今回は、景品表示法を勉強しようということで、表示規制の適用対象事業者について見てみたいと思います。
表示規制の適用対象事業者は、①供給主体性と②表示主体性に分けて考えるとわかりやすいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
表示規制の適用対象事業者に関する考え方
表示規制の適用対象は、「事業者」です。
▽景品表示法5条
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一~三 (略)
不当表示の禁止を定める法5条の主体は、上記のように「事業者」となっているからです。
これだけだと当たり前の話のようですが、2つのポイントがあります。
ポイント①:供給主体性
上記の「表示」を含め、景品表示法でいう「表示」とは、自己の供給する商品・役務の取引に関する事項についての表示とされているため(法2条4項)、上記の「事業者」とは、その商品・役務の供給主体である事業者を指していることになります。
これが供給主体性という話です。
ポイント②:表示主体性
また、この”供給”というのは、エンドユーザーと直接に取引する小売店やサービス業者のことだけではなく、たとえばメーカー→卸売業者→小売業者→(消費者)といった商流に関わっている者は広く含まれるとされています。
その場合、表示について複数の事業者が関係していることがあるので、どの事業者が表示規制の適用対象(ひいては行政措置等の対象)たる「事業者」となるのか?という問題があります。
これが表示主体性という話です。
このように、表示規制の適用対象事業者とは、供給主体性と表示主体性の双方を満たすもの、ということになります。
以下、順に見てみます。
供給主体性
表示規制の適用対象事業者となるのは、「自己の供給する」商品・役務の取引に関する事項について表示を行う場合です。
これを供給主体性と呼びます。
これは、条文でいうと「表示」の定義として定められていますが、実際の判断プロセスとしては、表示規制の適用対象事業者を判断する際に問題となります(古川昌平「エッセンス景品表示法」33頁等参照)。
▽景品表示法2条4項
4 この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
例えば、商品のメーカー⇒卸売業者⇒小売業者といった製造・販売ルート上にある事業者は、いずれも供給主体性を満たします。
これに対して、広告代理店や媒体事業者(マスメディア等)は、商品・役務の広告の制作などには関与していても、その商品・役務は、広告代理店等にとっては自己の供給する商品・サービスでは通常ありませんので(共同して供給としているとみられるような特殊な事情がある場合は別)、供給主体性を欠くとされます。
▽表示に関するQ&A【Q3】|消費者庁HP
当社は広告代理店です。メーカーとの契約により、当該メーカー商品の広告宣伝を企画立案した結果、当該商品の品質について不当表示を行ってしまいました。この場合、広告代理店である当社も景品表示法違反に問われるのでしょうか。
景品表示法の規制対象である「広告その他の表示」とは、事業者が「自己の」供給する商品・サービスの取引に関する事項について行うものであるとされており、メーカー、卸売業者、小売業者等、当該商品・サービスを供給していると認められる者により行われる場合がこれに該当します。
他方、広告代理店やメディア媒体(新聞社、出版社、放送局等)は、商品・サービスの広告の制作等に関与していても、当該商品・サービスを供給している者でない限り、表示規制の対象とはなりません。しかしながら、広告代理店やメディア媒体は、広告を企画立案したり、当該広告を一般消費者に提示する役割を担うことにかんがみ、当該広告に不当な表示がなされないよう十分な注意を払ってください。
また、いわゆるアフィリエイターも、通常は、その商品・役務を自ら供給する者ではないので、供給主体性を欠き、表示規制の適用対象とはならないと考えられています。
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表示主体性
次に、表示規制の適用対象となるのは当該表示をした主体ですが、誰がその表示をしたと捉えるのか、というのが表示主体性の話です。
条文でいうと、法5条は不当表示について「表示をしてならない」としているので、この表示行為をした「事業者」は誰と捉えるのか、という解釈問題になります。
▽景品表示法5条(※再掲)
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一~三 (略)
この点は、不当表示の内容の決定に関与した事業者、と解されています。
「決定に関与」には、積極的に決定した場合だけではなく、他の者の説明に基づいて決定した場合や、他の者に決定を委ねた場合なども含まれるとされています。
【「決定に関与」とは】
- 自ら又は他の者と共同して、積極的に当該表示の内容を決定した場合
- 他の者の表示内容に関する説明に基づき、その内容を定めた場合
- 他の者にその決定をゆだねた場合
ちなみに、ひとつの事業者に絞られるとは限らず、内容の決定に関与した事業者が複数認定されることもあり得ます。
▽表示に関するQ&A【Q2】|消費者庁HP
景品表示法に基づく表示規制の対象となる事業者の範囲を教えてください。
景品表示法は、不当な表示による顧客の誘引を防止するため、事業者が自己の供給する商品・サービスの取引について、不当な表示を行うことを禁止しています(同法第5条第1項)。また、不当表示が行われた場合、消費者庁長官及び都道府県知事は、当該行為を行った事業者に対し、その行為の差止め又はその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができます(同法第7条第1項)。
このような規制の趣旨から、不当な表示についてその内容の決定に関与した事業者が、景品表示法上、規制の対象となる事業者となります。この場合の「決定に関与」とは、自ら又は他の者と共同して積極的に当該表示の内容を決定した場合のみならず、他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合や、他の者にその決定をゆだねた場合も含まれます。この場合において、当該表示が景品表示法第5条第1項に規定する不当な表示であることについて、当該表示の決定に関与した者に故意又は過失があることは要しません。
このように、表示内容の決定に関与した事業者が、表示規制の対象となる「事業者」とされています。
また、不当表示について故意・過失は要しません。これは解釈ではなく、景表法5条1項の条文上そうなっています(故意や過失が要求されていない)。
つまり、故意でなくとも、また、過失がなくとも、不当表示になる、ということです。
参考判例
参考判例として、東京高判平成20年5月23日があります。考え方のベースはここに書かれています。
参考判例というか、上記Q2の解釈の元になっている判例です
事案の概要としては、審決取消請求事件で、セレクトショップにおいて、イタリア製と表示されていたズボンが実際にはルーマニア製でしたが、小売業者は、仕入先である輸入販売業者(輸入卸売業者)の説明を信用して、タグや下げ札にイタリア製と記載するよう委託していた、という事案になります。
▽東京高判平成20年5月23日(平19(行ケ)5号)|裁判所HP(裁判例検索)
景品表示法は、不当な表示による顧客の誘引を防止するため、事業者に自己の供給する商品等について一定の不当な表示をすることを禁止しており(同法4条1項)、公正取引委員会は、これに違反する行為を行った事業者に対し、その行為の差止め又はその行為が再び行われることを防止するために必要な事項等を命ずべきこととしており(同法6条1項)、このような規制の趣旨に照らせば、当該不当な表示についてその内容の決定に関与した事業者は、その規制の対象となる事業者に当たるものと解すべきである。この場合の「決定に関与」とは、自ら若しくは他の者と共同して積極的に当該表示の内容を決定した場合のみならず、他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合や、他の者にその決定を委ねた場合も含まれるものと解すべきである。そして、この場合において、当該表示が同法4条1項に規定する不当な表示であることについて、当該決定関与者に故意又は過失があることを要しないものである。
その他参考になる事例
その他、Q&Aにいくつか参考になる事例が掲載されていますので、ざっと見てみます。
製造業者の説明に基づいて小売業者がチラシを作成した場合
▽表示に関するQ&A【Q4】|消費者庁HP
小売業者が製造業者から仕入れた商品について、当該製造業者からの誤った説明に基づいて、当該商品に関するチラシ広告を作成したために不当表示となった場合、小売業者は表示規制の対象になりますか。
チラシ(表示)の内容を決定したのは当該小売店ですので、小売業者に過失があるかどうかにかかわらず、小売業者は表示規制の対象になります。
このように、製造業者からの説明が誤っていたんです(我々のせいじゃありません)と言っても、表示内容を決定している以上、不当表示規制の適用対象事業者となります。
他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合も、「決定に関与」に含まれると解されているからです。
鵜呑みにしてしまった場合(=過失がありそうな場合)も当然そうですし、不当表示の該当性には過失を要しないので、誤った説明について調査や確認を怠っていなかった(=過失がなさそうな場合)としても同じということになります。
製造業者に表示の内容の決定をゆだねた場合
▽表示に関するQ&A【Q5】|消費者庁HP
小売業者が製造業者に対してPB商品の製造委託を行い、併せて当該商品の包装に記載する表示の作成も当該製造業者に任せていたところ、当該商品に不当表示があった場合には、小売業者、製造業者のどちらが表示規制の対象となるのでしょうか。
事業者が表示規制の対象となる場合には、自ら又は他の者と共同して積極的に不当な表示の内容を決定した場合のみならず、他の者の表示内容に関する説明に基づきその内容を定めた場合や、他の者にその決定をゆだねた場合も含まれます。
この事例の場合、小売業者は、製造業者に表示の内容の決定をゆだねていることから、当該製造業者とともに表示規制の対象となります。
このように、製造業者に任せていたんです(我々のせいじゃありません)と言っても、不当表示規制の適用対象事業者となります。
他者に表示内容の決定を委ねた場合も、「決定に関与」に含まれると解されているからです。
小売業者が仕入れてそのまま販売した場合
▽表示に関するQ&A【Q6】|消費者庁HP
製造業者がその内容を決定した表示が容器に付けられた商品を小売業者が仕入れ、それをそのまま店頭に並べ、消費者がその表示を見て商品を購入した場合、容器に付けられた表示に不当表示があったとき、小売業者も表示規制の対象になるのでしょうか。
表示の内容を決定したのが製造業者であり、小売業者は、当該表示の内容の決定に一切関与しておらず、単に陳列して販売しているだけであれば、当該小売業者は表示規制の対象にはなりません。
なお、小売業者が広告等を行っている場合は、Q4を参考にしてください。
このように陳列・販売しただけであれば、表示内容の決定に関与していないので、不当表示規制の適用対象事業者とはなりません。
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、表示規制の適用対象事業者について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- 2008年No.1報告書(平成20年6月13日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(公正取引委員会事務総局))
- 2024年No.1報告書(令和6年9月26日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(消費者庁表示対策課))
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)
参考文献
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