今回は、独占禁止法を勉強しようということで、独禁法の基本概念について書いてみたいと思う。
ではさっそく。
memo
本カテゴリ「法務道場」では、インハウスとしての法務経験からピックアップした、管理人の独学や経験の記録を綴っています。
ネット上の読み物としてざっくばらんに書いていますので、感覚的な理解を掴むことを目指しているのですが、書籍などを理解する際の一助になれれば幸いです。
「競争」
独禁法の基本概念として、「競争」と「一定の取引分野」の2つは、最初の方で見るのが通例な気がするので、まずこの2つから見ていきたいと思う。
ただ、いきなり読んでも抽象度が高過ぎて無味乾燥なので、さらっと流していきたい。
「競争」については、2条4項で定義されている。
第二条
4 この法律において「競争」とは、二以上の事業者がその通常の事業活動の範囲内において、かつ、当該事業活動の施設又は態様に重要な変更を加えることなく次に掲げる行為をし、又はすることができる状態をいう。
一 同一の需要者に同種又は類似の商品又は役務を供給すること
二 同一の供給者から同種又は類似の商品又は役務の供給を受けること
長い定義だが、とりあえず総論的には、2以上の事業者が競い合う関係、のことである(と思っておいてよいと思う)。
法解釈であると同時に、経済学と外縁を接する領域なので、肌感でわかろうとすると、経済学的な理解も必要になる。
「一定の取引分野」
「一定の取引分野」については、独禁法に多数登場するものの、定義規定は置かれていない。
なので、解釈になるが、とりあえず総論的には、「競争の場」のこと、「市場」つまりマーケットのことである(と思っておいてよいと思う)。
あとは、個別の条文において解釈が違うので、そのことを念頭に置きつつ、個別の規制内容について見るときに具体的に掘り下げる感じになる。
「行為要件」と「効果要件」
次に、上記の2つの基本概念を含み、独禁法に横断的に存在する効果要件について書きたいと思う。
前の記事(「独禁法を勉強しよう|規制の仕組み」)では、独禁法の規制の仕組みについて書いた。規制の仕組みというのはつまり、独禁法が適用される場合のこと、つまり適用要件である。
で、その適用要件について大まかな構造を見ると、独禁法の行為規制には、行為規制ごとに存在する行為要件のほか、類型的に共通する効果要件がある(全てではないけど)。
つまり、各行為規制で、こういう行為をしてはダメですよという行為要件に該当するとしても、それだけで独禁法が適用されるわけではなく、行為の結果として、競争にとって一定の悪影響が発生する(おそれがある)ことも要件になっている。それを効果要件と呼ぶ。
【行為規制の要件】
行為規制の3本柱である、①私的独占、②不当な取引制限、③不公正な取引方法の類型になぞらえて要件をまとめると、以下の表のような感じになる。太字の部分が効果要件である。
法の目的 |
行為規制 |
行為要件 |
効果要件 |
効果要件に関する文言 |
自由な競争 |
①私的独占・②不当な取引制限 |
行為規制ごとに存在 |
競争の実質的制限 |
公共の利益に反して |
公正な競争 |
③不公正な取引方法 |
行為規制ごとに存在 |
公正競争阻害性 |
正当な理由なく(1号・3号・4号) |
不当に(2号・6号) |
||||
正常な商慣習に照らして不当に(5号) |
【構造規制の要件】
また、構造規制(企業結合規制)の方にも、「競争の実質的制限」の効果要件がある。
上記の表とパラレルな感じになるように要件をまとめると、以下のようになる(←管理人の個人的理解)。
法の目的 |
構造規制 |
7つの類型 |
届出基準 |
効果要件 |
自由な競争を促進 |
企業結合規制 |
●株式保有 ●役員の兼任 ●合併 ●会社分割 ●共同株式移転 ●事業の譲受け ●事業の賃借等 |
各類型ごとに存在 (ないものもある) |
競争の実質的制限 |
「競争の実質的制限」と「公正競争阻害性」
上記の表で見たように、「競争の実質的制限」と「公正競争阻害性」というのが、類型的に共通する効果要件である。
文章での説明を端折ってしまったが、表を見るだけでも、左端の列の"法の目的"と照らし合わせて見れば、何となくイメージは湧くかな、と思う(厳密には、分け方として正確ではないですが…)。
文章で書くと、まず「競争の実質的制限」というのは、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること、である。解釈上は、特定の事業者または事業者集団が、市場支配力を形成・維持・強化している状態を意味する、とされる。
競争を実質的に制限することとなるかどうかを判断するためには、市場(マーケット)の範囲画定が必要であるため、「一定の取引分野」という概念が入っている。これを市場の画定と言ったりもする。
これは何のことか一言でいうと、市場の占有率、いわゆるシェアは、市場の範囲を決めなければ決まってこない、ということである。
次に、「公正競争阻害性」というのは、競争を実質的に制限するには至らないが、ある程度において公正な自由競争を妨げるものと認められる場合のこと、である。
公正競争阻害性を判断するためには、市場(マーケット)の範囲を決めることは必然的には必要でないため、法文上は、「一定の取引分野」という概念は入っていない(ただし、結局、解釈上の考慮要素としては入ってくる)。
それぞれの効果要件を見ても現れているように、「競争」や「一定の取引分野」という概念が要素になっているので、これらが独禁法の基本概念になっているのが透けて見えるかなと思う。
結び
独禁法の基本概念については以上になります。
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[注記]
本記事を含む一連の勉強記事は、過去の自分に向けて、①自分の独学や経験の記録を見せる、②感覚的な理解を伝えることを優先する、③細かく正確な理解は書物に譲る、ということをコンセプトにした読みものです。初心者(=過去の自分)がなるだけ早く新しい環境に適応できるようにとの気持ちで書いております(ゆえに、ベテランの方が見てなるほどと思うようなことは書かれておりませんので、あしからずご了承ください)。また、法改正をはじめとした最新の情報を反映しているとは限りませんので、ご留意ください。