法制執務

法令用語を勉強しよう|「削る」「改める」「加える」

今回は、法令用語を勉強をしようということで、「削る」「改める」「加える」について見てみたいと思います。

法令用語というのは、法令をつくるときに、慣習的な用語法に従って用いられる用語のことです(日常用語とは異なる独特の意味がある)。当ブログでは、法令用語のうち、契約書などを読み書きするときにも役立ちそうなものをピックアップしています。

「削る」「改める」「加える」は一部改正法で使われる法令用語ですが、契約書でも、修正覚書などを作成するときに役に立つケースがありますので、取り上げてみたいと思います。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

「削る」

削る」は、既存の規定の全部または一部を消去する場合に使われます。

条や項や号の全体を丸ごと削ることもできますし、条や項や号のなかの一部の文言を削ることもできます。

「削る」は、編・章・節などの大きい単位でも使用されますが、契約書の場合はあまり関係ない(そういう修正をすることはほぼない)ので、本記事の話は、条・項・号の単位に絞ります。以下、「改める」と「加える」も同様です。

条・項・号の全体を削る場合

条・項・号の全体を削る場合は、例えば、以下のように記述します。

▽条の全体を削る

第〇条を削る

▽項の全体を削る

第〇条第〇項を削る

▽号の全体を削る

第〇条第〇号を削る

第〇条第〇項第〇号を削る

「削除」との違い

 法令用語としては、「削る」は、「削除」とは使い分けられています。

 例えば、「第〇条」の全体を削ったあと、条番号(※正式には「条名」といいます)だけは残す場合は、既存の規定に、

第〇条 削除

という記述を残します。このときに、「削除」という表現を使います。

 条番号だけを残すのは、条番号を動かさなくて済むようにしたいときです。

 条番号を動かすと、それよりも後ろにある規定の条番号も全部動かす(繰り上げる)必要がありますし、また、条番号を引用している部分(ex.「第〇条に定めるホニャララ…」)も全部ズレてくるので、全体の整理がけっこう大変だからです。

条・項・号の中の一部の文言を削る場合

もちろん、条・項・号の中の一部の文言を削ることもできます。

例えば、以下のように記述します。

▽条の中の一部の文言を削る

第〇条中「ホニャララ」を削る

「改める」

改める」は、既存の規定の全部または一部の文言を変更する(=元々あった文言を別の文言に入れ替える)ときに使われます。

条や項や号の全体を丸ごと変更することもできますし、条や項や号の中の一部の文言を変更することもできます。

条・項・号の全体を改める場合

条・項・号の全体を丸ごと変更する場合は、例えば、以下のように記述します。

▽条の全体を改める

 第〇条を次のように改める
第〇条 ホニャララの場合において、ヘニャララするときは、フニャララしなければならない。

条・項・号の中の一部の文言を改める場合

もちろん、条・項・号の中の一部の文言を変更することもできます。

▽条の中の一部の文言を改める

第〇条中「 」を「 」に、「 」を「 」に改める

なお、一部を改める場合は、変更される文言の範囲が正確になるように(変更を意図している範囲とぴったり一致するように)気をつける必要があります。

例えば、改めたい文言「A」が既存の規定に2つ以上ある場合、「A」を「B」に改める、と書くと、すべて「B」に変更されてしまいます。

全部そのようにする意図であるときはそれでOKですが、そうでないときは、区別ができる部分まで引用して両者を区別することとされています。

例えば、既存の規定が、

第〇条 ホニャララの場合、Aは、ヘニャララするものととし、Bは、Aに対し、フニャララするものとする。

という内容のときに、2つめの「A」だけを「C」に変更したいときは、

第〇条中「Aに対し」を「Cに対し」に改める。

と記述すればよいということです。

「改正する」との違い

 法令用語としては、「改める」は、「改正する」とは使い分けられています。

 「改める」は、個々の具体的な規定を変更するときに使われるのに対して、「改正する」は、一部改正法による改正の全体を指していうときに使われます。

 例えば、

▽一部改正法の題名

「〇〇法の一部を改正する法律」

▽一部改正法の冒頭

〇〇法(令和〇〇年法律第〇〇号)の一部を次のように改正する。

というふうに使われます。

「加える」

加える」は、既存の規定に、条・項・号や、一部の文言を追加で挿入するときに使われます(変更するのではなく、単に足すだけ)。

条・項・号を加える場合

条・項・号を丸ごと加える場合は、例えば、以下のように記述します。

 第〇条に次の一項を加える
3 ホニャララは、ヘニャララするものとする。
★第〇条が第2項まであるところに、第3項を追加で挿入するというシチュエーション

ただし書や後段を加える場合

ただし書や後段を加えることもできます。

例えば、以下のように記述します。

第〇条に次のただし書きを加える
 ただし、ホニャララの場合は、この限りでない。

一部の文言を加える場合

既存の規定の中に一部の文言を加える場合は、例えば、以下のように記述します。

第〇条中「ホニャララ」の下に「フニャララ」を加える。
★「下」というのは、法令の原文が縦書きであるため、下と表現されている。内容的には、「後」とでもいうべきもの

契約書などの作成・レビューにどう役立つか(私見)

これらの用語が契約書などの作成・レビューに役立つのは、修正覚書や特約事項欄で、先方ひな形の契約書を修正しようとするケースです。

あるいは、締結済みの契約書に後日修正を加えようとするときの、修正覚書なんかもそうですね。

必要になるシチュエーション

例えば、契約書のやり取りをしていると、先方ひな形のときに、「PDFしか渡せません」というク〇対応強めの対応をされることもあるので、その場合にも修正の交渉をしたいときは、こういう覚書で対応する(交渉を試みる)ケースがあります。通常のやり取り、つまり、Word等の修正履歴でのやり取りができないためです。

大きい会社や企業グループ、コンサバな業界の会社で、そういう対応をしてくるところがたまにあります。

または、先方ひな形のときに、「本文は変えられないです。特約事項欄(or特記事項欄)での修正のみです」という対応をされるケースもあります。

商業用不動産の賃貸契約書や、約款調の申込書、注文書・請書などのときにみられるケースですかね。このケースは、相手が必ずしも大きいところでない場合もあるように思います。

法令用語をそのまま使うかどうか

実際つくるときに若干気になるのは、上記のような法令用語をそのまま使うかどうかです。

感覚的なことですが、「削る」「改める」「加える」という表現は、格調高いものの、ちょっとイメージが湧きにくい表現であるようにも思います。

なので、契約書では、例えば、「削除する」「変更する」「追加する」といった、日常的にわかりやすい表現に変えてもよいと思います。

また、

第〇条「ホニャララ」を「ヘニャララ」に改める。

の「中」も、ちょっとわかりにくいですので、「のうち」に変えた方が違和感が少ない気がしますし、

第〇条中「ホニャララ」のに「フニャララ」を加える。

の「下」という表現も、別の表現に変える必要があります(縦書きの契約書は普通ない)。

ということで、これら適宜の調整をまとめると、例えば、

第〇条第〇項のうち「ホニャララ」を「ヘニャララ」に変更し、同条第△項のうち「フニャララ」の後に「ハニャララ」を追加する。

などといった表現の方が、契約書の場合は、多少読みやすいように思います。

もちろん、考えつく限り全てコンサバにいきたいという場合は、法令用語どおりでもよいと思います。

変更前と変更後を示す書き方も多い

また、契約書の場合は、こういう一部改正法のような細かい書き方をせず、もっとわかりやすいように、

第〇条第〇項を次のように変更する。
(変更前)
 △△△△△△△△△△△△
(変更後)
 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

といったふうに、まるっと修正前・修正後を明示して修正覚書を作成しているようなケースもありますね。むしろこちらの方が、一目で見てわかりやすいというメリットもあります。

ただ、特記事項欄などの場合は、文字が入るスペースに限りがあったりしますので、こういう書き方ができない場合もあります。

また、覚書など文字数に制限がない場合でも、修正箇所が少ないのに上記のように書くと、修正箇所の必要に比べて長ったらしくなることがありますので、やはりどちらのやり方も知っておいた方がよいように思います。

結び

今回は、法令用語を勉強しようということで、「削る」「改める」「加える」など、一部改正法で使われる用語について見てみました。

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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