インターネット 法律コラム

誹謗中傷と批判的な表現の判断基準って?

著作者:Freepik

ネット誹謗中傷の議論が高まるにつれて、どんなものが誹謗中傷になるんだ?とか、批判や意見じゃなくて違法になる表現ってどんななんだ?という悩ましい問題が意識されるようになってきているように思います。

「誹謗中傷」というのは法律上の用語ではないので、誹謗中傷=直ちに違法な表現、という意味で使われているのか、誹謗中傷のなかに、違法なものとそうでないものがあるのか、外縁がはっきりしないですけど…。このへんは言葉の問題で人によって違うと思いますので、深入りしないでおきます。

ここでは、自分の整理も兼ねて、民事責任と刑事責任を一緒にまとめて、法的な判断枠組みをざっくりと見てみたいと思います。
(業界人の方にとって特に目新しいことは書かれておりません。悪しからず)

なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

結論から

まず結論からいくと、細かいところを大胆に削げば、要点は以下のようになります。

名誉棄損の要点

  • 事実を摘示して「社会的評価を低下させたとき」に名誉毀損(=違法)となる
  • 虚偽の事実ではなくてたとえ真実でも、名誉毀損になりうる
  • ただし、社会的評価を低下させたときであっても、①事実に公共性があって、②目的に公益性があって、③真実であることを証明したときは、違法性が阻却される

名誉毀損については、基本的にこういう構造になっています。この基本構造は、民事責任も刑事責任も同じです。

ただ、これはかなり簡略化したときの結論で、話はやっぱりもう少し複雑です。以下で、もう少し具体的に見ていきます。もしこんがらがってきたら、ここに立ち戻ってもらえるといいかなと思います。

刑事責任と民事責任の両方があるわけですが、刑事責任の方がわかりやすい(=条文がはっきりしている)ので、まずこちらから見ていきたいと思います。

刑事責任

「名誉毀損」と「侮辱」の区別

くり返しになりますが、違法になるのは「社会的評価を低下させたとき」です。

そして、刑事責任の場合、事実を摘示しているかどうかによって、名誉毀損罪か侮辱罪かが区別されます。事実を摘示している・・・・場合が名誉毀損罪、摘示していない・・・場合が侮辱罪になります。

事実を摘示せずに社会的評価を低下させる、というのは、バカ、アホ、マヌケ、クソ野郎、そういった類のことです。

もちろんこれらを一言でも発すれば犯罪になるなどという極論ではなくて、こういう類の表現によって、ついには「社会的評価を低下させた」と判断されるケースにおいて、侮辱罪として犯罪とされるわけです。

それぞれ、条文は以下です。

(名誉毀損)
第二百三十条
 公然事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
 (略)

(侮辱)
第二百三十一条
 事実を摘示しなくても公然人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

こう読むと、割と文言どおりかなという感じがしますね。名誉毀損は「事実を摘示し」と、侮辱は「事実を摘示しなくても」と書かれてますので。

「人の名誉を毀損」と「人を侮辱」は、言葉は違いますが、どちらも「社会的評価を低下させること」と解釈されています(実はここは論点なのですが、判例・通説はそのように考えています)。

なお、誹謗中傷表現は、内容によっては業務妨害罪信用毀損罪にもなり得ますが、話が広がってしまうので、ここでは割愛します。たとえば、この間の旅館料理の炎上ツイート事件なんかは、若干その関連にも言及されてたりしました(可能性は低いというニュアンスですが)。

▽旅館の夕食「廃棄前提」ツイートが波紋 田端信太郎氏「炎上マーケティング」投稿に法的問題は?/ 弁護士ドットコムニュース
https://www.bengo4.com/c_23/n_11596

また、内容によっては脅迫罪にもなり得ますが、これも割愛します。

違法性阻却

普通の感覚からするとちょっと意外なのですが、摘示した事実が真実であっても名誉毀損罪は成立します。もういっぺん条文を見てみます。

(名誉毀損)
第二百三十条
 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
 (略)

その事実の有無にかかわらず」とハッキリ書いてますね。つまり、虚偽の事実、嘘っぱちの事実でなくても、本当のことであっても、社会的評価を低下させれば、名誉毀損になり得るということです。

なんでや?という気もしますけど、仮に人の真価と合致しない虚名であっても、それが社会的に成立している評価である以上、みだりに毀損されるべきではない、という考え方からです。別の言い方をすると、名誉毀損罪は、現に成立している社会的生活関係の維持という性質を有している、ということです(前田雅英ほか編「条解刑法(第2版)」639・640頁参照)。

"みだりに"というのは、法律的な文章でよく出てくる言い回しですが、「正当な理由なく」という意味だと思っておけばOKです。

「でも、そんなのおかしいじゃん!表現の自由はどこにいった!」という話があると思います。それはまさにそのとおりで、真実であった場合には違法性が阻却されることになっています。ただ、真実であればそれだけでいいのではなく、一定の要件があります。以下の刑法230条の2という条文です。

(公共の利害に関する場合の特例)
第二百三十条の二
 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
 前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。
 前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。

要件は3つに分節できて、①事実の公共性、②目的の公益性、③真実性の証明、というふうに言われます(太字部分を参照)。この3つを満たせば、違法性が阻却されて名誉毀損罪は成立しません。

ちなみによく読むと、2項(起訴前の犯罪行為に関する特則)では、①があるとみなされ、さらに、3項(公務員に関する特則)では、①と②が不問とされています。順々に、違法性が阻却されやすい(=表現の自由に重きをおいている)構造になっている、ということですね。

事実の公共性とか、目的が「専ら」公益を図るとか、ちょっとハードル高いんじゃない?と感じるかもと思いますが、それもそのとおりです。

なので、事実の公共性は、その事実自体が公共性を持つものでなくても、”公共性のある事実を判断するための資料になり得るものでもよい”とか、目的の公益性は「専ら」との文言にもかかわらず、”主たる動機が公益を図るものであればよい”というように、解釈によって多少緩められています。

真実相当性

しかし、よく調べた上での表現だったんだけど、結果的には真実ではなかった、という場合もあり得ますよね。

その場合も、名誉毀損罪が成立しないことが解釈によって認められています。「真実相当性」とか言われます。以下の判例で認められています。

▽最大判昭和44年6月25日刑集23巻7号975頁【夕刊和歌山時事事件】

「刑法二三〇ノ二の規定は、人格権としての個人の名誉の保護と、憲法二一条による正当な言論の保障との調和をはかつたものというべきであり、これら両者間の調和と均衡を考慮するならば、たとい刑法二三〇条ノ二第一項にいう事実が真実であることの証明がない場合でも、行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しないものと解するのが相当である。」

細かいことをいうと、この場合は「違法性阻却」ではなく、「犯罪の故意がない」ということで、理屈は違いますが、結論として名誉毀損罪は成立しません。

名誉感情(プライド)は保護されない

社会的評価を低下させることが名誉毀損または侮辱であると書きましたが、主観的な名誉感情(=いわゆるプライド)を傷つけただけでは犯罪にはなりません。

とくに「侮辱」というと、”プライドを傷つける”という語感があるように思えるので、この点は意外かもしれませんが、そう解釈されています。

少しだけ説明すると、座学上、名誉には、3種類のものがあると言われています。

【「名誉」の種類 】

  • 内部的名誉・・・人格的価値そのもの
  • 外部的名誉・・・外部的な社会的評価
  • 主観的名誉・・・主観的な名誉感情

①は何ものによっても原理的に傷つけることのできない人格的価値そのもの、②は外部的な社会的評価のこと、③は主観的な名誉感情(いわゆるプライド)のことです。

①は重要ですがまあ概念上のものという感じで、あまり気にしなくていいです。重要なのは②と③です。

で、名誉毀損罪は②を保護し、侮辱罪は③を保護している、と考える有力説もあるのですが、判例・通説は、どちらも②を保護していると考えています(そうすると、保護対象で区別されることはなくなるので、前述のとおり、両者の区別は、事実の摘示の有無での区別になるわけです)。

要するに「プライドが傷つけられた」というだけでは犯罪にはならない、ということです。

もう少し言葉を足すと、“たとえプライドが傷つけられたとしても、社会的評価が下がっていなければ、名誉毀損罪にも侮辱罪にも該当しない”、という感じです。

ここまででもけっこう長くなってしまいましたが(汗)、次は民事責任について見てみます。

民事責任

基本的な考え方は刑事責任と同じ

民事責任も、基本的な考え方は刑事責任と同じです。

名誉毀損になるかどうかは、社会的評価を下げたかどうか、が最終的な着地点です。

判例によれば、「名誉トハ各人ガ其品性徳行名声信用等ニ付キ世人ヨリ相当ニ受クベキ声価ヲ云フモノナリ」とされる(大判明39.2.19民録12・226)。これは、名誉毀損を人に対する社会的評価を低下させる行為と解する見方であり、主観的な名誉感情の侵害のみでは名誉毀損にならないことを示すものである。

(加藤一郎編「注釈民法 第19巻」185頁)

ただ、民事では、事実を摘示したかどうかで名誉毀損と侮辱という概念を分けたり、ということはないように思います。民事責任は「不法行為責任」といって、根拠になる民法709条がそういった点を区別していないです。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条
 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

ちなみにこの条文は、交通事故でも、医療過誤でも、不貞の慰謝料でも、名誉毀損でも何でも、損害賠償責任を発生させる多くの場合の基本的な条文になります。

名誉毀損についていえば、要するに、誹謗中傷される人の立場(公人、私人、有名人、一般人etc)、場の性質(ネットかマスメディアか口伝えかetc)、内容の悪質性の程度、誹謗中傷表現の頻度、回数、期間、その他いろいろなものを総合して、最終的に「その人の社会的評価を低下させた」といえるかどうかを事案ごとに判断する、という感じです。
(※注:ここの記述は完全に管理人の肌感覚で書いてますので、正確な記述は文献を見てみてもらえればと思います)

考慮要素は多いですが、最終的な着地点は一点です。社会的評価を低下させたどうか、です。

なお、名誉感情(プライド)を傷つけても違法にならない、という点は、刑事とちょっと違っていて、悪質な場合には稀に不法行為責任が肯定されることがあります(たとえば、以下の裁判例)。それを「名誉毀損」と呼ばないにしても、単純に上記の709条の要件を満たすと判断できるような場合は、不法行為責任が発生する、という感じです。

▽大阪高判昭和54年11月27日判時961号83頁

「被控訴人の右発言は、被控訴人のために高速料金を立替支弁した控訴人をいわれなく誹謗侮辱したもので、通常の醜行の指摘と異なりタクシー運転手としての控訴人の社会的評価信用を害うものでないとしても、その内容が極めて不当でしかも相当時間繰返され、公然非公然を問わず控訴人の名誉心を著しく傷つけこれに精神的苦痛を与えるものといわねばならず、単なる酔客の道義的マナーの問題あるいは社会生活上の受忍限度を超えた違法なもので、法律上損害賠償の対象となるものと解すべきである。」

民事責任の違法性阻却の考え方

違法性阻却の考え方も、刑事責任のときと同じです。

民法では刑法のように名誉毀損の違法性阻却の要件を正面から取り上げた条文がないため、判例でそういう解釈がされています。

▽最判昭和41年6月23日民集20巻5号1118頁

「民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても・・・・・・・・、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(このことは、刑法二三〇条二の規定の趣旨からも十分窺うことができる)。」

要するに、名誉毀損罪のときの違法性阻却を定めた刑法230条の2と同じ考え方をするのだ、と言っています。

分節すると、先に見たように、①事実の公共性、②目的の公益性、③真実性の証明または真実相当性があるときは、不法行為責任は成立しないと書いているわけです。

公正な論評の法理

民事では、事実を摘示したかどうかで名誉毀損と侮辱を分けるということはあまりないと書きましたが、その代わり、民事では、①事実の摘示による名誉毀損と、②意見・論評による名誉毀損、というのが区別されている感じです。

②は、ある事実を基礎としつつ意見・論評を行うということです。意見や論評の表明は表現の自由として尊重されるべきで、名誉毀損になるかどうかにはより慎重であるべきということから、若干違法性が阻却されやすくなっています。これを「公正な論評の法理」と呼んでいます。

イメージ的には、それ自体ネガティブな事実というより、一定の事実をもとにしてネガティブな評価を加えた意見・論評を行うことですかね。事実より意見の色彩が濃いもの、という感じでしょうか。

判例は以下のとおりです。

▽最判平成元年12月21日民集43巻12号2252頁

公共の利害に関する事頂について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり、その対象が公務員の地位における行動である場合には、右批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというベきである。」

▽最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁

「そして、仮に右意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、事実を摘示しての名誉毀損における場合と対比すると、行為者において右事実を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解するのが相当である。」

しかし、ぶっちゃけ、何が違うのかわかりにくいですよね…。

上記の2つの判例をまとめつつ分節すると、

①公共の利害に関する事実に係り、

②その目的が専ら公益を図るものであり、

③-a 前提としている事実が主要な部分について真実であることの証明があったとき

③-b または、真実と信ずるにつき相当の理由があれば、

人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り

名誉毀損としての不法行為責任は成立しない、

と書かれています。赤字の部分が、意見・論評による名誉毀損の場合に固有の部分です。

前提事実の主要な部分について真実であればよい、とかのあたりは、若干やわらかくなっている感じがしますよね。でも、いくら意見・論評といったって、その域を逸脱した人身攻撃みたいなものはダメだ、とも言っています。

ちょっとややこしくなってきたので、ここでいったん表でまとめると、以下のような感じです。

誹謗中傷の刑事責任と民事責任の対比(私見)

刑事責任民事責任
社会的評価を低下させた名誉毀損罪または侮辱罪名誉毀損(不法行為責任)
【考え方】
⇒事実の摘示の有無により「名誉毀損罪」か「侮辱罪」かを区別する
⇒名誉毀損のときは、230条の2により違法性阻却されるか考える
【考え方】
⇒事実の摘示の有無により名誉毀損か侮辱かを区別するということはあまりない
⇒それよりも、「事実の摘示による名誉毀損」か「意見・論評による名誉毀損」かで区別して、判例の示す違法性阻却の要件を満たすかを考える
名誉感情を侵害した犯罪にはならない悪質な場合には(名誉毀損とは呼ばないにしても)稀に不法行為責任が問われる

対抗言論の法理

あと、ネット上での議論の応酬に関して、「対抗言論の法理」というのが言われることがあります。

これは何かというと、ネット上の特性として、新聞や雑誌などのマスメディアと違い、インタラクティブな情報の送受信が可能であることに着目して、

  • 反論が十分な成果を上げたときには社会的評価が低下せず名誉毀損は成立しないとか、
  • 被害者の方が加害者の方の名誉毀損表現を誘発するような表現をしたのだから、対抗言論として許される(=違法性が阻却される)

とか主張されるものです。

ただ、あまり裁判例に(法理として)積極的に取り入れられてはいないようです。ネット上の議論の応酬であるからといって一律に(法理的に)名誉毀損の成立範囲を狭めているといったことはない、ということです。

結局、その議論の応酬のプロセスをきちんと見て、最終的に「社会的評価を低下させたかどうか」とか、違法性を阻却すべき事情があるかどうかを判断しているようです。つまり、法理的に採用しているというよりは、ネット上の特性のひとつとして汲んで、考慮要素の一つとして取り上げている、という感じだと思います(これは管理人の個人的理解です)。

基本的にはネットであるからといって特別扱いはしていない、という感じです。こないだのリツイート最高裁判決(R2.7.21)でも、Twitterだからといって特別扱いしてない感じでしたが、そういう傾向があるのかもしれません(これも私見です)。

結び

この分野も掘り込んでいくと恐ろしく深く、キリがないので、このへんでまとめました。

それでも、よく見る主な論点は入っていると思います(もちろん、全部ではないですが。公然性要件と伝播性の理論とか、現実の悪意の法理とかは敢えて削いでいます)。

何かの参考になれば幸いです。

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

-インターネット, 法律コラム