契約条項本文

契約の一般条項を勉強しよう|不可抗力条項

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、不可抗力条項について見てみたいと思います。

※「契約の一般条項」というのは、ここでは、いろんな契約に共通してみられる条項、という意味で使っています

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

不可抗力条項とは

不可抗力とは、実は決まった定義はないですが、一般的には、契約当事者にとって予見できず支配の及ばない外部的な事情のことを指します。

大きくは、天災など自然的なもの(自然災害)と、戦争など人為的なものが考えられます。

ちなみに、不可抗力のうち特に自然災害によるものを指して「天変地異」と書いているものも見かけますが、「天災地変」と書く方が多いように思います

こういった不可抗力により契約上の義務を履行できなくなったときの免責、つまり、契約上の義務の不履行による責任を負わない旨を定めるのが、不可抗力条項です。

無過失と不可抗力

 不可抗力は無過失とどう違うのか?という気もしますが、概念の広狭としては、不可抗力の方が無過失よりも狭いと考えられます(無過失>不可抗力)。

 つまり、不可抗力でなくとも無過失という場合はあり得る、ということです(少なくとも概念上は)。

法律上の原則

不可抗力条項の法的意味を考える前提として、もしこの条項がなかったらどうなるのか(=法律上の原則)を考えてみます。

売主側の義務/損害賠償責任について

債務不履行に基づく損害賠償責任については、債務者の帰責事由が必要とされています(※立証責任は債務者にあるので、実際は免責事由として機能)。

不可抗力の場合は、当事者どちらの責めに帰すべき事由もないケースなので、売主にも帰責事由はありません(つまり免責事由が認められる)。なので、売主側の引渡義務などについて、債務不履行による損害賠償責任が発生することはないと考えられます。

▽民法415条1項

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条
 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

なお、仮に不法行為構成をとる場合でも、不法行為は過失責任ですので、結論としては同じく損害賠償責任は負いません。

▽民法709条

(不法行為による損害賠償)
第七百九条
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

買主側の義務/損害賠償責任について

買主側の債務不履行責任を考えるについては、2つのポイントがあります。金銭債務の特則と危険負担です。

まず、債務不履行に基づく損害賠償責任に関して、金銭債務は不可抗力をもって抗弁とすることができないという特則があります(金銭債務の特則/民法419条3項)。

▽民法419条3項(※【 】は管理人注)

 第一項の損害賠償【=金銭の給付を目的とする債務の不履行の損害賠償】については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。

金銭債務について特則があるのは、お金自体は金利さえ払えば調達できるものなので、履行不能が考えられないという理由です。

memo

 いわゆる債権法改正(H29民法改正)の際に、このような金銭債務の特則をどうするかについて議論はされていましたが(以下参照)、結論としては維持することとされました(部会資料68A・43頁参照)。

部会資料34・15頁

 …金銭債務の不履行責任の免責に関し極めて厳格な立場を採用している現行民法の立場につき、起草者は、金銭は利息さえ払えば入手できるのであるから、調達不可能ということが考えられないことを理由としている。もっとも、このような我が国民法の立場は比較法的にも異例であり、金銭債務だけにこのような厳格な態度をとる理由に乏しいとの指摘がある。…

なので、例えば、買主が自らの代金支払義務そのものを取り上げて、「これこれの事情があったので不可抗力により代金はお支払いできなくなりました、(遅滞の)責任はありません」と言うことはできないことになります。

しかし、普通、不可抗力の場合というと、売主側が不可抗力により履行不能となった場合をイメージすることが多いだろうと思います。

この場合の代金支払債務は、反対債務がどうなるのかという問題つまり危険負担の問題となり、買主側は履行を拒むことができます(反対給付の履行拒絶権/民法536条1項)。

そのため、代金支払義務について、買主側に債務不履行(遅滞)による損害賠償責任が発生することはないと考えられます。

▽民法536条1項

(債務者の危険負担等)
第五百三十六条
 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる

解除について

債務不履行解除に関する一般的な規定は次のとおりで、債務不履行解除にあたり、債務者の帰責事由は不要となっています。

▽民法541条~543条(※【 】は管理人注)

(催告による解除)
第五百四十一条
 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

(催告によらない解除)
第五百四十二条
 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の解除をすることができる。
履行の全部不能
  債務の全部の履行が不能であるとき。
履行の全部拒絶(確定的履行拒絶)】
  債務者がその債務の全部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
履行の一部不能又は一部拒絶による契約目的達成不能
  債務の一部の履行が不能である場合又は債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合において、残存する部分のみでは契約をした目的を達することができないとき。
定期行為の履行遅滞
  契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、債務者が履行をしないでその時期を経過したとき。
その他契約目的達成不能
  前各号に掲げる場合のほか、債務者がその債務の履行をせず、債権者が前条の催告をしても契約をした目的を達するのに足りる履行がされる見込みがないことが明らかであるとき。
 次に掲げる場合には、債権者は、前条の催告をすることなく、直ちに契約の一部の解除をすることができる。
  債務の一部の履行が不能であるとき。
  債務者がその債務の一部の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
第五百四十三条
 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

そのため、売主側に不可抗力が生じた場合でも、履行不能(民542)により、買主側無催告解除が可能です(※債権者にも帰責事由はないので、民543の適用もない)。

細かく考えると、一部滅失や損傷にとどまる場合は、契約目的達成不能要件との関係などで解除権が発生しないケースもあるかもしれません

これに対して、売主側は、売主側に不可抗力が生じた場合に関して、明確な解除の根拠はないと思われます。

不可抗力条項の記載内容

以上のような原則を踏まえて、一般的な不可抗力条項の法的意味を考えてみると、基本的には売主側の便宜のための条項といってよいと思います。

不可抗力と呼ぶような事象では、通常、売主の帰責事由はない(つまり免責事由が立証できる)場合が多いと考えられますが、不可抗力条項がない場合、理屈としては、その事象が免責事由(=「債務者の責めに帰することができない事由」)に該当することを、個別に立証する必要があることになります。

これに対して、不可抗力条項がある場合、その条項に規定されている不可抗力への該当性を立証すればよいことになりますので、少なくとも相対的には立証が容易になるほか、事前に細かく定めておくことができるので予測可能性を向上させることもできます。

不可抗力といっても、「これは不可抗力だ」「いやこれは不可抗力とはいえないでしょう」といった見解の相違は普通にあり得るからです。

不可抗力の定義

そこで、不可抗力の記載内容として、まず不可抗力の定義を契約書で明確化しておくことがあります。

冒頭で見たように、不可抗力の大体の意味は共通認識のようなものはあるものの、ハッキリした定義があるわけではないからです。

つまり、不可抗力の定義の明確化です。

不可抗力の具体例

それとあわせて、不可抗力の具体例を列挙しておくことがあります。

先ほど見たように、売主側としては、免責事由の個別的な立証をしなくてよいようにあらかじめ可能な限り定型的に不可抗力となる事態を決めておいて、免責を容易・確実にするために不可抗力条項を定めていることになります。

つまり、不可抗力の例示の具体化です。

不可抗力に該当する場合の効果(免責/解除権/対応方法など)

不可抗力に該当する場合の基本的な効果として定めておくのは、いわずもがなですが免責です(契約上の義務の不履行について責任を負わないこと)。

解除権に関しては、買主側・・・は、売主側の引渡義務などが不可抗力で不能となった場合は、先ほど見たようにもともと無催告解除が可能です。

そのため、単に免責を定めるだけでなく、不可抗力が生じた場合の解除権を定める場合は、売主側・・・の解除権を規定する部分に法的な意味があることになります。

また、これら免責や解除権といった内容以外には、不可抗力が生じた場合の通知や協議など、他の対応方法を書き込んでおくことも考えられます。

契約書の作成・レビューについて(私見)

”甲及び乙は”とか”いずれの当事者も責任を負わない”といった双方平等の書きぶりになっている場合が多いかと思いますが、前述のように、不可抗力条項は売主側のメリットが主であると思われます。

なぜかというと、金銭債務については不可抗力条項の対象から除かれるのが一般的と思われますので(金銭債務の特則と同じ内容が不可抗力条項にも括弧書きで書き込まれる)、代金支払義務がメインである買主側が、ダイレクトに不可抗力条項によるメリットを受けることは基本的にありません。

また、買主側としては、売主側が不可抗力で不能となった場合は、反対債務である代金支払義務の履行拒絶はもともと可能と考えられ(危険負担の債務者主義(民536Ⅰ)or 契約中の危険負担条項により)、また、買主側としては、特に制限なく無催告解除を行うことも可能です(債務不履行解除に債務者の帰責事由は不要)。

そのため、買主側としてメリットがあるとすれば、代金支払義務以外の付随的な義務で、かつ金銭債務以外のものに関してのみと思われます(それについて買主側が不可抗力条項でメリットを受けるというのも、通常はあまり想定しづらいように思われる)。

なので、基本的には、

  • 売主側は、”事前にここまでは不可抗力として盛り込んでリスクヘッジしておきたい"というスタンスから、不可抗力の定義/具体例を検討する
  • 買主側は、そのような定義/具体例が、買主側の立場からみて広くなりすぎていないか(あるいはモヤッとしすぎていないか)を検討する

というのが主な視点になるかと思います。

さらに、買主側としては、一見、双方平等の書きぶりになっていることに気を良くして、「甲も乙もこれこれの手続を踏んだうえで解除できる」のような内容になっているときに、実は自らの無催告解除権が制限されるような結果になっていないかにも注意した方がよいように思います。

結び

今回は、契約の一般条項を勉強しようということで、不可抗力条項について見てみました。

なお、本記事では売買契約を想定して売主側や買主側といった記載をしていますが、請負契約やサービス(役務)提供契約などでも基本的に同様です。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等・参考文献

主要法令等

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民法(債権関係)改正の資料

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