今回は、景品表示法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について書いてみたいと思います。
景品表示法は、正式には「不当景品類及び不当表示防止法」(昭和37年法律第134号)といい、その名のとおり、過大な景品提供や不当表示を規制するものです。
なお、消費者庁HPにわかりやすい薄いパンフレットがあるので、絵的に全体を見るにはこれがよいと思います。
▽よくわかる景品表示法と公正競争規約|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/#pamphlet
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
独占禁止法との関係
景品表示法が規制する分野は、元々、独占禁止法の「不公正な取引方法」のうち不当な顧客誘引として規制されている。景表法は、独禁法の当該部分の補助立法であるといわれる。
そのことを体系的に眺めておくと、こういう感じである。
【独占禁止法】
行為規制
∟私的独占
∟不当な取引制限
∟不公正な取引方法
∟①差別的取扱い
∟②不当対価
∟③不当な顧客誘因・取引強制 ←ココ
∟④不当拘束
∟⑤地位の不当利用
∟⑥取引妨害・内部干渉
構造規制ー企業結合規制
③不当な顧客誘因・取引強制は、さらに以下の3つに分けられる。
景表法の規制は表示規制と景品規制の2つに分かれるが、それぞれが3つのうちどこに紐づいているかというと、以下のとおり。
③不当な顧客誘引・取引強制
∟欺瞞的顧客誘引(一般指定8項)←表示規制
∟不当利益顧客誘引(一般指定9項)←景品規制
∟抱き合わせ販売等
どちらも、要するに、”顧客を不当に誘引する行為”という感じである。
表示規制は、誤認を招くような表示により不当に誘引するもの、景品規制は、過大な景品により不当に誘引するもの、である。
以下、もう少し具体的に見てみる。
表示規制
表示規制が関連している独禁法の一般指定は、第8項である。
(独禁法2条9項6号ハ→一般指定8項)
▽一般指定8項
(ぎまん的顧客誘引)
8 自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について、実際のもの又は競争者に係るものよりも著しく優良又は有利であると顧客に誤認させることにより、競争者の顧客を自己と取引するように不当に誘引すること。
そして、景表法では、不当な表示行為として、5条1号~3号で、3つの行為が規定されている(①優良誤認表示、②有利誤認表示、③その他の不当表示)。
ここで、一見わかりにくいのは何かというと、「優良」と「有利」の何が違うのか?という点だと思う(言葉が似ているので)。
ざっくりいえば、「優良」は品質を良く見せすぎ、という意味で、「有利」は価格を良く見せすぎ、という意味である。
どっちが品質のことでどっちが価格のことだったっけ?と忘れそうになりますが、価格が「優良」、品質が「有利」というとすると、何だか変ですよね。
日本語として、品質が「優良」、価格が「有利」というのはしっくりきます。こういう普通の感覚で覚えておけばよいと思います。
景表法は、独禁法のうち「不公正な取引規制」の補助立法と書いたが、独禁法にいう「公正な取引」というのは、能率競争、つまり平たくいうと品質と価格で勝負することだとされている。
優良誤認と有利誤認は、これとパラレルになっていると考えてよいと思う。
パラレルになっているというのはつまり、
➢品質で勝負するんだから、不当に優良と誤認させるような品質表示はダメですよ(優良誤認表示)、
➢価格で勝負するんだから、不当に有利と誤認させるような価格表示はダメですよ(有利誤認表示)、
ということです。
著しく優良と誤認される表示(優良誤認表示)(法5条1号)
表示規制の1つ目、「優良誤認表示」の条文は、5条1号である。
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示し、又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
著しく有利と誤認される表示(有利誤認表示)(法5条2号)
表示規制の2つ目、「有利誤認表示」の条文は、5条2号である。
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
その他の誤認される表示(法5条3号)
表示規制の3つ目、「その他の誤認される表示」の条文は、5条3号である。1号・2号以外で、内閣総理大臣が指定するもの。
(不当な表示の禁止)
第五条 事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
三 前二号に掲げるもののほか、商品又は役務の取引に関する事項について一般消費者に誤認されるおそれがある表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認めて内閣総理大臣が指定するもの
現在、告示で指定されているものは、以下の6つである。消費者庁HPに掲載されている。
▽告示|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/public_notice/
➢商品の原産国に関する不当な表示(昭和48年10月16日公正取引委員会告示第34号)
➢無果汁の清涼飲料水等についての表示(昭和48年3月20日公正取引委員会告示第4号)
➢消費者信用の融資費用に関する不当な表示(昭和55年4月12日公正取引委員会告示第13号)
➢おとり広告に関する表示(平成5年4月28日公正取引委員会告示第17号 全部変更)
➢不動産のおとり広告に関する表示(昭和55年4月12日公正取引委員会告示第14号)
➢有料老人ホームに関する不当な表示(平成18年11月1日公正取引委員会告示第35号 変更)
景品規制
景品規制が関連している独禁法の一般指定は、第9項である。
(独禁法2条9項6号ハ→一般指定9項)
▽一般指定9項
(不当な利益による顧客誘引)
9 正常な商慣習に照らして不当な利益をもつて、競争者の顧客を自己と取引するように誘引すること。
景表法における景品規制については、2条3項で定義が、4条で規制が定められている。
ところで、そもそも、景品が大きすぎるのが何でいけないのか?(=豪華であればあるほどいいじゃないか)と思うかもしれないが、前述のように、公正な競争というのは品質と価格で勝負することである(能率競争)と考えられている。
なので、過大な景品によって購買意欲を刺激しすぎることは、商品(や役務)の本来の品質とは別の次元で購入するかどうかを決めてしまうようになってしまうでしょう、ということである。景品も際限ないものだと、公正な競争を逸脱するし、消費者の側でも、商品(や役務)そのものに対する判断が歪むだろうということ。
景品規制の概要については、消費者庁HPにわかりやすいページがある。景品規制に関する告示や運用基準も掲載されている。
▽景品規制の概要|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/premium_regulation/
「景品類」の定義
景品類の定義は、2条3項で定められている。
(定義)
第二条
3 この法律で「景品類」とは、顧客を誘引するための手段として、その方法が直接的であるか間接的であるかを問わず、くじの方法によるかどうかを問わず、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引(不動産に関する取引を含む。以下同じ。)に付随して相手方に提供する物品、金銭その他の経済上の利益であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
分節すると、要件は以下の3つである。
①顧客誘引の手段として(目的)
②取引に付随して提供する(提供方法)
③経済上の利益(内容)
定義のさらに具体的な内容は、告示で定められている(法3条2項参照)。
ちなみに、告示により、値引きやアフターサービス等は「景品類」から除かれるのだが、本記事は全体像を見るものなので、細かい部分は割愛する(別記事に譲る)。
「景品類」の定義についての根拠規定は、表にすると以下のとおり。
法律 | 告示等 | |
---|---|---|
「景品類」の定義 | 景表法2条3項、3条2項 | ➢定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」) ➢定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準」) |
提供の制限及び禁止
景品類の提供の制限及び禁止については、4条に定められている。
(景品類の制限及び禁止)
第四条 内閣総理大臣は、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を確保するため必要があると認めるときは、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することができる。
具体的な規制(制限)は告示で定められている(6条2項参照)。
告示では、提供の方法を、①くじ等によるもの(「懸賞」)と、②条件を満たした全ての人に提供するもの(「総付景品」)、という大きく2つに分け、それぞれの提供方法について制限を定める。
①の懸賞制限については、懸賞制限告示とその運用基準があり、②の総付景品制限については、総付制限告示とその運用基準がある。
提供の制限及び禁止についての根拠規定は、表にすると以下のとおり。
提供の制限及び禁止 | 法律 | 告示等 |
---|---|---|
懸賞制限 | 景表法4条、6条2項 | ➢懸賞制限告示(「懸賞による景品類の提供に関する事項の制限」) ➢懸賞制限運用基準(「『懸賞による景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」) |
総付景品制限 | 景表法4条、6条2項 | ➢総付制限告示(「一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限」) ➢総付制限運用基準(「『一般消費者に対する景品類の提供に関する事項の制限』の運用基準」) |
なお、細かい話をすると、法的性質としては、制限告示は「告示」(行政外部に効力をもつ法規)、運用基準は「通達」(行政内部での解釈ルール)なのだが、まああまり気にしなくてもいいと思う。
懸賞制限
「懸賞」の定義は、懸賞制限告示の1項に定められている。
①くじその他偶然性を利用して定める方法(1号)と、②特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法(2号)の、2種類の方法がある。
1 この告示において「懸賞」とは、次に掲げる方法によつて景品類の提供の相手方又は提供する景品類の価額を定めることをいう。
一 くじその他偶然性を利用して定める方法
二 特定の行為の優劣又は正誤によつて定める方法
1号は、たとえば文字どおりくじ引きとか抽選とかじゃんけんとかである。2号は、たとえばクロスワードパズルとかである。
1号は「偶然」による決定であるのに対し、2号は偶然性以外の要素も加味して決定するものである点が異なる。
複数の事業者が参加するものかどうかによって、「一般懸賞」と「共同懸賞」がある。それぞれ、限度額が告示で規制されている。
なお、「オープン懸賞」といって、商品をアピールする広告の意味合いで、新聞、テレビ、雑誌、ウェブサイト等で企画内容を広く告知し、商品・サービスの購入や来店を条件とせず、抽選で景品が提供される場合がある。ただ、これは懸賞と名前がついているものの、下線部分のように取引付随性がないため、「景品」にあたらず景品規制は適用されないとされる。
総付景品制限
懸賞の方法によらないで景品を提供するものである。限度額が告示で規制されている。
違反に対する措置
措置命令
違反行為があった場合、①違反行為の差止め、②再発防止に必要な事項、③これらの実施に関する公示その他必要な事項を命じることができる。
第七条 内閣総理大臣は、第四条の規定による制限若しくは禁止又は第五条の規定に違反する行為があるときは、当該事業者に対し、その行為の差止め若しくはその行為が再び行われることを防止するために必要な事項又はこれらの実施に関連する公示その他必要な事項を命ずることができる。その命令は、当該違反行為が既になくなつている場合においても、次に掲げる者に対し、することができる。
一~四 (略)
課徴金納付命令
課徴金納付命令は、表示規制のうち優良誤認表示または有利誤認表示の違反行為についてのみである。
かいつまんでいうと、課徴金の対象行為にかかる商品・役務の「売上額×3%」が賦課金額となる。
(課徴金納付命令)
第八条 事業者が、第五条の規定に違反する行為(同条第三号に該当する表示に係るものを除く。以下「課徴金対象行為」という。)をしたときは、内閣総理大臣は、当該事業者に対し、当該課徴金対象行為に係る課徴金対象期間に取引をした当該課徴金対象行為に係る商品又は役務の政令で定める方法により算定した売上額に百分の三を乗じて得た額に相当する額の課徴金を国庫に納付することを命じなければならない。ただし、当該事業者が当該課徴金対象行為をした期間を通じて当該課徴金対象行為に係る表示が次の各号のいずれかに該当することを知らず、かつ、知らないことにつき相当の注意を怠つた者でないと認められるとき、又はその額が百五十万円未満であるときは、その納付を命ずることができない。
一 商品又は役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であること又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも著しく優良であることを示す表示
二 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のものよりも取引の相手方に著しく有利であること又は事実に相違して当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であることを示す表示
公正競争規約
世の中には、食品業界とか、不動産業界とか、金融業界とか、いろいろな業界があるが、そういった各々の業界が、表示・景品類に関して自主的に設定する”業界のルール”が公正競争規約である。
内閣総理大臣及び公正取引委員会の認定を受けて、設定することができる。
(協定又は規約)
第三十一条 事業者又は事業者団体は、内閣府令で定めるところにより、景品類又は表示に関する事項について、内閣総理大臣及び公正取引委員会の認定を受けて、不当な顧客の誘引を防止し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保するための協定又は規約を締結し、又は設定することができる。これを変更しようとするときも、同様とする。
実際に設定されている規約は、以下の消費者庁HPのとおり。
▽公正競争規約が設定されている業種|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/fair_competition_code/industries/
結び
今回は、景品表示法を勉強しようということで、規制の仕組み(全体像)について書いてみました。
どの事業者にも共通する総論として、①表示規制、②景品規制、③違反に対する措置、があり、業界別ルールという各論として、各業界での④公正競争規約がある、という風に見ることができると思います。
実務的には、景表法の基本的理解を踏まえたうえで、公正競争規約がある業界では公正競争規約の細かいところを見ていく、という感じになると思います。
主要法令等
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。