今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、事業者における内部通報制度の法的位置づけについて見てみたいと思います。
令和2年改正によって新設されたものが多いですが、記事の後半部分では、令和2年改正前の内容にも参考として言及しています。
▽令和2年改正の内容についてはこちら
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改正公益通報者保護法|令和2年改正
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ではさっそく。なお、引用部分の太字、下線、改行などは管理人によるものです。
メモ
このカテゴリーでは、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いており、感覚的な理解を掴むことを目指していますが、書籍などを理解する際の一助になれば幸いです。
内部通報制度の法的な位置づけ
内部通報制度の整備は、従業員が300人を超える事業者の場合には法的義務となっています(300人以下の事業者の場合は努力義務)。
内部通報体制の整備義務(法11条)
体制整備義務と法定指針
体制整備義務は、法11条に定められています。
1項で、担当者を定める義務が規定されています(=法的義務)。
担当者は「公益通報対応業務従事者」といい、事業者内部への公益通報を受け、通報対象事実の調査をし、その是正に必要な措置をとる業務(通報対応業務)に従事する者を指します。
2項で、公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとる義務が規定されています(=法的義務)。
3項で、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、努力義務とされています。
▽法11条1項~3項
(事業者がとるべき措置)
第十一条 事業者は、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条において「公益通報対応義務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業務従事者」という。)を定めなければならない。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第三条第一号及び第六条第一号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
大枠の理解に役立ちそうなものを改正法Q&A(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A」〔令和2年8月版〕)から抜粋すると、たとえば以下のようなものがあります。
▽改正法Q&A〔令和2年8月版〕Q2-1
事業者は何を行えば、公益通報対応業務従事者を定めたことになり、具体的にどのような措置を講じれば体制の整備その他の必要な措置をとったことになるのか。
改正後の法では、事業者に対し、新たに、公益通報対応業務従事者を定める義務(改正後の法第11条第1項)及び内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正後の法第11条第2項)を課しています。
前者の公益通報対応業務従事者の定め方については、個別に担当者を指定することのほか、内部規程において一定のポストに従事する者を定めるなどの方法が考えられます。
後者の体制の整備その他の必要な措置の内容は、現時点では、例えば、通報受付窓口の設定、社内調査・是正措置、公益通報を理由とした不利益取扱いの禁止や公益通報者に関する情報漏えいの防止、これら措置に関する内部規程の整備・運用等を想定しています。
公益通報対応業務従事者の定め方や、体制の整備その他の必要な措置の内容については、今後、指針を策定し、事業者の方が御準備いただくお時間を十分に確保できるだけの時期にお示しする予定です。
▽改正法Q&A〔令和2年8月版〕Q2-2
当社ではグループ会社としての通報窓口を設けているが、グループ内には従業員が300人を超える関係会社が複数社ある。この場合にグループとして1つの通報窓口を設ければよいのか、関係会社ごとに通報窓口を設けなければならないのか知りたい。
改正後の法では、事業者に対し、新たに、公益通報対応業務従事者を定める義務(改正後の法第11条第1項)及び内部の労働者等からの公益通報に適切に対応する体制の整備その他の必要な措置をとる義務(改正後の法第11条第2項)を課しています(常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、努力義務となります(改正後の法第11条第3項)。)。
改正後の法においては、独立した法人格を有する事業者ごとにこれら義務を課していることから、グループ全体ではなく、関係会社ごとに改正法に基づく通報窓口を整備する義務を果たしていただくことが必要になります。
なお、例えば、グループ会社全体としての体制整備の一環として、子会社の従業員が行う通報の窓口は親会社とされている場合もあると考えられます。子会社が、自らの内規において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、体制整備義務を履行していると評価できるものと考えられます。
より具体的な考え方については、今後お示ししていく予定です。
法定指針
その後、4項に基づき、法定指針が策定されています。
▽法11条4項
4 内閣総理大臣は、第一項及び第二項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
▽内部公益通報対応体制の整備に関するQ&A Q2|消費者庁HP(≫掲載ページ)
内部公益通報対応体制の整備は、どのようなものを踏まえて対応すればよいですか。
内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置については、本法第11条第4項の規定に基づき指針が策定されているところ、事業者は指針に従って内部公益通報対応体制を整備する必要があります。
また、「指針を遵守するために参考となる考え方や指針が求める措置に関する具体的な取組例」や、「指針を遵守するための取組を超えて、事業者が自主的に取り組むことが期待される推奨事項に関する考え方や具体例」を、指針の解説に示していますので、内部公益通報対応体制の整備に当たって参考としてください。
なお、事業者がとるべき措置の個別具体的な内容については、事業者の規模、組織形態、業態、法令違反行為が発生する可能性の程度、ステークホルダーの多寡、労働者及び役員や退職者の内部公益通報対応体制の活用状況、その時々における社会背景等によって異なり得ると考えられるところ、各事業者は、指針及び指針の解説に記載された事項を踏まえ、各事業者において主体的に検討を行った上で、内部公益通報対応体制を整備・運用する必要があります。
法定指針とその解説は以下のようになっています。
体制整備義務の違反に対する行政措置
体制整備義務(法11条1項2項)については、違反に対する行政措置があり、
- 報告徴収、助言、指導、及び勧告(法15条)
- 勧告に従わなかった場合の公表(法16条)
があります。
実効性確保のために、公益通報者保護のための体制に不十分なところがある場合には、行政措置の対象となっているわけです。これも令和2年改正で導入されました。
報告懈怠等については、行政罰(過料)が課せられます(法22条)。
▽法15条、16条、22条
(報告の徴収並びに助言、指導及び勧告)
第十五条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項(これらの規定を同条第三項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定の施行に関し必要があると認めるときは、事業者に対して、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができる。
(公表)
第十六条 内閣総理大臣は、第十一条第一項及び第二項の規定に違反している事業者に対し、前条の規定による勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができる。
第二十二条 第十五条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、二十万円以下の過料に処する。
担当者の守秘義務(法12条)
公益通報者の保護のため、つまり、通報に関する情報の漏えいを懸念して通報を差し控えるといった事態を避けるため、担当者(改正後・11条1項)に守秘義務が課せられています。
▽法12条
(公益通報対応業務従事者の義務)
第十二条 公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。
また、秘密漏えいについては罰則も設けられています。つまり、企業担当者個人の守秘義務違反行為が刑事罰の対象となっているということになります。
▽法21条
第二十一条 第十二条の規定に違反して同条に規定する事項を漏らした者は、三十万円以下の罰金に処する。
参考:令和2年改正前
以下、参考までに、令和2年改正前における内部通報制度の法的な位置づけについても振り返ってみます。
法的義務の有無
まず、意外な気もするかもしれませんが、令和2年改正前は、公益通報者保護法に内部通報制度の整備を事業者に義務づける規定はありませんでした(つまり、法的義務ではなかった)。
では何だったのか?というと、民間事業者向けガイドラインで、事業者の主体的取り組みを期待するものという位置づけでした。
強いて法的にいえば、ガイドラインに基づく一般的な行政指導という感じでしょうか
法定の対応事項は、不利益取扱いの禁止(改正前3~5条)と是正措置の通知(改正前9条)のみであり、これらを遵守できるようにしつつ、周辺事項も含めた全体的な体制を整備するための方法がガイドラインに記載されている、という状況でした。
このガイドラインの概要としては、当時の消費者庁HPの民間事業者向け案内ページに
【法定の対応事項】
〇不利益取扱いの禁止(法第3~5条)
〇是正措置の通知(法第9条)
【ガイドラインに定める対応事項】
〇通報・相談窓口の整備・運用
〇通報に係る秘密保持、個人情報の保護
〇不利益取扱いの禁止(参照:法第3~5条)
〇通報者への対応状況の通知(参照:法第9条)
〇制度の継続的な評価・改善
といった項目があり、これを見ると、当時のそれぞれの法的位置づけが大体わかります(▷掲載ページ:民間事業者の方へ-通報を受け付ける事業者に求められる主な事項|消費者庁HP〔WARP〕)。
また、Q&Aでも、法律とガイドラインの関係が以下のように解説されていました。
▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)Q1|消費者庁HP(≫掲載ページ)
本法と民間事業者向けガイドラインはどのような関係にあるのでしょうか。
公益通報者保護法(以下「本法」といいます。)は、公益通報者の保護や事業者による法令遵守の確保等を目的として、「公益通報」をしたことを理由とする公益通報者の解雇の無効や不利益な取扱いの禁止、公益通報に関し事業者や行政機関がとるべき措置などを定めたものです。
これに対し、「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」(以下「民間事業者向けガイドライン」といいます。)は、本法を踏まえて、コンプライアンス経営の推進等を図ることを目的として、事業者が自主的に取り組むことが推奨される事項を具体化・明確化し、従業員等からの法令違反等に関する通報を事業者内において適切に取り扱うための指針を示したものです。
このように本法と民間事業者向けガイドラインは相互補完関係にあり、両者を一体として運用していくことが有効と考えられます。
▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)Q10|消費者庁HP(≫掲載ページ)
通報窓口を設置することは事業者の義務なのでしょうか。
通報窓口の設置は法律上の義務ではありません。しかし、民間事業者向けガイドラインでは、事業者が本法の趣旨を踏まえてコンプライアンス経営を促進させるためには、通報窓口を設置し、自主的に通報対応の仕組みを整備することが必要であるとしています。
通報対応の仕組みを整備することにより、事業者内部の問題がいきなり事業者外部に通報されることを防ぎ、問題を事業者内部で早期に把握できるようにすることによって、リスクを適切に管理し、問題が大きくなる前に解決することが可能になるとともに、コンプライアンス経営を促進していることを客観的に示すことによって、社会的な信頼も高まることとなります。
(以下略)
上場会社の場合は?
ただ、上場会社の場合は、内部統制システムの一環、あるいはコーポレートガバナンス・コード上の要求事項の一つとして、令和2年改正前においても(事実上強制的に)大多数の大企業で導入されていたといえます。
会社法において、内部統制システムは、大会社(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上)では構築が義務となりますし(会社法362条5項)、証券取引所の規程やガイドライン(上場審査や上場規程)でも、内部管理体制(内部統制)が要求されます。
厳密には、内部統制システム自体は内部通報制度を論理必然的に含んでいるというわけではないですが、とはいえ、上場するような会社なら、普通は内部統制システムの一環として整備しますし、コーポレートガバナンス・コードでは内部通報制度に明示的に言及されていますので、事実上は義務であるといって差支えないと思います。
▽民間事業者向けQ&A集(平成29年2月版)Q8|消費者庁HP(≫掲載ページ)
会社法では、いわゆる内部統制システムの整備について、取締役会の決議事項としていますが、内部統制システムの整備に当たっては、内部通報窓口の整備を必ず行わなければならないのでしょうか。
会社法(平成17年法律第86号)第362条等は、いわゆる内部統制システムについて規定し、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を大会社(資本金5億円以上又は負債総額200億円以上の株式会社)の取締役会の決議事項としていますが、会社法及び同法施行規則は、内部通報窓口の整備について特定の体制を設けることを義務付けているわけではありません。
もっとも、民間事業者向けガイドラインでは、事業者のコンプライアンス経営を強化するために通報対応の仕組みの整備を規定しているほか、コーポレートガバナンス・コード(平成27年6月1日東京証券取引所)補充原則2-51でも、「上場会社は、内部通報に係る体制整備の一環として、経営陣から独立した窓口の整備(例えば、社外取締役と監査役による合議体を窓口とする等)を行うべきであり、また情報提供者の秘匿と不利益取扱いの禁止に関する規律を整備すべきである。」としていることなどから、内部統制システムの整備に当たっては、通報窓口の設置を含む通報対応の仕組みを整備し、これを適切に運用することが必要であると考えられます。
(以下略)
結び
今回は、公益通報者保護法を勉強しようということで、事業者における内部通報制度の法的位置づけについて見てみました。
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公益通報者保護法を勉強しよう|事業者における内部通報制度-整備と運用
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれていないほか、業務上必要であるときなど、正確な内容については別途ご確認ください。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご注意ください。
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主要法令等・参考文献
主要法令等
- 公益通報者保護法
- 通報の対象法律を定める政令(「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」)
- 法定指針(「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」(令和3年内閣府告示第118号))|消費者庁HP
- 指針解説(「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」)|消費者庁HP
- Q&A集|消費者庁HP
参考文献
- 公益通報ハンドブック〔改正法(令和4年6月施行)準拠版〕(消費者庁)|消費者庁HP(≫掲載ページ)
- 逐条解説(消費者庁)|消費者庁HP
- 民間事業者向け説明会 資料|消費者庁HP
- 裁判例の収集(概要/裁判例一覧/論点整理表)〔2022年度調査〕|消費者庁HP(≫掲載ページ)
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