消費者法

消費者契約法を勉強しよう|サルベージ条項の無効

今回は、消費者契約法を勉強しようということで、サルベージ条項の無効(法8条3項)について見てみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

サルベージ条項とは

サルベージ条項とは、ある条項が法律に違反し全部無効となる場合に、その条項の効力を法律によって無効とされない範囲に限定する趣旨の文言が記載された条項のことです。

例えば、

「法令に反しない限り」「法令で許される範囲において」etc

といった留保文言があります。

消費者契約法は、このようなサルベージ条項のうち、事業者の損害賠償の一部免責に係るサルベージ条項の無効を規定しています。

英語の「salvage(救出)」に由来します

サルベージ条項の問題点

本来、事業者の損害賠償を一部免責する条項は、事業者の故意または重過失に基づく損害賠償を免責する場合には無効となります(法8条1項2号・4号。下線部参照)。

要するに、事業者の故意または重過失に基づく場合にまで一部免責することは認められていません。

▽法8条1項2号・4号

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第八条
 次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする
 事業者の債務不履行当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項
 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものに限る。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除し、又は当該事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項

しかし、法的知識が必ずしも十分でない消費者からすると、そのようなことを誰もが知っているとは限らないわけです。

そういう中で、先ほど見たような留保文言の使用、例えば

法令に反しない限りにおいて、損害賠償の限度額は〇万円とする

といった、責任を限定する範囲を明示しない表現ができてしまうと、消費者にとってどういう場合に通常の損害賠償ができるのか(「法令に反する」場合にはどのようなものがあるのか)がよくわかりません。

そのようにして、本来は請求が可能なケース(事業者の故意または重過失に基づく場合)での損害賠償請求まで抑制されるおそれがある、という不当性があります。

要するに、事業者側が免責の範囲をあえて不明確な表現で書いているということです

サルベージ条項の無効(法8条3項)

そこで、令和4年改正により、事業者の損害賠償の一部免責条項は、事業者が軽過失の場合に限り有効であることを明確に記載していない場合は無効とすることとされました(免責の範囲が不明確な条項の無効)。

▽消費者契約法8条3項

 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする

長いので、分節しながら読むと、

〇事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)
 又は
 消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)
 により
 消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、
〇当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、
無効とする

のようになっています。

どのような場合に「明らかに」しているといえるかは、免責条項が軽過失の場合にのみ適用されることが一般的・平均的な消費者にとって明らかになっているか否かという基準によって判断されますが、よく見られるタイプの一部免責条項では、

「軽過失がある場合に限り…(一部免責)」

「故意又は重過失がある場合を除き…(一部免責)」

といった表現で、明らかにしているといえます(逐条解説(消費者庁) 第8条-Ⅲ-2-②参照)。

▽参考リンク

法律改正案(国会提出法案)概要|消費者庁HP(≫掲載ページ)※第208回国会提出法案
改正法律情報|日本法令索引HP

memo

 結局、消費者契約において、事業者側が損害賠償の免責条項を検討する際の基本的な枠組みは、

  • 全部免責は不可(法8条1項1号3号参照。全部免責はそもそも無効)
  • 一部免責は故意・重過失の場合を除いて可能(1項2号4号参照)
  • 一部免責は軽過失の場合にのみ適用されることを明記する(法8条3項)
  • 一部免責も無制限ではない(法10条。不当条項の一般的な無効(バスケット条項)の適用はある)

ということになります。

 事業者の全部免責条項や一部免責条項については、以下の関連記事にくわしく書いています。

▽関連記事

消費者契約法を勉強しよう|免責条項ー債務不履行責任、不法行為責任

続きを見る

結び

今回は、消費者契約法を勉強しようということで、サルベージ条項の無効(法8条3項)について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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