今回は、インサイダー取引規制を勉強しようということで、インサイダー取引規制のうち情報伝達行為・取引推奨行為の禁止について見てみたいと思います。
インサイダー取引規制には、大きく「会社関係者」と「公開買付者等関係者」に対する規制がありますが、
① 会社関係者の禁止行為
・規制対象となる主体
・規制対象となる情報
・規制対象となる取引
② 公開買付者等関係者の禁止行為
・規制対象となる主体
・規制対象となる情報
・規制対象となる取引
③ ①②とも情報伝達行為・取引推奨行為の禁止 ←本記事
その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
情報伝達行為・取引推奨行為の禁止(法167条の2)
情報伝達行為・取引推奨行為の禁止は、「会社関係者」と「公開買付者等関係者」の両者に関して設けられており、どちらも金商法167条の2に規定されています。
会社関係者の情報伝達・取引推奨規制(1項)
情報伝達行為は、未公表の重要事実を知った会社関係者が他人に重要事実を伝達することです。
これに対し、取引推奨行為は、未公表の重要事実を知った会社関係者が他人に売買等の取引を勧めることで、重要事実の伝達は不要とされています。
▽金商法167条の2第1項
(未公表の重要事実の伝達等の禁止)
第百六十七条の二 上場会社等に係る第百六十六条第一項に規定する会社関係者(同項後段に規定する者を含む。)であつて、当該上場会社等に係る同項に規定する業務等に関する重要事実を同項各号に定めるところにより知つたものは、他人に対し、当該業務等に関する重要事実について同項の公表がされたこととなる前に当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて、当該業務等に関する重要事実を伝達し、又は当該売買等をすることを勧めてはならない。
まとめつつ分けて読むと、
【主体】
〇上場会社等に係る会社関係者(元会社関係者を含む)であつて
〇当該上場会社等に係る重要事実を知ったものは
【客体】
〇他人に対し
【目的】
〇当該重要事実について公表がされたこととなる前に当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買等をさせる
ことにより
〇当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて
【行為】
〇当該重要事実を伝達し
又は
〇当該売買等をすることを勧めてはならない
のようになっています。
情報伝達・取引推奨のイメージと主観的要件
情報伝達行為は、例えば、未公表の重要事実を知った会社関係者が家族や知人に話すケースが考えられますが、【目的】部分のように主観的要件が課されていますので、ただの世間話として話した場合などは、情報伝達行為の禁止には該当しません。
ただ、この場合の家族や知人は「情報受領者」となり、インサイダー取引規制の規制対象となります(166条3項)
また、伝達する「他人」には特に限定がない(会社の役職員も含む)ので、業務上必要な社内での情報共有も一見該当してしまいそうですが、これも通常は主観的要件を欠くので、情報伝達行為の禁止には該当しません。
ただ、この場合も、情報共有を受けた社内の役職員は、重要事実を知った「会社関係者」として、インサイダー取引規制の規制対象となります(166条1項1号)
また、この場合は「会社関係者」なので、その者にも情報伝達・取引推奨行為の禁止がかかります
何だかややこしく見えますが、当然といえば当然の話かと思います
取引推奨行為は、重要事実の伝達を要しないので、例えば、未公表の重要事実を知った状態で会社役員がIR活動を行うことも該当してしまいそうですが、IR活動は一般的な投資行為の推奨ですので、主観的要件を欠き、取引推奨行為の禁止には該当しないとされています。
このように、主観的要件は、正当な情報伝達・取引推奨と不当な情報伝達・取引推奨を区別するための要件として機能しています。
金融庁HPに、以下のQ&Aがあります(上記につき問1~問3参照)。
公開買付者等関係者の情報伝達・取引推奨規制(2項)
公開買付け等の事実を知った公開買付者等関係者に関しても、基本的に上記とパラレルな規制がかかっています。
▽金商法167条の2第2項
2 公開買付者等に係る前条第一項に規定する公開買付者等関係者(同項後段に規定する者を含む。)であつて、当該公開買付者等の公開買付け等事実を同項各号に定めるところにより知つたものは、他人に対し、当該公開買付け等事実について同項の公表がされたこととなる前に、同項に規定する公開買付け等の実施に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る買付け等をさせ、又は同項に規定する公開買付け等の中止に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る売付け等をさせることにより当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて、当該公開買付け等事実を伝達し、又は当該買付け等若しくは当該売付け等をすることを勧めてはならない。
まとめつつ分けて読むと、
【主体】
〇公開買付者等に係る公開買付者等関係者(元公開買付者等関係者を含む)であつて
〇当該公開買付者等の公開買付け等事実を同項各号に定めるところにより知ったものは
【客体】
〇他人に対し
【目的】
〇当該公開買付け等事実について公表がされたこととなる前に
〇公開買付け等の実施に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る買付け等をさせ、又は公開買付け等の中止に関する事実に係る場合にあつては当該公開買付け等に係る株券等に係る売付け等をさせる
ことにより
〇当該他人に利益を得させ、又は当該他人の損失の発生を回避させる目的をもつて
【行為】
〇当該公開買付け等事実を伝達し
又は
〇当該買付け等若しくは当該売付け等をすることを勧めてはならない
のようになっています。
結び
今回は、インサイダー取引規制を勉強しようということで、情報伝達行為・取引推奨行為の禁止について見てみました。
インサイダー取引規制については、以下のような解説ページがあります。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 金商法(「金融商品取引法」)
- 金商法施行令(「金融商品取引法施行令」)
- 取引規制府令(「有価証券の取引等の規制に関する内閣府令」)
- インサイダー取引に関するQ&A(金融庁、証券取引等監視委員会)
- 情報伝達・取引推奨規制に関するQ&A(金融庁)
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