今回は、景品表示法を勉強しようということで、二重価格表示のうち、将来の販売価格を比較対照価格とする場合について見てみたいと思います。
二重価格表示には、比較対照価格として何を置くかによりいくつか種類がありますが、
①「過去の販売価格」を比較対照価格とする場合
②「将来の販売価格」を比較対照価格とする場合 ←本記事
③「タイムサービス」を行う場合
④「希望小売価格」を比較対照価格とする場合
⑤「競争事業者の販売価格」を比較対照価格とする場合
⑥「他の顧客向けの販売価格」を比較対照価格とする場合
その中で、本記事は黄色ハイライトを引いた箇所の話です。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
将来販売価格による二重価格表示とは
”将来の販売価格を比較対照価格とする”というのはどういう場合を指しているのか、一瞬、イメージがしにくいのではないかと思います。
典型的なのは、新商品の販売開始やサービスリリースを行う場合です。
つまり、新商品・サービスをリリースする場合に、初期に一定の勢いをつけて顧客を増やす・ユーザーを増やすといった囲い込みのために、”スタートから一定期間は安くしますよ!”といった広告宣伝を行うわけです。そのときに、将来の販売価格を引き合いに出す、ということです。
「将来的には定価になりますが、販売開始(orサービス開始)当初の今は安くしておきますので、おトクに始められますよ!」というニュアンスで訴求するのが、ひとつのパターンといえます。
後述の価格表示ガイドラインには
「販売当初の段階における需要喚起等を目的に、将来の時点における販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがある。」
という記載がありますが、そういう意味です。
これに対して、すでに販売活動実績があるケースもありますが(上記でも「等」といっているように、販売初期の局面に限られるわけではない)、単に「いまの価格で買えるのはいついつまでですよ」といった表示をしようとする場合というのは、それ程多くないように思います(管理人の個人的意見)。繁忙期の価格を将来販売価格としつつ、前倒しの時期の購入は安くする、といったケースはあるかと思います。
将来販売価格と比較する場合も二重価格表示の一種ですので、誤認を生じさせる場合は、価格その他の取引条件について有利性を偽る表示、つまり有利誤認表示の問題となります。
参照すべき資料
将来販売価格による二重価格表示について参照すべき資料は、
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)の該当部分
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
の2つになります。
将来価格執行方針は、価格表示ガイドラインの該当部分を補完するものという位置付けがされています(将来価格執行方針 はじめに 参照)。なお、パブコメは以下のとおりです。
▽参考リンク
将来価格執行方針パブコメ(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針(案)に関する意見募集の結果について」)|e-Govパブコメ(≫掲載ページ)
以下、上記資料を参照しつつ、基本的な考え方→判断基準→考慮要素の順に見てみます。
基本的な考え方
将来販売価格を比較対照価格とする場合については、過去販売価格と比較するときと違って、価格表示ガイドラインにあまり細かい解説はありません。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-⑴-イ
販売当初の段階における需要喚起等を目的に、将来の時点における販売価格を比較対照価格とする二重価格表示が行われることがある。
このような二重価格表示については、表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際に販売することのない価格であるときや、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないときなど)には、一般消費者に販売価格が安いとの誤認を与え、不当表示に該当するおそれがある。
このように基本的な考え方は、表示された将来販売価格に十分な根拠があるかです。不当表示に該当するおそれがある場合としては、
- 実際に販売することのない価格であるとき
- ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないとき
の2つが例として挙げられています(下線部参照)。
ただ、そもそも基本的に否定的なスタンスが示されています。
▽価格表示ガイドライン 第4-2-⑴-イ
将来の価格設定は、将来の不確定な需給状況等に応じて変動するものであることから、将来の価格として表示された価格で販売することが確かな場合(需給状況等が変化しても表示価格で販売することとしている場合など)以外において、将来の販売価格を用いた二重価格表示を行うことは、適切でないと考えられる。
▽将来価格執行方針 第1
そして、過去の販売価格が過去における販売実績に基づく確定した事実として存在するのに対し、将来の販売価格は、これを比較対照価格とする二重価格表示を行っている時点においては、未だ現実のものとなっていない価格であり、将来における需給状況等の不確定な事情に応じて変動し得るものである。このようなことからすれば、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示は、その表示方法自体に、表示と実際の販売価格が異なることにつながるおそれが内在されたものであるといわざるを得ず、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することが確かな場合(需給状況等が変化しても当該将来の販売価格で販売することとしている場合など)以外においては、基本的に行うべきではないものである。
将来は不確かなので、そもそも本当にその価格で販売するの?という確度が元々低いためです。
逆の言い方をすれば、将来の販売価格を引き合いに出すときはよくよく考えて出しなさいよ、ということです(「需給状況等が変化しても表示価格で販売することとしている場合」が例として挙げられているというニュアンス)。
▽将来価格執行方針パブコメ・18頁、19頁、22頁(※「…」は管理人が適宜省略)
御意見に対する考え方 …事業者におかれては、そもそも、将来の販売価格を消費者に対して示すことについて、セール終了後一定期間において価格設定が自由にできなくなるというリスクのある行為であるということを認識していただいた上で、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うか否かを判断していただきたいと考えます。…
不当表示に該当するかどうかの判断基準
不当表示に該当するかどうかの判断基準は、将来価格執行方針の方に記載されており、
- 比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する
- 確実な予定
を有していない場合には、有利誤認表示に該当するおそれがあるとされています。
▽将来価格執行方針 第2-1
事業者が自己の供給する商品等について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、当該表示を見た一般消費者は、通常、比較対照価格とされた将来の販売価格に十分な根拠がある、すなわち、セール期間経過後に、当該商品等が比較対照価格とされた価格で販売されることが予定されており、かつ、その予定のとおり販売されることが確実であると認識すると考えられる。したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する確実な予定を有していないにもかかわらず、当該価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うと、このような消費者の認識と齟齬が生じ、景品表示法に違反する有利誤認表示となるおそれがある。
「比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する」
これは、事業者が、セール期間経過後の一般的な販売活動において比較対照価格とされた将来販売価格で販売することを意味するとされています。
▽将来価格執行方針 第2-1
この場合において、「比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する」とは、事業者がセール期間経過後の一般的な販売活動において比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することをいい、例えば、一般的な販売場所とはいえない場所のみに商品を陳列する予定であるなど販売形態を一般的とはいえないものとする場合や、比較対照価格とされた将来の販売価格が当該将来の販売価格での購入者がほとんど存在しないと考えられるほど高額であるなど一般的な価格ではない場合のように、比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として当該価格で販売するものであるとみられるような場合には、「比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する」とはみられないものである。
ここで「一般的」というのは、過去販売価格での二重価格表示における「通常」価格との区別のため、用語を分けているものです。販売実績がまだない場合は、”通常価格”との表現は適当ではないと考えられています。
▽将来価格執行方針パブコメ・8頁
過去価格との二重価格表示について価格表示ガイドラインは「『販売されていた』とは、事業者が通常の販売活動において当該商品を販売していたことをいい」としており、その後の記載と合わせて、実績作りのケースや比較対照として相応しくないケースが除外されることを示している(第4の2⑴ア(イ)b)。
該当箇所の「一般的な販売活動」が価格表示ガイドラインの「通常の販売活動」と同じ意味であるならば、記載を同じにしてはどうか。…(略)…。過去の販売実績に基づく比較対照価格のことを「通常」価格と称することが多いことを踏まえ、将来の販売価格を比較対照価格とする場合を対象とする本執行方針においては、混乱を避けるため、「通常」ではなく「一般的」という用語を用いると整理して記載を分けているものです。
▽将来価格執行方針パブコメ・3~4頁
将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行うセールの場合、価格の名称については本執行方針案では触れられていないが、この場合もセールにおいて「通常価格」の名称による表示を行っても差し支えないか。あるいは「セール終了後価格」や「期間終了後価格」などの「通常価格」ではない名称を使用すべきか。
本執行方針の第1に記載のとおり、商品やサービスの販売実績がない場合は、販売実績がある場合と比較して「通常価格」、「値下げ」、「プライスダウン」と表現するための確定した事実に乏しいと考えられますので、このような表現は消費者への適切な情報提供の観点から適当ではないと考えられます。
「確実な予定」
「確実な予定」と認められるには、合理的かつ確実に実施される販売計画を、セール期間を通じて有している必要がある、とされています。
▽将来価格執行方針 第2-1
また、事業者が「確実な予定」を有しているか否かについては、当該事業者が、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行う際に有している販売計画の内容等に基づいて判断されるところ、「確実な予定」を有していると認められるためには、事業者が、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するための合理的かつ確実に実施される販売計画(以下、単に「合理的かつ確実に実施される販売計画」という。)を、セール期間を通じて有している必要がある(注1)。
言い換えれば、セール期間経過後の販売計画を有していれば何でもいいというわけではなく、販売計画は
- 「合理的」なものであること
- 「確実に実施される」ものであること
の両方が必要、ということです(将来価格執行方針パブコメ・17頁参照)。
▽将来価格執行方針 第2-1
(注1)事業者がセール期間経過後の販売計画を有していても、例えば、販売計画の内容が、それを実行しても計画のとおり比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができる見込みが客観的に乏しいなどのために合理的なものと認められない場合は「合理的」な販売計画を有しているとは認められない。また、販売計画の内容が、例えば、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売するか否か自体について、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示の開始後に事業者が改めて判断するものになっている場合や、発生するか否かが不確実な事実にかからしめている場合などは、「確実に実施される」販売計画とは認められない。
▽将来価格執行方針パブコメ・11頁
「見込みが客観的に乏しいなどのため」とあるが、過去に全く販売実績がないものの場合、最低限どこまでやれば、見込みが乏しくないといえるか。
将来の販売価格での販売計画について、過去に販売実績がない商品の場合は、事業者は、類似の商品の販売実績等を参考に策定するのが一般的と思われますが、当該計画が合理的かつ確実に実施されるものであるか否かについては、個々の事案に即して判断いたします。
合理的かつ確実に実施される販売計画の考慮要素
将来販売価格での実際の販売
販売計画の考慮要素は、まずは、セール期間終了後に実際にその将来販売価格で販売されたかどうかです。
▽将来価格執行方針 第2-2-⑴
しかしながら、事業者が、後記⑵イ(ア)に示すような将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在しないにもかかわらず、当該将来の販売価格で販売していない場合(注2)には、通常、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが推認される(注3)。
消費者庁は、このような場合における将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を、原則として、その表示開始時点から、景品表示法に違反する有利誤認表示であるものとして取り扱う。
セール期間/期限の表示
具体的なセール期間や期限が表示されているかどうかも、考慮要素となります。
▽将来価格執行方針 第2-2-⑴
(注3)セール期間については、合理的かつ確実に実施される販売計画を有している事業者であれば、当然これを確定させており、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示の中で具体的なセールの期間や期限を示していると考えられる。したがって、事業者が、例えば「現在セール中にて300円、セール終了後500円」といった、具体的なセールの期間や期限を示さないで将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行っている場合には、通常、そのこと自体により、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが強く疑われることから、具体的なセールの期間や期限を示すことが望ましい。
もっとも、セール期間や期限の表示は、セール価格の表示と同じ場所にしなければならないというわけではありません。
▽将来価格執行方針パブコメ・13頁
…(略)…本執行方針案の(注3)に記載されているような「現在セール中にて300 円、セール終了後は500 円」事例は通常起こりえる表示で別途セール期間が記載されている表示があれば良いのか、金額を表示する箇所に書いていないと駄目なのか明確にしてほしい。本ガイドラインの趣旨を考えれば、別の表示であっても誰もが視認できる場所に同時にセール期間が分かればよいなどの注意書きを設定してほしい。
不当表示該当性の判断は、表示が行われている状況等も含めて表示全体が消費者に与える印象を基に行うものですので、個別商品ごとのセール価格の表示と同じ箇所にセール期限が明記されていなければならないとするものではありません。
なお、この(注3)の記述は、将来販売価格での販売が行われていない場合が想定されています。
▽将来価格執行方針パブコメ・14頁(※「…」は管理人が適宜省略)
…(略)…(注3)において、…①「具体的なセールの期限を示さない」場合に加え、②将来の販売価格での販売期間が「ごく短期間」である場合に「比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がいつであるかなど比較対照価格の内容を正確に表示しない」場合を追記すべきである。
(注3)の記載は将来の販売価格での販売が行われていない場合を想定しており、他方、第2の2⑶は将来の販売価格での販売が行われているがその期間がごく短期間であった場合を想定しているため、整理として記載を分けているものです。
将来販売価格で販売できない特段の事情
セール期間終了後に実際には将来販売価格で販売しなかった場合であっても、販売できない特段の事情があったかどうかも考慮されます。ただ、販売計画を示す資料やデータを有している必要があります。
▽将来価格執行方針 第2-2-⑵
事業者がセール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売していない場合であっても、事業者が、後記ア(ア)に示すような、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータを有しており、かつ、後記イ(ア)に示すような将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在する場合は、少なくとも、当該特段の事情が発生する以前において、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことは推認されない。したがって、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について、事業者から、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していたことを示す資料やデータ及び将来の販売価格で販売できない特段の事情が存在することを示す資料の提出があり、かつ、当該特段の事情の発生後遅滞なく当該表示を取りやめ、顧客に対し、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができなくなったことを告知している場合等においては、消費者庁は、原則として、これを景品表示法に違反する有利誤認表示であるものとして取り扱うことはない。
「合理的かつ確実に実施される販売計画」を示す資料やデータの提出
販売計画を示す資料やデータとしては、例えば、
- コスト予測:自ら製造している場合には製造計画(製造原価や数量等)や販売費用、他の事業者から仕入れている場合には契約内容(仕入価格や数量等)や販売費用
- 売上予測:対象商品と同一又は類似の商品の売上げを示す資料やデータ
などが挙げられています。
「将来販売価格で販売できない特段の事情」を示す資料の提出
販売できない特段の事情は、基本的には、不可抗力を原因とする場合が想定されています(地震、台風による水害、予期せぬ業務用機器の故障、予期せぬ需要の急増による商品・原材料の不足、専ら仕入業者のミスなど)。
▽将来価格執行方針 第2-2-⑵-イ-(ア)
(ア)事業者が、将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を開始した時点において合理的かつ確実に実施される販売計画を有していた場合でも、地震、台風、水害等の天変地異、感染症の流行等によって、当該事業者の店舗が損壊したり、流通網が寸断されたりするなどにより、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売できなくなった場合のように、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売できなくなったことが事業者の責に帰することができない不可抗力を原因とするため、やむを得ないと評価される場合(注4)が考えられる。…(略)…。
これに対して、合理的に予見できないとはいえない事情が原因である場合は、特段の事情は認められないとされています(セール好評による延長、売上目標未達による延長、一般的な需要増/需要減、他社値下げに対抗するためのセール延長など)。
実際には将来販売価格で販売しなかった場合に、販売計画を有していなかったとの推認が働かないようにしたいのであれば、上記の各資料を提出することが必要になります(プラス、表示の取りやめと顧客に対する告知など)。
将来販売価格での販売期間
将来販売価格での販売期間も、もちろん考慮されます。
ごく短期間であった場合には、特段の事情がない限り、通常、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが推認されます。この場合、将来販売価格での販売期間の表示にも触れられています。
▽将来価格執行方針 第2-2-⑶
事業者が将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示を行った場合において、セール期間経過後に比較対照価格とされた将来の販売価格で販売したのがごく短期間であったことがやむを得ないと評価できる特段の事情(注5)が存在していないにもかかわらず、ごく短期間しか比較対照価格とされた将来の販売価格で販売しなかった場合は、通常、合理的かつ確実に実施される販売計画を有していなかったことが推認される。したがって、事業者が、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がいつであるかなど比較対照価格の内容を正確に表示しない限り、消費者庁は、このような場合における将来の販売価格を比較対照価格に用いた二重価格表示を、原則として、その表示開始時点から、景品表示法に違反する有利誤認表示であるものとして取り扱う。
2週間以上
「ごく短期間」かどうかは、個別判断であるものの、一般的には2週間以上が目安とされています。
▽将来価格執行方針 第2-2-⑶
消費者庁は、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売する期間がごく短期間であったか否かを、具体的な事例に照らして個別に判断するが、一般的には、事業者が、セール期間経過後直ちに比較対照価格とされた将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えない(注6)。
2週間以上というのは、過去販売価格との二重価格表示のケースとのバランス等を総合的に検討したものとされています。
▽将来価格執行方針パブコメ・24~25頁
「一般的には、事業者が、セール期間経過後直ちに比較対照価格とされた将来の販売価格で販売を開始し、当該販売価格での販売を2週間以上継続した場合には、ごく短期間であったとは考えられない」とされているところ、「2週間以上」を判断基準とした根拠について御教示願いたい。…(略)…。
「将来の販売価格での販売期間」については、過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示についての価格表示ガイドラインにおける記載とのバランス等を踏まえて総合的に検討したものですが、本執行方針に記載のとおり、これは消費者庁における考慮事項を一般的な形で示したものであり、実際の事例においては具体的な事例に照らして個別に判断されるものです。…(略)…。
セール期間の長短との関係
セール期間にはいろいろあるので、「セール期間の長さ」と「将来販売価格での販売期間」との関係が気になるところですが、一般的には、セール自体の期間にかかわらず、2週間以上の継続が目安になるとされています。
ただ、セール期間が長いのに将来販売価格での販売期間が短いと、将来販売価格では消費者に購入されなくなるおそれがありますので、結局、「合理的かつ確実に実施される販売計画」を有しているといえるか疑義が生じます。その意味で、自ずと程度問題はある、といえます。
さらに甚だしい場合(それを何度もくり返すなど)には、見せかけの価格と見られる可能性もあるとされています。
▽将来価格執行方針パブコメ・24頁
将来の販売価格を比較対照価格とするセール期間の長さについて本方針案では触れられていないが、一般にセール期間は、商品・サービスによって事業者が自由に設けており、1日程度のものから半年を超えるものまで様々なケースがある。セール期間の長短に関わらず「2週間以上」という基準と理解して差し支えないか。あるいはセール期間の長短に応じて個別具体的に基準があるべきと理解すべきか。
一般的には、セール自体の期間にかかわらず、比較対照価格とされた将来の販売価格での販売が2週間以上継続されれば「ごく短期間」であったとは考えられませんが、本執行方針第2の1に記載のとおり、合理的かつ確実に実施される販売計画を有しているかどうかが問われることになります。将来の販売価格は、将来における需給状況等の不確定な事情に応じて変動し得るものですので、長期間のセールを実施した後に、比較対照価格とされた将来の販売価格で販売することができるかどうかの検討が必要となります。
なお、長期のセールを行った後に将来の販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、そのことが消費者にも認識され、将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような状況においては、当該将来の販売価格での販売が「比較対照価格の根拠を形式的に整える手段として」行われているとみられる可能性があることに注意する必要があります。
まとめ
以上の考慮要素をモデル的にまとめると、以下のようになります(管理人的な整理)。
【合理的かつ確実に実施される販売計画の有無の判定】
実際に将来販売価格で販売したか | 合理的かつ確実に実施される販売計画の有無の判定 | |
将来販売価格で販売していない | 原則:有していなかったことが推認される 例外:販売できない特段の事情 ※その他の考慮要素:セール期間の表示 |
|
将来販売価格で販売した | 販売したがごく短期間(2週間未満) | 原則:有していなかったことが推認される 例外:やむを得ない特段の事情 ※その他の考慮要素:将来販売価格での販売期間の表示 |
販売した(2週間以上) | 有していたと推測される |
そして、上記とは別に、非常に悪質な場合、つまり将来販売価格での販売が比較対照価格の根拠を形式的に整える手段と見られる場合(=一般的な販売活動といえない場合)には、不当表示に該当するおそれがあります。
例えば、一般的な販売場所とはいえない場所のみに商品を陳列する予定であるなど販売形態が一般的とはいえない場合、将来販売価格が購入者がほとんど存在しないと考えられるほど高額であるなど一般的な価格ではない場合、長期のセールを行った後に将来販売価格での販売期間を2週間実施するということを何度も繰り返したことにより、そのことが消費者にも認識され将来の販売価格で購入する消費者がほとんどいなくなっているような場合などです(※いずれの例も既出)。
実務的なポイント
実務的には、しばらく定価で販売した後に、またキャンペーンを打つことを検討することもありますが、そのようなときに「ごく短期間のみ」の価格として不当表示とされないか、というのが検討の切り口となる場合があると思います。
このようなときに糸口になるのは、「将来販売価格での販売期間」という考慮要素に関する記述です。
「ごく短期間」の具体的長さについては、セール期間とその後の販売期間との関係や、一般的な販売価格の変動状況を考慮して、個別に判断されるとされていますが(「景品表示法」〔第6版〕(西川康一)129頁、「景品表示法の法律相談」〔改定版〕(加藤公司、伊藤憲二、内田清人、石井崇、薮内俊輔)232頁等参照)、上記のように2週間以上が目安とされています。
なお、キャンペーンの打ち方によって、過去販売価格との二重価格表示の問題であることもありますので、どの場面の話になるのか留意が必要と思います(さらに、過去/将来価格が二重に問題になるケースもなくはない。将来価格執行方針パブコメ・1頁参照)。
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、二重価格表示のうち、将来販売価格を比較対照価格とする場合について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- 2008年No.1報告書(平成20年6月13日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(公正取引委員会事務総局))
- 2024年No.1報告書(令和6年9月26日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(消費者庁表示対策課))
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)
参考文献
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