公益通報者保護法

公益通報者保護法を勉強しよう|公益通報の要件ー通報の主体、内容、目的

2020年11月6日

今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、公益通報の4つの要件のうち、①通報の主体、②通報の内容、③通報の目的について見てみたいと思います(④通報先の要件については次の記事にて)。

ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。

メモ

 このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。

通報の主体

通報の主体(つまり保護される人)は、

  • 労働者(つまり、通報時現在において雇用されている人)
  • 退職者(ただし、退職後1年以内の通報に限る)
  • 役員(ただし、外部通報の場合には、原則として内部での調査是正措置を前置することが必要)

となっています。

以下、順に見てみます。

労働者、退職者(法2条1項1号~3号)

通報の主体はまず労働者ですが、退職後1年以内の通報に限って、退職者も通報の主体になります。

通報の主体は法律のどこに出てくるかというと、公益通報の定義を定めている法2条1項の中で出てきます。

「次の各号に掲げる者」というのが通報の主体のことで、各号において、「誰が」「どういう事業者における」通報対象事実について通報すればいいのかが定められています。

▽公益通報者保護法2条1項1号~3号(※【…】は管理人が適宜省略)

(定義)
第二条
 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員(…(略)…。)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、…通報することをいう。

 労働者(労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)又は労働者であった者  当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前一年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)

 派遣労働者(…労働者派遣法…第二条第二号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)又は派遣労働者であった者  当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(…(略)…。)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前一年以内に受けていた事業者

 前二号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前一年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者  当該他の事業者

要するに、

① 労働者又は労働者であった者(1号)
② 派遣労働者又は派遣労働者であった者(2号)
③ 雇用元事業者が取引先との間の請負契約等に基づいて業務を行っているときに、その業務に従事し又は従事していた者(3号)

というふうになっています。

①~③の「~であった者」などについては、「当該通報の日前1年以内に」となっているので、退職者は退職後1年以内に通報する者に限られている、ということになります。

公益通報者に関するQ&A-Q2|消費者庁HP

 公益通報できる退職者は退職から1年以内の者に限られるようですが、具体的にどのような者が該当しますか。

 本法における「退職者」については、退職日が「当該通報の日前一年以内」(本法第2条第1項第1号、同項第2号及び同項第3号)である者が該当します。 例えば、改正法施行日(令和4年6月1日)になされた通報については、令和3年6月1日以降に退職した者が「退職者」に該当します。

また、③が何なのかわかりにくいですが、例えばA社がB社に業務委託しているときに、その受託業務に従事しているB社(委託先事業者)の従業員が、A社(委託元事業者)の法令違反行為について通報する、といったことが想定されています。

3号の「前二号に定める事業者」というのがB社、「他の事業者」というのがA社のことになります。

「労働者」とは

 「労働者」についてだけ中身を見ておくと、

労働者労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第九条に規定する労働者をいう。以下同じ。)…

となっています。

 つまり、労働基準法9条に規定する「労働者」と同じ意味、ということです。では、労働基準法9条は?というと、以下のようになっています。

▽労働基準法9条

(定義)
第九条 
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

 つまり、①「使用」されていること、②「賃金」を支払われていること、の2つの要件をみたす者なので、事業者の従業員として働く人(要するに雇用契約で働く人)が広く含まれます。

 例えば、いわゆる正社員(直接雇用・フルタイム・無期雇用)のほか、派遣労働者(間接雇用)、アルバイト、パートタイマーなどの短時間労働者、契約社員(有期雇用労働者)、公務員も含まれます。

役員(4号)

役員については、先ほどの条文の続きで、4号に出てきます。

▽公益通報者保護法2条1項4号(※【…】は管理人が適宜省略)

 役員  次に掲げる事業者
  当該役員に職務を行わせる事業者
  イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者

役員については、外部通報の場合には、原則として内部での調査是正措置の努力義務の履行を前置することが必要とされています。

この調査是正措置の前置は、保護の内容を定めた条文(5条3項、6条)の中で、通報先ごとの保護要件として定められています(▷保護要件についての参考記事はこちら)。

令和2年改正の内容:退職者、役員の追加

 もともと、通報の主体(つまり保護される人)は、労働者(つまり通報時現在において雇用されている人)だけでしたが、令和2年改正によって、

・退職者(ただし、退職後1年以内の通報に限る)
・役員(ただし、外部通報の場合には、原則として内部での調査是正措置を前置することが必要)

が追加されました。

通報の内容-「役務提供先」での「通報対象事実」

通報の内容も、法2条1項に規定されていますが、「役務提供先」での「通報対象事実」というふうに、分けて押さえるのがよいと思います。

役務提供先とは

「役務提供先」とは、1号~4号に書かれている事業者のことで、労働者(または退職者)の場合、

  • 雇用元で働いている場合 → 雇用元の事業者(1号)
  • 派遣労働者の場合 → 派遣先の事業者(2号)
  • 雇用元事業者と取引先との間の請負契約などに基づく業務に従事している場合 → 取引先の事業者(3号)

のどれかのことです。

要するに、通報者のケースに応じて、①勤務先か、②派遣先か、③取引先、のどれかです。

ちなみに、役員の場合は4号に規定されていますが、上記とだいたいパラレルな内容になっています(就任先または取引先)。

条文も確認してみます。「当該各号に定める事業者」が役務提供先です。

▽法2条1項(※「…」は管理人が適宜省略)

(定義)
第二条
 この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員(…(略)…。)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、…(略)…通報することをいう。

 労働者…又は労働者であった者  当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前一年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)

 派遣労働者…又は派遣労働者であった者  当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣…の役務の提供を受け、又は当該通報の日前一年以内に受けていた事業者

 前二号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前一年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者  当該他の事業者

 役員  次に掲げる事業者
 当該役員に職務を行わせる事業者
 イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者

最初の部分(柱書)を分節すると、通報の内容というのは、

⑴①役務提供先(1~4号のいずれかの事業者)
 又は
 ②役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者
 について、
通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨

を通報すること、となっています。

要するに、「役務提供先」での「通報対象事実」が、通報の内容となっているということです。

ちなみに、⑴②の「役務提供先の事業に従事する場合における」というのは、以下のような意味になります。

通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A-Q3|消費者庁HP

 従業員の私生活上の法令違反行為についての通報は、公益通報に該当しますか。

 本法第2条第1項において、役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を通報することを公益通報と規定されていることから、役務提供先の事業と無関係な従業員の私生活上の法令違反行為についての通報は、公益通報に該当しません

通報対象事実とは

通報対象事実」については、別途、2条3項に定義があります。

▽法2条3項

 この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。

 この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。以下この項において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実

 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)

別表(第二条関係)

 刑法(明治四十年法律第四十五号)
 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
 金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
 日本農林規格等に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)
 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)
 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)
 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として政令で定めるもの

上記の「政令」というのは、通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」)のことです。

通報の対象となる法律一覧表が、以下の消費者庁HPに掲載されています。

▽参考リンク
公益通報者保護法において通報の対象となる法律について|消費者庁HP

通報対象事実のポイントは、

  • およそ不正っぽいものなら何でも通報の内容になるわけではなく、「法令違反」に限られること
  • 法令」も、全ての法令ではなく、公益通報者保護法と政令によって指定された法令に限られること
  • 指定された法令の「違反」も、あらゆる違反ではなく、犯罪行為や過料(行政罰)の対象行為(1号)、または、最終的にそれらの刑罰や過料につながる行為(2号)に限られること

といったあたりかなと思います。

最終的に・・・・刑罰や過料(行政罰)につながる行為、というのは、要するに、行政処分や勧告などの対象となるような違反行為のことで、最終的に刑罰や過料が用意されているもののことです(赤色のような行為)。

例)業法や規制法の違反行為 → 行政処分や勧告など → 行政処分(ex.停止命令や改善命令)や勧告などへの違反行為 → 刑罰過料(行政罰)

まとめると、以下のようになっています。

【通報対象事実】

刑事罰関連過料(行政罰)関連
1号犯罪行為(刑事罰の対象となる行為)過料の対象となる行為
2号最終的に刑事罰につながる行為最終的に過料につながる行為

令和2年改正の内容:過料(行政罰)の対象行為を追加

 通報対象事実たる法律の「違反」について、令和2年改正で、犯罪行為(刑事罰)に加えて、過料(行政罰)の対象となるような行為が追加されました(上記の表でいうと、右側の列の部分)。

 なお、通報対象事実となる「法律」の指定に関し、脱税や公職選挙法違反、行政内部の手続違反などの重大な不正は含まれていないのですが、このあたりは改正議論の対象とはなったものの、令和2年改正には盛り込まれていません(変更なし)。

通報の目的-不正の目的でないこと

通報の目的については、不正の目的でないことが必要とされています。

これも、公益通報の定義を定める法2条1項の中で出てきます。

▽法2条1項柱書(抜粋)

(定義)
第二条
 この法律において「公益通報」とは、…(略)…不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、…(略)…通報することをいう。

”不正の利益を得る目的”と”他人に損害を加える目的”は例示であり、コアは不正の目的でないこと、です。

不正の目的の例

例示の内容としては、消費者庁HPの以下の説明がわかりやすいかと思います。

通報者の方へ(通報者の注意点など-不正の目的でないこと)|消費者庁HP

公益通報は、「不正の目的でないことが必要となります(法第2条第1項本文)。

例えば、通報を手段として金品をゆすりたかるなどの不正の利益を得る目的であったり、対象事業者や対象行為者の信用を失墜させるなどの有形無形の損害を加える目的であったりというのが、ここにいう「不正の目的」に当たり、「不正の目的」がある場合は、公益通報にはなりません。

なお、「不正の目的」でないというためには、通報の主たる目的が上記のようなものでないと認められれば足り、純粋に公益を図る目的(通報対象事実による被害の拡大を防止するなどの公益を図る目的)でなければならないことを要するものではありません。単に交渉を有利に進めようとする目的や事業者に反感を抱いているというだけでは、ここにいう「不正の目的」があるとまではいえません。

公益・・通報”という表現の所以のような要件ですが、ここでいう公益は、不正でなければよいということです。

そのほか、Q&A集では、「事業者における通報対応に関するQ&A」の中で、

  • 通報者が、同一事案について繰り返し通報を行って業務を妨害する場合や、通報において関係者の誹謗中傷を繰り返す場合(Q5
  • 通報の背景に会社や被通報者に対する不満や怨恨があると認められる場合(Q6
  • 通報に対する通知の制度を悪用して、通報内容と無関係な企業秘密や個人情報等を不当に収集しようとする場合(Q7

といった事例も解説されています。

通報者の努力義務

また、公益通報の要件ではないものの、通報者には、以下のような努力義務(他人の正当な利益等の尊重)が課されています。

▽法10条

(他人の正当な利益等の尊重)
第十条
 第三条各号及び第六条各号に定める公益通報をする者は、他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めなければならない

これに関する例示も、以下の説明がわかりやすいかと思います。

通報者の方へ(通報者の注意点など-他人の正当な権利等の尊重)|消費者庁HP

公益通報には、次のような情報を含むことがあります。
・第三者の個人情報(病院の患者の氏名や病歴など)
・事業者の営業の秘密に関する情報
・国の安全に関わる情報

これらの情報が不用意に広まると、個人や事業者に取り返しのつかない損害を及ぼすおそれがあります。 そこで、通報者には、情報管理も含めて他人の正当な利益又は公共の利益を害することのないよう努めることが求められます(法第10条)。

結び

今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、公益通報の4つの要件のうち、①通報の主体、②通報の内容、③通報の目的について見てみました。

本記事で見た内容に関しては、消費者庁HPに以下のQ&A集があります。

▽参考リンク
公益通報者に関するQ&A|消費者庁HP
通報対象事実(通報の内容)に関するQ&A|消費者庁HP

▽次の記事

公益通報者保護法を勉強しよう|公益通報の要件ー通報先と保護要件

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。

主要法令等

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参考文献

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