公益通報者保護法

公益通報者保護法を勉強しよう|事業者における内部通報制度の法的位置付け

今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、事業者における内部通報制度の法的位置付けについて書いてみたいと思います。

 

なお、内容は現行法(令和2年改正前の内容)をベースにしつつ、適宜、改正の内容に言及する、というスタンスにしています。

 

▽(参考記事)令和2年改正の内容についてはこちら

【法改正レビュー】公益通報者保護法|令和2年改正

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ではさっそく。なお、引用部分の太字や下線は管理人によるものです。

 

メモ

 本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
 ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。

 

内部通報制度の法的な位置付け

現行法では?

まず、意外な気もするかもだが、現行法では、公益通報者保護法に、内部通報制度の整備を事業者に義務づける規定はない(つまり、法的義務ではない)。

 

では何なのか?というと、民間事業者向けガイドラインで、事業者の主体的取り組みを期待するもの、ということになる。強いて法的にいえば、ガイドラインに基づく一般的な行政指導、という感じ。

 

法定の対応事項は、不利益取扱いの禁止(3~5条)是正措置の通知(9条)のみであり、これらを遵守できるようにしつつ、周辺事項も含めた全体的な体制を整備するための方法がガイドラインに記載されている、という感じである。

 

ガイドラインの概要としては、以下のリンクのページがわかりやすい。以下、項目を抜粋したものを引用している。

 

通報を受け付ける事業者に求められる主な事項|民間事業者の方へ|消費者庁HP

【法定の対応事項】
〇不利益取扱いの禁止(法第3~5条)
〇是正措置の通知(法第9条)

【ガイドラインに定める対応事項】
〇通報・相談窓口の整備・運用
〇通報に係る秘密保持、個人情報の保護
〇不利益取扱いの禁止(参照:法第3~5条)
〇通報者への対応状況の通知(参照:法第9条)
〇制度の継続的な評価・改善

 

Q&Aでも、法律とガイドラインの関係が解説されている。

 

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)|消費者庁HP

Q1 本法と民間事業者向けガイドラインはどのような関係にあるのでしょうか。
A 公益通報者保護法(以下「本法」といいます。)は、公益通報者の保護や事業者による法令遵守の確保等を目的として、「公益通報」をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効や不利益な取扱いの禁止、公益通報に関し事業者や行政機関がとるべき措置などを定めたものです。
 これに対し、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「民間事業者向けガイドライン」といいます。)は、本法を踏まえて、コンプライアンス経営の推進等を図ることを目的として、事業者が自主的に取り組むことが推奨される事項を具体化・明確化し、従業員等からの法令違反等に関する通報を事業者内において適切に取り扱うための指針を示したものです。
 このように本法と民間事業者向けガイドラインは相互補完関係にあり、両者を一体として運用していくことが有効と考えられます。

Q10 通報窓口を設置することは事業者の義務なのでしょうか。
A 通報窓口の設置は法律上の義務ではありません。しかし、民間事業者向けガイドラインでは、事業者が本法の趣旨を踏まえてコンプライアンス経営を促進させるためには、通報窓口を設置し、自主的に通報対応の仕組みを整備することが必要であるとしています。
 通報対応の仕組みを整備することにより、事業者内部の問題がいきなり事業者外部に通報されることを防ぎ、問題を事業者内部で早期に把握できるようにすることによって、リスクを適切に管理し、問題が大きくなる前に解決することが可能になるとともに、コンプライアンス経営を促進していることを客観的に示すことによって、社会的な信頼も高まることとなります。(以下略)

 

 

上場会社の場合は?

ただ、上場会社の場合は、内部統制システムの一環、あるいはコーポレートガバナンス・コード上の要求事項の一つとして、(事実上強制的に、)大多数の大企業で導入されている。

 

会社法において、内部統制システムは、大会社(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上)では構築が義務となるし(362条5項)、証券取引所の規程やガイドライン(上場審査や上場規程)でも、内部管理体制(内部統制)が要求される。

 

厳密には、内部統制システム自体は、内部通報制度を論理必然的に含んでいるというわけではないのだが、とはいえ、上場するような会社なら、普通は内部統制システムの一環として整備するし、コーポレートガバナンス・コードでは内部通報制度に明示的に言及されているので、事実上は義務である、といって差支えないと思う。

 

▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)|消費者庁HP

Q8 会社法では、いわゆる内部統制システムの整備について、取締役会の決議事項としていますが、内部統制システムの整備に当たっては、内部通報窓口の整備を必ず行わなければならないのでしょうか。
A 会社法(平成17年法律第86号)第362条等は、いわゆる内部統制システムについて規定し、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を大会社(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の株式会社)の取締役会の決議事項としていますが、会社法及び同法施行規則は、内部通報窓口の整備について特定の体制を設けることを義務付けているわけではありません
 もっとも、民間事業者向けガイドラインでは、事業者のコンプライアンス経営を強化するために通報対応の仕組みの整備を規定しているほか、コーポレートガバナンス・コード(平成27年6月1日東京証券取引所)補充原則2-51でも、「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の整備(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また情報提供者の秘匿と不利益取扱いの禁止に関する規律を整備すべきである。」としていることなどから、内部統制システムの整備に当たっては、通報窓口の設置を含む通報対応の仕組みを整備し、これを適切に運用することが必要であると考えられます。(以下略)

 

 

令和2年改正の内容

以上のように現行法では体制整備は法的義務ではないのだが、令和2年改正で重要な改正がある。

 

内部通報体制の整備義務の新設と、①担当者の守秘義務の新設、である。

 

どちらも重要だが、①は、従業員が300人を超える事業者の場合には体制整備が法的義務化されたものであり、特に重要である。

 

内部通報体制の整備義務の新設(改正後・11条)

内部通報体制の整備義務

従業員数が300人を超える事業者に対し、内部通報体制の整備等を義務づけることになった。

 

1項で、担当者を定める義務が規定されている(=法的義務)。

 

担当者は「公益通報対応従事者」といい、事業者内部への公益通報を受け、通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(通報対応業務)に従事する者、をいう。

 

2項で、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとる義務が規定されている(=法的義務)。

 

3項で、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、努力義務とされている。

 

▽改正後・11条

(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置とらなければならない
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
4~7 (略) 

 

改正法Q&A(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第 51 号)に関するQ&A」)は、たとえば以下のとおり。

 

改正法Q&A|消費者庁HP

Q2-1 事業者は何を行えば、公益通報対応業務従事者を定めたことになり、具体的にどのような措置を講じれば体制の整備その他の必要な措置をとったことになるのか。
A 改正後の法では、事業者に対し、新たに、公益通報対応業務従事者を定める義務(改正後の法第 11 条第1項)及び内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正後の法第 11 条第2項)を課しています。
 前者の公益通報対応業務従事者の定め方については、個別に担当者を指定することのほか、内部規程において一定のポストに従事する者を定めるなどの方法が考えられます。
 後者の体制の整備その他の必要な措置の内容は、現時点では、例えば、通報受付窓口の設定社内調査・是正措置公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止公益通報者に関する情報漏えいの防止これら措置に関する内部規程の整備・運用等を想定しています。
 公益通報対応業務従事者の定め方や、体制の整備その他の必要な措置の内容については、今後、指針を策定し、事業者の方が御準備いただくお時間を十分に確保できるだけの時期にお示しする予定です。

Q2-2 当社ではグループ会社としての通報窓口を設けているが、グループ内には従業員が 300 人を超える関係会社が複数社ある。この場合にグループとして1つの通報窓口を設ければよいのか、関係会社ごとに通報窓口を設けなければならないのか知りたい。
A 改正後の法では、事業者に対し、新たに、公益通報対応業務従事者を定める義務(改正後の法第 11 条第1項)及び内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正後の法第 11 条第2項)を課しています(常時使用する労働者の数が 300 人以下の事業者については、努力義務となります(改正後の法第 11 条第3項)。)。
  改正後の法においては、独立した法人格を有する事業者ごとにこれら義務を課していることから、グループ全体ではなく、関係会社ごとに改正法に基づく通報窓口を整備する義務を果たしていただくことが必要になります。
  なお、例えば、グループ会社全体としての体制整備の一環として、子会社の従業員が行う通報の窓口は親会社とされている場合もあると考えられます。
 子会社が、自らの内規において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、体制整備義務を履行していると評価できるものと考えられます。
  より具体的な考え方については、今後お示ししていく予定です。

 

 

体制整備義務の違反に対する行政措置の導入

体制整備義務(改正後・11条1項2項)については、違反に対する行政措置も導入された。

報告徴収、助言、指導、及び勧告(改正後・15条)
勧告に従わなかった場合の公表(改正後・16条)

である。

 

報告懈怠等については、行政罰(過料)が課せられる(改正後・22条)。

 

▽改正後・15条、16条、22条

(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言指導若しくは勧告をすることができる。

(公表)
第十六条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。

第二十二条 第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。

 

なお、この、体制整備義務の違反に対する行政措置が導入されたことによって、不利益取扱いの禁止に対する違反にも一定の歯止めがかかるのではないか、との見方もある。

 

なぜかというと、不利益取扱いが実際にされた場合には、「公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」が不十分であった、として行政措置の対象となり得るのではないか、ということである。
(※不利益取扱いの禁止やその実効性確保の問題については、こちらの記事を参照)

 

 

担当者の守秘義務の新設(改正後・12条)

公益通報者の保護のため、つまり、通報に関する情報の漏えいを懸念して通報を差し控えるといった事態を避けるため、担当者(改正後・11条1項)に守秘義務が設けられた(改正後・12条)。

 

▽改正後・12条

(公益通報対応業務従事者の義務)
第十二条 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの漏らしてはならない

 

また、秘密漏えいについては、罰則も設けられた。

 

つまり、企業担当者個人の守秘義務違反行為を刑事罰の対象とした、ということになる。

 

▽改正後・21条

第二十一条 第十二条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、三十万円以下の罰金に処する。

 

 

結び

事業者における内部通報制度の法的な位置付けについては以上になります。

 

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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。初心者(=過去の自分)がなるだけ早く新しい環境に適応できるようにとの気持ちで書いております(ゆえに、ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれておりませんので、あしからずご了承ください)。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご留意ください。

 

 

  • この記事を書いた人

とある法律職@転職×法務×弁護士

法律を手に職にしたいと思って弁護士になったが、法律って面白いと割と本気で思っている人。経歴:イソ弁、複数社(3社)でのインハウスローヤー、独立開業など。自分の転職経験、会社法務や法律相談、独立開業の話などをアウトプットしています。

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