NDA

秘密保持契約(NDA)|違反に対する措置(差止め・損害賠償など)

今回は、秘密保持契約(NDA=Non Disclosure Agreement。以下「NDA」)ということで、違反に対する措置(差止め・損害賠償など)について見てみたいと思います。

普段それほどシビアに意識することは少ないですが、NDAの効力は違反時の救済にかかっています。本記事では、差止めの可否、不正競争防止法との交錯、損害額立証の難しさ、そして解除規定の有無などの論点を検討します。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

差止め

差止めとは一般に侵害行為をやめさせることで(予防も含む)、NDAの場合は秘密情報の廃棄なども含まれます。

法律上の原則

不正競争防止法(以下「不競法」)の営業秘密に係る不正行為に関しては、差止めに関する規定があります。

つまり、営業秘密の不正取得・使用・開示に該当するときは、不競法に基づき、差止請求など法律上の・・・・強制力ある救済が利用可能です。

▽不競法3条

(差止請求権)
第三条
 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、その営業上の利益を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、その侵害の停止又は予防を請求することができる
 不正競争によって営業上の利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者は、前項の規定による請求をするに際し、侵害の行為を組成した物(侵害の行為により生じた物を含む。)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の停止又は予防に必要な行為を請求することができる

差止めに関する条項

しかし、不競法上の「営業秘密」は該当するための要件が実際上かなり厳しく(特に秘密管理性の要件)、また、通常NDAで定められている「秘密情報」の定義は、これよりもかなり広い範囲にわたっている場合が多いです。

そのため、広くNDAの「秘密情報」について差止請求の途を残しておきたければ、契約上の・・・・義務として差止めに関する条項を置く必要があることになります。

なお、一般的な債務不履行に基づいて差止請求ができるとの見解もあるようです

差止請求の内容としては、上記の不競法の規定も参考に、侵害の停止・予防・廃棄・除却などを必要に応じて定めます。

損害賠償請求

NDA違反に対する金銭的救済としては、他の契約違反一般と同じように、損害賠償請求が考えられます。

実際上のハードルは損害額の立証(因果関係・金額算定)であり、この部分が、請求が否定されるあるいは賠償額が低くなる主要因です。

法律上の原則

NDAの違反についても、一般的な債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条)が可能です。

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また、不競法において、営業秘密に係る不正行為の場合の損害額の推定に関する規定があります。つまり、営業秘密の使用に関する使用許諾料を請求できる(=損害額として推定している)としています。

▽不競法5条3項~5項(※【 】は管理人注)

 第二条第一項第一号から第九号まで【=4~6号が営業秘密の不正取得に関するもの、7~9号が営業秘密の不正開示に関するもの】、第十一号から第十六号まで、第十九号又は第二十二号に掲げる不正競争によって営業上の利益を侵害された者は、故意又は過失により自己の営業上の利益を侵害した者に対し、次の各号に掲げる不正競争の区分に応じて当該各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己が受けた損害の額としてその賠償を請求することができる。
一・二 (略)
 第二条第一項第四号から第九号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る営業秘密の使用
 第二条第一項第十一号から第十六号までに掲げる不正競争 当該侵害に係る限定提供データの使用
五・六 (略)
 裁判所は、第一項第二号イからホまで及び前項各号に定める行為に対し受けるべき金銭の額を認定するに当たっては、営業上の利益を侵害された者が、当該行為の対価について、不正競争があったことを前提として当該不正競争をした者との間で合意をするとしたならば、当該営業上の利益を侵害された者が得ることとなるその対価を考慮することができる。
 第三項の規定は、同項に規定する金額を超える損害の賠償の請求を妨げない。この場合において、その営業上の利益を侵害した者に故意又は重大な過失がなかったときは、裁判所は、損害の賠償の額を定めるについて、これを参酌することができる。

損害賠償に関する条項

差止めのところで見たように、通常NDAで定められている「秘密情報」の定義は、不競法上の「営業秘密」より広い範囲にわたっている場合が多く、また「営業秘密」に該当するハードルはかなり高いため、上記の規定を利用できる場面はかなり限定的です。

そこで、NDAにあらかじめ賠償額の予定(民法420条)を置くことで、違反時の損害賠償を確保することなどが考えられます。

ただこれも、過大すぎる予定額は無効(公序良俗違反)となるおそれや、相手が合意しないという実務的障壁がありますので、実際にそのような規定を設けていることは稀と思われます。

▽民法420条

(賠償額の予定)
第四百二十条
 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。
 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。
 違約金は、賠償額の予定と推定する。

解除(?)

では、契約違反があったときの手段として一般な、解除はどうでしょうか。

NDAでは、解除に関する条項は置かれていないケースが多いです。これは、NDAの本来の目的が「秘密情報の保護」であり、解除で義務を消滅させてしまうと逆に保護が薄れる(秘密保護義務をなくしてしまう行為であり、本末転倒である)との考え方からだと思われます。

また、解除は一般的に原状回復を企図するものですが、NDAの場合、既に情報開示済みの部分については元に戻すことが困難な場合も多くあるので(主に廃棄によることになる)、この点に対する効果がやや限定的であることも関係しているように思います。つまり実際には解除というより返還・廃棄の実施によるだろうということです。

そこで、NDAでは、解除に関する条項は置かれていないケースが多いわけです。

ただ、これらに関しては結局、解除に関する条項があってもなくても、終了後の効力存続に関する条項でカバーしているように思います。

つまり、終了原因にかかわらず、NDA終了後も秘密保持義務ほか一定の義務(開示禁止・目的外使用禁止・返還廃棄義務など)は存続させるとすることで対応している、ということです。

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解除を置かなければいいだけなんじゃないのという考え方もあり得ますが、反社排除条項(違反の場合の解除含む)もNDAに組み込んで、反社非該当の誓約も兼ねさせるやり方などもありますので、一応解除自体はあり得る場合についても考えておいた方が良いように思います(また、NDAでも民法による法定解除は否定はされていないとも考えられます)

NDAの解除に関しては意外とあまり明確に論じた固めの資料を見たことがないですが(管理人の観測範囲)、本記事で言及してみました。以上の点は管理人の私見です

結び

今回は、秘密保持契約(NDA)ということで、違反に対する措置について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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