今日、こんなニュースがありました(2024/11/06)。
▽参考リンク
司法試験、最年少は17歳 合格1592人で政府目標上回る|日本経済新聞HP
あまり昨今の受験事情を気にしたことが実はなかったんですが、若年合格がどこまでいけるのか、ざざっと考えてみました。
司法試験合格と年齢
司法試験の受験資格をゲットするには、
- ロースクールルート(ロースクールを卒業して司法試験の受験資格を得る)
- 予備試験ルート(予備試験に合格すればロースクールをすっ飛ばして司法試験の受験資格を得ることができるが、合格率は低い=予備試験自体が難関)
の2つがあるのは周知のところですが、ニュースは②の方ですね。
なお、①のルートの「在学中受験制度」についても、冒頭のニュース下部にコメントがあります
ちょっと調べてみると、たしかに予備試験だと年齢制限がないので、理論上は年齢に制限がありません(進次郎構文)。
予備試験の方には、司法試験法にもその規則にも、年齢制限はありません。
なお、ロースクールルートに関しても年齢に言及する部分は特にないわけですが、当然ながらロースクール(法科大学院)に入学しないと卒業できないので、実際上は年齢制限があるわけですね。
▽司法試験法4条、5条
(司法試験の受験資格等)
第四条 司法試験は、次の各号に掲げる者が、それぞれ当該各号に定める期間において受けることができる。
一 法科大学院の課程を修了した者その修了の日後の最初の四月一日から五年を経過するまでの期間
二 司法試験予備試験に合格した者その合格の発表の日後の最初の四月一日から五年を経過するまでの期間
(司法試験予備試験)
第五条 司法試験予備試験(以下「予備試験」という。)は、司法試験を受けようとする者が前条第一項第一号に掲げる者と同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するかどうかを判定することを目的とし、短答式及び論文式による筆記並びに口述の方法により行う。
2 短答式による筆記試験は、次に掲げる科目について行う。
一 憲法
二 行政法
三 民法
四 商法
五 民事訴訟法
六 刑法
七 刑事訴訟法
八 一般教養科目
3 論文式による筆記試験は、短答式による筆記試験に合格した者につき、次に掲げる科目について行う。
一 前項第一号から第七号までに掲げる科目
二 専門的な法律の分野に関する科目として法務省令で定める科目のうち受験者のあらかじめ選択する一科目
三 法律実務基礎科目(法律に関する実務の基礎的素養(実務の経験により修得されるものを含む。)についての科目をいう。次項において同じ。)
4 口述試験は、筆記試験に合格した者につき、法的な推論、分析及び構成に基づいて弁論をする能力を有するかどうかの判定に意を用い、法律実務基礎科目について行う。
5 前三項に規定する試験科目については、法務省令により、その全部又は一部について範囲を定めることができる。
司法試験予備校である伊藤塾HPにも、司法試験と年齢制限に関する記事がありますね。
▽司法試験に年齢制限はある?最年少合格者と最高齢合格者も詳しくご紹介!|伊藤塾HP
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司法試験に年齢制限はある?最年少合格者と最高齢合格者も詳しくご紹介! | 記事一覧 | 司法試験コラム
www.itojuku.co.jp
ということで、高校生も司法試験に合格できます。
冒頭のニュースはそういうことですね。17歳での合格は、史上最年少ということです。
リーガルドラマ
そういえば、女子高校生を主人公にしたリーガルドラマも最近ありましたね(『JKと六法全書』2024年4月(春)クール)。
▽JKと六法全書|テレビ朝日HP
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金曜ナイトドラマ『JKと六法全書』|テレビ朝日
www.tv-asahi.co.jp
管理人は見てないんですが、作中で、本記事で話題にしているようなこと(年齢制限やそれにまつわること)がもっとくわしく出てくるのかもしれません。
もう少し深掘り
中学生での司法試験合格は?
そうすると、中学生での司法試験合格も可能だな…と思っていると、伊藤塾のHPにありました。
▽弁護士になるには?必要な学力や最短で何年かかるのかなど弁護士になるまでの流れを解説|伊藤塾HP
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弁護士になるには?必要な学力や最短で何年かかるのかなど弁護士になるまでの流れを解説 | 記事一覧 | 司法試験コラム
www.itojuku.co.jp
この中に、
さらに、予備試験には受験資格がないため、極端な話をすると中学生でも高校生でも受験可能です。実際に18歳で司法試験に合格した人もいます。
とあります(上記ページ参照)。
ということで、中学生も司法試験に合格できます(予備試験ルート)。
小学生での司法試験合格は?
これも、予備試験だと年齢制限がないので、理論上は年齢に制限がありません(進次郎構文)。
ということで、明言はありませんが、小学生も司法試験に合格できるはずです(予備試験ルート)。
あまりにレアそうなため考える余地もなさそうですが、アニメみたいなギフテッドが今後出てこないとも限りません。
他のハードルが考えられる
ただ、さすがにそこまでいくと何となく常識と抵触する感じもするというか、違和感もなくはないところです。
そこで他のハードルを考えてみると、①未成年(18歳未満)であることと、②年少者(15歳未満)に関する労働基準法上の規制、があるかと思います。
①未成年は制限行為能力者
未成年者は、未成年者を保護する観点から、いわゆる行為能力(単独で確定的に有効な法律行為をする能力)を制限されています(民法5条)。
平たくいうと、契約などに関しては親権者などの同意がないと有効に締結することができない、つまり、一応締結はできるものの、「取り消し得る」というペンディングなステータスのままになります。親権者などの法定代理人が、後から取り消すことができるということです。
ということは、弁護士になったとて、その時点で制限行為能力者では何かと不都合がありそうです(依頼者との委任契約は?ボス弁や事務所との関係は?破産管財人できるか?etc)。
また単純に、未成年ということで社会的な心理的抵抗はありそうに思います(特に依頼者からみて)。
▽民法4条、5条
(成年)
第四条 年齢十八歳をもって、成年とする。
(未成年者の法律行為)
第五条 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、法定代理人が目的を定めて処分を許した財産は、その目的の範囲内において、未成年者が自由に処分することができる。目的を定めないで処分を許した財産を処分するときも、同様とする。
しかし、営業に関しては、親権者などの法定代理人が営業の許可を出せばOKなので(民法6条)、実は、突破できなくはありません。
▽民法6条
(未成年者の営業の許可)
第六条 一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。
2 前項の場合において、未成年者がその営業に堪えることができない事由があるときは、その法定代理人は、第四編(親族)の規定に従い、その許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
また、社会的な心理的抵抗に関しても、「私はそんなこと気にしないよ!よろしく!」と言うファーストペンギンのような依頼者であれば、実際に稼働することは十分できるように思います(そういう層の人たちも一定数はいそう)。
②年少者に関する労働基準法上の規制
また、年少者(15歳未満)に関しては、原則として労働者として使用してはならないことになっています(労働基準法56条1項)。
▽労働基準法56条
(最低年齢)
第五十六条 使用者は、児童が満十五歳に達した日以後の最初の三月三十一日が終了するまで、これを使用してはならない。
② 前項の規定にかかわらず、別表第一第一号から第五号までに掲げる事業以外の事業に係る職業で、児童の健康及び福祉に有害でなく、かつ、その労働が軽易なものについては、行政官庁の許可を受けて、満十三歳以上の児童をその者の修学時間外に使用することができる。映画の製作又は演劇の事業については、満十三歳に満たない児童についても、同様とする。
また、仮に許可を受けられたとしても、年少者に関する深夜労働の規制もありますね(労働基準法61条5項)。15歳未満だと、基本的にPM8:00~AM5:00は労働不可です。
▽労働基準法61条
(深夜業)
第六十一条 使用者は、満十八才に満たない者を午後十時から午前五時までの間において使用してはならない。ただし、交替制によつて使用する満十六才以上の男性については、この限りでない。
② 厚生労働大臣は、必要であると認める場合においては、前項の時刻を、地域又は期間を限つて、午後十一時及び午前六時とすることができる。
③ 交替制によつて労働させる事業については、行政官庁の許可を受けて、第一項の規定にかかわらず午後十時三十分まで労働させ、又は前項の規定にかかわらず午前五時三十分から労働させることができる。
④ 前三項の規定は、第三十三条第一項の規定によつて労働時間を延長し、若しくは休日に労働させる場合又は別表第一第六号、第七号若しくは第十三号に掲げる事業若しくは電話交換の業務については、適用しない。
⑤ 第一項及び第二項の時刻は、第五十六条第二項の規定によつて使用する児童については、第一項の時刻は、午後八時及び午前五時とし、第二項の時刻は、午後九時及び午前六時とする。
まあ、この深夜労働規制というと普通、芸能人の子役が気にするような規制なんですけども。弁護士も気にするようになる時代がくる?のかも(子ども弁護士?児童弁護士?)。
しかしこれも、イソ弁の法的性質に関する論点で「イソ弁は雇用か委任か?」というのがありますが、これも「委任契約です!なので労働者ではありません!」という理論武装で、突破する可能性もなくはありません。
そうすると、いわゆる「光GENJI通達」(※)のような通達が出て、この分野に関する新しいルールメイキングがされるような日もくるかもしれません。
(※)芸能タレント通達ともいう。人気の絶頂にあった男性アイドルグループ「光GENJI」の活動をきっかけに当時の労働省から出された通達で、芸能人の労働者性の判断基準を示したもの。
あるいは、即独立してしまえば、労基法はもはや関係ありません(それはさすがに無理か)。
まとめ
予備試験ルートで司法試験に合格してから弁護士になるまで、予備試験の受験から概ね3年ぐらいになるようです(上記の伊藤塾HPのページ参照)。
これと、以上の検討を合わせると、概ね、
未成年者でなくなる時期から3年逆算して、15歳頃に予備試験を受験して、以後全て合格する
というラインが考えられます(未成年云々を考えなくてよくなる)。
もしくは、さらに攻めるならば、
労基法上の年少者でなくなる時期から3年逆算して、12歳頃に予備試験を受験して、以後全て合格する
というあたりが、限界ラインになりそうです(未成年云々は考えなくてはいけないが、労基法上の年少者云々は気にしなくてよくなる)。
年少者に関する労基法上の規制は、簡単にいうと義務教育の間は働かせずに学業に専念させなさいということなので、はじめからこのラインを狙ってやれば、最強の中卒弁護士というものが誕生するかもしれません(でも残業はPM10時まで(労基法61条1項)、というコメディっぽいオチもつく)。
しかし限界ラインといっても、「親が営業の許可出してます!」「私のクライアントは年齢なんて気にしません!」「労基法の規制?そんなもの適用されません、委任契約ですから!」「私は即独立します!」などなど、一応考えられる限界突破理論をすべて駆使した暁には、限界なんてありません。
そうすると、3歳で予備試験を受験して、6歳で弁護士になってもOKです(予備試験ルート)。
もはや『ボス・ベイビー』みたいな世界観になりますが…。というか、弁護士会も何か理由をつけて登録拒否しそうですが(公序良俗に照らして云々、とか)。
結び
さすがに現実味が薄くなってからはネタみたいな考察になってしまいましたが(後半は妄想のつもりで書いていますので、ご了承いただければと)。
しかし、現実は小説よりも奇なり、無いともいい切れません。なんせ、YouTubeで勉強して数学検定1級に9歳で合格した少年がいる時代なので(以下の記事参照)、似たようなことがいずれ司法試験でも起こる可能性は否定できない気がします。
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ということで、高校生弁護士とリーガルドラマから、年齢限界を突破する理論まで考えてみました。
[注記]
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