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法律ニュースの解説 #6|「ひき逃げ」って法律的にはどういうもの?【道交法上の救護義務違反】

芸能人で俳優の方の件が話題になっていますが、以前は女性アイドルの方の事件も話題になったりして、ひき逃げの事件はたまにニュースに上っている印象があります。

 

「ひき逃げ」って呼び方はよく聞きますし、ニュースでもそのように報道されますが、これは法律的には何なのか?ということを書いてみたいと思います。

 

なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

 

 

道交法上の救護義務違反

結論からいうと、「ひき逃げ」というのは社会的な通称で法律上の名称ではなく、法律上は、道路交通法上の救護義務違反・報告義務違反というものになります。


報告義務違反は物損の場合でも問題になり得るので、厳密には、救護義務違反だけかもしれません。が、通常、ひき逃げが起訴されるときはこの両方が起訴されます。

 

救護義務というのは、もちろん被害者(負傷者)を救護することで、報告義務というのは、事故の発生を最寄りの警察署に報告することです。

 

それ自体に罰則があります。つまり、人身事故(過失運転致傷)とはまた別の犯罪が成立してしまうわけです。

 

▽「ひき逃げ」の法的な整理→複数の犯罪が成立してしまう

<事故時>
「人身事故」=過失運転致傷の罪=自動車運転死傷処罰法5条
 ↓
<事故後>
「ひき逃げ」=道路交通法違反の罪=道路交通法72条1項(救護義務・報告義務)違反

※つまり、その場に留まり、事故発生を報告し、必要に応じた救護義務を果たせば、人身事故の部分だけで済む

 

罰則も重いです(=法定刑の上限の重さ)。救護義務違反の部分は、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。

 

また、それ以上に、量刑の判定が非常に重いです(=実際上の重さ)。捜査機関は断固とした姿勢で臨んでいますし、それこそ天と地ほどの違いがあると言っても過言ではありません。

 

条文は、以下のような感じです。

◯過失運転致傷=自動車運転死傷処罰法5条
◯救護義務違反=道交法72条1項段、117条2項・1項
◯報告義務違反=道交法72条1項段、119条1項10号
(※前段というのは、2つの文章があるときの1つ目の文章のこと、後段は2つ目の文章のこと)

 

▽過失運転致傷の罪

自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

 

▽道路交通法違反の罪

道路交通法

(交通事故の場合の措置)
第七十二条 交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。この場合において、当該車両等の運転者(運転者が死亡し、又は負傷したためやむを得ないときは、その他の乗務員。以下次項において同じ。)は、警察官が現場にいるときは当該警察官に、警察官が現場にいないときは直ちに最寄りの警察署(派出所又は駐在所を含む。以下次項において同じ。)の警察官に当該交通事故が発生した日時及び場所、当該交通事故における死傷者の数及び負傷者の負傷の程度並びに損壊した物及びその損壊の程度、当該交通事故に係る車両等の積載物並びに当該交通事故について講じた措置を報告しなければならない

↓救護義務違反の罰則
第百十七条 車両等(軽車両を除く。以下この項において同じ。)の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
2 前項の場合において、同項の人の死傷が当該運転者の運転に起因するものであるときは、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

↓報告義務違反の罰則
第百十九条 次の各号のいずれかに該当する者は、三月以下の懲役又は五万円以下の罰金に処する。
十 第七十二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた

 

 

普通の人身事故とどれほど違うのか?

普通の人身事故(=その場から立ち去らず、必要な救護や事故の報告をした)であれば、怪我の程度によっては罰金で済みます。

 

略式起訴といって、裁判の期日(=公判期日)が開かれないで略式命令が下される、という簡易な手続で、罰金で終わる手続です。

 

しかし、これが「ひき逃げ」になるとどうなるかというと、怪我の程度はそれはそれとしてあるとして、救護義務違反それ自体が犯罪として重く評価されるため、通常、もはや略式起訴では済まなくなります。

 

つまり、正式裁判になる=懲役刑になる、ということです。もちろん、初犯の場合は通常、執行猶予がつきますので、実際に刑務所にいくことはありません。

 

繰り返しになりますが、救護義務違反がくっつくかくっつかないかで、天と地ほど違います。なので、芸能人の方のニュースかどうかで注目するというよりは、報道によって一般人として知っておくべきことというのは、その点だと思います。

 

捜査機関も裁判所も、芸能人だからといって特別扱いは特にないです(もしあったら逆に問題だろうなと)。薬物事犯も交通事犯もそうですが、淡々と他の事件と同様に処理しているだけなので。芸能人の方は注目されやすいので、報道が過熱気味になっているだけなのかなと。

 

 

芸能人であることで何か違いがあるとしたら?

ではちなみに芸能人とか有名人であるということによって何か差が出る点があり得るか?というと、仕事上の諸々の不利益を受けることが、一般情状のうち、いわゆる社会的制裁として評価される可能性はあると思います。

 

ただ、大勢に影響を及ぼすほどの大きな影響はないと思います(実際に芸能人の方を弁護した事はないので知りませんが)。

 

ちょびっとだけ説明すると、量刑の基本的な考え方というのは、「犯情」と「一般情状」の大きく2つに分けるというものです。

 

量刑事情
 ∟犯情
   ∟動機・経緯
   ∟行為
   ∟結果
 ∟一般情状(犯情以外の事情)

 

「犯情」というのは、主に「行為」と「結果」のことで、何をして・どういう結果を引き起こしたか、ということです。語感的には、「犯」罪そのものとして規定されている事「情」、という感じですかね(管理人の感覚的理解)。

 

量刑にダイレクトに影響するのは、犯情の方です。まあ感覚的にも当然かなという感じですけども。

 

これに対して、犯情以外に量刑上考慮されるあらゆる事情のことを、「一般情状」といいますが、通常、それほど大きくは量刑に影響しないです(犯情の方が優先。ただ、一般情状でも、被害回復や示談成立などはインパクトが大きいです)。

 

この一般情状には、「社会的な制裁を既に受けている」ということなども含みます(例えば、それきっかけで仕事が減った、退職に至ったといった事情は、一般人の場合でも弁論で主張される)。なので、芸能人で、いわば仕事上の諸々の不利益を本人として受けたというのは、一般情状にはなり得る、というわけです。

 

なお、免許取消しなど行政処分を受けたことも一般情状として主張されたりします。

 

が、それほど大きな影響はないと思います。あくまで犯情が優先です。

 

ちなみに、そんなこと自分には関係ないよ、と思う方が多いと思いますが、実は、全く関係ないわけでもないのです。

 

なぜか?というと、裁判員裁判があるからです。
(※道路交通法違反の事件が裁判員裁判になる、という意味ではないです。一般的な意味で。)

 

もし裁判員の候補者に選ばれ、選任されたときは、量刑に関しても裁判員が判断することになりますので、この「犯情」と「一般情状」に大きく分けた量刑の基本的な考え方を最初にレクチャーされるわけです、裁判所から。そういうのも踏まえつつ、市民感情も反映して、裁判員の方が量刑意見を形成していきます。

 

 

結び

「ひき逃げ」といっても、法律的にどういう中身なのかというのは、案外、ニュースで見ない気がするんですよね(全くというわけではないんですけど)。

 

また、救護義務・報告義務を果たすかどうかで天と地ほどの差がある(=事故を起こしてしまったら、絶対にその場にとどまって、必要な救護と110番等での報告をしないといけない)ということを見ておいてもいいんじゃないかな、と思って、本記事を書いてみました。

 

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

 

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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