今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、契約の有効期間について見てみたいと思います。
※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています
ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
一回的契約と継続的契約
契約の有効期間を定める必要があるのは、継続的契約の場合です。
継続的契約には、わかりやすい例でいうと、賃貸借契約や業務委託契約などがあります。契約に基づく給付が継続的に行われるものになります(賃貸借は”貸し続ける”、業務委託は”役務を提供し続ける”)。
ほか、取引基本契約(個別契約が多数ある場合に、それらに共通して適用される最大公約数的な内容を取り決めておく契約)なども、有効期間を定めておく必要があります。
一回的契約というのは、売買契約など、契約に基づく給付が一回で終わるものなので、有効期間を定める必要は普通はありません。
請負契約というのも、実際の作業は長期間にわたって行われますが、契約に基づく給付は仕事の完成義務なので、普通は一回的契約であることが多いと思われます。
(例えば、建築工事請負契約などは長期間にわたって工事が行われるが、工期(着工日、完成日、引渡日など)と何度かの代金支払期日が定められているだけで、契約の有効期間というのは普通ない)
有効期間の定め方
契約の有効期間の定め方には、
- 「始期」と「終期」を両方ピンポイントで決めておく方法
- 「始期」を決めておいてそこからの「期間」を決める方法
の2つがあります。
①「始期」と「終期」を決める
例えば、
本契約の有効期間は、2020年11月1日から2022年10月31日までとする。
といった場合、要するに2年契約なわけですが、始期も終期もピンポイントで決まっているので、最もわかりやすいといえます(読んだまま)。
2020年11月1日が始期、2022年10月31日が終期となります。
②「始期」とそこからの「期間」を決める
また、例えば、
本契約の有効期間は、2020年11月1日から2年間とする。
というふうに、「始期」とそこからの「期間」で定める方法もあります。
この場合、2020年11月1日が起算日、2022年10月31日(月曜)が満了日になります。
期間の計算方法
さて、さらっと書きましたが、上記②のように期間によって定める場合、実は、起算点にも満了点にも、決まり方の理屈がありますので、それを見てみたいと思います。
起算点の決まり方
まず起算点からです。
ここは、初日不算入の原則(民法140条)というのがあります。
▽民法140条
第百四十条 日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
つまり、日、週、月、年を単位をして期間を定めたときは、初日は算入しないのが原則ということです(本文)。
これは何をしているのかというと、要するに、初日が端数になる場合、その端数は切り捨てているわけです。
そのため、午前0時から始まるときは、端数が出ないので、この場合は例外的に初日を算入するとしています(但書)。
上記②の例のところで、「11月1日から2年間」という場合、起算日は11月1日であるとさらっと書きましたが、これは「11月1日から」という表現であれば午前0時から始まるので、140条但書が適用されて、11月1日という初日が例外的に算入されているわけです。
これに対して、「契約締結の日から2年間」という場合、契約を締結するのはその日中のどこかの時点になりますので、原則どおり初日は不算入となり(端数として切り捨てられる)、契約締結日の翌日が起算点となります。
なので、
本契約の有効期間は、契約締結の日から2年間とする。
という条項で、契約締結日が11月1日だった場合どうなるか?というと、契約締結日である11月1日は初日不算入となり、11月2日が起算点となります。
ちなみに、それでも契約締結の日を起算日にしたいという場合は、「契約締結の日から起算して2年間とする」と書くことになります。
法律行為に「別段の定め」があることになります(民138条)
満了点の決まり方
満了日については、
▽民法141条、142条(※【 】は管理人注)
(期間の満了)
第百四十一条 前条の場合【=日、週、月又は年によって期間を定めたとき】には、期間は、その末日の終了をもって満了する。
第百四十二条 期間の末日が日曜日、国民の祝日に関する法律(昭和二十三年法律第百七十八号)に規定する休日その他の休日に当たるときは、その日に取引をしない慣習がある場合に限り、期間は、その翌日に満了する。
とされています。
期間は、末日の終了(24時いっぱい)をもって満了するということです(141条)。
ただし、末日が日曜や祝日などのときは、取引をしない慣習がある場合に限り、末日の翌日に満了します(142条)。
月初からの場合
ただ、期間のとり方に関しては、「月とか年とかいっても、30日や31日の月もあるし、365日の平年も366日の閏年もあるでしょ?そのへんどうなるの?」という疑問も湧いてきますが、それについては、暦によって計算する、とされています。
暦によって計算するというのはつまり、月を30日に固定したりとか、年を365日に固定したりはしない、ということです。
▽民法143条1項
(暦による期間の計算)
第百四十三条 週、月又は年によって期間を定めたときは、その期間は、暦に従って計算する。
例えば、
本契約の有効期間は、2020年11月1日から2年間とする。
という場合、2020年が閏年であるとかそういうことは気にせず、暦に従って、2022年10月31日(月曜)が満了日となる、ということになります。
また、
本契約の有効期間は、2020年11月1日から6か月間とする。
といった場合も、その間には30日間の月も31日間の月も28日間の月もありますが、そういうことは気にせず、暦に従って、2021年4月30日(金曜)が満了日となる、ということになります。
月の途中からの場合
しかし、月の途中から期間を計算する場合は、”暦に従って計算する”といっても意味不明な感じになってしまうので、「起算日に応当する日の前日」が満了日になる、という規定ぶりになっています。
▽民法143条2項
2 週、月又は年の初めから期間を起算しないときは、その期間は、最後の週、月又は年においてその起算日に応当する日の前日に満了する。ただし、月又は年によって期間を定めた場合において、最後の月に応当する日がないときは、その月の末日に満了する。
例えば、
本契約の有効期間は、2020年11月15日から6か月間とする。
といった場合、11月15日が起算日(140条但書により初日算入)、応当する日は2021年5月15日で、その前日である2021年5月14日(金曜)が満了日になる、ということになります。
ありそうな事例を練習
最後に、ありそうだけれども若干ややこしい事例を練習してみたいと思います。
例えば、
本契約の有効期間は、契約締結の日から6か月間とする。
といった場合で、契約締結の日が2020年11月1日だったとき、どうなるかを考えてみます。
起算点については、契約締結の日である11月1日は初日不算入となるので、起算日は2020年11月2日となります。
満了日については、月の途中からの起算になるので(11/2だから)、応当日(5/2)の前日である2021年5月1日(土曜)が満了日となります。
なんとなく、2021年4月30日が満了日かなと思ってしまいそうですが、意外とそうではないので、若干注意しておいた方がいいかなと思います。
自動更新条項
契約の有効期間を定めている場合、そこで契約を終了させたいのであれば、それだけでOKです。
ただ、一応の区切りにしているだけで、契約期間中に特に問題がなかったならば契約を継続していきたいという場合、再契約するのも面倒ということで、自動更新条項がついている場合が多くあります。
例えば、
ただし、期間満了の〇か月前までに、甲又は乙から書面による解約の申出がないときは、本契約と同一の条件でさらに〇年間更新されるものとし、以後も同様とする。
といったように、ただし書などで自動更新条項がついている場合です。
ちなみに、ここにも期間の計算、つまり、「期間満了の〇か月前までに」という部分があります。
民法の規定は、実は、将来に向かって期間を計算するときの規定で、過去に向かって計算するときの規定ではないのですが(例えば、民140条但書の書きぶりなどを参照)、この場合にも民法の規定が準用されるというのが判例・通説です。
例えば、
期間満了の3か月前までに解約の申出が必要とされていて、2020年11月30日が期間満了日
という場合、遅くとも2020年8月31日中には解約の申出が相手方に到達していないといけない、ということになります。
どういうことかというと、
11月30日が期間満了日
↓
24時の満了なので民140条但書の準用により初日を算入し(∵期間が24時から始まる)、3か月の起算点は11月30日(24時)となる
↓
月末からになるので民143条1項の準用により(∵期間が月末から始まる)、暦に従って、9月1日(0時)が3か月の満了点となる
ということになります。
結び
今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、契約の有効期間について見てみました。
期間の計算方法については、以下の関連記事にくわしく書いています。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
民法(債権関係)改正の資料
- 部会資料1~88-2(民法(債権関係)部会資料)(法務省HP)
- 中間試案補足説明(「民法(債権関係)の改正に関する中間試案の補足説明」)(法務省HP)
- 中間試案パブコメ(部会資料71)(平成25年12月27日付意見募集の結果)(e-Govパブコメ)
- 要綱仮案(「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案」)(法務省HP)
- 要綱案(「民法(債権関係)の改正に関する要綱案」)(法務省HP)
- 要綱(「民法(債権関係)の改正に関する要綱」)(法務省HP)
- 民法の一部を改正する法律案(国会提出法案)(法務省HP)
- 民法の一部を改正する法律(債権法改正)について(法務省HP)
参考文献
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