今回は、特定商取引法を勉強しようということで、特定商取引法に基づく表記の全体像について見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
特定商取引法に基づく表記とは
いろんなウェブサイトに「特定商取引法に基づく表記」というページがあり、そこへのリンクが貼られているのを見かけると思いますが、
・これは特定商取引法のどこの部分で必要とされているのか?
・何のために必要とされているのか?
というのが、まず最初の話です。
これは、特商法のなかの、「通信販売の広告」をする際の表示ルールになります(特商法11条)。
通信販売の広告をするときは、一定の事項を広告に表示するよう義務づけられているわけです。
ウェブサイトでよく見るのは、ウェブサービスの場合、販売ページが同時に広告にもなってしまうため、「通信販売」で「広告」を行う場合になって、このルールが適用されることになるためです。
以下のように、通信販売をする場合に広告をするときは、所定の記載事項(1号~6号に定める事項)を表示しなければならない、とされています。
▽法11条本文
(通信販売についての広告)
第十一条 販売業者又は役務提供事業者は、通信販売をする場合の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件について広告をするときは、主務省令で定めるところにより、当該広告に、当該商品若しくは当該権利又は当該役務に関する次の事項を表示しなければならない。ただし、…(略)…。
一~六 (略)
なぜ特商法表記が求められるのか
では、なぜ通信販売で広告をする際には、表示ルールが定められているのか?というと。
ここはわりとシンプルで、通信販売というのは遠隔地間の取引なので、商品・サービスの内容や代金・料金等は、通常、広告を通じて提供されているからです。
そこで、消費者が購入しようかどうかを判断するにあたって、事前の情報提供である広告に必要十分な情報が正確に記載されるように、記載事項のルールが決められています。
▽逐条解説〔令和5年6月1日時点版〕第11条|特定商取引法ガイド(≫掲載ページ)
通信販売は、隔地者間での取引であるため、販売条件等についての情報は、まず広告を通じて提供されることとなる。したがって、その広告中の表示が不十分又は不正確であると、後日、それらの点をめぐってトラブルが発生することになる。また、通信販売は訪問販売等の他の取引類型とは異なって、基本的には購入者等が販売業者等から圧力を受けずに契約を締結する意思の形成を行うものであり、本来、購入者等は自らの意思の形成について全面的な自己責任を有するものである。しかし、そのためには、事前の情報提供の段階である広告において、必要な情報が十分に与えられていなければならない。このような観点から通信販売の広告中には、一定事項について明確な表示を行わせることとしたものである。
「通信」という言葉は日常でも馴染みがあるものの、いまひとつはっきり意味を考えることは少ないように思いますが、離れた場所にいる者の間での意思疎通や連絡のことです
極端な例を出せば、伝書鳩の手紙も通信ですし、また、普通の郵便の手紙も通信です。電話やFAXやインターネットは電気通信です
特商法表記の記載事項(全体像)
本題の、記載事項の全体像について見てみます。
記載事項には、常に記載しなければならない絶対的記載事項と、特約等がある場合には記載しなければならない任意的記載事項があります。
なお、ここでいう「任意的」というのは、書いても書かなくてもいいという意味ではなく、一定の場合にのみ表示することが義務づけられる事項、という意味です。
分類 | 表示事項 | 条文 |
---|---|---|
絶対的記載事項 | ①販売価格・役務の対価 | 法11① |
②代金・役務の対価の支払時期及び方法 | 法11② | |
③商品の引渡時期、権利の移転時期、役務の提供時期 | 法11③ | |
④商品・権利の売買契約の申込みの撤回、又は売買契約の解除に関する事項(返品特約の内容を含む) | 法11⑤ | |
⑤事業者の氏名又は名称、住所、電話番号 | 規則23① | |
任意的記載事項 | ⑥事業者が法人であり電子広告をする場合は、代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名 | 規則23② |
⑦事業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であり日本国内に事務所等を有している場合は、国内事務所等の所在場所と電話番号 | 規則23③ | |
⑧申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨と内容 | 法11④ | |
⑨代金・送料以外に必要な手数料等があるときは、その内容と金額 | 規則23④ | |
⑩契約不適合責任の特約があるときは、その内容 | 規則23⑤ | |
⑪商品又は役務を利用するため電子計算機が必要な場合は、必要な電子計算機の仕様及び性能その他の必要な条件 | 規則23⑥ | |
⑫商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び金額、契約期間その他の販売条件 | 規則23⑦ | |
⑬販売数量の制限その他の特別な条件がある場合は、その内容 | 規則23⑧ | |
⑭広告の表示事項の一部を表示しない場合であって、法11条但書の書面を請求した者に当該書面に係る金銭を負担させるときは、その額 | 規則23⑨ | |
⑮通信販売電子メール広告をするときは、販売業者又は役務提供事業者の電子メールアドレス | 規則23⑩ |
条文を確認してみます。概ね、絶対的記載事項→法律、任意的記載事項→規則というふうに書かれていますが、若干クロスしています。
法律に書かれているのは、絶対的記載事項のうち①~④までと、任意的記載事項の⑧です。以下、任意的記載事項のうち、記載が必要な場面を示す部分には下線を引いています。
▽特商法11条各号
一 商品若しくは権利の販売価格又は役務の対価(販売価格に商品の送料が含まれない場合には、販売価格及び商品の送料)
二 商品若しくは権利の代金又は役務の対価の支払の時期及び方法
三 商品の引渡時期若しくは権利の移転時期又は役務の提供時期
四 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約に係る申込みの期間に関する定めがあるときは、その旨及びその内容
五 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約の申込みの撤回又は解除に関する事項(第十五条の三第一項ただし書に規定する特約がある場合にはその内容を、第二十六条第二項の規定の適用がある場合には同項の規定に関する事項を含む。)
六 前各号に掲げるもののほか、主務省令で定める事項
6号で主務省令に委任されているので、施行規則を見てみます。
規則に書かれているのは、絶対的記載事項の⑤と、任意的記載事項の残り全部です。
▽規則23条
(通信販売についての広告)
第二十三条 法第十一条第六号の主務省令で定める事項は、次に掲げるものとする。
一 販売業者又は役務提供事業者の氏名又は名称、住所及び電話番号
二 販売業者又は役務提供事業者が法人であつて、電子情報処理組織を使用する方法により広告をする場合には、当該販売業者又は役務提供事業者の代表者又は通信販売に関する業務の責任者の氏名
三 販売業者又は役務提供事業者が外国法人又は外国に住所を有する個人であつて、国内にその行う事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるもの(以下この号、第七十一条第三号及び第百十二条第三号において「事務所等」という。)を有する場合には、当該事務所等の所在場所及び電話番号
四 法第十一条第一号に定める金銭以外に購入者又は役務の提供を受ける者の負担すべき金銭があるときは、その内容及びその額
五 引き渡された商品が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合の販売業者の責任についての定めがあるときは、その内容
六 磁気的方法又は光学的方法によりプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。以下同じ。)を記録した物を販売する場合、又は電子計算機を使用する方法により映画、演劇、音楽、スポーツ、写真若しくは絵画、彫刻その他の美術工芸品を鑑賞させ、若しくは観覧させる役務を提供する場合、若しくはプログラムを電子計算機に備えられたファイルに記録し、若しくは記録させる役務を提供する場合には、当該商品又は役務を利用するために必要な電子計算機の仕様及び性能その他の必要な条件
七 商品若しくは特定権利の売買契約又は役務提供契約を二回以上継続して締結する必要があるときは、その旨及び金額、契約期間その他の販売条件又は提供条件
八 前四号に掲げるもののほか商品の販売数量の制限その他の特別の商品若しくは特定権利の販売条件又は役務の提供条件があるときは、その内容
九 広告の表示事項の一部を表示しない場合であつて、法第十一条ただし書の書面又は電磁的記録を請求した者に当該書面又は電磁的記録に係る金銭を負担させるときは、その額
十 通信販売電子メール広告(法第十二条の三第一項第一号の通信販売電子メール広告をいう。以下同じ。)をするときは、販売業者又は役務提供事業者の電子メールアドレス
6号が特にわかりにくい(長い)と思いますが、要するに、ソフトウェアに係る取引である場合には、そのソフトウェアの動作環境(ソフトウェアを使用できるOSの種類、CPUの種類、メモリの容量、ハードディスクの空き容量等)を表示しなければならない、ということです。
7号の「商品の売買契約を二回以上継続して締結する必要」とは、いわゆる定期購入の場合のことです。
結び
今回は、特定商取引法を勉強しようということで、特商法表記の全体像について見てみました。
なお、消費者庁の「特定商取引法ガイド」の通信販売広告についての説明ページが全体的に充実しているし読みやすいので、こちらもおすすめです。
-
通信販売広告について|通信販売|特定商取引法ガイド
www.no-trouble.caa.go.jp
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
特定商取引法に関するその他の記事
主要法令等・参考文献
主要法令等
参考サイト・関連団体
- 特定商取引法ガイド(※消費者庁の特設サイト)
- 財団法人日本産業協会(※特商法の申出制度に関する指定法人)
参考文献
- 逐条解説(「特定商取引に関する法律の解説(逐条解説)」)(消費者庁)
- 詳解 特定商取引法の理論と実務〔第5版〕(圓山茂夫)
当サイトではアフィリエイトプログラムを利用して商品・サービスを記載しています