消費者法

消費者契約法を勉強しよう|免責条項ー債務不履行責任、不法行為責任

今回は、消費者契約法を勉強しようということで、債務不履行または不法行為による損害賠償の免責条項(法8条1項)について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

免責条項の無効

消費者契約法8条1項は、債務不履行または不法行為による損害賠償を全部免責する条項を無効としています。

また、一部免責であっても、それが故意または重過失に基づく損害賠償を免責するものである場合には、やはり無効としています。

▽法8条1項

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条
 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
 (略)

「免責条項が無効」の意味

 なお、免責条項が無効とされたとしても、それで消費者側からの損害賠償が認められるという意味ではありません。

 あくまでも免責条項という特約が無効となっただけです。実際にどれだけの損害賠償請求が可能かどうかは、法律上の原則(民法など)に従って判断されることになるので、その要件(債務不履行の要件、不法行為の要件)を充足するかどうか、にかかってきます。

以下、債務不履行、不法行為の免責条項の順に見てみます。

債務不履行による損害賠償の免責条項(法8条1項)

全部免責(1号)

1号は、債務不履行による損害賠償を全部免責する条項を無効としています。

▽法8条1項1号

 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

全部を免除とは、「一切損害賠償責任を負いません」とか「一切責任を負いません」などのように、事業者が損害賠償責任を一切負わないとすることです。ゆえに、一部免責する条項や、立証責任を消費者に転換する条項は、本号には該当しません。

責任の有無・・を決定する権限の付与とは、「~と当社が認めた場合」とか「~と当社が判断する場合」などのように、事業者の決定でその事業者が責任の全部を負わないようにすることを可能にすることです。

「当社が認めた場合」には責任を負う旨の表現があると、一見、全部免責されない場合もあるように見えますが、(客観的には責任が発生する場合でも)事業者の一存で全部免責されることを可能にするものなので、単純に全部免責している場合と同様の扱いになっています

一部免責(2号)

債務不履行による損害賠償の一部を免責する条項は、事業者の故意または重過失に基づく損害賠償を免責する場合に限って無効となります(下線部参照)。

▽法8条1項2号

 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

逆にいうと、事業者に軽過失(重過失以外の過失)がある場合の損害賠償の一部免責については、本号では無効とされません。そのため、有効性について争う場合には、消費者契約法の他の条項(法10条)や民法(公序良俗違反による無効)など、他のルールによることになります。

一部を免除とは、「○○円を限度とします」とか「特別損害については責任を負いません」などのように、事業者が損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負うとすることです。

責任の限度・・を決定する権限の付与とは、「~と当社が認めた場合」とか「~と当社が判断する場合」などのように、事業者の決定でその事業者が責任の一部を負わないようにすることを可能にすることです。

前述と同様、これも一見、一部免責されない場合もあるように見えますが、事業者の一存で一部免責されることを可能にするものなので、単純に一部免責している場合と同様の扱いになっています

全部免責/一部免責の意味

 なお、ちょっと混乱しそうですが、全部免責/一部免責という言葉は、免責する損害賠償の範囲が全部か一部かという話をしています。損害賠償を免責するケースが全部か一部かという話ではありません。

 例えば、「当社に故意又は重大な過失がある場合を除き、当社は損害賠償責任を負いません」といった条項があったときに、これは軽過失の場合についてのみ損害賠償責任を免除しているから一部・・免責の条項にあたる、のではありません・・・・・・・

 これは軽過失の場合に関して損害賠償責任の全部を免責しているので、全部・・免責の条項となります。なので、消費者契約である場合には、1号(と以下で見る3号)に該当し無効となります。

不法行為による損害賠償の免責条項(法8条1項)

全部免責(3号)

3号は、不法行為による損害賠償を全部免責する条項を無効としています。

▽法8条1項3号

 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

ここでいう「不法行為」とは、民法709条の不法行為責任だけではなく、例えば、

  • 民法715条の使用者責任
  • 民法717条の工作物責任
  • 民法718条の動物占有者等の責任

のほか、

  • 代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害に関する法人の損害賠償責任(一般社団法人法78条等)
  • 商法690条(船舶所有者の船長等に関する賠償責任)
  • 製造物責任法3条(製造物責任)

等が考えられる、とされています(消費者庁「消費者契約法逐条解説」(令和5年9月)132頁参照)。要するに、法的性質が不法行為であるものを指すということです。

また、「消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた」という文言は、不法行為責任自体は、契約関係があろうとなかろうと生じるものであるので、本号で扱っているのは、あくまで契約関係にある・・者の間における不法行為の免責条項の有効性であることを明確にしたものです。

第三者責任の免責条項?

 では、仮に、契約関係にない・・者(第三者)に対する責任を全部免責する条項を置いていた場合はどうなるかというと、それはもともと無効です。

 事業者が一方的に宣言しただけで、その第三者との間で何の合意も成立していないためです。消費者契約法で無効にするまでもなく、もともとその第三者との間で何の効力も生じていません。なので、そのような条項は普通は置かないかと思います。

なお、消費者契約に限らない一般論としてですが、契約によっては、第三者に対する責任つまり第三者からの損害賠償がある場合について、その損害に関して契約当事者間での・・・・・・・・負担の仕方や対応方法について定めている場合はあります(第三者責任条項)

そのほかの条文の建付けは、前述の、債務不履行の全部免責の場合と同様です。

全部を免除とは、「一切損害賠償責任を負いません」とか「一切責任を負いません」などのように、事業者が損害賠償責任を一切負わないとすることです。ゆえに、一部免責する条項や、立証責任を消費者に転換する条項は、本号には該当しない。

責任の有無・・を決定する権限の付与とは、「~と当社が認めた場合」とか「~と当社が判断する場合」などのように、事業者の決定でその事業者が責任の全部を負わないようにすることを可能にすることです。

一部免責(4号)

不法行為による損害賠償の一部を免責する条項は、事業者の故意または重過失に基づく損害賠償を免責する場合に限って無効となります(下線部参照)。

▽法8条1項4号

 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

これも、条文の建付けは、前述の、債務不履行責任の一部免除の場合と同様です。

事業者に軽過失(重過失以外の過失)がある場合の損害賠償の一部免責については、本号では無効とされません。そのため、有効性について争う場合には、消費者契約法の他の条項(法10条)や民法(公序良俗違反による無効)など、他のルールによることになります。

一部を免除とは、「○○円を限度とします」とか「特別損害については責任を負いません」などのように、事業者が損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負うとすることです。

責任の限度・・を決定する権限の付与とは、「~と当社が認めた場合」とか「~と当社が判断する場合」などのように、事業者の決定でその事業者が責任の一部を負わないようにすることを可能にすることです。

結び

今回は、消費者契約法を勉強しようということで、免責条項のうち、債務不履行または不法行為による損害賠償の免責条項(法8条1項)について見てみました。

比較的身近な具体例として、以下のような事例があります。会員資格取消措置などをとったことで損害が生じても損害賠償には一切応じないとする規約の条項が、全部免責(1号・3号)にあたるとして無効となっています。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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