インサイダー規制

インサイダー取引規制|会社関係者の禁止行為-規制の仕組み(全体像)

今回は、インサイダー取引規制を勉強しようということで、会社関係者のインサイダー取引規制について見てみたいと思います。

インサイダー取引規制には、大きく「会社関係者」と「公開買付者等関係者」に対する規制がありますが、本記事では、前者の全体像をざっと見てみます。

会社関係者の禁止行為(金商法166条)←本記事
② 公開買付者等関係者の禁止行為(金商法167条)

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

会社関係者のインサイダー取引規制(金商法166条)

会社関係者のインサイダー取引規制とは、ざっくりいうと、

上場会社等に関する重要事実(いわゆるインサイダー情報)を知っている関係者は、その重要事実が公表されるまでは、その会社の有価証券の取引を行ってはならない

というものです(金商法166条)。

▽金商法166条1項(※「…」は管理人が適宜省略)

(会社関係者の禁止行為)
第百六十六条
 次の各号に掲げる…会社関係者…であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(…(略)…。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る…売買等…をしてはならない。…(略)…。
一~五 (略)

ポイントをまとめると、

  • 規制対象となる主体
    →「会社関係者」が職務などに関して「知った」場合
  • 規制対象となる情報
    →「重要事実」(決定事実+発生事実+決算情報+その他)
  • 規制対象となる取引
    →上場有価証券などの「売買等

のように整理することができます。

以下、順に見てみます。

規制対象となる主体-会社関係者(1項各号)

インサイダー規制の対象となるのは、「会社関係者」が、職務などに関し「知った」場合です。

「会社関係者」

ここでいう「会社関係者」は、166条1項各号に列挙されており、

  • 上場会社等の役員等(1号)
  • 帳簿閲覧権を有する株主(2号)
  • 帳簿閲覧権を有する投資主(2号の2)
  • 法令に基づく権限を有する者(3号)
  • 契約締結者、締結交渉中の者(4号)
  • ②③⑤の会社関係者が法人である場合の他の役員等(5号)

となっています。

「知った」

これらの者が重要事実を「知った」場合に規制対象主体となりますが、「知った」の情報入手経路も、会社関係者の類型ごとに法定されています。

具体的には、以下のようになっています。会社関係者の類型と同じく、166条1項各号の中で定められています。

【「知った」場合】

会社関係者の類型「知った」場合
① 上場会社等の役員等(1号)その者の職務に関し知ったとき
② 帳簿閲覧権を有する株主(2号)当該権利の行使に関し知ったとき
③ 帳簿閲覧権を有する投資主(2号の2)投資法人法128条の3第1項に定める権利【=帳簿閲覧権】又は同条第2項において準用する会社法433条3項に定める権利【=親法人の投資主による帳簿閲覧権】の行使に関し知ったとき
④ 法令に基づく権限を有する者(3号)当該権限の行使に関し知ったとき
⑤ 契約締結者、締結交渉中の者(4号)当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき
⑥ ②③⑤の会社関係者が法人である場合の他の役員等(5号)その者の職務に関し知ったとき

規制対象となる情報-重要事実(2項)

規制対象となる情報は、金商法上は、

上場会社等に係る業務等に関する重要事実

と表現されています(金商法166条1項)。

内容は、金商法166条2項で定められており、1号~14号まで多くのものがあります。

ざっと分類すると、

  • 決定事実
    →上場会社や子会社などにおいて、業務執行を決定する機関が、一定の重要事項を行う旨の決定をした事実(または、行う旨の決定をして公表した後で、これを行わない旨を決定した事実)
  • 発生事実
    →上場会社や子会社などにおいて、投資家の投資判断に重要な影響を及ぼすような一定の事実が発生したこと
  • 決算情報
    →上場会社や子会社などにおいて、業績予想の修正や、予想値と決算値との差異が発生したこと
  • バスケット条項
    →その他の重要事実

という4つの類型があります。

また、投資家の投資判断への影響が少ないものを除外するために、①決定事実と②発生事実には軽微基準(軽微なものを除く)、③決算情報には重要基準(重要なものに限る)が、それぞれ定められています。

規制対象となる取引-売買等

規制対象となる取引は、重要事実が「公表」される前に、上場有価証券などの「売買等」を行うことです。

「売買等」

会社関係者のインサイダー取引規制について規制対象となる取引は、

上場会社等の「特定有価証券等」に係る「売買等

と表現されており、ここでいう「売買等」は、

  • 売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け
  • 合併若しくは分割による承継
  • デリバティブ取引

とされています。

「特定有価証券等」とは

 「特定有価証券等」とは、特定有価証券または関連有価証券のことであり、金商法163条1項に定められています。

 特定有価証券は、社債券、優先出資証券、株券または新株予約権証券、投資法人法に規定する投資証券などのことで、関連有価証券は、これらの証券に係るオプション等を表示する、いわゆるカバードワラントや他社株転換条項付社債などのことです。

 ただ、実際には株式取引を例に考えることが多いと思いますので、基本的に上場株式(上記では「株券」)をイメージしておけばよいと思います。

「公表」(4項)

規制対象となるのは、これら規制対象となる取引を公表前に行うことですが、ここでいう「公表」の内容は、金商法166条4項に定められています。

「公表」の内容は、ざっくりいうと、”多数の者の知り得る状態に置く措置”と”法定開示書類の公衆縦覧”があり、

  • 多数の者の知り得る状態に置く措置(公表措置
    • 新聞等報道機関2社以上+12時間ルール(施行令30条1項1号)
    • TDnetを通じた適時開示(同2号・3号)
  • 法定開示書類の公衆縦覧

のようになっています。

適用除外(6項)

インサイダー取引規制の趣旨は、資本市場の公正さやこれに対する信頼を害するという点にあるので、投資家の信頼を害するおそれの低い取引については、類型的に規制対象から除外されています(適用除外)。

適用除外の内容は金商法166条6項に定められており、1号~12号までがあります。

具体的には、

  • 既に有する権利の行使
  • 法令による場合
  • 防戦買い
  • 自己株式等取得
  • 安定操作による売買等
  • 社債券などの売買等
  • 知っている者間の取引所市場等によらない場合
  • 組織再編
  • 知る前契約の履行
  • 知る前計画の実行
  • その他特別の事情

といったものがあります。

まとめ

ここまで見てきたところのまとめとして、条文を確認してみます。

エッセンスを見るためにかなり簡略化しています。

▽金商法166条(※【 】は管理人注)

(会社関係者の禁止行為)
第百六十六条
 次の各号に掲げる…会社関係者…であつて、上場会社等に係る業務等に関する重要事実(…(略)…。)を当該各号に定めるところにより知つたものは、当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る…売買等…をしてはならない。…(略)…。
【1号:上場会社等の役員等/その者の職務に関し知ったとき】
【2号:帳簿閲覧権を有する株主/帳簿閲覧権の行使に関し知ったとき】
【2号の2:帳簿閲覧権を有する投資主/帳簿閲覧権の行使に関し知ったとき】
【3号:法令に基づく権限を有する者/当該権限の行使に関し知ったとき】
【4号:契約締結者、締結交渉中の者/当該契約の締結若しくはその交渉又は履行に関し知ったとき】
【5号:2号、2号の2、4号の会社関係者が法人である場合の他の役員等/その者の職務に関し知ったとき】
 前項に規定する業務等に関する重要事実とは、次に掲げる事実…をいう。
【1号:上場会社等における決定事実】
【2号:上場会社等における発生事実】
【3号:上場会社等における決算情報】
【4号:上場会社等におけるバスケット条項】
【5号:子会社における決定事実】
【6号:子会社における発生事実】
【7号:子会社における決算情報】
【8号:子会社におけるバスケット条項】
【9号:上場投資法人等における決定事実】
【10号:上場投資法人等における発生事実】
【11号:上場投資法人等における決算情報】
【12号:上場投資法人等の資産運用会社における決定事実】
【13号:上場投資法人等の資産運用会社における発生事実】
【14号:上場投資法人等におけるバスケット条項】
 (略)
 …公表がされたとは、次の各号に掲げる事項について、それぞれ当該各号に定める者により多数の者の知り得る状態に置く措置として政令で定める措置がとられたこと又は当該各号に定める者が提出した第二十五条第一項…に規定する書類…【=法定開示書類】にこれらの事項が記載されている場合において、当該書類が同項の規定により公衆の縦覧に供されたことをいう。
一~四 (略)
 (略)
 第一項及び第三項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない【=適用除外】。
【1号~2号の2:既に有する権利の行使】
【3号:法令による場合】
【4号:防戦買い】
【4号の2:自己株式等の取得】
【5号:安定操作による売買等】
【6号:社債券などの売買等】
【7号:知っている者間の取引所市場等によらない場合】
【8~11号:組織再編】
【12号:知る前契約の履行/知る前計画の実行/その他特別の事情】

結び

今回は、インサイダー取引規制を勉強しようということで、会社関係者のインサイダー取引規制の全体像について見てみました。

インサイダー取引規制については、以下のような解説ページがあります。

▽参考リンク
内部者取引|証券取引等監視委員会HP
インサイダー取引|日本取引所グループHP

インサイダー取引規制に関する記事は、以下のページにまとめています。

▽インサイダー取引規制

インサイダー規制 - 法律ファンライフ
インサイダー規制 - 法律ファンライフ

houritsushoku.com

[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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