インサイダー規制 法律ニュース

2024年相次いだインサイダー取引ニュース(取引所社員等)

2024年11月10日

ここ最近(2024年)、インサイダー取引に関するニュースが立て続けにありました。

何というか血の通ってないコメントになってしまいますが、規制をみるときのお手本になりそうな一連の事件だったので、本記事では、これらを題材にインサイダー規制の内容をさらっと見てみたいと思います。

※本記事のうち「告発」と「公判」の部分は順次追記しています

相次いだインサイダー取引ニュース3選

最近相次いだインサイダー取引ニュースですが、主なものは以下の3つかと思います。

以下、順にざっと内容を追いかけてみます。

金融庁出向中の裁判官の件

報道

TOB情報を利用した株取引を行ったことが疑われており、調査の結果、数十万円の利益を得た可能性が示唆されています。

2024年10月、金融庁に出向中の裁判官が、インサイダー取引の疑いで証券取引等監視委員会(SESC)の調査を受けていることが報道されました。この裁判官は、金融庁で上場企業のTOB(株式公開買付)関連の業務に携わっており、未公開情報に基づいて特定銘柄の株式を取引したとの疑いが報道されています。

その後の報道では、総額では数百万円規模の利益を得た可能性も指摘されています。

この場合、裁判官は金融庁に出向中とのことなので、「公開買付者等関係者」(金商法167条1項3号の準内部者)として、インサイダー取引の禁止(法167条1項)が問題となると考えられます。

告発

その後、証券取引等監視委員会(以下「証取委」)から告発がされています。

▽証取委のXアカウント(2024/12/23)

ちなみに、証取委は、犯則事件の調査により犯則の心証を得たときは、告発する義務を負っています。以下で見る他の事案でも同様です。

▽金融商品取引法226条1項

(委員会の告発等)
第二百二十六条
 委員会は、犯則事件の調査により犯則の心証を得たときは、告発し、領置物件、差押物件又は記録命令付差押物件があるときは、これを領置目録、差押目録又は記録命令付差押目録とともに引き継がなければならない。

公判・判決

判決は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金100万円等となっています。

裁判所HPの裁判例検索に、判決文が掲載されています。

東京地判令和7年3月26日(令和6年特(わ)3846号)|裁判所HP(≫裁判例検索

(量刑の理由)
 本件は、裁判官として金融庁に出向し金融商品取引法の規定による公開買付届出書その他の書類の審査及び処分などの職務に従事していた被告人が常習的に行った犯行であり、金融商品市場の公平性と健全性、金融商品市場に対する一般投資家の信頼を大きく損なうばかりか、金融庁による公開買付案件に対する監督制度の信頼を大きく失墜させるものである。本件各犯行に際し、被告人の規範意識の欠落は甚だしい。これらによれば、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。…(以下略)…。

東京証券取引所の社員の件

報道

企業のTOB(株式公開買い付け)の未公開情報を親族に提供し、その親族が利益を得たと伝えられています。

東京証券取引所の「適時開示」担当部署の若手社員が業務で知り得た企業のTOB(株式公開買い付け)の未公開情報を親族に伝えたとして、証券取引等監視委員会の調査を受けました。この親族は提供された情報を基に株の売買を行い、数十万円以上の利益を得たとみられていました。発覚後、社員は機密情報を扱う部署から外されたとのこと。

その後の報道では、親族は600万円超の利益を得た可能性も指摘されています。

参考リンク

このケースでは、社員本人は、「適時開示」担当部署とのことなので、「公開買付者等関係者」(金商法167条1項3号の準内部者)として、情報伝達行為の禁止(法167条の2第2項)が問題となると考えられます。

情報伝達行為の禁止に触れるには、主観的要件(「売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的」)が必要ですが(通常の業務などに支障を生じないようにするため主観的要件を課している)、ニュースにあるような経緯からすると、世間話であったとか、業務上必要な伝達行為であったとかの可能性は低いように思われます。

これに対して、親族は情報受領者にあたり、情報受領者の取引禁止(法167条3項。公開買付者等関係者からの情報受領者の禁止行為)が問題となると考えられます。

告発

その後、証取委から告発がされています。

▽証取委のXアカウント(2024/12/23)

公判・判決

その後、公判が開かれ、有罪判決が出ています。

▽日経電子版のXアカウント(2025/04/24, 05/09)

判決は、懲役1年6月(執行猶予3年)、罰金100万円等となっています。

裁判所HPの裁判例検索に、判決文が掲載されています。

東京地判令和7年5月9日(令和6特(わ)3843)|裁判所HP(≫裁判例検索

(量刑の理由)
 本件については、本来であれば証券市場の公正性や健全性を確保すべき立場にあるC証券取引所の従業員であった被告人Aが、父である被告人Bの求めに応じて公開買付けの実施に関する事実を伝達し、それに基づきインサイダー取引が行われたという点に顕著な特徴がある。本件は、証券市場開設者の従業員が関与した犯行であるという点で、証券市場の公正性及び健全性を根底から揺さぶり、かつ、証券市場に対する投資家の信頼を甚だしく損ねるものといえる。
 行われたインサイダー取引の規模も小さくない。…(以下略)…。

三井住友信託銀行の元社員の件

報道

顧客情報を基にしたインサイダー取引の疑いで、複数回の取引を行い、不正な利益を得たとされています。

2024年11月1日、三井住友信託銀行は元管理職社員がインサイダー取引を行っていた疑いで解雇されたと発表しました。この社員は業務を通じて知り得た未公開情報を基に、他社の株式を複数回取引していたとされています。本人が自己申告し、社内調査で発覚したとのこと。

具体的な事情は明らかでないところがありますが、元社員は業務を通じて知り得た未公開情報を利用していたとのことなので、情報受領者として、情報受領者の取引禁止(法166条3項or167条3項)が問題となると考えられます。

その後の報道によると、事案の概要は以下のようです(証券代行部門の部長職だった模様)。

▽日経電子版のXアカウント(2024/12/23)

告発

その後、証取委から告発がされています。

▽証取委のXアカウント(2025/03/24)

銀行のホームページでも、プレスリリースが公表されています。

公判・判決

その後、在宅起訴されており、罪状認否でも起訴内容を認めているようです。

判決は、懲役2年(執行猶予4年)、罰金200万円等となっています。

裁判所HPの裁判例検索に、判決文が掲載されています。

東京地判令和7年7月4日(令和7特(わ)806)|裁判所HP(≫裁判例検索

(量刑の理由)
 信託銀行の幹部職員として株式公開買付け等の取引先重要情報の管理業務等に従事していた被告人は、インサイダー取引等の不公正取引を未然に防止するため同銀行において取引先重要情報を取得した場合に作成することとされていた取引先重要情報管理票の回覧を受けて決裁するに際し、公表前に株式公開買付けの実施の事実を知り、3銘柄の株券合計2万5900株を代金合計3210万3220円で買い付けてインサイダー取引を行い、2932万7570円の利益を得た。その職務上の立場を悪用して自らの利益を追求し、相応の規模の買付けをしたもので、金融商品市場の公正性や健全性を損ない、一般投資家の信頼を失わせる悪質な犯行である。老後資金を貯蓄したかったという動機に酌むべき点もない。…(以下略)…。

結び

最近続いたインサイダー取引ニュースを題材に、インサイダー取引規制について見てみました。

主体が会社関係者や公開買付等関係者といった「内部者」なのか「情報受領者」なのか、対象となった情報が「重要事実」(決定事実、発生事実、決算情報)なのか「公開買付け等事実」なのか等により、適用法条が異なってきます。そのことがよくわかる一連の事例となっていますので、本記事でまとめて取り上げてみました。

ネット上には以下のような解説もあります。

それにしても、報道によれば三井住友信託銀行の件も証券代行部門の人だったようなので、金融庁・証券取引所・証券代行という、まさに資本市場の番人というか、エッセンシャルなプレイヤーたちがみなギルティだったということになり、なかなかハードな様相を呈した一連の事件だったな、という印象ですね。

課徴金引上げの議論にもつながっているようです。

▽日経電子版のXアカウント(2025/06/17)

[注記]
本記事は管理人の私見であり、管理人の所属するいかなる団体の意見でもありません。また、正確な内容になるよう努めておりますが、誤った情報や最新でない情報になることがあります。具体的な問題については、適宜お近くの弁護士等にご相談等をご検討ください。本記事の内容によって生じたいかなる損害等についても一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

-インサイダー規制, 法律ニュース