今回は、秘密保持契約(Non Disclosure Agreement。以下「NDA」)を勉強しようということで、秘密保持義務の内容について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
秘密保持義務の内容
秘密保持義務の主な内容は、
- 目的外使用の禁止
- 第三者開示の禁止
の2つになります。
これは管理人の理解の仕方で、狭い意味では②のみを秘密保持義務と呼んでいるものも多いですが、実際のところ、この2つは必ずセットで出てきます。
なので、
【NDAの基本構造】
秘密情報の定義
↓ 秘密情報の範囲に入ったら
秘密保持義務の内容
① 目的外使用の禁止
② 第三者開示の禁止
というふうに、秘密情報の定義からの流れで①②をセットで理解した方が、NDAの基本構造を掴みやすいと思います。
①の目的外使用の禁止というのは、ライセンス(使用許諾)の範囲のようなものだと理解するのがわかりやすいと思います(管理人はそのようにイメージしている)。
秘密情報というのは、開示する側にとっては自社でコツコツ蓄積した独自のノウハウであり、それら全てが知的財産と呼べるものではないとしても、知的財産的なもの、つまり本来は自社が独占すべきものといえます。
なので、受領当事者に開示するときも、”その使用範囲はコレコレの範囲ですよ”というふうに、使用許諾の範囲を区切っているのだ、というイメージです。
あくまでも、イメージとして似たもの、という話です(そもそも知的財産権そのものではないので)。
知的財産権について使用許諾するときはライセンスの範囲を区切るのと同じように、秘密情報も開示するときはその使用範囲について制限をかけているのだ、と捉えた方が、ここでの「目的外使用の禁止」のイメージを掴みやすいという意味です。
目的に関しては、”本目的の範囲を超えて使用しない”というように、NDAの目的が援用されている場合が多いかと思います。
②の第三者開示の禁止というのは、相手方(開示当事者)の事前の承諾がない限り、第三者に秘密情報を開示してはならないというものです。こちらはイメージが掴みやすいと思います。
秘密保持義務の例外(適用除外)
次に、狭い意味での秘密保持義務(上記②)の例外、つまり第三者開示の禁止の例外について見てみます。
書き方はいろいろですが、例外事由としては、概ね以下のようなものが挙げられます。
- 開示当事者の事前の書面による承諾があるとき
- 役職員等への開示についての例外
- グループ会社への開示についての例外
- 弁護士、公認会計士、税理士等、法令により秘密保持義務が課されている専門家の意見を求めるために受領当事者が秘密情報を開示する必要があるとき
- 法令により受領当事者に秘密情報の開示が義務付けられているとき
- 裁判所又は受領当事者の監督官庁から受領当事者が秘密情報の開示を命じられたとき
- 別段の定めがあるとき
書き方はいろいろですが、秘密保持条項のなかでひとつの項に全てがまとまっている場合よりも、いくつかの項に散らばっている場合が多いように思います。
以下、個別にもう少し詳しく見てみます。
事前の書面による承諾
これは、開示当事者の事前の書面による承諾があるときのことです。
実際の書き方としては、
開示当事者の事前の書面による承諾がない限り、~できない(第三者開示できない)
というふうに、原則としての秘密保持義務の内容を書く最初の部分で、さらっと流れで書いているものが多いと思います(そうでないものもある)。
役職員等への開示
これは、実際には秘密情報の開示を受けるのは自然人だけなので(法人そのものは肉体を持っていない)、受領当事者が法人である場合は、一定の自然人に秘密情報を開示する旨の定めが必要、というふうに説明されます。
そのうえで、別途、開示を受ける役職員にも秘密保持義務を課す定めを設ける必要がある、とされます(NDAの効力が及ぶのは契約当事者だけであり、役職員には及ばないはずであるため。詳しくは後述)。
雑感
ただ、この定めが必ず必要かというと、実際には役職員等への開示についての例外が書かれていないものはチラホラ見かけます(管理人の感覚)。
では、役職員等への開示についての例外が書かれていなかったらどうなるのか?というと、それを説明している文献はあまり見かけません。ただ、書いていなかった場合に、結局、受領当事会社の役職員は誰も情報を受領することが許容されない(あるいは、代表役員のみ許容される?)などというのは、どう見ても不合理であるように思われます(会社が開示を受けることは書かれているのだから)。
私見では、結局、どの範囲の役職員にまで開示できることを許容していたのかという合理的意思解釈の問題になる(そして普通は、NDAの目的に照らして必要な範囲の役職員への開示は許容されることになる)ように思いますが、諸々の文献を見てもはっきりしません(管理人の観測範囲)。
ちなみに、経産省の「秘密情報の保護ハンドブック(平成28年2月)」163頁に記載されている、業務提携検討におけるNDAのひな形も、契約当事者は株式会社になっていますが、役職員等への開示についての例外は記載されていません。
なお、もちろん、自社でひな形を作成する際には書いておくに越したことはないです(書かなくていいと言っているわけではないです)。
グループ会社への開示
グループ会社に開示する必要があるときに定める例外で、これもよく見かけます。企業グループを形成する程度に大きな規模の会社では、ほとんど入っていると思います。
親会社、子会社、兄弟会社、関連会社、といった企業グループを形成している企業への開示を要する場合には入れておく必要があります。特に、バックオフィス業務を親会社などでのシェアドにしている企業グループでは、少なくとも当該シェアド会社への開示は必須になります。
これは、グループ内とはいっても完全に別の法人なので(上記のような受領当事会社の社内の役職員等という話とは違う)、例外として書いていなければ、事前の承諾がない限り開示は不可となります。
ドラフトのやり取りでは、例えば、
- ”グループ会社の意義をはっきりさせてください”
- ”グループ会社といってもココまでの範囲にしましょう”
- ”結局必須なのはこの個社のみなので、この会社のみにしましょう”
といった、範囲の絞り込みに関するやり取りなどがされることが多いかと思います。
「グループ会社」の意義
この「グループ会社」という表現はけっこう曲者で、NDAに限った話ではないですが、厳密に書こうとすると意外と難しい概念です(「グループ会社」という用語は法律上はなく、一般用語なので範囲は明確でない)。
大まかには、
- 「親会社」「子会社」「兄弟会社」「関連会社」といった用語を使う
- 「財務諸表規則8条〇項で定める〜」というように財務諸表規則の定義を利用する
- 「直接支配」「間接支配」「…支配し又は支配される…」といった用語を使う
という3通りの方法があるかと思います。
普段フワッとした意味で使いがちな「関連会社」「関係会社」といった用語も、財務諸表規則8条の5項や8項に内容が定義されています(上記②)。これを利用して、たとえば「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則第8条第8項に定める関係会社」といった表現を用いることができます。
ただ、財務諸表規則は、基本的に上場企業に適用される規則(金融商品取引法関連の内閣府令)なので、そうでない会社では使えないだろうと思います(使ってはいけないというルールもないですが、相当不自然だろうと思います)。
そうすると、①や③を工夫しながら使ったり、②の規則のなかの表現をそのまま持ってきて使ったりということになります。ただ、規則の表現を使う場合、そこの文言がかなり長くなってしまうので、条項内での文字数がアンバランスになるという欠点もあったりします。
法令により秘密保持義務が課されている専門家への開示
これは、弁護士、公認会計士、税理士等、法令により秘密保持義務が課されている専門家の意見を求めるために受領当事者が秘密情報を開示する必要があるときのことです。
これも実務上当然に起こるシチュエーションで、ほとんど全てのNDAで見かけるといってよいと思います(管理人の感覚)。
典型的には、M&Aを検討に入る前に締結するNDAなどです。開示を受けた後はDDのプロセスでこういったアドバイザリーに開示するわけなので、必須といえます。
M&A以外の取引でも、一般的に書いているケースがほとんどのように思います。
これらの専門家は法令により秘密保持義務が課されているため、秘密保持義務の例外のほかに別途、秘密保持義務を課す定めを設ける必要はないことになります(詳しくは後述)。
法令上の義務に基づく開示
これは、法令により受領当事者に秘密情報の開示が義務づけられているときのことです。
もし書いていなければ、開示しようにも契約違反になるし、開示を拒否しようにも今度は法令に違反することになるという、進むも地獄・引くも地獄の状況になってしまいます。
この例外規定については、開示したことについて開示当事者への事前又は事後の通知などを課している例が多いかと思います。
裁判所又は監督官庁からの命令に基づく開示
これは、裁判所や受領当事者の監督官庁から受領当事者が秘密情報の開示を命じられたときのことです。
これも、もし書いていなければ、開示しようにも契約違反になるし、開示を拒否しようにも今度は命令に違反することになるという状況になってしまいます。
また、同じく、開示したことについて開示当事者への事前又は事後の通知などを課している例が多いかと思います。
別段の定めがあるとき
これは、個別にカスタムしたいときにはこう書いておけばいい、というものです(あとは、それぞれケースバイケースで、秘密保持条項とは別のところに書いておけばよい)。
あまり実際に見ることはないように思います。
例外的に開示する第三者に対し同等の秘密保持義務を課す旨の定め
以上のような例外規定を設けたうえで、
- これらに基づいて秘密情報を開示した第三者には、当該NDAと同等の秘密保持義務を課し、かつ、
- 当該第三者における情報漏洩などが起こった場合には受領当事者が開示当事者に対し直接に責任を負う
旨の定めが併せて設けられるのが通常です。
条項としては、項が分けられている場合もありますし、同じ項のなかでつらつらと書き下されている場合もあります。
もう少しく詳しくいうと、これまで見てきた例外事由を振り返ると、
- 開示当事者の事前の書面による承諾があるとき
- 役職員等への開示についての例外
- グループ会社への開示についての例外
- 弁護士、公認会計士、税理士等、法令により秘密保持義務が課されている専門家の意見を求めるために受領当事者が秘密情報を開示する必要があるとき
- 法令により受領当事者に秘密情報の開示が義務付けられているとき
- 裁判所又は受領当事者の監督官庁から受領当事者が秘密情報の開示を命じられたとき
- 別段の定めがあるとき
などがありますが、④は、すでに法令上の守秘義務を課されており別途の秘密保持義務を負わせる必要がないので除き、また⑤や⑥についても特に定めがない(国等なので当然といえば当然)のが通常です。
なので、それ以外のものについて、(書き方はNDAによってさまざまですが)受領当事者が負っているのと同等の秘密保持義務を当該第三者に別途課すことを義務づける、ということになります。
理解のポイント-混同しやすい部分についての注意点
ひとつ注意点があって、それは、「秘密情報の例外」と「秘密保持義務の例外」はそれぞれ別のモノということです。
実際のNDAでも、文章の量を圧縮するためか(はたまた誤解しているためか)、一緒くたにして書いていることもありますが、厳密にいうと誤りであると考えられます。
なぜかというと、
「秘密情報を」
「第三者に開示してはならない」
というときに、
前者の部分の例外である
秘密情報に該当しない(=秘密保持契約の適用外) ⇒ゆえに秘密保持義務を負わない
という話と、
後者の部分の例外である
秘密情報には該当する(=秘密保持契約の適用内)が、例外的に第三者開示が許容される ⇒ゆえに秘密保持義務を負わない
という話は、結論的には同じだとしても、別の議論のはずだからです。
あるいは、後者については、「目的外使用の禁止」という義務は課せられるという点で違いがあるともいえます
本来は別の話のはずなのですが、混ぜて書いているケースも実際にはチラホラ見かけるということです。
結び
今回は、秘密保持契約(NDA)を勉強しようということで、秘密保持義務の内容と例外(適用除外)について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。