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法令用語を勉強しよう|「その他」と「その他の」の違い

今回は、法令用語を勉強しようということで、「その他」と「その他の」の違いについて見てみたいと思います。

法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書を読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。

「その他」と「その他の」は、ほとんど同じに見えますが、実は、法令用語としての意味には違いがあります。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

「その他」の意味

「その他」の意味は、並列です。

A、B、Cその他D

というふうに使われます。

「その他」を挟んで前後の言葉が、別個独立のもの(同格のもの)として並んでいるときに「その他」を使います。

別の言い方をすると、前後で結び付けられる言葉が同じレイヤーにあるというイメージです。

上記の例の場合、「A」「B」「C」と「D」は、どれも並列関係として記載されていることになります。

イメージ的には、こういう感じです。

たとえば、地方自治法250条の2第1項には、以下のような定めがあります(太字部分参照)。

(許認可等の基準)
第二百五十条の二
 国の行政機関又は都道府県の機関は、普通地方公共団体からの法令に基づく申請又は協議の申出(以下この款、第二百五十条の十三第二項、第二百五十一条の三第二項、第二百五十一条の五第一項、第二百五十一条の六第一項及び第二百五十二条の十七の三第三項において「申請等」という。)があつた場合において、許可、認可、承認、同意その他これらに類する行為(以下この款及び第二百五十二条の十七の三第三項において「許認可等」という。)をするかどうかを法令の定めに従つて判断するために必要とされる基準を定め、かつ、行政上特別の支障があるときを除き、これを公表しなければならない。

この場合、その他の前にある「許可」「認可」「承認」「同意」と、後にある「これらに類する行為」は、並列関係として記載されていることになります。

「その他の」の意味

これに対して、「その他の」の意味は、例示になります。

A、B、Cその他のD

というふうに使われます。

「その他の」を挟んで前後の言葉が、全体と部分の関係にあるときに「その他の」を使います。

別の言い方をすると、後ろにある「D」の方がレイヤーが1コ上にある(ひとつ上のメタ概念)というイメージです。

上記の例の場合、「A」「B」「C」は「D」という上位概念に包摂されており、「D」の例示として挙げられていることになります。

イメージ的には、こういう感じです。

たとえば、地方自治法156条1項には、以下のような定めがあります(太字部分参照)。

第百五十六条 普通地方公共団体の長は、前条第一項に定めるものを除くほか、法律又は条例で定めるところにより、保健所、警察署その他の行政機関を設けるものとする。

この場合、「行政機関」例示として、「保健所」「警察署」が記載されていることになります(全体と部分の関係)。

どっちがどっち?

 「その他」と「その他の」の違いは以上のとおりですが、困るのは、「あれ?どっちがどっちだったっけ?」とよく忘れてしまうことです。

 管理人の個人的な覚え方ですが、「その他の」の「の」という文字が大きく円を描いて前の部分の文字を飲み込んでいるところを思い浮かべて、「の」がある方が全体と部分の関係=例示、というふうに覚えています。

 反対に、「の」が入っていない方の「その他」は、例示でない方=並列、という思い出し方です。

具体的な違いが現れるところ

具体的な違いが現れるところは、法律からの委任があった場合の書き方です。

法律は、ほとんどの場合、下位の法令(政令、規則など)に細かいルールを委任するという構造になっており、「その他政令で定める~」とか「その他の主務省令で定める~」などの書き方をしていますが、委任を受けた側での書き方に違いが出てきます。

「A、B、Cその他D」の場合は、並列関係であり、A、B、Cは法律で既に定められているので、下位法令の側で、A、B、Cを改めて書く必要がありません。

これに対して、「A、B、Cその他のD」の場合は、A、B、CはどれもDの例示にすぎません。つまり、法律段階ではまだ何も確定していないことになるので、下位法令の側で、A、B、Cを改めて書かなければ規定の対象にならないことになります(法律でA、B、Cが書かれていても)。

「その他」を用いた定め方の例

たとえば、都市計画法4条の「公共施設」の定め方を見てみます。

【都市計画法「公共施設」の定義】

都市計画法(4条14項)都市計画法施行令(1条の2)
この法律において「公共施設」とは、道路公園その他政令で定める公共の用に供する施設をいう。法第四条第十四項の政令で定める公共の用に供する施設は、下水道、緑地、広場、河川、運河、水路及び消防の用に供する貯水施設とする。

つまり、法律(左列)で「道路」「公園」は既に定められているので、施行令(右列)では「道路」「公園」を改めて書いていません(それ以外の、下水道、緑地、広場、河川、運河…等を列挙している)。

イメージとしては、こうなります。並列関係にあります。

わかりやすくいうと、

道路と公園は「公共施設」にすることに法律の方で決めといたから、あとは、それに類するものを施行令の方でピックアップしといてね!

という定め方になっている、ということです。

「その他の」を用いた定め方の例

これに対して、たとえば、地方自治法238条の5の「国債等」の定め方を見てみます。

【地方自治法「国債等」】

地方自治法(238条の5第3項)地方自治法施行令(169条の6第2項)
普通財産のうち国債その他の政令で定める有価証券(以下この項において「国債等」という。)は、当該普通地方公共団体を受益者として、指定金融機関その他の確実な金融機関に国債等をその価額に相当する担保の提供を受けて貸し付ける方法により当該国債等を運用することを信託の目的とする場合に限り、信託することができる。地方自治法第二百三十八条の五第三項に規定する政令で定める有価証券は、国債、地方債及び同法第二百三十八条第一項第六号に規定する社債とする。

つまり、法律(左列)では「国債」は例示なので、施行令(右列)でも「国債」が改めて書かれています(法律で「国債」が書かれていても)。

国債は「政令で定める有価証券」の一部であり、例示になりますので、法律段階ではまだ何も決まっていないことになるからです。

イメージとしては、こうなります。

わかりやすくいうと、

ここでいう「有価証券」に含めるべきものとしては、例えば国債があると思うんだけど、例えばの話なので、そこも含めて施行令の方で検討して決めといてね!

という定め方になっている、ということです。

厳密には書き分けられていない場合もある

ただ、法令上も、完全に厳密には書き分けられていないようです。

つまり、「その他」が例示の場合に使われていることもあるということです。

たとえば、地方自治法123条1項では、

第百二十三条 議長は、事務局長又は書記長(書記長を置かない町村においては書記)に書面又は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下この条及び第二百三十四条第五項において同じ。)により会議録を作成させ、並びに会議の次第及び出席議員の氏名を記載させ、又は記録させなければならない。

という定めがありますが、電子的方式、磁気的方式は、どちらも実質的には「人の知覚によっては認識することができない方式」の例示なので、「その他の」の方が用法上は正確であるはずなのですが、「その他」が使われています(「法令読解の基礎知識」(長野秀幸)47頁参照)。

また、憲法の例になりますが(21条1項)、

集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

の「その他」は、集会の自由、結社の自由、言論の自由、出版の自由はどれも「表現の自由」の一部なので(部分と全体の関係にある例示)、「その他の」の方が用法上は正確であるはずなのですが、「の」が続きすぎて語感が悪いので一つ省略されたらしい、という話があるようです(「最新 法令用語の基礎知識(三訂版)」(田島信威)33頁参照)。

試しに書いてみます。

【仮】 集会、結社及び言論、出版その他一切表現自由は、これを保障する。

語呂が悪いから…確かに(笑)。

契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)

そうすると、契約書などの作成・レビューのときにどう考えればいいか?ということなんですが(以下は管理人の私見です)。

私見では、上記のように本来は意味によって使い分けがあることを踏まえたうえで、前後の言葉が並列の関係にあるのか、例示の関係にあるのかで書き分けるのがよいと思います(管理人自身はなるだけそうしている)。

契約書の場合、下位法令に委任する場合に相当するようなシチュエーションはあまりない気がしますが、たとえば、「その他別紙で定める〜」とか、「その他の覚書で定める〜」などの定め方をして別の書類に内容を任せたときは、法令用語としての用法を踏まえて書いていたらキチッとしてると思います。

一般的な契約書でそんな定め方は見ない気もしますが。基本契約書と個別契約書あたりであれば考えられるかと思います。

これに対して、規約や約款、あるいは社内規程の類であれば、細則などの形で、法令のように複数のレイヤー構造になっている(上位の規程→下位の細則へという階層構造がある)という場合はわりとありますので、これらの場合は上記の用法を踏まえて書くべきだろうと思います。

ただ、明確に並列関係にあるのか例示の関係にあるのかどちらともいえない微妙なときもあるように思いますし、どちらも文言上は、書いていること自体は結局含まれることになるので、大きく意味が変わってしまうことはないように思います。

「その他の」と書いているのに、受けた側の細則などで改めて書いていない場合は、書いていないとされる余地もありますかね…?うーん。余計な争点を増やさないためには、気をつけた方がいいかもしれません(ただ、内容を検討したうえでの実質的な解釈になるのではないかと思われるので、書いてないので即アウトみたいなことは考えづらい)。

おそらく、「その他」と書いたか「その他の」と書いたかで、裁判などでの勝敗が分かれるようなことは考えにくいのではないかと思います(少なくとも管理人は見聞きしたことはない)。

結び

今回は、法令用語を勉強しようということで、「その他」と「その他の」の違いについて見てみました。

▽音声でも解説しています

本記事のハイライトをまとめます。

  • 「その他」の意味は、並列
  • 「その他の」の意味は、例示
  • 下位法令に委任するときに下位法令の書き方で違いが出てくる
  • 契約書の作成・レビューの際には、勝敗に直結するようなことは考えにくいものの、用法の違いは踏まえて書き分けるべき

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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