今回は、法令用語を勉強しようということで、「認める」と「おそれがある」を見てみたいと思います。
法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。
「認める」や「おそれがある」は、条件文にある要件の認定に影響を与える可能性もあり得ますので、いま一度、まとめて意味をチェックしてみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
必要があるとき
法令でも契約書でも、条件文では、特に「認める」や「おそれがある」といった表現をとっていないケースが多いかと思います。
条件文であれば何でもいいですが、ここでは例として、よく見かける「必要があるとき」という表現をピックアップしたいと思います。
この場合、「必要がある」と書いているだけなので、必要性の認定の基準は客観的なものである(=客観的な必要性の存在が必要)と考えられます(林修三「法令用語の常識」〔第3版〕167頁等参照)。
▽民法423条1項
(債権者代位権の要件)
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。
▽民法873条の2
(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限)
第八百七十三条の二 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為
二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済
三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
必要があると「認める」とき
では、これに「認める」という表現が入ったときに、どのような違いが生じ得るか?ということですが(「必要があると認めるとき」)。
主に行政法規における裁量が念頭におかれていますが、この場合、大要、
- 「認める」となっているからといって完全な自由裁量が認められたものではなく、「認める」もやはり客観的な必要性に裏づけられている必要はある
- しかし、その必要度の認定は裁量に任された形になっているので、「認める」がない場合と比べると、裁量を誤ったことが違法の問題にならない(不当の問題にとどまる)場合が多くなるという程度の差はあるといえるだろう
といった旨の記載も物の本ではあったりしますので(前掲・林修三168頁等参照)、「認める」がない場合(「必要があるとき」)と比べると、相対的な程度の差は生じ得るように思います。
例えば、裁判所が判断主体になっているケースなどで「認める」が見られます。
▽民法264条の2第1項
(所有者不明土地管理命令)
第二百六十四条の二 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地(土地が数人の共有に属する場合にあっては、共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地の共有持分)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人(第四項に規定する所有者不明土地管理人をいう。以下同じ。)による管理を命ずる処分(以下「所有者不明土地管理命令」という。)をすることができる。
▽会社法383条1項・2項
(取締役会への出席義務等)
第三百八十三条 監査役は、取締役会に出席し、必要があると認めるときは、意見を述べなければならない。ただし、監査役が二人以上ある場合において、第三百七十三条第一項の規定による特別取締役による議決の定めがあるときは、監査役の互選によって、監査役の中から特に同条第二項の取締役会に出席する監査役を定めることができる。
2 監査役は、前条に規定する場合において、必要があると認めるときは、取締役(第三百六十六条第一項ただし書に規定する場合にあっては、招集権者)に対し、取締役会の招集を請求することができる。
雑感
契約書ではそんなに見かけることはありませんが、たまに、微妙な問題に関してその要件認定のイニシアティブをとりたいという気持ちから、「~であると甲が認めるときは」とか「~であると乙が認めるときは」のような表現を書いたり、あるいは書かれていたりすることがあります。
例えば、市況からしてどうしても必要になる場合には代金の増減の余地を残しておく必要があるとか、タレントの出演契約で最近よくあるような不適切行動があったときに契約を解除できるようにしておく必要があるケースなどで、判断のイニシアティブを持っておきたいときに、このような表現をとろうとする場合があるように思います(わりとデリケートな場面が多い印象)。
法令用語としての意味からすると、完全に胸先三寸のような話にはならないとは思いますが、やはり、「認める」があることによって要件の認定にあたって程度の差は生じてくるように思います(日常的な意味、普通の文言解釈として)。
なので、相手が書いてきたときには、可能な限りは中立的な表現に直した方がよいですし、こちら側で書くときも、いろいろ考えながらという感じになるでしょうか(リテラシーがある相手なら普通は修正しようとする(削除する、合理的理由といった文言をどこかに追加するetc))。
「おそれがある」
また、条件文でよく見られる表現として、「おそれがある」という表現もあります。
「おそれ」とは、なにかの危険が発生する可能性があるとか、なにかネガティブな事実・状態が起こる懸念がある、といった意味になります。
要件の認定に関しては、必ずしも全てのケースでそうであるとは思えませんが(管理人の私見)、物の本では、おそらく主として行政法規の場合を念頭におきつつ、「必要があるとき」「必要があると認めるとき」と比べてもいっそう権限の発動のわくが緩められているといえる、といった記載が見られることもありますので(前掲・林修三169頁)、契約書でも、内容や前後の文脈次第では気をつけた方がよい場合があるかもしれません。
▽民法199条
(占有保全の訴え)
第百九十九条 占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
▽民法258条3項
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
▽商標法4条1項7号・15号・16号
(商標登録を受けることができない商標)
第四条 次に掲げる商標については、前条の規定にかかわらず、商標登録を受けることができない。
七 公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標
十五 他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)
十六 商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれがある商標
漢字では「虞」
ちなみに、「おそれ」は漢字だと「虞」になります。最近は上記のようにひらがなになっていますが、以前の法令では漢字が用いられていました。
例えば、少年法は、審判に付される少年を、①犯罪少年(犯罪行為をし犯罪が成立する少年)、②触法少年(犯罪行為をしたが刑事未成年(14歳未満)であるため犯罪が成立しない少年)、③虞犯少年(犯罪行為をしたわけではないが将来そのおそれのある少年)という3つのカテゴリーに分けていますが、③の「虞」は少年法3条1項3号の「虞」(おそれ)から来ています。
▽少年法3条1項(※【 】は管理人注)
(審判に付すべき少年)
第三条 次に掲げる少年は、これを家庭裁判所の審判に付する。
一 罪を犯した少年【=犯罪少年】
二 十四歳に満たないで刑罰法令に触れる行為をした少年【=触法少年】
三 次に掲げる事由があつて、その性格又は環境に照して、将来、罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のある少年【=虞犯少年】
イ 保護者の正当な監督に服しない性癖のあること。
ロ 正当の理由がなく家庭に寄り附かないこと。
ハ 犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入すること。
ニ 自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖のあること。
結び
今回は、法令用語を勉強しようということで、「認める」と「おそれがある」を見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
参考文献
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