今回は、景品表示法を勉強しようということで、二重価格表示のうち、過去の販売価格を比較対照価格とする場合について見てみたいと思います。
二重価格表示には、比較対照価格として何を置くかによりいくつか種類がありますが、
①「過去の販売価格」を比較対照価格とする場合 ←本記事
②「将来の販売価格」を比較対照価格とする場合
③「タイムサービス」を行う場合
④「希望小売価格」を比較対照価格とする場合
⑤「競争事業者の販売価格」を比較対照価格とする場合
⑥「他の顧客向けの販売価格」を比較対照価格とする場合
その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。
二重価格表示についてのくわしい考え方は、価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)に記載されています。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
過去販売価格による二重価格表示とは
過去の販売価格を比較対照価格とするというのは、読んでそのままですが、”従来のお値段に比べてこの価格は安いですよ!”といったような表示のことです。
セール等、日常生活でもよく見かけますので、内容的にイメージしづらいということはないと思います。
価格表示ガイドラインでは、以下のように解説されています。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-(1)-ア-(ア)-a
a 需要喚起、在庫処分等の目的で行われる期間限定のセールにおいて、販売価格を引き下げる場合に、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがある。
この場合、比較に用いられる過去販売価格の表示方法は一様ではなく、例えば、
- 価格のみが表示されている場合
- 「当店通常価格」、「セール前価格」等の名称や、"当"、"平"等の記号が付されている場合
- どのような価格かについて具体的な説明が付記されている場合
などがある、とされています。
結局、引き合いに出されている過去販売価格が、内容がわかるよう具体的な説明がされているものであれば(③)、問題は生じません。何と比べて安いと言っているのか、消費者にもわかるからです。
しかし、問題は、何の説明もされていない場合(①)や、ざっくりした説明しかされていない場合(②)です。
景品表示法上の考え方
消費者としては、単に”過去の販売価格に比べて安いですよ”、と言われたら、
- それは最近の価格なのだろう(過去といっても大昔ではないだろう)
かつ - ある程度の期間は、実際にその価格で店頭に並んでいたのだろう
と思うだろうと考えられます(過去販売価格の「時点」と「期間」)。
つまり、くわしい説明をしない場合には、引き合いに出している過去販売価格は上記のようなものでなければならない(そうでなければ誤認を引き起こす)、ということになります。
わかりやすく極端にいうと、
・実は10年前の販売価格だったのに、「過去の販売価格」ではあるから嘘はついてません(=時点)
とか、
・実は1か月前に1日だけその価格で販売したのみだったのに、やはり「過去の販売価格」ではあるから嘘はついていません(=期間)
とか言われても、それは不当表示としか思えないだろう、ということです。
価格表示ガイドラインは、この、あるべき過去販売価格のことを「最近相当期間にわたって販売されていた価格」(最近相当期間価格)と言っています。これがキーワードになります。
要するに、過去の販売価格として通常想像される実態がなければならない(もしそうでないときは内容を説明せよ)、と言っているわけです。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-⑴-ア-(ア)-b
b 過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われる場合に、比較対照価格がどのような価格であるか具体的に表示されていないときは、一般消費者は、通常、同一の商品が当該価格でセール前の相当期間販売されており、セール期間中において販売価格が当該値下げ分だけ安くなっていると認識するものと考えられる。
このため、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う場合に、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格とはいえない価格を比較対照価格に用いるときは、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるか等その内容を正確に表示しない限り、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
…(略)…
他方、同一の商品について最近相当期間にわたって販売されていた価格を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはないと考えられる。
このように、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」なら不当表示には該当しないが、もしそうでないなら、内容を正確に表示せよ、とされています。
いろいろ難しい言葉で書かれていますが、内容は至極真っ当なことなので、それ程難しく考える必要はないと思います(常識的な内容)。
最近相当期間価格についての考え方
では、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」(最近相当期間価格)とはどういうものか、もう少し具体的に見てみます。
まず、「相当期間」については、連続した期間でなくでもよい、つまり断続的な期間であってもよいとされています。断続的な期間については、通算して計算することになります。
次に、「販売されていた価格」とは、購入実績のあることまで要しないとされています。つまり、実際に売れていなくてもよい(売ろうとして販売活動を行っていたならよい)、ということです。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-⑴-ア-(イ)
a 「相当期間」については、必ずしも連続した期間に限定されるものではなく、断続的にセールが実施される場合であれば、比較対照価格で販売されていた期間を全体としてみて評価することとなる。
b また、「販売されていた」とは、事業者が通常の販売活動において当該商品を販売していたことをいい、実際に消費者に購入された実績のあることまでは必要ではない。
ただし、形式的にはこれらを充足しているように見えても、「販売されていた」とはいえないケースとして、以下の2つが挙げられています。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-⑴-ア-(イ)-b
他方、形式的に一定の期間にわたって販売されていたとしても、通常の販売場所とは異なる場所に陳列してあるなど販売形態が通常と異なっている場合や、単に比較対照価格とするための実績作りとして一時的に当該価格で販売していたとみられるような場合には、「販売されていた」とはみられないものである。
販売形態に断絶性があったり、見せかけのための一時的な価格であったりした場合には、「販売されていた」とは評価しない、ということです。
最近相当期間価格か否かの判断基準
実際は過去販売価格について細かい内容の説明を表記することはほとんどないように思われますので、結局、普通は、過去販売価格として表示している価格が最近相当期間価格といえるかどうかが問題となります。
最近相当期間価格といえるためには、以下の3つの要件が必要とされています。
- 比較対象価格で販売されていた全期間が直近8週間において過半を占めていること(8週間未満の場合には、当該8週間未満の期間において過半を占めていること)
- 比較対象価格で販売されていた期間が通算2週間以上であること
- 二重価格表示を行う時点において、比較対象価格で販売されていた最後の日から2週間以上経過していないこと
基本的な要件は、①になります。直近8週間(8週間未満ならその期間)において過半、です。
ただ、最低でも販売期間が通算2週間はないと「相当期間」とはいえないよ、というのが②になります。
また、最後の販売日から2週間以上経過していると、それはもう「最近」とはいえないよ、というのが③になります。
このように、セール開始時点から遡った期間(原則8週間)のうちの過半の期間(最低2週間)で販売されていた価格であることを指して、「8週間ルール」と呼ばれることもあります。
価格表示ガイドラインでの記載は、以下のとおりです。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-⑴-ア-(ウ)
比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは、当該価格で販売されていた時期及び期間、対象となっている商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個々の事案ごとに検討されることとなるが、一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえないものと考えられる。
このように、あくまでも個々の事案ごとの検討ですが、一般的には上記の3要件に沿って判断するとされています。
消費者庁HPに以下のようなQ&Aがあり、ここまでの内容をまとめて確認することができます。
▽表示に関するQ&A【Q21】|消費者庁HP
Q21 当社がこれまで販売していたA商品(1万円)を、5,000円に値下げして販売したいと考えていますが、販売に当たり、例えば「5,000円(当店通常価格1万円の品)」と、値下げ後の価格にこれまでの販売価格を併記して表示することはできるでしょうか。また、できる場合、どの程度の期間、「当店通常価格」で販売していた実績が必要でしょうか。
A 「当店通常価格」、「自店平常価格」等、自店での旧価格を比較対照価格とした二重価格表示を行う場合は、比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえるものでなければ、一般消費者に販売価格についての情報が適切に伝わりません。
比較対照価格が「最近相当期間にわたって販売されていた価格」に当たるか否かは、当該価格で販売されていた時期及び期間、対象商品の一般的価格変動の状況、当該店舗における販売形態等を考慮しつつ、個別に検討されることになりますが、一般的には、①二重価格表示を行う時点からさかのぼった8週間において、当該価格で販売されていた期間が、当該商品が販売されていた期間の過半を占め、②当該価格での販売期間が通算で2週間以上であり、③当該価格で販売された最後の日から2週間経過していなければ、当該価格は「最近相当期間にわたって販売していた価格」とみなされ、「当店通常価格」等と称して比較対照価格とすることができます。
実務的なポイント
過去販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について見てきましたが、実務的には、セール期間(キャンペーン期間)の延長問題も同時に気になるケースが多いだろうと思います。
「今なら通常価格より20%おトク!!」などの表示が、よく見かける過去販売価格との二重価格表示の典型例ですが、「今なら」などと表示しておいて、その後ずっとそれを続けると、(キャンペーン開始時点では適法だったケースであっても)やはり有利誤認表示になり得るからです。
以下、ポイントを2つ見てみます。
セール期間の明示
まず前提として、セール期間の表示の問題があります。
これはどういうことかというと、基本的には直近8週間の過半を観察しますので、セール価格での販売活動実績が積み重ねられていくと、どこかの時点で、セール価格の方が最近相当期間価格にすり替わるからです。
この場合、そのすり替わった時点で、「今なら通常価格より20%おトク!!」でいう”通常価格”はセール価格になるので、おトクでも何でもない価格を「おトク」と言っていることになります。なので、有利誤認表示になってしまうおそれがあります。
つまり、長くとも、セール期間が4週間を超えた時点で、上記①の要件を満たさなくなる、ということです。上記①の要件は、セール価格を継続している期間中は継続して充足する必要があるからです。
「それだったら、けっこう短い期間しかセール価格にできないじゃないか!(そんなのおかしい!)」と思うかもしれませんが、その点については、二重価格表示が行われる時点でセール期間を明示している場合には、セール期間中に上記①の要件が満たされなくなったとしても、消費者にとって価格の変化の過程が明らかであるため、運用上問題にはしない、とされています(「エッセンス景品表示法」(古川昌平)、「景品表示法」〔第6版〕(西川康一)、「景品表示法の法律相談」〔改定版〕(加藤公司、伊藤憲二、内田清人、石井崇、薮内俊輔)など参照)。
なので、
- セール期間を明示しないときは、上記①の要件に気をつけて、違反しない間に終了する
- 上記①の要件に途中で違反することになりそうな、ある程度長い期間をセール期間にするときは、セール期間を明示する
ということが必要になります。
セール期間の延長問題
では、セール期間を明示したときに、直ちに延長できるか?というのが、セール期間(キャンペーン期間)の延長問題ですが(「好評につき延長しました!」「好評につき○月まで延長します!」とやりたがる)、基本的には直ちに延長することはやめておくべきだと思います(管理人の私見)。
期間限定表示をしているのに、実際には期間の限定はない(あるいは相当長期間継続する)という事例が、有利誤認表示として違法とされるケースが近時多いからです。キャンペーンを繰り返すケースが典型です。
「景品表示法」〔第6版〕(西川康一)157頁の「COLUMN 期間限定表示」など参照
実際の内容は「セール期間外も安価で、セール期間内も安価である」にもかかわらず、表示内容としては「セール期間外は高価であるものがセール期間内のみは安価になる」というふうに、価格の有利性について誤認を生じます。
また、個々の案件ごとの判断の余地はあるとしても、セール終了直後は最近相当期間価格はセール価格であると判断されるケースが多いだろうと思われるので、セール価格が同じである限り、「通常価格より20%おトク」と表示することは有利誤認表示になるはずだからです。
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、二重価格表示のうち、過去の販売価格を比較対照価格とする場合について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- 2008年No.1報告書(平成20年6月13日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(公正取引委員会事務総局))
- 2024年No.1報告書(令和6年9月26日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(消費者庁表示対策課))
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)
参考文献
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