法務大臣がゴーン氏の逃亡の件に関して「無罪証明」と言ってしまって叩かれていますね…。
刑事裁判の基本的な考え方について間違っていることを言ってしまったからなわけですが、この発言が叩かれる理由を簡単に見てみます。
「無罪証明」?
大臣のこの発言がアホ扱いされていますが、まあ仕方ないですかね…。(「無罪主張」と言うつもりだった、との弁明も苦しいかと)
これがなぜアホ扱いされるのかを一言でいうと、「有罪証明」か「無罪証明」かというのは、一見、逆側から同じことを言っているだけのようにも見えますが、「グレーゾーン」の扱いが違ってくるからです。
裁判にも、というか、ものごとの真相究明には当然、「シロ」「クロ」のほか、その中間に広い「グレー」(真偽不明)があります。
刑事裁判での立証責任は、検察が「有罪」を証明する、つまり、「クロ」であることを証明することになっています。
「クロ」と証明できなければ、「シロ」です。”guilty or not guilty”=クロか、クロでないか、なのです。
図示すると、こうです。
つまり、「グレー」は「シロ」扱いになる、ということです。
これに対して、大臣の言った、「無罪証明」という言葉は、「シロと証明せよ」という意味だから、「シロか、シロでないか」になってしまうのです。
図示すると、こうです。
つまり、「グレー」が「クロ」扱いになってしまうわけです。
これは恐るべきことで、無罪(=シロ)を証明できなければ(グレーでも)有罪になる、ということ(((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル)
当然、そんなことには法的にはなっておらず、検察が「有罪証明」をしないといけないことになっているわけです。
なぜかというと、刑罰は最大の人権侵害、と言われているので、絶対にクロのときだけ刑罰権を発動するようにするためです。
だから、大臣の発言はアホ扱いされるわけです。
よかった、よかった、安心…となるはずなのですが…。
少し深堀り
しかし、実は話はここでは終わらないところで、少し深堀りしてみます。
先ほど見たように、法的には検察が「有罪証明」をすることになっています。しかし、実際には、弁護側が「無罪証明」をしないとシロにはならないわけです。
検察が「有罪証明」をするのだから、弁護側は、理屈のうえでは、「グレー」に落とし込めばいいはずです。
だから、本来は、弁護側は、検察が組み立てた主張・立証が成り立たないこと、疑わしいことを指摘できればよいはずです(合理的な疑いを差し挟むことができれば十分)。
なので、刑事弁護の教科書的には、「弁護側は”アナザーストーリー”(=弁護側の考える真実)を展開すべきでない」と言われています。
なぜそう言われるかというと、本来は、検察のストーリーを検証すればよい(クロか、クロでないか)だけのはずなのに、弁護側がアナザーストーリーを出すと、
「検察のストーリー」vs「弁護側のストーリー」
みたいになって、フィフティ・フィフティの対決の様相を呈してしまうからです。
しかし。
実際は、弁護側が「アナザーストーリー」を証明できないと、シロにはなりません(クロになります)。
”検察のストーリーには疑いがある?じゃあ実際のストーリーはどういうものだったのか言ってみてよ!検察のストーリーは疑わしい、というだけじゃ、実際どうだったのかみんなに説明できないでしょ!納得もされないでしょ。そんな判決書けないじゃない”みたいな感じですかね(管理人の偏見?)。
結び
こういうふうに、現実には、まさに「無罪証明」が要求されるのが実態といえます。
これをポロっと、大臣が言っちゃった、…と思ってニュースを見ると、また一段と深み(闇?)が増してくるかもしれません…。
[注記]
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