商標法3条1項6号の「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」)

自他識別力、というのが何かわかりにくいですが、自己の商品・役務と他人の商品・役務とを区別できることです。

商標法って「Trademark Law」というのですけど、要するに商標っていうのは、いわゆる「トレードマーク」なわけです。

事業者などが自社商品・役務を表すものとして使用し、企業努力によって信用を染み込ませていき、一定の名称とかロゴ(図形)とか音とかを見聞きすると、「あっ、あそこのだ」ってわかるようになるもの、です。

そういう自他識別性を獲得できるものでないと、「トレードマーク」にならないでしょ、という感じですかね。
(無数の使用例が見つかるものは、識別性がないという理由で6号の拒絶理由通知が発せられる)

ただ、拒絶査定不服審判まで進むと、当業界では一般的ではないとして登録が認められる審決が出たりする場合もあるようなので、もし絵文字の商標が同じ判断を下されたとしても、それだけではまだどうなるかわからないのかなと思います。

参考:商標登録出願手続の流れ

【出願】
   ↓
【審査】
   ↓
【査定】(拒絶査定or登録査定)
   ↓ 登録査定なら
【登録】

※拒絶査定を出そうとするときは、査定の前に、出願人に意見を提出する機会を与えるため拒絶理由通知を出すことになっている(15条の2)

ちなみに、商標法第3条第1項第6号(前号までのほか、識別力のないもの)についての商標審査基準はこちら(特許庁HP)。

著作権との関係は?

次に気になるのは、絵文字の著作権と抵触するのではないか?という点かなと思います。

ただ、商標法は、「著作権と抵触しないこと」を直接に要件としている条文はないです。

上記③の要件、”こういうのに該当すると商標登録できない”という事由を「不登録事由」といいますが、そのなかに、公序良俗に反することを不登録事由とする条文があるので、これとの関係が一応問題になります。

(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

しかし、この点は、他人の著作権との抵触の懸念は、直ちに公序良俗違反となるわけではないとされています。

例えば、以下のような裁判例があります。

東京高判平成13年5月30日(キューピー人形図形事件)|裁判例検索(裁判所HP)

(2) そこで、図形等からなる商標について登録出願がされた場合において、その商標の使用が他人の著作権を侵害しこれと抵触するかどうかを判断するためには、単に当該商標と他人の著作物とを対比するだけでは足りず、他人の著作物について先行著作物の内容を調査し、先行著作物の二次的著作物である場合には、原著作物に新たに付与された創作的部分がどの点であるかを認定した上、出願された商標が、このような創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、このような創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することが必要である。著作権は、特許権、商標権等と異なり、特許庁における登録を要せず、著作物を創作することのみによって直ちに生じ、また、発行されていないものも多いから、特許庁の保有する公報等の資料により先行著作物を調査することは、極めて困難である。

(3) また、特許庁は、狭義の工業所有権の専門官庁であって、著作権の専門官庁ではないから、先行著作物の調査、二次的著作物の創作的部分の認定、出願された商標が当該著作物の創作的部分の内容及び形式を覚知させるに足りるものであるかどうか、その創作的部分の本質的特徴を直接感得することができるものであるかどうかについて判断することは、特許庁の本来の所管事項に属するものではなく、これを商標の審査官が行うことには、多大な困難が伴うことが明らかである。

(4) さらに、このような先行著作物の調査等がされたとしても、出願された商標が他人の著作物の複製又は翻案に当たるというためには、上記のとおり、当該商標が他人の著作物に依拠して作成されたと認められなければならない。依拠性の有無を認定するためには、当該商標の作成者が、その当時、他人の著作物に接する機会をどの程度有していたか、他人の当該著作物とは別個の著作物がどの程度公刊され、出願された商標の作成者がこれら別個の著作物に依拠した可能性がどの程度あるかなど、商標登録の出願書類、特許庁の保有する公報等の資料によっては認定困難な諸事情を認定する必要があり、これらの判断もまた、狭義の工業所有権の専門官庁である特許庁の判断には、なじまないものである。

(5) 加えて、上記のとおり、特許庁の審査官が、出願された商標が他人の著作権と抵触するかどうかについて必要な調査及び認定判断を遂げた上で当該商標の登録査定又は拒絶査定を行うことには、相当な困難が伴うのであって、特許庁の商標審査官にこのような調査をさせることは、極めて多数の商標登録出願を迅速に処理すべきことが要請されている特許庁の事務処理上著しい妨げとなることは明らかであるから、商標法四条一項七号が、商標審査官にこのような調査等の義務を課していると解することはできない。

(6) したがって、その使用が他人の著作権と抵触する商標であっても、商標法四条一項七号に規定する商標に当たらないものと解するのが相当であり、同号の規定に関する商標審査基準にいう「他の法律(注、商標法以外の法律)によって、その使用等が禁止されている商標」には該当しないものというべきである。そして、このように解したとしても、その使用が商標登録出願の日前に生じた他人の著作権と抵触する商標が登録された場合には、当該登録商標は、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により使用することができないから(商標法二九条)、不当な結果を招くことはない。

ちなみに、商標法第4条第1項第7号(公序良俗違反)についての商標審査基準はこちら(特許庁HP)。

ただ、この判決文にもあるように、商標法29条の点があるので、結局、別途、著作権のライセンス処理は必要になるんだろうなと思います。

(他人の特許権等との関係)
第二十九条 商標権者、専用使用権者又は通常使用権者は、指定商品又は指定役務についての登録商標の使用がその使用の態様によりその商標登録出願の日前の出願に係る他人の特許権、実用新案権若しくは意匠権又はその商標登録出願の日前に生じた他人の著作権若しくは著作隣接権と抵触するときは、指定商品又は指定役務のうち抵触する部分についてその態様により登録商標の使用をすることができない

フリー素材ではないでしょうし、いずれにせよ規約の範囲はたぶん超えているんだろうなと。
(※注:絵文字の著作権の有無・帰属やライセンス関連は確認しているわけではないので、鵜呑みにされないようご留意お願いします)

結び

結局、商標登録されるかどうかはまだわからないですけど、

✓ 商標登録できるかどうかという点では、当業界における自他識別力を立証できるのかという点が、

 (登録される場合もされない場合も)実際に使っていけるかどうかという点では、著作権のライセンス処理という点が、

それぞれ検討点となる、という感じなのかなと思います。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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