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法令用語を勉強しよう|枝番号と削除

今回は、法令用語を勉強をしようということで、枝番号と削除について見てみたいと思います。

法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。

枝番号と削除は、条や号を途中に挿入したり削除したりするときに、他の番号を動かさないようにするテクニックです。契約書でも、知っていると役に立つことがあります。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

枝番号

枝番号というのは、

第〇条の〇

第〇条の〇の〇

ようになっている条番号のことです(※条番号は正式には「条名」といいますが、イメージしにくいので本記事ではこう呼びます)。

なぜこんな妙なものができるのかというと、既存の規定に後から条を追加で挿入するときに、他の条番号を動かさないようにするためです。

「第〇条の〇」(枝番号)

例えば、第1条から第30条までの法律があったとして、既存の第15条と第16条の間に、新しく条を追加で挿入したいと思ったとします。

そのときに、単に新しい条を加えるだけだと、

第15条 △△△△△△△△△
第16条 〇〇〇〇〇〇〇〇〇(←新しく加わった条文
第16条第17条 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕
第17条第18条 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
…(略)…

のように、既存の第16条~第30条を、新しく第17条~第31条へと、それぞれ1コ分ずつ全部ズラし直さなくてはいけなくなります(後ろの条番号の繰り下げ)。

また、「第18条に定めるナントカは…」などというふうに、本文中で条番号を引用している部分がある場合は、それも「第18条第19条に定めるナントカは…」に直す必要があります。

さらに、契約書の場合はあまり考えづらいですが、法令の場合は、別の法令でその条番号を引用している場合もあるので、それも直さないといけません。

このように、全体の整理というのは大変なので、それを避けたいときは、枝番号を使って、

第15条 △△△△△△△△△
第15条の2 〇〇〇〇〇〇〇〇〇(←新しく加わった条文)
第16条 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕
第17条 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
…(略)…

のようにすれば、他の番号が動かないので丸くおさまる、ということになります。

「第〇条の〇の〇」(枝番号の枝番号)

「第〇条の〇の〇」というのはさらに妙な感じがしますが、既存の規定がすでに枝番号だったときには、同じ理由で、さらに枝をつける必要があるわけです。

つまり、例えば、第15条の2と第15条の3の間に、新しく条を追加で挿入したいと思ったときは、単に挿入するだけだと、

第15条の1 △△△△△△△△△
第15条の2 〇〇〇〇〇〇〇〇〇
第15条の3 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕(←新しく加わった条文
第15条の3の4 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
第15条の4の5 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇
第15条の5の6 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎
…(略)…

のように、元々あった枝番号をまた全部動かさないといけなくなります(後ろの枝番号の繰り下げ)。

なので、さらに枝をつけて、

第15条の1 △△△△△△△△△
第15条の2 〇〇〇〇〇〇〇〇〇
第15条の2の2 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕(←新しく加わった条文)
第15条の3 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
第15条の4 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇
第15条の5 ◎◎◎◎◎◎◎◎◎
…(略)…

のようにすると、丸くおさまるということです。

項や号はどうか

枝番号は、法令では、条のほかは、号にも使われますが、項には使われません。

項というのは、条や号とは違って、独立した単位というよりは単なる段落のように考えられているためです。

▽号に枝番号が使われている例:公職選挙法263条

(衆議院議員又は参議院議員の選挙管理費用の国庫負担)
第二百六十三条
 衆議院議員又は参議院議員の選挙に関する次に掲げる費用は、国庫の負担とする。
一 投票の用紙及び封筒、第四十九条第一項の規定による投票に関する不在者投票証明書及びその封筒並びに投票箱の調製に要する費用
二 選挙事務のため参議院合同選挙区選挙管理委員会並びに都道府県及び市町村の選挙管理委員会、投票管理者、開票管理者、選挙長及び選挙分会長において要する費用
三 投票所、共通投票所、期日前投票所、開票所、選挙会場及び選挙分会場に要する費用
四 第四十九条第一項及び第四項の規定による投票に関する選挙事務のため不在者投票管理者において要する費用及びその投票記載の場所に要する費用、同条第二項の規定により行われる郵便等による送付に要する費用並びに同条第七項及び第九項の規定により行われる送信に要する費用
の二 在外選挙人名簿及び在外選挙人証の調製並びに在外選挙人証の交付に要する費用
の三 第四十九条の二第一項第二号の規定により行われる投票に関する費用
五 投票管理者、開票管理者、選挙長、選挙分会長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人に対する報酬及び費用弁償に要する費用
の二 第百三十一条第三項の規定による標札に要する費用
の三 第百四十一条第五項及び第百六十四条の二第二項の規定による表示に要する費用
の四 第百四十一条第七項の規定による選挙運動用自動車の使用に要する費用
六 第百四十二条第一項の規定による通常葉書の費用並びに同条第十項の規定による通常葉書及びビラの作成に要する費用
の二 第百四十三条第十四項の規定による立札及び看板の類並びにポスターの作成に要する費用
七 第百四十四条の二の規定による掲示場の設置に要する費用
八 第百四十九条の規定による新聞広告に要する費用
九 第百五十条及び第百五十一条の規定による放送に要する費用
十 第百六十一条の規定による個人演説会のための施設(設備を含む。)、第百六十四条の五の規定による標旗並びに第百四十一条の二及び第百六十四条の七の規定による腕章に関する費用
の二 第百六十四条の二第六項の規定による立札及び看板の類の作成に要する費用
十一 第百七十五条の規定による掲示に要する費用
十二 第百七十六条の規定による交通機関の使用に要する費用

とはいえ、号に枝番号を使っている例は多くないと思います(全体を整理し直しても、条の場合ほどには手間がかからない場合が多い)。

また、契約書の場合は、法令ほど複雑な事情はないので、枝番号を使うのは条のときで、号に使っている例は、個人的には見た記憶がありません。

削除

削除は、枝番号とは逆に、丸ごとなくすときに、番号を動かさないやり方です。

「第〇条 削除」

形としては、

第〇条 削除

という記述を残します。

なぜこんなやり方をするのかというのは枝番号のときと同様で、条番号だけを残すのは、他の条番号を動かさなくて済むようにするためです。

条番号ごと消すと、それよりも後ろにある規定の条番号も全部動かす(繰り上げる)必要がありますし、また、条番号を引用している部分(ex.「第〇条に定めるホニャララ…」)も全部ズレてくるので、全体の整理が大変だからです。

項や号はどうか

項や号はどうかというと、枝番号のときと同様、号では使われますが、項では使われません。

また、号で使われる例も多くないと思います。

契約書の作成・レビューなどにどう役立つか(私見)

要するに、既存の規定の中間で、新しい条をまるっと入れたり、今ある条を丸ごとなくしたりしたいときには、①全体を整理し直すか(他の番号ごと直す)、②枝番号削除を利用する(他の番号が動かないようにする)、という2つのやり方があるわけです。

相手とドラフトのやり取りをしているときに、条を丸ごと追加したり削除したりしたいときは、枝番号や削除のやり方も知っていると便利です。

もっとも、契約書の場合、なるだけ最後の方につけ加えたり、既存の規定のどこか適当な場所(項や号)に追加するようにすれば済む場合も多いので、枝番号を使うケースはそんなに多くはない気もします。

が、使った方がスッキリなケースもありますので、それなりに使います。

削除というのは、ひな形の条文を丸ごと削ったり削られたりということ自体がそんなにないですし、削除は枝番号と違って見た目にけっこうな違和感が残るので、使うのはかなり稀だと思います(ゼロではない、という位の感覚)。

また、全体を整理してもそんなにややこしくならなそうな場合は(条を挿入する箇所より後ろの条文がそんなにないとか、条番号を引用している箇所がそんなにないなど)、全体を整理します。

他方、自社ひな形を改定するときは、横着せずに全体を整理するべきだと思います。時間はとれますし、文面交渉中の相手もいませんので。

結び

今回は、法令用語を勉強しようということで、枝番号と削除について見てみました。

最後に少しまとめると、枝番号と削除のテクニックは、条と号では使用しますが、項では使用しません(他の項番号ごと整理し直す)。

▽「項」の枝番号や削除はない

第〇条 △△△△△△△△△
 〇〇〇〇〇〇〇〇〇
の2 ✕✕✕✕✕✕✕✕✕ (←新しく加わった項)
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇
★このようには書かない!他の項番号ごと整理し直す

第〇条 △△△△△△△△△
 〇〇〇〇〇〇〇〇〇
 削除
 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇
★このようには書かない!他の項番号ごと整理し直す

これは、本記事の中でも触れたように、条・項・号の考え方と関係しています。

条・項・号の考え方については、以下の関連記事にくわしく書いています。

▽関連記事

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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