インターネット 法律コラム

誹謗中傷への法的対処って?

クソリプという言葉とともに、誹謗中傷への法的措置が話題に上ることが増えてきましたね。

管理人も対処したことがありますが(法律事務所と企業内の両方)、法的対処の流れについて簡単な記事にしてみました。

※本記事は2020年1月23日作成の記事で、その後法改正がされています

法的対処は2段階を経る

加害者の特定、つまり住所氏名の開示に至るまでには、2段階あって、

①書き込みからIPアドレスを特定(=媒体に開示請求)
②IPアドレスから住所・氏名を特定(=プロバイダに開示請求)

となります。

①はわりと簡単ですが、②が困難です。だいたい②でいったん止まります。

1段階目

①は媒体に対してIPアドレスの開示請求をします。

弁護士の場合は、内容証明を送るのが良いと思います。
なぜかというと、弁護士会照会(23条照会)だと、手数料が1書き込みごとにかかるので(1件あたり数千円×件数)、媒体宛てに内容証明を送る方が、実費が安くて済むからです。

気になる書き込みは広く開示請求しますが、そうすると、その中で特にひどい(=明らかな名誉棄損)書き込みについて、IPアドレスが任意開示される、という感じです。

回答から見える媒体の規模感も様々です。担当者が専門部署なんだろうな、というときもあるし、たぶんエンジニアが兼任でやってるんだろうな、大変そうだな…みたいな雰囲気が、回答を見るとわかります(はっきり書いているときもある)。

書き込みから時間がたっていると、データが消えてしまうかも…というときは、保全の手続きも検討した方がいいかもしれません。

2段階目

2段階目は、1段階目で開示されたIPアドレスをもって、プロバイダに本人情報の開示請求をします。

しかし、多くの場合、ここで止まります。つまり、プロバイダが、住所・氏名の任意開示に応じることはほぼないのではないかと思います(※刑事事件について捜査機関からの要請があった場合は別です)。

そこから先は裁判になるので、依頼者の意向を確認することになります。

「ネットでの書き込みが匿名というのはフィクション」というのは、そのとおりで、技術的には特定できるのです。ただ、だからといって特定が容易なわけではないです。2段階目の開示が結構ハードル高いです。

なんでそうなるの?

「なんで?そこで止まってしまうなら、救済受けられないの?おかしい!!」と思われると思いますし、そうなのですが、なぜそこが難しいかというと、書いた側の発信者情報にも、「(匿名)表現の自由」や「通信の秘密」、「プライバシー」などがあるとされるからです。

通信の秘密は、表現の自由を制度的に担保するもので、強力に保護されます(憲法上、明文あり)。発信者情報(本人情報)があまり低すぎるハードルで開示されると思うと、それはそれで恐ろしい世界ですよね。

つまり、誹謗中傷の本人特定(発信者情報の開示)の問題は、書かれた側の「名誉権」などの人格権と、書いた側の上記のような権利利益の、利益衡量の問題、とされています。

ちなみに、2段階目で止まっても、プロバイダへの開示請求をすると、開示に応じるかどうかの意見照会というのが書き込んだ本人にいくようになっているので(※本人の意見に拘束力はない)、これが事実上一定の牽制効果を生むことがあると思います。事実上の副次的効果、という感じ。

それで一定期間、書き込みが落ち着き、またしばらくしてから再開された、みたいなこともありましたね。その意見照会が原因なのか、こちらにはわかりませんが。

会社内での対応

被害者が会社のとき、会社側ではどんな動きをするかというと、書き込みを逐一チェック、証拠をとる、削除請求を媒体に行う(削除請求はコチラまで、というリンクやメアドがある)、というのが日々の応急処置になるかなと思います。で、併せて法的対処を検討する=顧問弁護士に相談、ということになるかなと。

ただ、社会的な対処としては「静観する」という選択肢もあり得ます。顧問弁護士が「ちょっと様子見ますか…」みたいなときもありますし(会社側としては、うーん…って感じになることもあり苦笑)。

取り合うと面白がってまた反応する、要するにエスカレートする可能性もあるからです。放っといたらそのうち止まるんじゃないか、という方針ですね。

しかし、ただの愉快犯である場合はそれでいいかもしれませんが(延々と執拗に書き込みを続ける動機がない)、誹謗中傷している相手との間で、実はなにか書き込みしている内容以外での利害関係や確執がある場合、静観しても事態は好転しない場合が多いです。

結び

お困りの方って多いですよね。ネットの誹謗中傷。

多少の経験談をもとに、参考までに法的対処の流れについて書いてみました。

※本記事は2020年1月23日作成の記事で、その後法改正がされています。当時の記事として残しています。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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