公益通報者保護法

公益通報者保護法を勉強しよう|公益通報の要件ー通報の主体、内容、目的

今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、公益通報の4つの要件のうち、①通報の主体、②通報の内容、③通報の目的について書いてみたいと思います(④通報先の要件については次の記事にて)。

なお、内容は現行法(令和2年改正前の内容)をベースにしつつ、適宜、改正の内容に言及する、というスタンスにしています。

▽(参考記事)令和2年改正の内容についてはこちら

改正公益通報者保護法|令和2年改正

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ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

通報の主体

労働者

通報の主体は、「労働者」である。

2条1項(「公益通報」の定義)に規定されているが、条文が長いため、大胆に省略して引用してみる。

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、労働者労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)が、…(略)…通報することをいう。
一~三 (略)

つまり、労働基準法9条に規定する「労働者」と同じ意味、ということである。では、労働基準法9条は?というと、以下のとおり。

労働基準法

(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われるをいう。

つまり、①「使用」されていること、②「賃金」を支払われていること、の2つの要件をみたす者なので、事業者の従業員として働く人(要するに雇用契約で働く人)が広く含まれる。

たとえば、いわゆる正社員(直接雇用・フルタイム・無期雇用)のほか、派遣労働者(間接雇用)、アルバイト、パートタイマーなどの短時間労働者、契約社員(有期雇用労働者)、公務員も含まれる。

また、「公益通報」の定義が、”労働者が、労務提供先における通報対象事実を通報する場合”、という書きぶりになっているので、通報時に在職中の労働者であることが前提となっている。

通報者・相談者向けQ&A(2017年8月版)|消費者庁HP

Q3 退職者は、本法の規定による保護の対象となりますか。

A 本法は、公益通報の主体「労働者」(本法第2条第1項)としています。通報時点で退職している者は、労働契約関係が既になく、「労働者」ではないので、本法の規定の対象にはなりません
一方、通報時点では労働者であり、その後何らかの理由で退職した者は、本法の規定の対象になり得ます
なお、通報時点で労働者であった退職者への不利益な取扱いとしては、公益通報をしたことを理由とした退職金の減額などが考えられます。

令和2年改正の内容:退職者、役員の追加

上記のように、通報の主体(つまり保護される人)は、

✓ 労働者(=つまり、通報時現在において雇用されている人)

だけだったのだが、令和2年改正によって、

✓ 退職者(ただし、退職後1年以内の通報に限る)や、

✓ 役員(ただし、外部通報の場合には、原則として内部での調査是正措置を前置することが必要)

が追加された。

令和2年改正では、以下のような条文になっている。

が、やはり2条1項が地獄のように読みにくいので(内容が追加された分、さらに読みにくくなっている)、大胆に省略して引用してみる。

条文の構造としては、1号~4号の各号において、「誰が」「どういう事業者における」通報対象事実について通報すればいいのか、が書かれている。

▽改正後・2条1項

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、…(略)…当該各号に定める事業者(略)について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、…(略)…通報することをいう。
 労働者(略)又は労働者であった者  当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前一年以内に自ら使用していた事業者(略)
 派遣労働者(略)又は派遣労働者であった者  当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(略)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前一年以内に受けていた事業者
 前二号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前一年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者  当該他の事業者
 役員   次に掲げる事業者
 イ 当該役員に職務を行わせる事業者
 ロ イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者

要するに、

① 労働者又は労働者であった者(1号)
② 派遣労働者又は派遣労働者であった者(2号)
③ 雇用元と取引先との請負契約に基づいて、取引先で(職務に)従事し又は従事していた者(3号)
④ 役員(4号)

という風になっていて、①~③の「~であった者」などについては、「当該通報の日前1年以内に」となっているので、退職後1年以内に通報する者に限られている、ということになる。

④の役員については、保護の内容を定めた条文(改正後・5条3項、6条)で、外部通報の場合には、原則として内部での調査是正措置の努力義務の履行を前置することが必要、ということが書かれている。

ただ、これは、役員について、通報先ごとの保護要件として定められているものなので、詳しくはまた次の記事にて。

通報の内容:「労務提供先」での「通報対象事実」

通報の内容も、2条1項に規定されているが、条文が長いためやはり大胆に省略して引用してみる。

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、労働者(略)が、…(略)…その労務提供先次のいずれかに掲げる事業者(略)をいう。以下同じ。)又は当該労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、…(略)…通報することをいう。
一 当該労働者を自ら使用する事業者(次号に掲げる事業者を除く。)
二 当該労働者が派遣労働者(略)である場合において、当該派遣労働者に係る労働者派遣(略)の役務の提供を受ける事業者
三 前二号に掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該労働者が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者

分節すると、通報の内容というのは、

⑴①労務提供先(1~3号のいずれかの事業者)
 又は
 ②労務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者
 について、
⑵通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨

を通報することである。

要するに、「労務提供先」での「通報対象事実」が、通報の内容となっている。

ちなみに、⑴②の「労務提供先の事業に従事する場合における」というのは、以下のような意味。

法律・制度の概要Q&A(2017年8月版)|消費者庁HP

Q6 職場の同僚等の私生活上の法令違反行為に関する通報は、本法の「公益通報」(本法第2条第1項)に当たりますか。

A 本法第2条第1項が「当該労務提供先の事業に従事する場合における・・・従業員・・について」としていることから、事業と全く無関係な同僚の私生活上の法令違反行為に関する通報は、本法の「公益通報」に当たりません

労務提供先とは

「労務提供先」とは、1号~3号に書かれている事業者のことで、

①雇用元で働いている場合 → 雇用元の事業者(1号)
②派遣労働者の場合 → 派遣先の事業者(2号)
③雇用元と取引先との請負契約に基づいて取引先で働いている場合 → 取引先の事業者(3号)

のどれかのことである。

要するに、通報者のケースに応じて、①勤務先か、②派遣先か、③取引先、のどれかである。

通報対象事実とは

「通報対象事実」については、別途、2条3項に定義がある。

(定義)
第二条
 この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。
一 個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
二 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反すること前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)

別表(第二条関係)
一 刑法(明治四十年法律第四十五号)
二 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
三 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
四 日本農林規格等に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)
五 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)
六 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)
七 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)
八 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として政令で定めるもの

上記の「政令」というのは、通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」)のことである。

通報の対象となる法律一覧表(現在471本)が、以下の消費者庁HPに掲載されている。

▽公益通報者保護法において通報の対象となる法律について|消費者庁HP
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_system/whisleblower_protection_system/overview/subject/

「通報対象事実」のポイントとしては、

✓ およそ不正っぽいものなら何でも通報の内容になるわけではなく、「法令違反」に限られること、

✓ 「法令」も、全ての法令ではなく、公益通報者保護法と政令によって指定された法令に限られること、

✓ 指定された法令の「違反」も、あらゆる違反ではなく、犯罪事実として規定されているもの(1号)又は、最終的に刑罰につながる行為(2号)に限られること、

といったあたりかなと思う(けっこう意外な気もするかもだが)。

最終的に刑罰につながる行為、というのは、要するに、行政処分や勧告などの対象となるような違反行為のことで、最終的に刑罰が用意されているものである(赤色のような行為)。

例)業法や規制法の違反行為 → 行政処分や勧告など → 行政処分(ex.停止命令や改善命令)や勧告などへの違反行為 → 刑罰

令和2年改正の内容:行政罰の対象行為を追加

通報対象事実たる法律の「違反」について、令和2年改正では、犯罪行為(刑事罰)に加えて、過料(行政罰)の対象となるような行為も追加された(マーカー部分を参照)。

▽改正後・2条3項

3 この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。
一 この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。以下この項において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実
二 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)

その結果、こういう感じになった。

 

現行法

令和2年改正で追加

1号

犯罪行為(刑事罰の対象となる行為)

行政罰(過料)の対象となる行為

2号

最終的に刑事罰につながる行為

最終的に過料につながる行為

なお、通報対象事実となる「法律」の指定に関し、脱税や公職選挙法違反、行政内部の手続違反などの重大な不正は含まれていないのだが、このあたりは改正議論の対象とはなったものの、令和2年改正には盛り込まれていない(変更なし)。

通報の目的:不正の目的でないこと

通報の目的については、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」でないこと、である。

(定義)
第二条 この法律において「公益通報」とは、…(略)…不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、…(略)…通報することをいう。

例示としては、以下の説明がわかりやすい。

通報者の方へ|消費者庁HP

 公益通報は、「不正の目的」でないことが必要となります(法第2条第1項本文)。
 例えば、通報を手段として金品をゆすりたかるなどの不正の利益を得る目的であったり、対象事業者や対象行為者の信用を失墜させるなどの有形無形の損害を加える目的であったりというのが、ここにいう「不正の目的」に当たります。
 なお、「不正の目的」でないというためには、通報の主たる目的が上記のようなものでないと認められれば足り、純粋に公益を図る目的(通報対象事実による被害の拡大を防止するなどの公益を図る目的)でなければならないことを要するものではありません。単に交渉を有利に進めようとする目的や事業者に反感を抱いているというだけでは、ここにいう「不正の目的」があるとまではいえません

その他、Q&A集では、以下のような事例が解説されている。

民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)|消費者庁HP

Q41 通報者が、同一事案について繰り返し通報を行って業務を妨害する場合や、通報において関係者の誹謗中傷を繰り返す場合
Q42 通報に対する通知の制度を悪用して、通報内容と無関係な企業秘密や個人情報等を不当に収集しようとする場合
Q43 通報の背景に会社や被通報者に対する不満や怨恨があると認められる場合

また、公益通報の要件ではないものの、通報者には、以下のような努力義務(他の正当な利益の尊重)が課されている。

(他人の正当な利益等の尊重)
第八条 第三条各号に定める公益通報をする労働者は、他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない

これに関する例示も、以下の説明がわかりやすい。

通報者の方へ|消費者庁HP

 公益通報には、次のような情報を含むことがあります。
〇 第三者の個人情報(病院の患者の氏名や病歴など)
〇 事業者の営業の秘密に関する情報
〇 国の安全に関わる情報
 これらの情報が不用意に広まると、個人や事業者に取り返しのつかない損害を及ぼすおそれがあります。
 そこで、通報者には、情報管理も含めて他人の正当な利益または公共の利益を害することのないよう努めることが求められます(法第8条)。

結び

公益通報の要件のうち、①通報の主体、②通報の内容、③通報の目的については以上になります。

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

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