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最判令和2年7月21日|リツイート事件最高裁判決と最近の裁判例

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一週間ぐらい前の判決になるけれど、リツイートの法的責任に関連する最高裁判決を見てみました。

これは、リツイートのアカウントにも発信者情報の開示請求を認めたところが話題になっていたものです。

もう少し前には、リツイートに名誉毀損の成立を認めた高裁判決も出ていたし、本記事では、この最近の2つの司法判断について書いてみたいと思います。

最判令和2年7月21日ーリツイートにも開示請求を認めた事例

判決の内容

時事通信のニュースは以下のとおり。一審判決からの流れも含め、簡潔に書いてくれている。

▽リツイートも開示命令 撮影者名消され、写真拡散ー発信者情報めぐり判決・最高裁(時事ドットコムニュース)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020072100792&g=soc

判決の原文は、以下の裁判所HPで見ることができる(ページの一番下にPDFがある)。全部で10頁だし、専門の知識がなくてもだいたいの雰囲気はわかると思う。

▽最判令和2年7月21日(発信者情報開示請求事件)|裁判例検索(裁判所HP)

裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan
裁判例結果詳細 | 裁判所 - Courts in Japan

www.courts.go.jp

メモ

 ちなみに、上記のように、裁判所HPに行けば無料の判例データベースがあって、誰でもすぐ使えます。少し前から、HP全体のデザインが刷新されていて、UIもすごく良くなっています。法律系の仕事でない人でも、知っていると何かと便利かなと。

 ろくでなし子さんで話題になっていた事案(「猥褻か芸術か」という古くて新しい問題の系譜)の最高裁判決も、本件判決のすぐ下に掲載されています。

 話が逸れますが、このぐらい手近に裁判例が見られるっていいことだなあと。裁判所HPの裁判例検索自体は昔からあったけど、以前よりもデザイン・機能ともグッと良くなったと思います。

事案の概要

事案の概要は、写真の著作者である原告が、ツイッターのウェブサイトにされたツイート及びリツイートにより、当該写真に係る著作権を侵害されたとして、米国ツイッター社等に対し、これらアカウントの発信者情報の開示を求めた、というもの。

<訴訟の概要>
✓原告:写真の著作権を主張する者
✓被告:ツイッタージャパン、米国ツイッター社
✓訴訟物(請求する権利の内容):プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権

なお、被告はツイートをした者ではない。テラハの花さんが亡くなった事件をきっかけに、だいぶ世間にも知られるようになったのではないかと思うが、本件は本人特定のための裁判で、被告かつ上告人は、米国ツイッター社である。

つまり、ツイート及びリツイートによって著作権を侵害されたので、これらの者を相手取って請求をしたいが、誰かわからないので教えてくれ、ということで、本件は、プロバイダを被告として、発信者情報の開示請求をした訴訟。

《本人特定のための2段階の手続》

①媒体(コンテンツプロバイダ)に対する開示請求  ←本件はココ
:IPアドレス等を開示請求。開示を受けても、相手が誰かはまだわからない。

 ↓

②プロバイダ(アクセスプロバイダ)に対する開示請求
:①で開示を受けたIPアドレス等を元に、発信者の住所・氏名等を開示請求。この開示を受けられれば、本人特定に至る。

 ↓

《本人に対する訴訟》
:慰謝料などの損害賠償請求など

この事案は誹謗中傷の話ではないけど、著作権侵害の場合も、相手が誰かわからないのは同じことなので、本人特定の裁判手続をまずやらないといけないわけである。

なので、訴訟自体は開示請求訴訟なんだけども、開示請求の要件として「権利侵害の明白性」がないといけないので(プロ責法4条1項)、前提として著作権侵害の成否について検討がされている、ということ

最高裁判決やニュースを見ているだけでは一見わからない部分

ニュースではリツイートの氏名表示権侵害が話題だけれど、控訴審判決(知財高判平成30年4月25日(平成28(ネ)10101号))も含む全体では、以下のような判断もなされている。

①元ツイートのアカウントについては、著作財産権の侵害・著作者人格権の侵害の両方とも肯定されている

元ツイートの方が話題にならないのは、原告のサイトから無断で写真を使用したようなので、著作権侵害ということで開示の対象となっても特段の違和感はないからかなと。

②リツイートによる著作財産権の侵害については否定されている

著作財産権の侵害としては、公衆送信権、複製権、公衆伝達権の侵害が主張されているが、リツイートに関しては否定されている。

▽控訴審判決(公衆送信権の侵害の成否についての部分)※太字は管理人による

「控訴人が著作権を有しているのは,本件写真であるところ,本件写真のデータは,リンク先である流通情報2(2)に係るサーバーにしかないから,送信されている著作物のデータは,流通情報2(2)のデータのみである。上記のとおり,公衆送信は,「公衆によって直接受信されることを目的として送信を行うこと」であるから,公衆送信権侵害との関係では,流通情報2(2)のデータのみが「侵害情報」というべきであって,控訴人が主張する「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいはHTML データ等を「侵害情報」と捉えることはできない。したがって,「ブラウザ用レンダリングデータ」あるいは HTML データ等が「侵害情報」であることを前提とする控訴人の公衆送信権侵害(送信可能化権侵害,自動公衆送信権侵害)に関する主張は,いずれも採用することができない。」

これは要するに(極めて大ざっぱにいえば)、リツイートに表示される本件写真データは、元ツイート者がアップロードした写真データを読み込みにいっているだけなので、リツイート者が公衆送信しているとはいえない、という意味。(たぶん)

なので、リツイートについては著作者人格権が問題に。

③著作者人格権のうち、リツイートによる「同一性保持権」侵害も肯定されている

▽控訴審判決 ※太字は管理人による

「上記のとおり,表示するに際して,HTML プログラムやCSS プログラム等により,位置や大きさなどを指定されたために,本件アカウント3~5のタイムラインにおいて表示されている画像は流通目録3~5のような画像となったものと認められるから,本件リツイート者らによって改変されたもので,同一性保持権が侵害されているということができる。

…さらに,被控訴人らは,著作権法20条4項の「やむを得ない」改変に当たると主張するが,本件リツイート行為は,本件アカウント2において控訴人に無断で本件写真の画像ファイルを含むツイートが行われたもののリツイート行為であるから,そのような行為に伴う改変が「やむを得ない」改変に当たると認めることはできない。

同一性保持権の部分は、上告審で判断されていないので、控訴審の内容で確定している。

要は、TL表示時の自動トリミングによる、同一性保持権の侵害も肯定されているということ。

上告理由とこれに対する最高裁の判断

氏名表示権についての上告理由のポイントは2つあって、

①リツイート者は著作物の利用をしてませんので、「著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」にあたりません、

②クリックしたら表示されるので、氏名表示権を侵害してません、

というもの。

①の著作物の利用、というとわかりにくいが、つまりリツイート者は公衆送信や複製等はしてないでしょ、ということ。リツイートがTLに流れてきて写真が表示されても、上記のとおり、それは元ツイート者がアップロードした画像データを読み込みにいっているだけ(リツイートはリンクしているだけ)なので。

しかし、これに対して多数意見は、氏名表示権は著作物の利用を前提にしていないので、公衆送信や複製等の行為が介在しているかどうかは関係ない、といっている。この部分が「著作物の公衆への提供若しくは提示に際し」(著作権法19条1項)の法令解釈として重要なこともあるし、上告受理したのかなという感じ。

▽著作権法19条1項 ※太字は管理人による

著作者は、その著作物の原作品に、又はその著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利を有する。その著作物を原著作物とする二次的著作物の公衆への提供又は提示に際しての原著作物の著作者名の表示についても、同様とする。

②について、多数意見は、クリックしないと出てこないし、クリックするのが通常という事情も窺われないのでダメ、といっている。

補足意見と反対意見

戸倉三郎裁判官の補足意見が付されている。

ツイッター社に対応を示唆する意見はここで書かれている。戸倉意見の立ち位置は、“ツイッター使っている人からするとこういう風に負担に思うだろうけど”という予想される世間からの批判的意見に対して、「いやこういう風に考えられるから不便感はそれほどではないでしょor仕方ないでしょ」という内容で、多数意見をフォローする内容になっている。

また、林景一裁判官の反対意見が付されている。

多くのツイッターユーザーの肌感覚に近いのは林意見の方だろうと思う。このへんはニュースとかツイートとかブログとかでもそのように指摘しているものが多かった印象。

メモ

ちなみに、「多数意見」は合議体としての意見(=最高裁としての結論と理由)です。

「補足意見」
は、結論も理由も多数意見と同じ、「意見」は、結論は多数意見と同じだけど理由が違う、「反対意見」は結論からして違う、という個別意見になります。

巷の評判

辛口コメントが多い印象。

▽ひろゆきさん(@hiroyuki_ni)のツイート 2020/07/22 0:56

「『あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならない』とのこと。
最高裁の判決なので、著作権法改正でもない限りは、覆ることはありません。

さすが、ITよりハンコを選んだ国ですね。」

逐一調査,確認…というくだりは、林裁判官の反対意見のなかの、“そうなりかねないんじゃないの?”という趣旨の部分の引用。

(林裁判官の反対意見) ※太字は管理人による

「しかしながら,本件においては,元ツイート画像自体は,通常人には,これを拡散することが不適切であるとはみえないものであるから,一般のツイッター利用者の観点からは,わいせつ画像等とは趣を異にする問題であるといえる。多数意見や原審の判断に従えば,そのようなものであっても,ツイートの主題とは無縁の付随的な画像を含め,あらゆるツイート画像について,これをリツイートしようとする者は,その出所や著作者の同意等について逐一調査,確認しなければならないことになる。私見では,これは,ツイッター利用者に大きな負担を強いるものであるといわざるを得ず,権利侵害の判断を直ちにすることが困難な場合にはリツイート自体を差し控えるほかないことになるなどの事態をもたらしかねない。そうした事態を避けるためにも,私は,上記1の結論を採るところである。」


▽壇俊光弁護士のブログ(BLOGOSより)

BLOGOS サービス終了のお知らせ
BLOGOS サービス終了のお知らせ

lite.blogos.com

著作者人格権が焼け太りしすぎではないか、という指摘がなされている。

▽小倉秀夫弁護士のnote

リツイート事件|小倉秀夫
リツイート事件|小倉秀夫

note.com

こちらは最高裁判決に理解を示している印象。法的にかちっとした解説を読みたい方にはこちらがおすすめ。小倉弁護士は著作権法のコンメンタールの著者で、「インラインリンク」など言葉使いも正確です(私みたいな者と違って笑)。

で、管理人の感想としては、リツイート自体も氏名表示権等を侵害しうるというのは仕方ないと思う。ただ、クリックして氏名が表示されてもダメ、というのはちょっとやりすぎでは…。

とはいえ、もう最高裁として出ちゃったので、何を言ってもしょうがないんですけどね。

大阪高判令和2年6月23日ーリツイートに関する最近のもう一つの司法判断

リツイートに関しては、先日、橋本徹弁護士がジャーナリストを被告として名誉毀損を主張した訴訟で、控訴審判決が出ていた(リツイートに名誉侵害が成立)。

▽橋下氏批判の「リツイート」は名誉毀損 二審も判決支持|朝日新聞DIGITAL
https://www.asahi.com/articles/ASN6R6G3FN6RPTIL01H.html

ちなみに橋本弁護士は、リツイートはビラ配りと一緒、という喩えをされていた模様。

▽橋下徹氏「リツイート」訴訟で二審の判決支持に「リツイートはビラ貼り・ビラ配りと同じ行為です」|スポーツ報知
https://hochi.news/articles/20200624-OHT1T50081.html

なお、この訴訟の一審判決(大阪地判令和元年9月12日(平30(ワ)1593号 ・ 平30(ワ)7160号))と、それ以前のリツイートの名誉侵害に関する裁判例は、以下のサイトがわかりやすくまとめてくれている。

▽他人の投稿「リツイート」で、法的責任を問われる? 中澤佑一弁護士に聞いてみた|弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_23/n_11326/

両方を合わせて見たときの感想

2つの判決を合わせて眺めると、全体的な流れとしては「リツイートするときも(それも発信なんだから)ちゃんと気をつけましょう」という判断が根底にあるように感じる。賛否はさておき。

発信である以上、リツイートするときも権利侵害たる内容が含まれていないかどうかは、ちゃんと気にしなさいよ、と。

ここが、(たぶん)ユーザーの肌感覚であるところの「イヤそんなこといちいち気にしてたらリツイートとかできないでしょ」とか、あるいは「リツイートしてるときに発信してるとか思ってないんですけど」というのと、大きく隔たりがある部分なんだろうなと。

確かに、自分もリツイートしてるときどうかというと、発信しているとは思っていないなと。他人の発信を紹介している、というような感覚。

しかし、元ツイートと基本的に同じ内容が出るわけだから、それは発信そのもので、他のものと別違に解する理由がないでしょう、と言われればそのとおりな気がする。

(戸倉裁判官の補足意見) ※太字は管理人による

「…しかしながら,それは,インターネット上で他人の著作物の掲載を含む投稿を行う際に,現行著作権法下で著作者の権利を侵害しないために必要とされる配慮に当然に伴う負担であって,仮にそれが,これまで気軽にツイッターを利用してリツイートをしてきた者にとって重いものと感じられたとしても,氏名表示権侵害の成否について,出版等による場合や他のインターネット上の投稿をする場合と別異の解釈をすべき理由にはならないであろう。」

また、侵害された人から見える景色を想像すると、(誹謗中傷にせよ著作権侵害にせよ)自分の権利を侵害しているツイートが、リツイートによって凄まじい勢いで拡散されていくわけで、「いちいち気にしてたらリツイートできないっしょ」という感覚で済まされないものがあると思う。このへんが、ツイッターユーザーの反対側から照らしたときの、最高裁判決の擁護ポイントなのかなと思う。

紹介の意図だろうと気軽な気持ちだろうと、権利を侵害された(と考える)側にとっては、ツイートと全く同じ文字と絵面のリツイートが広がっていくわけで、そうすると、「リツイートするときも気をつけろ」というのは、ユーザーの感覚からすると重く感じるけれども、仕方がないような気がする。

ツイッター前は、これほど凄まじい速度で拡散される仕組みがおそらく存在しなかったわけで、「これまでなかった事態に法が戸惑ってる」というやつだという感じもする(法律はほぼ常に社会と経済の後追い)。

要は、リツイートの「拡散力」が凄すぎる(=発信として圧倒的に手軽)というところが核心なんだろうなと。発信なんだけど、そういう自覚を持つ間もないというか。

ブログを書くときや、ツイートを書くときは、自分の頭で考えて作っているので(たぶんインスタでもTikTokでも何でもそうだろう)、自分が発信しているという感覚を持ちやすいけれど、リツイートは自分で書いていないし、瞬時の全コピなので、発信しているという感覚を持ちにくい。

しかし、権利侵害される側から見ると、それは関係ない。

「ツイッターもひとつの道具、良い方向にも悪い方向にも使われるのは当たり前、心あたたまるツイート、面白ツイート、有益ツイートなど、良きツイートが拡散されるのは良いこと、一方、権利を侵害する(名誉毀損とか、著作権侵害とか)ツイート、ありていにいうと「他者を傷つける」ツイートも、同じように拡散される…」

「…いやいや、それはおかしいでしょ!後者は同じように拡散されちゃダメでしょ。後者はもうちょっと慎重になってよ」

と言われたら、仕方ない気がする。

ただ、本件の最高裁判決に関しては、クリックして出てくるのでもダメ、というのはやりすぎだと感じる。クリックすれば氏名が表示される(=氏名表示権)、クリックすれば元の画像の全体像が見れる(=同一性保持権)なら、それで十分なのではないかという気がする。

多数意見はたぶん「いうても、TLに流れてくる画像ってクリックせんことの方が多いやろ」というのをベースに、著作者側から考えている(=だとすれば、そのTL上の画像状態でも捕捉するように解釈しないと、著作者人格権が有名無実化する、と考えている)のだろうとは思う。

その「あんまりクリックしない」というのはぶっちゃけそのとおりだと思うけれど、それでもなあ。

著作者の方に寄りすぎな気がする。クリックしても出てこないなら(表示しようがないのだから)仕方ないとしても、クリックすれば氏名や全体像が見れる状態であっても人格権を侵害しているというのはちょっと…。

なお、林裁判官の反対意見は、規範的な侵害主体性の問題として捉えていて(=ツイッターの仕組み上トリミングされるのだから、法的評価の上では、リツイート者が氏名表示権を侵害しているのではないと見ることができる、というロジック)、「クリックすれば見れるんだからいいんじゃないの」という論拠ではない。

個人的には、「クリックすれば見れるという状態でもダメ」というのは、著作権法の解釈から必然的に導かれる(=その解釈一本しか考えられない)わけではないと思うのだが、そうでもないんだろうか。

結び

要は、何を言ったところで、元ツイートが画像を無断使用等していた場合、TL上の自動トリミングであっても、そのままリツイートすると氏名表示権や同一性保持権の侵害になりうるということ(元ツイートの画像がツイート者自身が作成したものであったり、著作者の同意を得ているものであったりする場合は問題ない)。

そして、開示請求の対象にもなりうるということ。

なので、リツイートの際は気をつけましょう、という締めなんだけれど、何だかですね。。上記の括弧で書いた部分って、厳密にはわからないですもんねえ。。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

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