今回は、広告法務ということで、比較広告のルールについて見てみたいと思います。
ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
比較広告とは
比較広告というのは、要するに、競合商品や競合サービスと比較して、自社の商品やサービスの方が質がいいですよとか、自社の方が安いですよ、とする表示のことです。
不当表示には、品質の有利性を偽る優良誤認と、価格その他の取引条件の有利性を偽る有利誤認の2種類がありますが、どちらのカテゴリーでも、比較広告はあり得ます。
例えば、不実証広告は優良誤認に関する概念ですし、二重価格表示は有利誤認に関する概念ですが、比較広告は、このどちらかのカテゴリーに限定された概念ではないです。両方にまたがります。
競合商品やサービスについて、クオリティを引き合いに出すときもありますし、価格等を引き合いに出すときも、両方あるからです。
ただ、「比較広告」という用語は、景表法やその規則には出てきません。「比較広告ガイドライン」というガイドラインがあって、この中で出てくる用語になります。
つまり、このガイドラインが、比較広告という局面に絞って優良誤認と有利誤認の具体的解釈を展開している、ということです。
なので、ルールの詳細については、比較広告ガイドラインを参照していくことになります。
消費者庁HPにも、簡潔にまとめられた解説ページがあります。
▷参考リンク:比較広告|消費者庁HP
比較広告の定義(ガイドライン第1項)
比較広告ガイドラインにおける「比較広告」の定義としては、以下のように記載されています。
▽比較広告ガイドライン【1】
以下の事項において、比較広告とは、自己の供給する商品又は役務(以下「商品等」という。)について、これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合を含む。)、商品等の内容又は取引条件に関して、客観的に測定又は評価することによって比較する広告をいう。
これ以外の形態により比較する広告については、個々の事例ごとに、以下の事項の趣旨を参酌して、景品表示法上の適否を判断することとする。
簡略化しつつ分節すると、
〇自己の供給する商品又は役務について
〇これと競争関係にある特定の商品等を比較対象商品等として示し(暗示的に示す場合を含む)
〇商品等の内容又は取引条件に関して、客観的に測定又は評価することによって比較する広告
となっています。
「商品等の内容又は取引条件に関して」であり、優良誤認と有利誤認の両方に関係することがわかります。
括弧書きに書かれているので読み飛ばしそうですが、比較対象として示すことには、暗示的に示す場合も含まれると書かれています。明確に名指ししている場合に限られない、ということです。
また、「これ以外の形態により比較する広告」がイメージしにくいですが、例えば、自社商品と他の自社商品を比較する場合などが挙げられます。
比較広告の全体的な考え方がわかりやすいのは、以下の部分です。
▽比較広告ガイドライン【はじめに-(1)-イ】
イ 望ましい比較広告は、一般消費者が商品を選択するに当たって、同種の商品の品質や取引条件についての特徴を適切に比較し得るための具体的情報を提供するものである。したがって、例えば、次のような比較広告は、商品の特徴を適切に比較することを妨げ、一般消費者の適正な商品選択を阻害し、不当表示に該当するおそれがある。
① 実証されていない、又は実証され得ない事項を挙げて比較するもの
② 一般消費者の商品選択にとって重要でない事項を重要であるかのように強調して比較するもの及び比較する商品を恣意的に選び出すなど不公正な基準によって比較するもの
③ 一般消費者に対する具体的な情報提供ではなく、単に競争事業者又はその商品を中傷し又はひぼうするもの
実証できないもの(①)や、比較の仕方が恣意的なもの(②)は、商品の特徴を適切に比較することを妨げるからダメです。
また、あくまでも商品選択のための具体的情報を提供するものであるはずだから、誹謗中傷は当然ダメ(③)、と言っています。
③は、選挙の際の対立候補に対するネガティブキャンペーンではないですが、要するにただのネガキャンやディスりみたいなものは適正な比較広告とはいえず、不当表示に該当するおそれがある、ということです。
常識的にも当然だし、そんなことするわけないのでは、と思うかもしれませんが、比較広告というと、要するに相手のものより自分のものの方がいいということをアピールしようとして行うものであるため、ともするとそういうふうになりがち(自分のものが良い、というより、相手のものが粗悪・イケてない、というベクトルに走りがち)なので、当然のことでもちゃんと言及しているわけです。
①~③はガイドラインの項目と概ね対応しており、対応関係は以下のような感じです。
不当表示に該当するおそれがある比較広告 | 対応するガイドラインの項目 |
---|---|
①実証されていない、又は実証され得ない事項を挙げて比較するもの | 3. 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること |
4. 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること | |
②一般消費者の商品選択にとって重要でない事項を重要であるかのように強調して比較するもの及び比較する商品を恣意的に選び出すなど不公正な基準によって比較するもの | 5. 比較の方法が公正であること |
③一般消費者に対する具体的な情報提供ではなく、単に競争事業者又はその商品を中傷し又はひぼうするもの | 6. 中傷、ひぼうにわたる比較広告 |
その他 | 7. 公正取引協議会等各種の団体、マスメディアにおける自主規制 |
基本的考え方(ガイドライン第2項)
比較広告ガイドラインのなかで、基本的考え方として、比較広告の適法要件が記載されています。
▽比較広告ガイドライン【2-(1)(2)】
2. 基本的考え方
(1) 景品表示法による規制の趣旨
景品表示法第5条は、自己の供給する商品等の内容や取引条件について、実際のもの又は競争事業者のものよりも、著しく優良であると示す又は著しく有利であると一般消費者に誤認される表示を不当表示として禁止している。
(2) 適正な比較広告の要件
したがって、比較広告が不当表示とならないようにするためには、一般消費者にこのような誤認を与えないようにする必要がある。
このためには、次の三つの要件をすべて満たす必要がある。
① 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
② 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
③ 比較の方法が公正であること
つまり、以下の3要件です。
- 比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること
- 実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること
- 比較の方法が公正であること
ほぼそのまんまですが、消費者庁HPに、以下のような関連Q&Aも掲載されています。
▽表示に関するQ&A【Q25】|消費者庁HP
Q25 比較広告に関する景品表示法上の考え方を教えてください。
A 比較広告とは、自己の供給する商品・サービスについて、これと競争関係にある特定の商品・サービスを比較対象として示し、商品・サービスの内容又は取引条件に関して、客観的に測定又は評価することによって比較する広告をいいます。
比較広告が不当表示とならないようにするためには、①比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること、②実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること、③比較の方法が公正であることが必要です。
なお、比較広告に関する景品表示法の考え方については、「比較広告に関する景品表示法上の考え方」(比較広告ガイドライン)において示されています。
適正な比較広告の要件(ガイドライン第3項~第5項)
要件①の「比較広告で主張する内容が客観的に実証されていること」については、
- 実証が必要な事項の範囲
- 実証の方法及び程度
- 調査機関(広告主との利害関係や公平・中立性)
がポイントとして挙げられています。
要件②の「実証されている数値や事実を正確かつ適正に引用すること」については、
- (広告への)調査結果の引用の方法
- (広告への)調査機関、調査時点、調査場所等の調査方法に関するデータの表示
がポイントとして挙げられています。
要件③の「比較の方法が公正であること」については、
- 表示事項(比較項目)の選択基準
- 比較の対象となる商品等の選択基準
- 短所の表示
がポイントとして挙げられています。
適正な比較広告の要件については、次の関連記事にくわしく書いています。
中傷、ひぼうにわたる比較広告(ガイドライン第6項)
比較広告はあくまでも商品選択のための具体的情報を提供するものであるはずですから、単に競合の評価を下げるため殊更に欠点を指摘するようなものは、景表法上も違法となり得ます。
▽比較広告ガイドライン【6】
一般に、中傷、ひぼうとは、商品等に関する具体的な情報を提供するためのものではなく、単に競争事業者又はその商品等を陥れるため、殊更その欠点を指摘するものをいう。
このような中傷、ひぼうとなる比較広告のうち事実に反するものは、一般消費者に誤認を与える場合には、不当表示となるおそれがある。
また、事実に基づくものであっても、信用失墜、人身攻撃にわたるもの等で、広告全体の趣旨からみて、あたかも比較対象商品等が実際のものより著しく劣っているかのような印象を一般消費者に与えるような場合にも、不当表示となるおそれがある。
事実に反するものは、競合商品を実際よりも悪く見せて、自社商品を著しく優良・有利なものと誤認させることになりますので、不当表示となります。
また、事実に基づくものであったとしても、実際よりも悪く見えるような印象を与える場合は、不当表示になる場合がある、とされています。そのような印象を与えるかどうかは、広告全体の趣旨から判断されます。
さらに、場合によっては刑法等他の法律で問題となることや、倫理上の問題、品位にかかわる問題を惹起することもあるので、注意する必要がある。
ここも当然ながら、景表法だけでなく、刑法や不正競争防止法など、他の法律問題にもなり得る。また、法的な問題だけでなく、社会的な問題にも当然なり得ますよ、ということです。
自主規制(ガイドライン第7項)
ガイドラインの最後に、公正取引協議会等各種の団体、マスメディアにおける自主規制についても言及されています。
▽比較広告ガイドライン【7】
以上の事項は、比較広告に関する景品表示法上の一般原則である。
しかしながら、個々の商品等の特性、広告の影響の範囲や程度等を考慮した、比較広告に関する正常な商慣習が確立され、適正な比較広告が行われるようにするためには、公正取引協議会等の団体において、以上の事項を踏まえた比較広告についての自主規制基準が作成され、公正取引協議会等の自主規制機関によって、適切に運用されることが適当である。
また、広告を取り扱うマスメディアにおいて、比較広告に関する適正な自主規制が個々に行われることも重要である。
▷参考リンク:一般社団法人全国公正取引協議会連合会HP
結び
今回は、広告法務ということで、比較広告のルールの全体像について見てみました。
[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
主要法令等・参考文献
主要法令等
- 景品表示法
- 定義告示(「不当景品類及び不当表示防止法第2条の規定により景品類及び表示を指定する件」)
- 定義告示運用基準(「景品類等の指定の告示の運用基準について」)
- 不実証広告ガイドライン(「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針-不実証広告規制に関する指針-」)
- 価格表示ガイドライン(「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」)
- 将来価格執行方針(「将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示に対する執行方針」)
- 比較広告ガイドライン(「比較広告に関する景品表示法上の考え方」)
- 2008年No.1報告書(平成20年6月13日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(公正取引委員会事務総局))
- 2024年No.1報告書(令和6年9月26日付け「No.1表示に関する実態調査報告書」(消費者庁表示対策課))
- 打消し表示留意点(「打消し表示に関する表示方法及び表示内容に関する留意点(実態調査報告書のまとめ)」)
- 表示に関するQ&A(消費者庁)
参考文献
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