契約条項本文

契約の一般条項を勉強しよう|危険負担条項

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、危険負担条項について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

危険負担とは

危険負担というのは、内容がイメージしづらい言葉ですが、ここでいう「危険」とは、双務契約において、契約の目的たる給付が履行不能になる場合(典型的には、目的物が不可抗力などによって滅失・損傷する場合)の損害のことを指します。

危険負担にいう「負担」とは、その損害を当事者のどちらが負担するのか?という問題であり、具体的には、その場合の反対債務(通常は購入側の代金支払義務)がどうなるのか、ということです。

ここで購入側が代金を支払わなくてよいということは、滅失・損傷による損害は、販売側(=履行不能になった債務の債務者)が負担することになります。なので、これを債務者主義と呼びます。

逆に、購入側が依然として支払わなければならないとすれば、滅失・損傷による損害は、購入側(=履行不能になった債務の債権者)が負担することになります。なので、これを債権者主義と呼びます。

なお、改正後は「債務者主義」「債権者主義」という用語は使わなくなっているようにも見受けられますが、本記事では相当する部分についてこれらの用語を使用しています

本記事では、いわゆる債権法改正(平成29年民法改正/令和2年4月1日施行)のことを改正と言っています

法律上の原則

危険負担条項の法的意味を考える前提として、まず、もしこの条項がなかったらどうなるのか(=法律上の原則)を考えてみます。

法律上は、債務者主義が原則とされていますが、債権者主義や、特定物売買における危険の移転時期なども定められています。

債務者主義と債権者主義(民法536条)

当事者双方の責めに帰することができない事由(grounds not attributable to either party)によって履行不能となった場合、債権者は反対給付の履行を拒絶できます(履行拒絶権/民法536条1項)。

これが原則で、債務者が損害を負担することになるので、債務者主義です。

例外として、債権者の帰責事由(grounds attributable to the obligee)によって履行不能となった場合、債権者は反対給付の履行を拒絶できません(2項)。

これは、債権者が損害を負担することになるので、債権者主義です。

▽民法536条

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条
 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる
 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

本条の適用場面を確認してみます。

履行不能の帰責事由のパターンとしては、「債務者にある・なし」×「債権者にある・なし」なので、2×2=4パターンがあることになります。

【帰責事由のパターン】

債務者に帰責事由債権者に帰責事由反対債務(支払義務)の帰趨
なしなし履行拒絶できる
★根拠:危険負担の債務者主義(民法536条1項)
なしあり履行拒絶できない
★根拠:危険負担の債権者主義(民法536条2項)
ありなし履行拒絶できる(債務者の填補賠償債務との同時履行)
★根拠:同時履行の抗弁権(民法533条)
ありあり解釈に委ねられる(改正前民法と同様)
★明文なし(部会資料79-3・14~15頁)

このうち、「なし」「なし」のパターンが本条1項、「なし」「あり」のパターンが本条2項の規律する場面です。

ちなみに、「あり」「なし」のパターンの場合は、債務者が有責の場合なので債務不履行の問題となります。この場合、債権者には填補賠償請求権がありますので(民法415条2項)、それとの同時履行の抗弁として債権者は履行を拒絶することになります。

危険の移転(民法567条)

また、危険の移転時期として、売買目的物の滅失又は損傷に関する危険は、以下のように引渡し時に移転するとされています(民法567条1項)。

ここでは、反対債務の履行拒絶のほか、目的物の滅失又は損傷を理由とする追完請求等についても、危険の移転の範ちゅうの問題として整理されています。

なお、売買以外の有償契約(例えば請負契約など)にも準用されています(民法559条)

▽民法567条

(目的物の滅失等についての危険の移転)
第五百六十七条
 売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない
 売主が契約の内容に適合する目的物をもって、その引渡しの債務の履行を提供したにもかかわらず、買主がその履行を受けることを拒み、又は受けることができない場合において、その履行の提供があった時以後当事者双方の責めに帰することができない事由によってその目的物が滅失し、又は損傷したときも、前項と同様とする

1項は、特定物売買における危険の移転時期が引渡し時であることを定めたものです。

2項は、売主が契約の内容に適合した目的物の引渡しの提供・・をしたにもかかわらず、買主が受領しなかった場合には、1項と同様に、危険は買主に移転することを定めたものです。

2項は要するに、目的物の引渡し・・・がなかったとしても、売主としてはやることをやったのに買主が受領しなかった(=受領遅滞)のなら危険は買主に移転するということです

危険負担の法律上の原則については、以下の関連記事にくわしく書いています。

危険負担条項の記載内容

以上を踏まえて危険負担条項の法的意味を考えてみると、滅失/損傷に関する危険が引渡し時に移転する旨を定めている一般的な内容のものは、基本的には確認条項ということになると思います。

先ほど見たように、法律上も、当事者双方に帰責事由のない場合は売主が危険を負担し(買主に反対給付の拒絶権あり)、特定物売買では引渡し時に危険が買主に移転するからです。

以下、危険負担条項の記載内容を考えてみます。

危険の移転時期(所有権移転時期との関係)

危険の移転時期については所有権の移転時期と関連づけて検討されることが多いので、ここではいくつかのケースに分類しつつ、両者を一緒に見てみます。

論理必然的に一致していなければならないというものではないですが、移転時期の差が大きいほど、売主/買主のどちらかにしわ寄せが行っていることになります(要はバランスの問題)

ざっくりいってしまえば、危険の移転時期は、売主としては早い方がよく、買主としては遅い方がよいことになります。(危険というデメリットは持っておかない方がよいということ)

逆に、所有権の移転時期は、売主としては遅い方がよく、買主としては早い方がよいことになります。(処分権を確保しておくというメリットは持っておいた方がよいということ)

全てが同時に行われるケース

一番シンプルなパターンからいってみます。全てが同時に行われるケースです。

日常生活の買い物などは基本的にこれです。あまり難しいことを考える必要がありません。

時系列⇒契約時=引渡し=代金支払い
所有権の移転
危険の移転

契約時と決済日が離れているケース

日常生活の取引とは違い、ビジネスでは、契約時と決済日(クロージング日)が離れているケースの方が多いかと思います。例えば不動産売買などが典型です。

法律上は、特定物売買の場合、所有権は契約時に移転し(民176、555)、危険は引渡し時に移転するので(前述の民576)、実は、法律の規定だけだと、売主側としてはいわば逆ザヤ(所有権は相手に移転したのに、危険は残っている状態)になっています。

時系列⇒契約時決済日=引渡し=代金支払い
所有権の移転
危険の移転

▽民法176条、555条

(物権の設定及び移転)
第百七十六条
 物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。
(売買)
第五百五十五条
 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

なので、所有権の移転時期について、契約で定めておく必要があります(普通は定められています)。

決済日を決めておき、決済日に、引渡し/対抗要件具備(必要書類の引渡し等)と、代金支払いとが同時履行、という内容にします。

所有権移転の移転時期は、代金支払い時(代金全額の支払いが完了した時)という定め方にするのが一般的かと思います。

時系列⇒契約時決済日=引渡し=代金支払い
所有権の移転
危険の移転

所有権留保のケース

これは、代金完済以前に目的物が買主に引き渡されるケースです。代金支払の担保のために、代金完済まで目的物の所有権を売主が留保します(いわゆる所有権留保)。

一般的に動産売買で用いられることが多く、分割払いでの自動車売買などが典型です。

時系列⇒契約時引渡し時代金完済時
所有権の移転
危険の移転

この場合、買主としては所有権を取得できていないのに危険は負担している状態なわけですが(形式的には買主側としては逆ザヤ)、代金を完済していないのに引き渡されて使用しているわけですので、全体としては不公平感はないわけです。

月締め翌月払い等のケース

以上に対し、契約→引渡し→検収→代金支払いという経過をたどるケースもよくあります。継続供給で月締め翌月払いとか、請負契約で何らかの成果物を納品するといった場合などです。

この場合、所有権は検収時(検査の完了つまり合格)をもって移転するケースが多いかと思いますが、危険の移転は引渡し時としておく(法律上の原則のままとする)のも一般的かと思います。物理的な支配は移っているからです。

【パターンA】

時系列⇒契約時引渡し時
(目的物の受領)
検収時
(検査の完了)
代金支払い時
所有権の移転
危険の移転

ただ、この場合、買主側としては、万一、受領後、検収が終わる前に不可抗力による滅失などがあった場合、不合格品があったかどうかわからないのに全額を支払わないといけないことになりますので、危険の移転時期は検収時の方がよいことになります(以下の赤丸部分)。

【パターンB】

時系列→契約時引渡し時
(目的物の受領)
検収時
(検査の完了)
代金支払時
所有権の移転
危険の移転

ただ、当然ですが、逆に、売主としては、物理的な支配が相手に移っているのに危険を負担し続けることになりますので、特に引渡しから検収までの時間が長い場合には不利(危険を持たされる)といえます。逆ザヤにはなっていませんが、危険の移転が遅い、という感じです。

所有権の移転時期を引渡し時とする場合も、危険の移転時期は引渡し時としておく(法律上の原則を修正せず、確認的な内容の定めのままとする)のが公平かと思われます。やはり物理的な支配は移っているからです。

【パターンC】

時系列⇒契約時引渡し時(目的物の受領)検収時(検査の完了)代金支払時
所有権の移転
危険の移転

もしこの場合に、危険の移転時期が検収時であるときは(以下の赤丸部分)、売主側としては逆ザヤになっていますので売主にとって不公平感が強く、先ほどのパターンBにも増して受け入れ難い内容ということになります(売主としてはパターンCに修正すべき)。

【パターンd】

時系列⇒契約時引渡し時(目的物の受領)検収時(検査の完了)代金支払時
所有権の移転
危険の移転

その他の内容

危険の移転時期以外の記載内容としては、

  • 一部滅失または損傷にとどまる場合の対応(修復義務の有無、修復の費用負担、履行時期など)
  • 解除権の有無
  • 解除後の処理(受領済みの物と金員の返還、返還の費用負担、利息の有無など)

などがあり得ます。

引渡し前の一部滅失または損傷の場合について、法律上の原則を考えてみると、履行が可能であれば引き続き履行義務があることになります(いわゆる給付危険の問題)。

解除権に関しては、買主側には履行の一部不能となる場合に無催告解除権がある一方(民542Ⅰ・Ⅱ)、売主側にはありません。

なので、契約の内容や規模にもよりますが、売主側としては、(少なくとも)解除権を規定しておくのが大事になるケースがあるかと思います。

なお、関連性の強い条項として不可抗力条項がありますが、危険負担条項も不可抗力条項も基本的に当事者双方に帰責事由のない場合の話ですので(不可抗力条項は不可抗力事由による契約上の義務の不履行につき免責を定めるもの、危険負担条項は当事者双方の責めに帰責事由のない滅失/損傷につきその損害の負担(主として対価の行く末)を定めるもの)、両方をひとつの条項にまとめて書いているケースもありますね。

まとめ

 最後に、危険負担条項で考えられる記載内容で、ここまで見てきたものをまとめてみると、

・危険負担の場面設定(当事者双方の帰責事由によらない滅失/損傷)
・危険の移転時期(普通は引渡し時をもって移転)
・対価危険の問題(対価がどうなるのかという問題)
・給付危険の問題(やり直す義務があるのかという問題)
・解除権の有無
・解除後の処理

といった感じです。

 どこまで書くか(あるいはこれら以外も)、どう書くかは案件によりけりかと思います。

結び

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、危険負担条項について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等・参考文献

主要法令等

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民法(債権関係)改正の資料

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