契約の一般条項

契約の一般条項を勉強しよう|期限の利益喪失条項

著作者:pressfoto/出典:Freepik

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、期限の利益喪失条項について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 カテゴリー「会社法務」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

期限の利益とは

期限の利益とは、期限が到来するまで債務の履行を請求されないという債務者の利益のことである。

例えば、貸金の返還債務や代金の支払義務などについて期限が設けられている場合、その猶予期間内であれば、債務者は、債権者から請求を受けない利益(分割返済・分割払いの場合は、一括請求を受けない利益)を享受できる。

もっとわかりやすくいえば、支払期日まで支払を待ってもらえるという利益のことである。

▽民法136条1項、136条

(期限の到来の効果)
第百三十五条
 法律行為に始期を付したときは、その法律行為の履行は、期限が到来するまで、これを請求することができない

(期限の利益及びその放棄)
第百三十六条
 期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
 期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

法律上の原則

債務者がどのような場合に期限の利益を失うのかについて、期限の利益喪失条項がなかった場合はどうなるかというと、法律上の原則に従うことになる。

法律上の原則としては、民法137条がある。

(期限の利益の喪失)
第百三十七条
 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない
一 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき。
二 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき。
三 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき。

つまり、①破産開始決定(1号)、②担保保存義務の違反(2号)、③担保提供義務の違反(3号)、という3つの場合である。

逆にいえば、これ以外の場合は、債務者は期限の利益を失わないことになる。

期限の利益喪失条項の法的意味

しかし、貸金にせよ、代金(売掛金)にせよ、上記3つの場合以外にも、債権者としては、直ちに回収に動くべき場合があり得るので、期限の利益を喪失させる必要がある。

反対債権を有する場合に相殺によって回収することや、担保を有する場合にその実行で回収することも同様である。

あるいは、事業会社では、契約を解除して反対債務の履行を免れる前提として、期限の利益を喪失させる必要がある(期限の利益があるままだと、相手が債務不履行に陥らないため)。

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 「期限の利益喪失」というと、消費者金融や事業者ローンなどの融資実務をイメージしがちな気もしますが、一般論として、売掛金(※)も相手にお金を貸しているのと実質的には同じことになります。

 普通の事業会社でも、業務管理部など与信審査をしている部署は基本的にあるので、「期限の利益喪失」は融資実務の専売特許というわけではありません。

 (※)ここでいう売掛金は、当方側の給付は終わっているが、支払いまで猶予期間があるものという意味で使っています(会計的には売掛金として計上されるとしても、同時履行であるものは含んでいません)。

例えば、3か月など比較的長い支払サイトでのコンサル契約などがあるとする(※実際にはあまり考えられないがわかりやすい例として)。

その取引継続中に、期限の利益喪失事由に該当するようなインシデントが起こった場合に、次の支払時期が来て、不履行になって、解除の通知をして…というところまで、契約上は反対債務の履行を免れないというのは、かなり困った事態である(支払を期待できるかわからないのにコンサルし続けないといけないし、回収困難な債権が増えていく)。

そのため、期限の利益喪失条項を設けるわけである。

期限の利益喪失条項の記載項目

期限の利益喪失事由

期限の利益喪失条項の記載項目は、もちろん、どのような場合に期限の利益を失うかという、喪失事由である。

例えば、

【信用不安を生じさせる事由】

  • 支払停止、支払不能の状態となったこと
  • 手形交換所から取引停止処分を受けたこと、または手形・小切手が不渡りとなったこと
  • 差押、仮差押、仮処分の申立てを受けたこと、競売(担保権実行)の申立てを受けたこと、公租公課の滞納処分を受けたこと

【法的な倒産処理手続が開始される事実】

  • 破産手続、民事再生手続、会社更生手続、特別清算手続の申立てを受けたこと、自ら申立てを行ったこと

【事業遂行に影響を与える事由】

  • 解散、合併、会社分割、事業譲渡が決議されたこと
  • 監督官庁から許可・登録等の取消し処分を受けたこと、業務の停止等の処分を受けたこと

【包括的な事由】

  • 資産または信用状態に重大な悪化が生じ、債務の履行が困難と認められること
  • その他これらに準じる事態が生じたこと

などが考えられる。

そのほか、やや深刻さが緩やかな事由として、

  • 支払遅滞があったこと
  • 契約違反があったこと

などがある。

支払遅滞も契約違反だが、金融機関による融資の場合はそれが特に重要なものなので、別立てで記載される。

当然喪失と請求喪失

また、期限の利益喪失の方式としては、

  • 一定の喪失事由が生じた場合には、当然に期限の利益を喪失するという方式(当然喪失
  • 一定の喪失事由の発生に加えて、債権者からの請求があってはじめて期限の利益を喪失する方式(請求喪失

という2つがあり得る(※そのようにしないといけないというわけではない)。

なぜかというと、期限の利益喪失事由にもいくつかあって、その深刻さの程度には幅があるからである。

比較的重大で、債務の履行がおよそ期待できなさそうな場合は当然喪失とされる。

これに対して、債務者に喪失事由の解消の機会を与えることができる場合は請求喪失とするのが一般的である。例えば、支払遅滞や、契約違反は、請求喪失とされていることが多い。

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 解除条項にも、催告解除と無催告解除の2種類が設定されることが一般的ですが、それと同じような話です。

 どちらもつまりは、相手方に是正の機会を与えるかどうか、ということです。

 期限の利益喪失条項については、前述のように、請求を行える状態にするほか、債務不履行解除を行うための前提を整える(遅滞に陥らせる)という意味をもつので、通常、解除も同時並行的に検討されます。

 そのため、解除も行えるよう、契約書でも、解除条項と連動して定められることが一般的です(解除事由をそのまま期限の利益喪失事由とする)。その際、当然喪失事由は無催告解除事由に、請求喪失事由は催告解除事由に、内容的には対応しているかと思います。

期限の利益喪失通知の出し方

請求喪失の場合の請求は、請求の有無をめぐる紛争を避けるために、配達証明付き内容証明郵便で発送するのが通常である。

結び

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、期限の利益喪失条項について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

参考文献・主要法令等

参考文献

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主要法令等

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